第506話、竜の背に乗って帰路に就く錬金術師
報酬の話は結局後日お金が出来たら、という事で纏まったっぽい。
というか元々リュナドさんもメハバもそう言ってたしね。
ただ国王の感謝の言葉を彼が受け取らず、すると国王は私だけに礼を告げ直した。
でも彼が私について来ただけって言うなら、それこそ私も仕事を受けただけだ。
なら一番感謝されるべきなのは、多分仕事を頼んだメハバだよね?
勿論感謝されたくない訳じゃないけど、彼が断わるならきっとそうだろう。
いつもいつも私の仕事に付き合ってくれる彼の言葉だ。なら私もそれに倣うべきだ。
そう思った事を伝えると、国王も納得してくれたみたいだった。
メハバに礼を言って、穏やかな様子で二人は抱き合って、精霊達が楽しそうに踊る。
精霊達は、うん、何となくその場の空気踊っただけだと思う。
そんなこんなで本当に全てが終わり、家に帰る為に荷車を飛ばして竜の所へ向かった。
ただメハバが飛び立つ所まで見送りたいと、竜の居る場所まで付いて来た。
「本当に帰ってしまうんですね」
「ん、もう全部、終わったし、弟子達の事も気になるし」
「そうですか・・・もう少し滞在して欲しいと思いますが、お弟子さんの事を考えれば我が儘は言えませんね。どうか・・・お気をつけて」
「うん、ありがとう。メハバも元気でね」
目を潤ませて道中の無事を祈ってくれる彼女の言葉に、胸がぽかぽかする気分を覚える。
短い間の付き合いでしかなかったのに、今では随分前からの付き合いの様だ。
それはきっと、多分彼女が私に似ていて、けど私とは違うからだろうな。
私の様に慌てると色んな事が出来なくなって、けど私と違って自分で前を向く事が出来る。
出来ない事が沢山あって、出来ない事自体に泣いちゃって、けどそれを諦めない。
誰かの為に頑張って、必死になって、助けてって言葉を最後まで言える。
私の様に弱くて、けど私と違って強い。親近感を覚えて、けどすぐに違うとも思った。
近い様で遠い私と彼女。だからこそきっと、私は彼女の為に頑張れた。
彼女の強さを凄いと思って、けど彼女の弱さに手を貸してあげたくて。
「メハバ、ありがとう。貴女に会えて良かった」
「ふぇ・・・?」
彼女との別れが名残惜しくなって、思わず彼女の事を抱きしめる。
きっと彼女だから私は仲良くなれた。この私がすぐに人と仲良くなれた。
そう思うととてもありがたい人で、私も本当は近くに居て欲しい。
けど出来ない。私は帰らないといけないし、彼女のはこの国に残らないといけない。
私は大事な大好きな人達の所へ帰りたいし、彼女はこの国の人達が大事だから。
それでも別れが惜しいと、友達になれた人と別れるのは寂しいという思いを込めて。
「本当に、ありがとう・・・」
「セ、セレスひゃま・・・?」
そう思うと少し瞳が滲んでしまい、視界が少しだけ霞んでしまった。
でも泣きそうになるのを何とか堪え、彼女から離れてニコリと笑う。
だってこの別れは寂しいけど、ずっと会えない訳じゃない。
その気になればお互いに会う事が出来る。こうやって一度会えたんだから。
「また会おうね」
「は、はい・・・! 絶対に、また・・・! おあひ・・・じどうございまじゅ・・・!」
けど私が涙を堪えたのに、逆に彼女はボロ泣きし始めてしまった。
そんな彼女に一瞬狼狽えたけど、すぐに気を取り直してもう一度抱きしめる。
今度は彼女の頭を抱える様にして、優しく優しく彼女の頭を撫でながら。
「わだっ、わだじ、ごぞ、ゼレズざまに、あえで・・・よがっだ・・・!」
「うん、ありがとう・・・ありがとう」
