第496話、今の気持ちを伝える錬金術師

優しい。優しいか。そうなのかな。私は優しい人に見えるのかな。

そうだと嬉しい。私は自分が優しい人間だとは余り思えてないから。

私は自分が良ければそれで良い人間だ。他人よりも先に自分の事を優先する。


友達や弟子達を大事にするのも、単に私が大事にしたいだけだもん。

皆の為を思ってなんて事は後から来る感情で、唯々私が一緒に居たいだけ。

だって弟子のひとり立ちを想像するだけで泣きそうになるし。


きっと私は自分勝手だ。ただただ自分勝手に好きな事をしているだけだ。


今回王女の願いを聞きたいと言い出したのも、結局私の我が儘だと思う。

だってリュナドさんは受けたくなかったんだもん。私が勝手に受けたんだもん。

でも受けた以上はしっかりやろうって、王女の願いを叶えようって頑張った。


そして今回は、きっと上手く行ったんだと思う。喜んで貰えたんだと思う。

私がやりたいと思った事で、我が儘を通したのに喜んで貰えた。

上手く出来たというその事実が私も嬉しくて、思わずへにゃりと笑ってしまう。


「・・・そっか」


良かれと思って頑張って、人に怒られる事が多いのが私だ。

今回の事も本当は今までずっと不安だった。本当にこれで良いのかなって。

一応ちゃんと話を聞いて、王女の願いを聞いて、国王の願いを聞いたつもりだ。


その上で何をしたら良いのか、自分なりの答えを出して工事をした。

だから依頼は間違いなく出来たと思って、けどやっぱりどこか不安で。

私は私だから、どこかで余計な事しちゃってないかなって。


むしろ今回頑張ろうとした部分こそが余計な事だったんじゃないかなって。

ずっと不安だった。王女と王子の喜んだ姿を見ても、まだ少し。

けどそんな私に彼女とても優しく微笑んでくれた。私を安心させるかのように。


「ん、安心出来た・・・王女、ありがとう」


やっぱりこの王女は私と違うんだなぁ。ワタワタ慌てる所は似てるけどやっぱり違う。

鯨の解体の時も思ったけど、彼女はやる時はやる人で、人の気持ちが解る人だ。

彼女は不安で仕方ない私の様子に気が付いて、優しく声をかけてくれたんじゃないかな。


優しいのはきっと私じゃない。彼女の方だ。彼女が優しい人なんだ。

だからきっと私は彼女の為に動けた。優しい彼女だから私は優しくなれた。

多分そういう事だと思う。私がライナとリュナドさんに懐いた時の様に。


あ、そっか。そっか私、王女の事好きなのかな。二人と同じ様にって思うって事は。

勿論ライナやリュナドさんとは、申し訳ないけど比べられない。

二人は私にとって大恩人で、とても大好きでかけがえのない人達だ。


なら弟子と一緒かと言えば、それもまた違う気がする。

私にとってメイラとパックは自分が頑張る理由だ。

あの子達の保護者であろうと、師匠であろうと顔を上げる理由だ。


なら友達・・・うん、友達に、なれたら良いな。多分そんな感じだと思う。

アスバちゃんやフルヴァドさんと同じ様な、ミリザさんと同じ様な友達に。

彼女ならなれる気がするんだ。私を優しいと思える優しい彼女なら。


「え、わ、私はお礼を言われる様な事は何も・・・」


何もしていない。彼女はそう言う。ならきっと私とは本質で真逆の人なんだ。

良くしようと思っても失敗する私と、良くしようと思ってなくても良い結果を導く彼女。

きっと心根の違いが出るんじゃないかな。自分勝手な私と、本当に優しい彼女と。


彼女の優しさはきっと本人が解っていないんだろう。私が自分の失敗に気が付けない様に。


「ううん。私は貴女だから、貴女に頼まれたから、ここに居る。貴女じゃなかったらきっと来なかった。ずっとそう思ってたけど、それが間違いじゃなかったって、そう思えた」


私に似ている人だと思った。親近感を覚える残念な人だと思った。

きっとあの彼女も本当の彼女だと思う。さっきだって似た様な様子だったし。

ひゃいって変な声で返事した所は、やっぱり焦ってる時の私みたいだったもん。


