第512話、疲れを見せない様に気を付ける錬金術師

ここ数日ちょっと作業を急ぎ過ぎた成果、最近弟子達に心配されてしまった。

稀に頑張り過ぎる事は在っても、ここ数日は毎日という事が要因だったらしい。

フラフラしている私を見て、少し休んで欲しいと願われてしまった。


「とはいえ、元気は元気、なんだけどなぁ・・・」


ふらつく体で歩きながら呟く。ぱっと見の説得力が皆無なのは私も解っている。

でもこれって単に魔力切れなだけで、少し休めば回復する事だ。

それに本当の限界まではやってない。流石に私もそこまで無理はしたくない。


だから無理じゃない手前ぐらいの作業なんだけど、弟子達にはそうは思えなかったみたいだ。

でもあの子達も魔力切れの症状は知ってるんだし、そこまで心配する事ないと思うんだけどな。


「あ、家精霊、ありがとう・・・」

『『『『『キャー♪』』』』』


作業場を出て居間に来た所で、家精霊がお茶を用意してくれていた。

今日はベッドへ運ばれないみたいだ。実はちょっと残念に思ったり。

とはいえ家精霊のお茶も大好きだし、この時間も癒されるけれど。


山精霊達は用意された茶菓子に群がり、数が少なめだったから割って分け合っている。


「はふぅ・・・おいしい」


お茶を飲みながら家精霊を撫で、ゆったりした時間を過ごす。

こうやっている間に魔力は回復するはずだ。

つまり弟子達が帰る前に回復するから、心配をかけずに済むはず。


実際は毎日家精霊のおかげで全回復してるから、本当に心配する必要は無いんだけどね。

でも心配させているという事実に気が付いた以上は、出来る限り心配させたくない。

何より私が休む為に、弟子達との時間を削ってはどうかと提案されたので余計にだ。


『先生、少し授業と訓練の時間を減らしてはどうでしょう』

『そうです、セレスさん。忙しいなら。無理しなくて良いですよ』


なんて二人が言い出したので、物凄く慌てて否定する羽目になった。

だって弟子達との時間を削ずるとか、逆に癒しが無くなるだけだよ。

そんな事になるぐらいなら、私は自分の作業量を減らす事を選ぶ。


『『『『『キャー!』』』』』

「ん、リュナドさん、かな・・・」


庭に居た精霊達は皆居間に来てお菓子を食べているのに、外から鳴き声が聞こえて来た。

それも一体二体じゃないって事は、多分リュナドさんが来たんだろう。

まだ若干ぼんやりした頭のままそう考え、ふらつきながら迎えに出ようとする。


すると家精霊が支えてくれて、そのまま庭まで寄りかからせてくれた。

外に得ると予想通り彼と精霊達が居て、ただ人魚は居ないみたい。

常に一緒に居るって訳じゃないのかな?


『『『『『キャー』』』』』


山精霊は足元でちょろちょろしてるから逆に歩きづらい。

多分私を気にしてくれてるんだろう。でも踏みそうで困る。


「リュナドさん、いらっしゃい・・・」

「・・・ああ、えっと、その・・・随分疲れてるな」

「んー、そう、だね、今はちょっと、疲れてる、かな・・・」


家精霊に支えられていないと真っ直ぐ歩けないから、まだ疲れは抜けきってない。

というか魔力が回復してない。そんな私を見たリュナドさんは、少し心配そうな表情に見える。

しまった。弟子達の事ばかり気を取られて、他の人への事を考えていなかった。


いやでもリュナドさんなら大丈夫かな。彼だって疲れて寝に来る訳だし。

今の私は忙しい時の彼と同じようなものだし、多分そこまで問題無いだろう。

何て思いながらポテポテ歩き、彼の胸の中に飛び込む。


「ああ・・・落ち着く・・・」


頭も体も疲れているせいか、彼の胸の中はとても心地良い。

このまま寝たら物凄く気持ち良いだろうなー、と思う程。


「・・・殿下から、最近毎日疲れてるって聞いてたけど、本当みたいだな」

「うん。ちょっと心配かけちゃったみたいで、気を付けないとなーって、思ってる・・・だから二人には疲れてる所、見せないようにしなきゃなーって・・・帰ってくるまでには、元気になってる・・・予定だけど」