私と同じ事を彼女も思ってくれている。その事がとても嬉しい。
まるでライナと別れる時の私の様で、けど彼女はやっぱり私とは違う。
別れを惜しんで私を見送った後、きっと彼女は強く前を向くんだ。
私の胸の中に居る彼女は弱くて頼りなくて可愛いけど、それはここに居る間だけ。
きっと心配する必要は無いんだろう。そうは思うけど心配になる。
そんな彼女が泣き止んむまで抱きしめ、落ち着いた所でお互いに離れた。
何時もとは逆だなぁ。彼女といると、まるで私が成長したみたいに思える。
けどそれはきっと錯覚だ。街に帰ったらきっと私は何時も通りだろう。
「じゃあ、私は行くね」
「・・・はい、本当に、さよなら、ですね」
「うん。でも、またね」
「はい・・・!」
メハバはまた泣きそうになったけど、今度は堪えて頷き返した。
そんな彼女を見て居る何時もは静かな侍女さんも、今日は少し瞳が潤んでいる。
ただ彼女は何かを告げる事なく、ただ静かに頭を下げただけだった。
「あ、に、人魚様」
『・・・なに?』
ただそこでメハバが声をかけ、人魚は少し冷たい声で応えた。
その冷たさに一瞬怯む様子を見せ、けどきりっとした顔を人魚に向ける。
「申し訳ありませんでした。謝って許されるとは思いません。それでも、申し訳ありません」
『っ・・・』
メハバは深々と頭を下げ、そんな彼女を見て居る人魚は目を大きく見開く。
けれどすぐに表情を元に戻し、大きな溜息を吐いてから応えた。
『もうどうでも良い事よ。アンタは関係無い。だからその謝罪も意味が無いわ』
「・・・はい、ありがとうございます」
二人が何の話をしているのか、私にはちょっと解らなかった。
何を謝ったのかも、何が関係あるのかも。
でも礼を言ったって事は、多分問題無い、んだよね?
『『『『『キャー♪』』』』』
「あ、うん、メハバの事、守ってあげてね」
『『『『『キャー!』』』』』
精霊達は今回いくらか残るらしく、それはメハバの護衛の為だけじゃないらしい。
なので念の為彼女の事を頼んでおいて、他にも軽く注意はしておいた。
そうして別れを告げ終わった後、荷車に乗って竜の背へと飛ばす。
「別れの挨拶は終わったか?」
「うん、ありがとう、待ってくれて」
「気にするな。私はただ主の為に働いたのみだ」
「ふふっ、じゃあ今回は、皆誰かの為に働いただけだね」
メハバは国と民と家族の為に、私はメハバの為に、リュナドさんは私の為にと。
皆誰かの為に働いて、だからきっとこんなに気分が良いんだろう。
誰も彼も誰かの為を思って動いていた。その結果ちょっとしたスレ違いはあったけど。
それでも最後は丸く収まったのは、きっと皆人の為だったからじゃないかな。
「それじゃ、帰ろうか。竜、お願いして良いかな」
「我が主よ、良いのだな?」
「ああ、もうやる事は無い。セレスの言う通りに頼む」
「承知した」
竜はそれこそさっきの言葉通り、リュナドさんに確認をとってから翼を広げる。
そしてその巨体を勢いよく空へ跳ね上げ、衝撃で砂が舞い踊る。
一瞬メハバの事が心配になったけど、その辺りしっかり気を付けてくれたらしい。
メハバの周りだけ砂が舞っていなくて、ただ精霊達は吹き飛ばされていた。
『『『『『キャー♪』』』』』
そんな吹き飛ばされる精霊達を、荷車に居る精霊達はケラケラと笑う。
自分達が吹き飛ばされてるのにそれで良いんだろうか。
「ホント、良い性格してるよな、お前ら・・・」
精霊達に疑問を抱えていると、リュナドさんのそんな呟きが耳に入った。
良い性格、なのかな。私にはちょっと良く解らない。
でもまあ楽しそうなら危険は無いって事なのかな。なら良い、のかな?
