第508話、久しぶりの友人との再会する錬金術師

どうやら人魚は家精霊と会話が出来るみたいだ。ちょっと羨ましい。

でも会話出来る相手が増えたからか家精霊はとても嬉しそう。

あんな様子を見ると私も嬉しくなる。人魚が来てくれて良かったかも。


「あー・・・セレス、水を差して悪いとは思うんだが、俺はそろそろ領主館に向かうな」

「あ、うん、今回も助けてくれてありがとう、リュナドさん」

「それが俺の仕事だからな」


ふっと笑いながら応えるリュナドさんに私も笑みで返す。

本音を言えばもうちょっと一緒に居たいけど、それはきっと彼に迷惑がかかる。

私は彼の事が大好きだけど・・・大好きだから邪魔はしたくない。


そんな事を思いながら迷惑いっぱいかけてるから説得力無いけど。

今回も結局彼に助けて貰ったしなぁ。本当に何時も助けて貰ってばっかりだ。


「それでも、ありがとう。大好き」

「―――――」


だから、伝えられる時は何時だって伝えよう。そうしないときっと駄目なんだ。

彼がそうして欲しいって言ったんだし、私もそうするととても心が温かい。

彼への好意を伝える度に、もっと彼の事を好きになる気がする。


すると彼は少し面食らったような顔を見せたけど、すぐに普段通りの彼に戻る。

頭をポリポリとかいて、仕方ないなという様な苦笑を向けて来る彼に。

最初こそ少し心配になる表情だけど、今はそんな彼の顔を見ると安心できた。


『『『『『キャー!』』』』』


ただ彼が何か言おうと口を開くと同時に、街道の方から大きな鳴き声が上がる。

一体何だろうかと目を向けると、その声が段々と近づいて来る。

というか精霊が投げられて喜んでる様な。という事は多分。


「ふんっ、帰って来たみたいね」

「あ、お帰りアスバちゃん」


やっぱりアスバちゃんだ。彼女は群がる精霊を投げ捨てながら庭までやって来る。

メイラ達と一緒に彼女も帰って来てたんだね。それにフルヴァドさんも居る。


「フルヴァドさんもお帰り」

「ああ、ただいま、セレス殿」

「今帰って来たのはアンタの方でしょうが・・・」


確かに言われてみれば、私がお帰りって言うのはおかしいのかも。

ずっと皆の帰りを待ってはいたけど、今日帰って来たのは私な訳だし。


「ふふっ、そうだね、ただいま」

「・・・今日はやけに機嫌が良いわね。いつも以上に緩い顔じゃないの」

「うん、だって帰って来たら可愛い弟子と大好きな友達が帰って来てるんだもん」

「っ~~~~、ああもう、本当にアンタは・・・」


あ、あれ、なんか頭を抱えちゃった。でも私変な事言ってないよね。

友達が帰って来て嬉しいし・・・私も帰って来れて嬉しい。


「・・・本当はアンタが帰ってきたら文句の一つや二つ言ってやろうと思ってたんだけど・・・まあ良いわ。フルヴァドからある程度事情は聞いたし、ね」


アスバちゃんはチラッとメイラとパックに目を向け、何故か大きなため息を吐いた。

フルヴァドさんに聞いた事情って何の話だろう。良く解らず首を傾げる。


「はいはい、知ってた知ってた。アンタならそうやって首を傾げるんでしょうね」

「ふふっ、だから言ったじゃないか。彼女はそういう人だろう?」

「ふんっ」


アスバちゃんは首を傾げる私に不満そうだけど、フルヴァドさんはクスクスと笑う。

でも知ってたって言うって事は、私の反応を予想してたのかな。

なら態度ほど怒ってない、と思って良い、よね?


アスバちゃんは相変わらず難しいなぁ。でも何だかそれが少し嬉しい。

変なの。少し不安で怖いのが嬉しいなんて。

でもこの感じが、アスバちゃんが帰って来たんだな、って感じがする。


「・・・お帰り、セレス」

「うん、ただいま」


少し不貞腐れた表情で、けれどちゃんとお帰りと言ってくれる。

うん、やっぱりアスバちゃんだね。にへへ。


ー------------------------------------------


竜が高速で近づいて来る気配を感じて、それは同時にアイツが帰って来たと察した。

そこでまだ姿の見えない空を見上げながら、足を進めていた方向を変える。


「アスバ殿? どうした、何か見つけたのか?」

「見つけたと言えばそうね。竜が帰ってくるみたいよ」


一緒に歩いていたフルヴァドに応えると、彼女はそのまま私について来る。

元の予定とかそういう事を言わない辺り私の性格を良く解ってるわね


「・・・何時も思うが、良くそんな事が解るな。私には全然解らないんだが」

「今のアンタじゃ解んないわよ。魔法使えるようになってから出直しなさい」

「絶対に不可能だって事じゃないか・・・」


まあそうね、アンタ魔法の才能何て欠片も無いもの。

とはいえ精霊殺しを持ってれば気が付きそうな気もするけど。

普段から持たないのはつまらない意地だわ・・・私と同じでね。


「ん、何を笑ってるんだ。そんなにセレス殿が帰って来るのが嬉しかったのかい?」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。あいつに思うのはやっと文句を言えるって事だけよ」