ギューッとしながら彼に応えると、彼も腕を私の背中に回してくれた。

やっぱり彼の腕の中は落ち着く。凄く安心感がある。


「何を急いでるのかは知らないが、無理はするなよ」

「無理は、してない、よ。ちゃんと休んでるし・・・」

「まあ、お前がそう言うなら信じるけど・・・何か手伝える事が有れば言ってくれ」

「んー・・・ありがとう。でも今は、特にないかな」

「・・・そうか」


最近は外に出る依頼がまた減ってるからなぁ。アスバちゃんが居るからだと思うけど。

だから依頼は殆ど家の中と近所の山の採取で終わる事しかやってない。

特殊素材が必要なら別だけど、今の所素材で困る様な依頼も無いし。


リュナドさんに頼る様な事は現状無い。あ、でもこれも頼ってるうちに入るのかな。

彼に抱き着いてる時間って幸せだし、頼ってると言えなくもない気がする。


「リュナドさんが居てくれれば、私は嬉しいよ・・・」

「・・・はいはい」


ポンポンと私の背中を叩く彼の言葉はため息交じりで、少し呆れられちゃっただろうか。

けどその手は相変わらず優しい彼だったから、そんなに心配にはならなかった。


ー-----------------------------------------


結界石の受け取りは、他の精霊兵隊に任せている事が多くなっていた。

ただ最近セレスの様子を見ていないと気が付き、休憩がてらに俺が受け取りに向かう。

部下共や先輩に生暖かい目を向けられたが無視だ無視。後人魚はいつの間にか消えていた。


ただアイツ消えてても突等に現れるから、多分どっかから見てんじゃねえかな。


「やけに静かだな」


セレスの庭に着くと精霊達が少なく、普段が騒がしいだけにやけに静かに感じる。

とはいえ俺の周りに居る精霊が騒いでるから、静かとは言い難い気もするが。

そんな風に周囲を確認していると、何時も通りセレスが出て来た。


いや、何時も通りじゃないか。殿下に聞いてはいたが、随分疲れている様に見える。

精霊達も心配そうに足元をちょろちょろしていて・・・いやそれ歩きにくいだろ。

まあ心配をしているからなのか、セレスは文句を言う事なく歩を進める。


「リュナドさん、いらっしゃい・・・」

「・・・ああ、えっと、その・・・随分疲れてるな」

「んー、そう、だね、今はちょっと、疲れてる、かな・・・」


そんな挨拶とも言えない挨拶を交わすとほぼ同時に、セレスは俺の胸に倒れ込んできた。

立てない程疲れているのかと思ったが、すぐにそうじゃない事に気が付く。

これは何時ものやつだ。まあ疲れてるのは本当みたいだけども。


『先生は何か急いでいる様に見えました。リュナドさんは何か聞いていませんか』


王子じゃなく弟子の立場として、殿下は俺にそう訊ねて来た。

残念ながら俺は何も聞いていないし、そもそも急いでいるのもそれで知った始末だ。

一応気になって情報収集はしたが・・・大した情報は得られてないんだよな。


あの話が原因かと思ってたんだが、発言した本人はもう国に居ないみたいだし。

足取りを追ってみたらうちと関りの無い国に行ったらしく、それ以上は調べられていない。

この辺り俺の情報網って精霊頼りだから、そこを越えると俺は一気に無能になるなと思った。


後精霊達もその人物が好きじゃなかったらしく、余計に情報がねえんだよな・・・。

こいつら気に入った人間にはついて回るけど、嫌いだと見事なぐらい興味が無いから。

むしろムカついて殴り飛ばさなかっただけ良しとしよう。


「リュナドさんが居てくれれば、私は嬉しいよ・・・」

「・・・はいはい」


そして直接聞いてみた結果、今俺に話す事は無いと言われてしまってはどうしようもない。

とりあえず街に居ろって事だけは了解だ。まあ俺が遠出する事なんてほぼ無いんだが。

大体出ていく時はセレスがらみだし、それ以外で遠出した覚え・・・無いな?


まあ、とりあえず今は普段通りにしておけ、って事なんだろう。

大根役者の俺に演技を求めてないって事かもしれないが。

これでも以前よりはマシになったと思うんですけどね。


「じゃあ、また今度な」

「うん、何時でも来てね」

『『『『『キャー♪』』』』』


暫くそうしている内に、セレスは本人の言う通り回復した様子を見せた。

元気な姿で弟子達を迎えるんだろう彼女に見送られ、荷車を精霊達に運ばせる。


「お、誰か出て来たぞ。誰だあの男」

「しっ、ばか指をさすな。あの人が精霊公様だよ」

「え、あの男が?」

「だからお前は馬鹿かっ。相手は貴族様だぞ。錬金術師様の事も軽く見てるし、この街で生活するつもりならもうちょっと考えろ・・・!」

「わ、悪かったよ・・・でもそんなたいそうな人間には見えねえけどなぁ・・・」

「もう黙れお前・・・!」


大正解過ぎて何の文句も出ねえわ。取り合えず聞こえないふりしとこ。

明確な悪口なら兎も角、あの程度に文句言い返してたら日が暮れる。

そもそも地元の人間は俺の扱いほぼ変わらねえし。特におばちゃん。


『『『『『キャー・・・』』』』』


ほらほら、お前らも睨まない。隣に居る奴が怯えて可哀そうだろ。


「セレスが錬金術師様、ねえ・・・あの娘が、随分と偉くなったもんだ・・・くくっ」


ただその中に、そんな言葉がやけにはっきり聞こえ、思わず視線を声の方へ向けた。

聞こえたのは多分女の声だったと思う。けど向けた視線の先に女は一人も居ない。

周囲の人間達は俺の動きに驚いているが、俺にそれを気にする余裕は無い。


「精霊達、今セレスの名を呼んだやつ、見たか?」

『『『『『キャー?』』』』』

「・・・マジかよ、冗談じゃねえぞ」


精霊達は俺が何を言っているのか解らないと答えた。

つまり今の声はこいつらに聞こえていない。

精霊に気が付かれない何か。それがこの街に居る。


「単純にセレスの知り合いなのか・・・それともアイツに恨みである相手か・・・」


現状じゃどっちなのか解らないが、後者ならとてつもなく面倒なのは間違いない。

フルヴァドさんとアスバにも情報共有しておいた方が良いかもな・・・。

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