第486話、とにかく解って貰おうと頑張る錬金術師
「それで、錬金術師殿。何を聞かせてくれるのかな」
席についてお茶を一口含んだ所で、国王がそんな事を言い出した。
何をって、え、何を? あ、謝る事以外、何を、言えば?
あ、そ、そうか、他にも色々話す事ある、よね。
先ず謝らなきゃ、で頭がいっぱいだった。でもやっぱり先に謝らないとだよね?
うん、謝るのが先だ。先ずは最初に謝って、それからだと思う。
ゆ、許してくれるかな。許してくれると良いな・・・。
「・・・ごめん、なさい」
話を聞いてくれる態度とはいえ、やっぱり怖くて恐る恐るの謝罪になってしまった。
顔を見て待つのが怖くて、少し俯いてフードで皆の顔が見えないようにする。
そうしてびくびくしながら待ってみるも、国王は許しの言葉をくれなかった。
むしろ何に謝っているのかと、問い詰める様な事を言って来る。
その言葉に体が固まってしまう。だって、声音が明らかに固いんだもん。
ライナも時々似た様な事は言うけど、彼女が言う時は優しい声音だ。
怒ってないからちゃんと謝る理由を言いなさいって、そういう風に言ってくれる。
けど今の国王の声は大分硬くて、お母さんが私を問い詰める時に似ていた。
ならそれは、多分、怒ってる。今から何か怒られる・・・!
「――――――」
自分が悪いのは解ってる。怒られても仕方ないのは解ってる。
けどやっぱり怖いよう。うう、どうしたら許してくれるんだろう。
怖くて泣きそうで、けど泣いちゃダメだと力が入る。
仮面が無かったらもう泣いてた。本当にこの仮面に助けられてる。
瞳がにじむ程度でぐっと堪えていると、王子がもっと怒ってそうな声をかけてきた。
でも言われた事が良く解らない。びくびくしながら聞いていたせいだろうか。
いやでも今回は言われた内容をちゃんと聞いてた、と思う。でもやっぱり良く解らない。
抗うとか現実とか、何の話だろう。一瞬褒められたのかと思ったけど、違う、よね。
そもそも私が力を持ってるって言われても、別に貴方達と戦うつもりとか一切なかったし。
むしろ私は助けに来たつもりなんだけどな。まだ碌に仕事出来てないけど。
それに侮辱とか、いい加減にしろとか言われても、それこそ私には何も解らない。
変な事をしたつもりは無いし、むしろ迷惑かけた事を謝りたかったのに。
どうしたら良かったんだろう。どうすれば怒られなかったんだろう。
「・・・じゃあ、どうしたら、良いかな。私には、解らない」
何も解らなくなって半泣きになりながら訊ねると、何だか王子の気配がもっと険しくなった。
「ふざけるな・・・!」
え、えぇ、なんでぇ。ふざけてないのに。真面目に聞いてるのに。
何も解んない。私どうしたら良いの。なんて言ったら言いのか何にも解んないよう・・・。
「・・・ふざけた、つもりは、無い、よ」
それでも必死になってそれだけは口にすると、ふと精霊達が躍ってない事に気が付いた。
私を守る様に並んで、王子に対し若干唸る様に鳴いている。敵対したと思ってる。
だ、だめだよ、悪いのは私だからね。気持ちは嬉しいけどダメだよ。
「・・・精霊達、落ち着いて」
『『『『『キャー・・・』』』』』
精霊達に慌てて声をかけると、不満な顔と声音で返してきた。
一応納得してくれた様子にほっと息を吐き、けど何にも解決してない。
私は何を怒られているのか解らないし、謝っても許して貰えない。
どうしたら良かったんだろう。何が正解だったんだろう。
けど考えても考えても答えが出なくて、唯々息苦しい時間だけが過ぎていく。
思わずリュナドさんに目を向けると目が合い、何時もの様に縋ろうと思いかけた。
助けて欲しいと、彼に懇願しかけて、けれどぐっと堪える。
自分で言ったんじゃないか。ちゃんと言うって。謝るって。
きっと助けてって言えば、助けて欲しいって態度を見せれば、彼は絶対助けてくれる。
けど今回はダメだ。特に今回の仕事は、彼にはやる気が無かったんだから。
いつも以上に私の我が儘に振り回されていて、なのに彼は文句の一つも言わない。
「・・・っ」
ここに至っても一番に考えるのはリュナドさんの事で、本当に私は自分勝手だと思う。
それでも彼が居るおかげで、隣に居てくれるおかげで、そう思える事が出来た。
彼がただそこに居てくれるだけで頑張れる気がする。そうだ、頑張らないと。