「文句って、グインズ殿の件か」

「そーよ。あいつは最初から全部解ってた。カルアの事も、グインズ達の事も。なのに知らないふりして私は関係ないって顔して、結局お膳立てしてやがったのよ」


セレスは全て解っていた。そうじゃなきゃおかしいぐらいに事が順調に進んだ。

だからその気になればアイツはもっと、それこそ私とアイツだけで終わらせる事も出来た。

国が戦乱で覆われないように、カルアだけを潰す事も出来たはずよ。


けどセレスは、グインズが家族を殺す覚悟を決めさせる為に、その為に遠回りをした。

そしてグインズの姉に苦しみの決断が必要になる形になる様にも。


それは確かに姉弟の為だったのかもしれない。結果として二人は成長したように見える。

少なくともグインズは。私に教えを乞うて来た時の周りが見えてない未熟者じゃなくなった。

勿論まだまだ未熟者は未熟者だけど、少なくとも頭を使う事をし始めた。


何を知るべきなのか。何をやるべきなのか。どう生きるべきなのか。

私に会い、フルヴァドに憧れ、姉と協力し、目標にすべき友人を見つけて。

その結果としてアイツは・・・自国の英雄としての立場を手に入れるに至ったわ。


存在しない王子ではなく、国を救った王族として、自分の居場所を手に入れた。

だからセレスのやった事が悪いとは言えないのは解ってる。

それでもアイツは、私にまでその事を黙っていた。グインズの面倒を見ている私にも。


まるで都合よく動かされた気になってしまうのは仕方ないじゃないの。

いいえ、まるでじゃないわね。完全にアイツの策略通りの流れになってたわ。

なら文句の一つや二つ・・・三つや四つ言いたくなって当然じゃない。


「だがアレは・・・セレス殿が悪いとは言えないだろう。セレス殿とて他国に勝手に手を出せば問題が有る。グインズ殿が国で立つ決心をしたからこその結果だろう。王子が経つと覚悟を決めたからこそ、他国の聖女なんて人間が関われたのだし」

「前から思ってたんだけど、自分で聖女って言って恥ずかしくない?」

「今そこは関係ないだろう!?」

「ふんっ・・・解ってるわよ。本当はあいつが悪くない事なんて」


結局何処まで行ってもあの出来事は私達の事情だ。セレスは本来関係なんて無い。

なのにセレスは関係を作った。竜と、リュナドと、弟子達と、交流を作らせた。

それは間違いなくグインズの為になったし、姉であるイーリエの為にもなった。


グインズが背負わなくても良いと思ったのは、そう思ってしまった私の事情に過ぎない。

きっとあの形が一番綺麗に片づけられたのだろう。国とカルア、そのどちらも。


「それでも文句は言いたいのよ」

「セレス殿とて本当は弟子達を行かせたくはなかったはずだ。それでも彼女は二人を見送った。そして・・・いざという時は駆け付ける準備をしていた。必死になって弟子を救う為に動いていた彼女が、全て平気で行っていたとは私には思えない。それでも文句を?」

「ふんっ、私には関係ないわ!」

「無茶苦茶だなぁ・・・」


セレスが転移を使って弟子達を助けに来たのは聞いている。

その上でアイツは自分が居なかった事にしていた。

最後まで、徹底して、自分は関わってないと。あれだけ全力で関わっておきながら。


「あいつに私が聞いた所でどうせ首を傾げるんでしょうね。何もしていないって」

「弟子達の前なら確実に惚けるだろうな」

「ったく、忌々しい」


仇を打ったのも、国を救ったのも、けじめをつけたのも、全て私達の成果。

セレスの奴はそういう風にした。今回錬金術師は何も絡んでいないと。

それが誰の為を思ってか・・・そんな事を考えてしまうと余計に腹が立つ。


「私はそんなに面倒見て貰わないと何も出来ない小娘じゃないわよ!」

「でもそのおかげで色々と決着がついたんだろう。なら助かったといって良いんじゃないか?」

「るっさいわね!」


んな事解ってんのよ。むしろだからこそ腹が立つのよ!


「ほら良いから行くわよ! 竜の速度ならすぐ帰って来るんだから!」

「出迎えに行くのか?」

「違うわよ! 文句を言いに行くだけよ!」

「はいはい。素直じゃないな、貴女は」

「私は何時だって素直よ!」


そうしている内に竜の姿が現れ、見覚えのある荷車が飛んで行った。

これでもうセレスが帰って来たのは確実だと思いながら街を出る。

そしてセレスに言いたかったことを全部言ってやるつもりだったのに。


「帰って来たら可愛い弟子と大好きな友達が帰って来てるんだもん」


ご機嫌にそんな事を告げるセレスは、普段の『錬金術師』の顔は見られない。

本当に帰って来てくれて嬉しいと、弟子と私達が居てくれて嬉しいと言ったんだ。

それはきっと私が文句を言いたがっているのも承知の上で。


最後まで自分は傍観者を貫いて、だからこそ私の文句も聞くべきだと言う事でしょうね。

そんなセレスの顔と弟子達を見て居たら、何だか余りに馬鹿馬鹿しくなってしまった。

何処までも腹の立つ錬金術師だわ。この気持ちも計算通りなのかしらね。


「・・・お帰り、セレス」

「うん、ただいま」


嬉しそうに笑うんじゃないわよ。本当に、私も大概よね。ったく。

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