第504話、王女を落ち着かせる錬金術師
誰に渡せば良いのかちょっと悩んだけど、メハバが受け取ってくれて良かった。
これでもう私のやる事はもう無いかな。後は人海戦術になるだけだし。
魔法石が残ってれば手伝う事も出来るけど、手持ちが残り少ないからどうしようも無い。
転移石も使い切っちゃったし・・・使い切っちゃったんだよなぁ。
帰ったらまた作り溜めないといけない。寝不足の日々が続きそうな予感。
でもあんまり根詰めてるとメイラと家精霊に叱られるからなぁ。
そうだ、帰ったらメイラがいるんだ。ならパックも帰ってるはず。
二人とも元気かなぁ。樽の用意の時手紙もくれたし元気だよね。
あ、でもあれはメイラからだけだったから、パックはもしかして居ないのかな。
「あ、あの、それで、ですね、セレス様・・・」
「ん、なあに?」
弟子達にやっと会える事に思いをはせていると、メハバがどもりながら声をかけて来た。
どうかしたのかと首を傾げて問い返すと、彼女は口をもごもごさせながら視線を彷徨わせる。
何か言い難い事なのかな。大丈夫だよ。言えるようになるまで待ってるから。
仕事も終え、弟子に会えると思い、相手がメハバな事もあって穏やかな気持ちで待つ。
すると彼女は意を決した様子で背筋を伸ばし、胸元で手をぐっと握って口を開いた。
「報酬に関してなのですが、現状では、すぐにお支払いするのは・・・難しく・・・その、当初の想定よりも、物凄く大きな成果に・・・なってしまった、ので・・・」
ただハキハキ喋っていたのは最初だけで、最後の方はもにょもにょしていた。
ええと、報酬の支払いって、今回の工事の支払いに関してだよね。
別に金に困ってる様な事も無いし、支払いできる時で全然構わないんだけどな。
なんて思っていると、私より先にリュナドさんがため息を吐いてから応えた。
「・・・王女殿下、少し良いか」
「ひゃ、ひゃい。な、何でしょうか、精霊公様」
するとメハバはビクッと怯える様子を見せ、けど今回は怯えなくても良いと思う。
リュナドさんの声音は緩いし、表情も怒ってる感じはしないもん。
どちらかというと物凄く脱力した感ある。
彼に強く叱られた事がやっぱり頭に残ってるのかなぁ。
「この国に即座の支払い能力が無い事は、仕事を受けた時点で解っていた事だ。貴女が何を当てに報酬を出そうとしていたのかも解っているし、となれば今更言い淀む方がおかしいだろう」
「そ、そうですよね、やっぱり・・・はい・・・解ってました・・・」
リュナドさんが呆れた声音で告げると、王女は伸ばした背筋がどんどん丸くなっていく。
最後は完全に俯いてしまっていて、何だかちょっと可愛そうになって来る。
というか支払い能力最初から無かったんだね。私全然解って無かったよ。
ああ、だからリュナドさん、この仕事受けるの渋ってたのか。
仕事なのに報酬が無い。それは確かに嫌がっても仕方ないなぁ。
でもすぐに支払うのが難しいって事は、支払う気が有るって事じゃないのかな。
「それでもセレスが受けると言った以上、すぐに払えと言うはずも無い。貴国を救う為に仕事を受けたのに、その国を潰す様な真似をしては何の為に受けたのか解らないだろう」
「はいぃ・・・」
え、いや、私は、何にも解ってなかっただけで・・・勿論すぐ支払え何て言わないけど。
というか私に支払うだけで国が潰れるって、どれだけお金が無いんだろう。
あ、メ、メハバがもう泣きそう。あの、リュナドさん、その辺りにしてあげた方が・・・。
「それともまさか、水場が出来ればその後はセレスの力は要らないとでも思ってるのか。ここの管理はどうする。水をろ過している素材だって永遠には使えないぞ。あの魔獣の討伐はセレスだから簡単だっただけだ。工事も含めて自力で同じ事が出来る国になってる保証は有るのか」
「な、ないですぅ・・・」
「だろう。なら支払う機会はあるし、踏み倒す事も出来ない。わざわざ今すぐ即金で支払う必要なんて何処にも無い。今更その程度の事で負い目を感じる必要は無いだろう」
「はひ・・・」
あ、あれ、ええと、メハバはもう半泣きだけど、リュナドさんは慰めてる、のかな?