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竜が高く、高く、雲よりも高く上昇していく。行きと同じ様に帰る為に。
この辺り本当に楽だよな。何だかんだ頭が良いから言わなくてもやってくれる。
いちいち毎回指示しないと好き勝手に動き出すやつらとは大違いだ。
『『『『『キャー♪』』』』』
・・・まあ、こいつらはこいつらで頼りになる時は有るんだけども。うん。
しかし今回は随分減ったな。半分以上あの国に残ったんじゃないか?
セレスの指示とはいえ、随分と気合入った事だ。
いや、それだけセレスがあの王女殿下を気に入った証拠か。
そんな風に考えていると、セレスが唐突に俺へ顔を向けた。
「リュナドさん、今回はありがとう・・・ううん、違うね。いつもありがとう」
「へ? あ、ああ・・・」
急に何の事かと思ったが、おそらく今回の依頼についての礼だろう。
とはいえ既に一度礼を言われているし、そんなに何度も言わなくても良いんだが。
なんて思った返事を防がれる様に、セレスは俺に抱き着いて来た。
「っ」
・・・あのですね。唐突に抱き着くの未だに驚くんでちょっと勘弁して下さい。
「にへへ。ありがとう、大好き・・・えへへぇ」
とはいえそんな文句が俺に言えるはずもなく、すり寄るセレスを受け止める。
何時もの好意を伝えるセレスの行動だ。狼狽えるだけ負けだ。
そうは思うものの冷静でいられるはずもなく、何時も通り心臓は跳ねている。
「やっぱり、こうしてると落ち着く・・・幸せ・・・」
「・・・そうかい」
ただ色んな事を諦めつつセレスに応え、暫くの間彼女を抱きしめた。
移動による風の音しか聞こえない静かな車内・・・いや精霊達がうるせえわ。
後さっきから人魚がニマニマと表情が一番うるさい。本当にうるさい。
「ああ、そうだ、セレスに一つ聞きたい事が有ったんだ」
「ん、なあに?」
色々な事を誤魔化す様に、ふと頭に浮かんだことを訪ねる為に声をかける。
するとセレスはふわりと柔らかい笑顔で、鼻が当たりそうな距離で首を傾げた。
いつも思うけど本当に距離感狂ってる。これ日常会話の距離じゃないって。
・・・とりあえずこれは気にしない事にして、疑問を解決させよう。
だから人魚、表情がうるせえ。こっちを見るな。
「・・・一回、王女を抱く様に言って来ただろ?」
「ん-、うん、言ったね」
「・・・アレは、俺の為だった、んだよな?」
「うん、そうだよ」
うん、まあ、やっぱりそうなんだろうな。あの時は詳しく問い詰められなかったけど。
王族に連なる者になってしまえば、それはまた今よりも立場は上になる。
勿論潰れかけの国じゃ意味が無いから復興させる必要があった。
更に立場はこちらが上の状態なら、尚の事文句なしって所か。
「彼女可愛いかったし、リュナドさん抱きたいかなって」
「・・・そういう気遣いは結構です」
「そう? そっか・・・」
何で不思議そうな顔されているですかね。むしろ気まずいわそんな気遣い。
というか明確な、自分が相手してあげられないから、って反応がきつい。
何で俺はさっきから上げて落とされて潰されているんだろう。
セレスの後ろで心底楽しそうな人魚を殴りたい。本当にコイツ顔がうるさい。
「・・・俺はセレスとこうしてればそれで良いよ」
悔しさとか腹立ちとか色んな想いも込めながら、セレスを抱きしめてそう告げる。
少しでもセレスの動揺が見られれば、なんて思いが無かったとは言えない。
「・・・そっか。うん、そっか・・・えへへ」
ただ全部解っているであろうご本人は、そんな俺に対し幸せそうに抱きしめ返した。
・・・うん、勝てねぇ。畜生。
『くっ・・・!』
おい我慢せずに声出して笑えよ。プルプル震えてんじゃねえよ。
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