第495話、優しさに嬉しくなった錬金術師
国王と王女が部屋にやって来た後、まだ息のある襲撃者を縛り上げた。
死亡している者は既に部屋から運び出していて、死体はどこかで燃やすそうだ。
賊なので葬儀などはしないとか言ってたけど、その辺りは私はどうでも良い。
「では、生き残りは私どもで預からせて頂きます」
「ああ、上手くやってくれ」
『『『『『キャー♪』』』』』
王女が腰を折って告げると、リュナドさんは軽く返していた。
あんまり興味は無さそう。まあ私も特に興味はないけど。
精霊達は散々蹴って満足したのか、もうどうでも良さそうだ。
・・・王女にとって何かに使えるのであれば、生き残りが居て良かったと思う。
リュナドさんが居なかったら危なかったな。私一人だと全員仕留めてた。
本当に彼には助けられてばっかりだよね。
仕事の邪魔までしちゃったのに、怒りもせずにむしろ私を慰めてくれたし。
私は叱られるとばかり思ってたから、最初は言葉が出なかった。
それでも彼は怪訝な顔をしたぐらいで、ただどうかしたのかと聞いただけ。
おかげ何とか謝れたけど、彼は謝罪を受け取るどころか気にもしてなかった。
「何で怒る必要があるんだよ。俺としてはむしろセレスがその態度のままの方が怖い」
申し訳なくて、何だか少し泣きそうになって、けどどうしようもなく嬉しかった。
本当はそれでも御免なさいって、ちゃんと謝るべきなんだと思うのに。
けど笑った私を見たリュナドさんが、ホッとした笑みを見せたから余計に頬が緩んだ。
彼は甘いしヘタレと自分を評した。確かに彼は甘いのかもしれない。
それでも彼の甘さは優しさだと思うんだ。少なくとも私はそう思う。
勿論彼が私に甘い気がするのは解ってるけど・・・それでも。
人魚が生きているのが証拠だ。彼女が助かった時の事を聞いたから余計にそう思う。
彼は別に人魚を助けなくても良かった。人魚だって助かる気が無かった。
けど、助けたんだ。助けられるなら助けると、たったそれだけの理由で。
ヘタレな人にそんな事は出来ないと思う。あの力の波に正面から立ち向かう事なんて。
槍を振るって何とかなるなら前に出るなんて、彼自身が評するような人間には無理だ。
でも彼はそう言って笑う。優しく面倒を見てくれる。それが俺の仕事だって。
そんな人が優しくない訳が無い。誰彼構わず手を差し伸べてくれる人が優しくない訳が無い。
「精霊公・・・此度の事、礼は言わん。だが謝罪はしたい。また後で時間を作らせてくれ」
「こちらも礼は不要ですよ。ただ謝罪は受けましょう。また後で、国王陛下」
彼の事を考えながら彼の背に隠れていると、国王はそんな会話をして去って行った。
礼と謝罪って何の事だろう。礼は生き残りを渡したお礼って事なのかな。
何かの役に立つみたいだし多分そうだよね。謝罪は何の事かさっぱり解らないけど。
謝られるような事されたっけ? むしろ私が迷惑をかけた覚えしかない。
とはいえリュナドさんは解ってるみたいだし、私は下手に口を出さない方が良いかも。
あれ、そういえば人魚が居ないけど何処に行ったんだろう。荷車にでも居るのかな。
「精霊公様、錬金術師様、お部屋の準備が整いました。どうぞ」
国王が去って行った後は、使用人の女性に案内されて別室に移った。
さっきの部屋は襲撃者の血が散らばってるし、シーツもズタズタだし家具も壊れている。
壊したのは大半私なんだけど、こんな部屋を客人に使わせられないと言われた
でも私が部屋をダメにした事は事実だと思い、自分の口で謝ろうと王女に声をかける。
何だか私最近謝ってばっかりだな。いや、謝ってばっかりなのは前からそうか。
「ひゃい・・・お、お気になさらずぅ・・・えっと、その、こちらの警戒が甘かっただけですので、対応された錬金術師様を責める様なつもりは何もありません・・・すみません」
すると何故かちょっと泣きそうな様子で逆に謝られてしまった。
怒られなかったのは助かったけど、逆に彼女も私と同じような感じだったらしい。
でも別に悪いのは彼女じゃなくて、襲って来た賊なんだけどなぁ。
警備って言っても限界がある。そもそも王女が警備してた訳じゃないし。
それに彼女は私を許してくれたんだし、なら私も気にしないと告げた。
私にしては結構頑張ったと思う。それにちゃんと伝わったぽい事も嬉しかった。
「は、はい・・・ありがとうございます・・・!」
少し泣きそうな顔だったけど、それでも彼女は嬉しそうに笑っていたから。
「・・・錬金術師様は、お優しいですよね。本当は」
ただそんな事を言われたのは少し意外で、思わず驚いた顔を向けてしまった。
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錬金術師への襲撃。そんなバカげた事を考えた者にも、実働した者にも怒りが沸く。
竜の戦力? 精霊公の力? 精霊の力? 錬金術師の知恵?