多分そうだよね。気にするなって言ってるよね、これ。メハバは気が付いてないっぽいけど。
侍女さんは解ってるっぽいからか、苦笑しながらメハバの事を見つめている。
やっぱり彼女は私と一緒だなぁ。慌てると何言われてるのか解らなくなるんだよね。
良く聞けばきっと悪い事を言われてなくても、その時はもうパニックになって解らないんだ。
下手をするとメハバはもう言葉自体頭に入ってないのかも。私がそうなるし。
こういう時、ライナならどうするかな・・・うん、ライナなら、そうだ。
「ねえ、メハバ」
「は、はひ、なんでしょうか!」
声をかけると彼女は完全に曲がっていた背筋を伸ばし、びしっとした姿勢で答えた。
けどそれは単に反射的に答えただけで、泣き顔を見れば混乱しているのが解る。
そんな彼女の目の前まで近づいて、優しく頭を撫でてあげた。
「大丈夫だよ。落ち着いて。ね?」
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王女殿下がまーたポンコツな事言い出したぞ。ここで言い淀むなそんな事。
セレスに対して報酬が出せない事ぐらい依頼を受ける前から解ってるっつの。
そもそも最早この国が資金難に陥っている、ってのを指摘したのは俺だろうに。
つまり俺が簡単に気が付く様な事だぞ。ならセレスが気が付いてないはずが無い。
それでもセレスは仕事を受けて、更にこれだけの工事までやっちまった。
工事の代金どころか素材一つの支払いでどれだけになるやら。
そんなもんこの国に支払わせようとしたら本末転倒だろうが。
今更払えない事に焦られても呆れの溜息しか出ねえわ。
「・・・王女殿下、少し良いか」
「ひゃ、ひゃい。な、何でしょうか、精霊公様」
さっきまでの王女様然とした態度はどこに消えた。侍女も苦笑してんじゃねえか。
つうかセレスに至っては穏やかな笑みで見守ってんじゃん。
何その優しい笑顔。メイラやパックに向ける時の笑顔だよなそれ。
まあ良いか。どうせ俺は彼女に怖がられてるんだ。この際その印象そのままにしておこう。
どうにもセレスは王女の事を気に入ってるし、王女もセレスに対する態度は良い。
普段なら俺が宥め役になるんだが、今回に限っては逆の方が良いんだろう。
そう判断して半ば説教に近い感じで王女に現状を告げていく。
とはいえ・・・流石に怖がり過ぎだろ。俺そんなに怖い?
今そこまで厳しい声音で言ってるつもり無いんだけど。
「ねえ、メハバ」
「は、はひ、なんでしょうか!」
「大丈夫だよ。落ち着いて。ね?」
「は・・・はい・・・」
セレスに頭を撫でられただけで落ち着きやがった。子供かお前は。
いやまあ良いか。別に必要以上に怖がらせたかった訳じゃないし。
相手がガキどもなら俺もその態度で良いんだが・・・王女だからなぁ。
今後の事を考えると、しっかりしないと困るのは間違いなく本人なんだが。
そう考えると俺は何で怖がられてまで余計なお節介をしてるんだろう。
ああ、こういう所なのか? セレスが王女を構ってしまうのって。
・・・それはそれで凄い才能だな。それでセレスまで惹きつけちまったんだから。
「はぁ・・・とりあえず城に帰ったら国王ともその辺りの話はさせて貰うが、どのみち直ぐに回収するつもりは無い。国王陛下も王子殿下もその辺りは理解しているだろうしな。それに資材を買い付ける算段も付いてないだろうし、その辺りもどうにかしないとな」
「は、はい」
少し落ち着いた王女は、セレスに撫でられたまま返事をする。
何だこの気の抜ける光景。一国の王女と話してる気がしない。
「うん、リュナドさんに任せておけば、大丈夫だから。ね?」
あ、はい、こっからは完全に俺の仕事なんですね。解りました。
とりあえずまたセレスにご熱心の王子様を利用させて頂くかね。港もあるし。
今回はあっちにも利が無い話じゃないはずだ。これからを考えればな。
セレスや人魚の言っていた事が本当なら、遠くない未来にこの国は力を持つはず。
暫くは復興の為に四苦八苦するだろうが、安定した頃にはどうなっているか。
今のこの国の様に、周辺の国が禿げ上がり始めてる頃なんじゃねえかな。
周辺国は先ずどこに助けを求める。確実に水の有るこの国か、それとも更に外の国か。
どちらにせよこの国が優位に立つ事は間違いなく、そしてこの国は簡単に襲わせない。
その為に精霊を付けたんだしな。セレスも反対しなかったって事はそういう事だろう。
となればそんな中心国家と懇意になっているというのは悪い事じゃない。はず。
俺がスカをやらかしてもあの王子様なら挽回するだろうし大丈夫大丈夫。
「・・・まあ、俺の出来る限りは頑張らせて貰いますよ」
「うん、ありがとう、リュナドさん」
「・・・」
とりあえず現状を軽く頭で纏めながら応えると、満面の笑みでセレスに返された。
この笑顔狡いよな。何時もの睨み顔よりも反論できる気がしねーもん。
いや睨まれても反論出来ないからどっちにしろ同じかもしれないが
『『『『『キャー!』』』』』
「ん、ありがとう、精霊達。そのまま城に降ろして」
『『『『『キャー♪』』』』』
城に付いたか。さて、後一仕事したらこの仕事もやっと終わりか。
そんなに長期間は居なかったはずだが、色々あったせいで大分かかった気がするな。
今回は俺が体張る事は無いだろうと思ってたんだけどなぁ・・・帰ったらゆっくり寝よ。
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