「・・・侮辱も、ふざける気も、無い。私がこの国に来たのは、王女の願い、だから」
せめて私の気持ちだけでも、そこだけでも解って貰おうと、必死になって告げた。
許して貰えないとしても、せめて誤解だけは何とかとこうと思って。
でもまたそうじゃないって叱られるかな。出来れば怒鳴られないと良いなぁ。うう・・・。
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死を覚悟した上で問うた息子に対し、錬金術師は解り易い返答をした。
少なくとも私にはそう感じたし、そう言われても仕方のない事なのだろう。
実際私も息子も何も打開できなかった。国も、民も、何も救えない。
役立たずに払う敬意など無いと言われれば・・・ああ、確かに我々は役立たずか。
それでも愚物なりに今まで踏ん張って来た。少しでも生きる目を掴もうとしてきた。
だがその行動も目の前の錬金術師にとっては、余りにも愚かに見えるのだろう。
息子も心の底では解っている。自分にはもう何も出来る事が無いと。
それでも感情が納得いかずに噛みつきかけ、目の前の現実に言葉を閉じる。
精霊。あの小さな不思議な存在が、錬金術師を守る様に立ち塞がるのを見て。
「・・・」
そこでふと娘に目を向けた。一応立ち位置としてはこちら側に座っている娘に。
けれどその娘の結んだ髪から覗く小さな存在。この時点で娘はあちら側だと解る。
この状況で表情を一切変えない娘の成長は、嘆くべきか喜ぶべきか。
「・・・侮辱も、ふざける気も、無い。私がこの国に来たのは、王女の願い、だから」
ただその後に紡がれた錬金術師の言葉を思えば、おそらく喜ぶべき事なのだろう。
彼女の告げた事は単純明快。要は娘に玉座を譲れと言っている。
役立たずの王や王子の為にここに居る訳ではない。王女が居てこそ救われると。
つまり娘こそが彼女に認められ、この国を導くのは娘だと認めろと言われているのだ。
ああ、となれば最初の謝罪は、私達に向けた物ではなかったのかもしれんな。
そこから私達は勘違いしていたか。アレは娘に向けられた謝罪だったのだ。
今からお前の家族を貶めると。それ以外に謝る理由が見つからん。
少なくとも私も息子も謝られる理由など無い。
いや、無くはないが、ここまでの行動をする人間が謝る理由は無いだろう。
謝罪の意を示すだけの価値がある相手にしか。既にその価値を見出された娘にしか。
私には娘にそこまでの力が有るとは思えなかった。だが彼女は娘を見出した。
それが嬉しくもあり・・・やはり悲しいな。それがお前の決めた道か。
後悔するんじゃないぞ。たとえその先がどれだけ辛くとも。
「・・・そうか。解った」
「父上!?」
「控えよ」
「っ・・・!」
私が錬金術師に答えると、息子が信じられないような顔を向けて来る。
だがこれ以上の敵対などただの時間の浪費でしかない。
ここまでの口を叩くのだ。目の前の化け物共は勝算があるに決まっている。
「だがその先は、全て終わってからにして頂こう。まだ、何も終わっていない」
しかし勝算が有るとはいえ、こちらはまだ何も見せて貰っていない。
規格外の力をいくら見せつけられようと、目的の結果が無ければ何も言えない。
全ては結果を出してからだ。私が退くのはそれからだ。
「・・・ん、解った」
流石の錬金術師もそれには異を唱えず、少し溜めはあったものの頷いて返した。
そして一瞬隣の精霊公と視線を交わすと、少し俯き気味に私へ視線を戻す。
「・・・じゃあ、話は、終わりで、良いの?」
確認の様な言葉で告げているが、実質断言と変わらない。拒否は出来ない問いだ。
聞きたい事は山ほどある。あの石の事も、空の衝撃も、大きな魚の事も。
けれどそれらをわざわざ私達に説明する気は無い、という事なのだろうな。
無論私達と違い、娘は把握しているのだろうが。
「構わん」
「・・・ん」
私がそう答えると、錬金術師は最後に大きなため息を吐いた。
顔が少し息子に向いていた事を考えれば、あれをどうにかしておけという事だろう。
息子も頭では解っているのだと思うが・・・それもこれも、やはり全てが終わってからだな。
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