ええ、それらが我が国に在れば確かに有用でしょうね。きっと大国家にも慣れるでしょうね。
なら貴方達はその為にこの国を救おうとしてくれている人に唾を吐くつもりなのか。
あの人は、あの人達は、この国に何の利も感じていない。
特に精霊公はハッキリと、この仕事は断りたいと言っていた。
けれど錬金術師はそれでも受けてくれた。彼女が受けたから精霊公も受けてくれた。
碌な見返りも無いのに。絶対そんな事解っているはずなのに。面倒なだけなのに。
こんな何も出来ない小娘の無様な願いを、あの人達は叶えてくれたんだ。
勿論これからも大変な事はまだまだある。手に入ったのは水だけなんだから。
緑が自然に戻るには時が経ち過ぎた。水が有っても人手と時間が必要になる。
それでも先が見えた。見せてくれた。あの人達のおかげで希望を胸に抱けるんだ。
ならあの方々はこの国にとって大恩人以外の何だって言うの。
「許せない・・・!」
人が死んでいる。何人も死んでいる。錬金術師を襲撃して殺された者達が。
けどそんな光景を見ても同情が沸かない。胸に浮かぶのはただただ怒り。
「絶対に許さない」
拳を握って告げる。この件はきっちりと清算させる。そうでなくてはいけない。
何よりも水を手に入れた事で、私達は余計に力を合わせないといけない。
そこにこんなバカは、私以上の馬鹿なんて邪魔なだけだ。
精霊公に引き渡して貰った賊共がどれだけ使えるかは解らない。
けれどどんな手を使ってでも、馬鹿をやらかした者達の力は削る。
処刑はしない。しても意味が無いし利益も無い。生かさず殺さず使い潰す。
「・・・部屋駄目にしてゴメン。襲撃者の数が多かったから、気を使えなかった」
「ひゃい・・・」
新しい部屋に案内している間にそんな風に考えていたのに、声をかけられたら吹き飛んだ。
だって怖かったんだもん。未だに慣れないんだもん。低く唸る様な声に。
しかも今日はなんだか距離が凄く近くて、仮面越しの怖い目が見えるんだもん。
おかげで情けない声で返事をしてしまった。いやこれ応えられてもいない。
は、早く、早く応えないと!
「お、お気になさらずぅ・・・えっと、その、こちらの警戒が甘かっただけですので、対応された錬金術師様を責める様なつもりは何もありません・・・すみません」
これは本音だ。彼女を襲撃させる様な状況を引き起こした事こそ責められるべきだ。
謝るべきは彼女ではなく、こんな不始末を起こしてしまった私達。なのに。
「・・・悪いのは賊達だよ。それに貴女は私を許してくれた。なら私だって貴女を許すよ」
「は、はい・・・ありがとうございます・・・!」
王家に罪はない。罪を問わない。それどころか、お前の事だから許してやるとまで。
何処までも甘くて優しい言葉だ。本当に良いのかと疑ってしまいそうになる程の。
けれど彼女の言葉にきっと嘘は無い。だってここまでずっと示してくれたもの。
彼女の言葉は本物で、何時だって信用出来て、何一つ嘘はなかった。
「・・・錬金術師様は、お優しいですよね。本当は」
だからだろう。思わずそんな言葉が出たのは。失礼かとも思ったけど言ってしまったのは。
正直に言えば私は未だこの人が怖い。錬金術師と精霊公が怖いと思っている。
けれどそれ以上の感謝と憧れ、そして・・・見え隠れする優しさに助けられた。
「・・・優しいかな、私」
「っ――――」
びっくりするぐらい優しい声音。微かに耳に届いていたあの声音。
泣いていたせいで反応が出来なかったけど、やっぱりあの声は聞き間違いじゃなかった。
こっちがこの人なんだ。この彼女こそが本当の彼女の声音。優しい錬金術師。
「はい、とても」
「・・・そっか」
ヘラりと笑った様な柔らかい声音に、仮面越しなのがもどかしいと今までで一番強く思った。
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