だからそれはきっと間違ってなくて、けど彼女はそれでも自分だけで諦めない人。

私ならきっと折れている。私は一人じゃ頑張る気持ちなんて持てない。


「貴女が頑張ったから、私も頑張れた。そう思わせてくれて、ありがとう」


この優しくて強い王女にきっと、私はどこかで心を惹かれてたんじゃないかな。

アスバちゃんの強さに憧れた時の様に。フルヴァドさんの優しさに救われた時の様に。

だからきっと、ありがとうで良いと思う。だって私、今凄く満足しちゃってるんだもん。


依頼を受けて、依頼内容をこなして、その結果を聞いただけなのに。

彼女その言葉を聞けたことが、私は嬉しくて堪らない。

良かった。本当に良かった。ちゃんと出来て。


「れんぎんじゅづじざまぁ~・・・!」

「ふえっ!?」


すると突然王女は泣き出してしまい、私の胸に飛び込んできた。

え、ちょ、え、な、なんで、何で突然泣き出したの!?

私!? 私が泣かしたの!? 何で!?


ー------------------------------------------


「ううん。私は貴女だから、貴女に頼まれたから、ここに居る。貴女じゃなかったらきっと来なかった。ずっとそう思ってたけど、それが間違いじゃなかったって、そう思えた」


何を言われているのか最初は理解できなかった。だからただ固まってその言葉を聞いていた。

だって彼女がやって来てくれた理由が、仕事をこなしてくれた理由が、たったそれだけなんて。


彼女が本当は優しい人だと、そう思ったのはけして嘘じゃない。

けどその優しさと仕事を受けた理由は、やっぱりまた別の事だと思っていた。

彼女の隣に居る精霊公。彼を納得させるだけの理由がきっとあるのだろうと。


けど、違った。彼女はただただ、私の必死の願いを聞いてくれただけ。

民を救いたい、国を救いたい、何も出来ない私だけど、どうにかしたい。

ただそれだけの情けない想いを、何も出来ない情けない私の願いを聞き届けてくれた。


本当に、たったそれだけなんだ。この人はたったそれだけの為に来てくれたんだ。

ならそれは、やっぱりそれは、礼を言われる事なんて何処にも無いのに。

私はただみっともなく必死で何も出来なくて、貴女のおかげで救われただけなのに。


「貴女が頑張ったから、私も頑張れた。そう思わせてくれて、ありがとう」


それで、もう、ダメだった。もう我慢できなかった。


「れんぎんじゅづじざまぁ~・・・!」


想いが溢れすぎて、ボロボロに泣きながら彼女に抱き着いてしまった。


「わだ、わだし、ごぞ・・・・ありがどう・・・ございます・・・!」


こんな私を認めてくれる人がいる。私を頑張ったと言ってくれる人がいる。

結果的に上手く行った現状を見て褒める人はきっとこれから何人も居るだろう。

けど彼女は違う。私がどれだけみっともなくて何も出来ないかを知っている。


なのに頑張ったと言ってくれた。今日のこの結果はお前の頑張りの結果だと。

お前が居なければこの結果は無かったとそう言ってくれたんだ。


「そっか・・・うん、お互いに、ありがとう、だね」

「ばい・・・!」


後頭部を優しく撫でる手を感じる。暖かくて優しい手だ。

それが余計に涙を抑えてくれなくて、もっと言いたい事があるのに言えない。

それでもこれだけは、これだけは彼女に願いたい。


「お、お名前を、呼んでも、いいでずが・・・!」

「名前? えっと、うん、別に、良いけど」

「ゼレズざまぁ・・・!」


やっと、やっと呼べた。きっと彼女は気にしてないんだとは思う。

凄く軽い返事で、その程度の事なんだと思うけど、それでも私は嬉しい。

彼女の名を呼ぶ事を許して貰えた事が、本当に―――――。


「・・・あ、王女、えっと、貴女の名前・・・なんだっけ」


ちょっとだけ涙が引っ込んでしまった・・・名前も憶えられてなかった・・・。

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