第473話、危ない事はやらせたくない錬金術師
『その石は神性を持つ者を取り込むのだろう? 主が神性を纏えば中に入れるのではないか。そして内側から全力で槍を振るえば破壊の衝撃を殺す事も出来る・・・はずだ」
『『『『『キャー!』』』』』
どんな手があるのかと思い耳を傾けていたら、竜はとんでもない事を言い出した。
そんな危ない事させられる訳が無い。そう言い返す間もなく精霊達が騒ぎ出す。
一体、また一体とリュナドさんに突撃していき、彼の中に溶け込む様に消えていく。
まさか精霊達は今の案を実行する気だろうか。不安になりながらリュナドさんを見つめる。
すると彼は俯いてとても大きな溜息を吐いた後、顔を上げて竜に鋭い目を向けた。
流石に断る、よね。こんな危ない事本当にやったりしないよね?
「具体的にどうするつもりだ。破壊は外からするって事で良いんだよな?」
「そうだ。壊すのは我がやろう。主は衝撃に合わせて全力で槍を振るえば良い」
「・・・本当にそれで行けるんだろうな」
「確実とは言えないが、主ならいける・・・はずだ」
「だから不安しかないってのその返事は」
待って、何言ってるの。リュナドさん。何でやる方向で相談してるの。
絶対危ないよ。下手したら死んじゃうよ。そんなのダメだよ。
「・・・っ、だめ、だよ。リュナドさん、それは、ダメ」
彼に万が一があったら私は立ち直れる気がしない。彼を失うなんて考えたくない。
そんな危ない事をしなくたって他に手段が有るはずだ。もっと他に安全策が。
でもそれで精霊が死んだら・・・いやだ、いやだけど、どっちもいやだ。
どうしたら良いんだろう。どうしよう、考えがまるで纏まらない。何で、何で・・・!
「ダメつったって、手早い解決法が他に何かあるのか?」
「・・・それは、ない、けど」
時間のかかる方法なら思いつく。けどそうなると精霊を助けられるか解らない。
手早い解決方法もきっと何かあるとは思うけど、今は焦りで頭が回らない。
とにかくリュナドさんを止めないと。こんな危ない事はさせちゃダメだ。
今の彼は確かに強いけど、無事に戻ってこれる保証は一切ない。
私の目の届かない所で何があるか解らない。そんなの絶対ダメだ。
でも精霊の事だって助けたい。あの子達がまた犠牲になるのなんて嫌だ。
ただただ心が焦るばかりで何も答えが出ない。涙が瞳に滲んで声が掠れる。
どうしよう。これじゃ本当に私はただの役立たずだ。
人付き合いが駄目でも、会話が出来なくても、他の事だけは出来たのに。
「セレス」
「・・・っ、な、に?」
「任せろ」
「―――――」
ポンと頭に彼の手が置かれ、焦っていた気持ちが消える。
何か思いついたわけじゃない。私に何かが出来る訳じゃない。
けれど彼が任せろと断言してくれた。でも、駄目、駄目だ、ダメなのに――――。
「・・・お願い、助けて、あの子を、助けて、あげて」
助けを求めてしまった。ダメだって思ってるのに、思ってるはずなのに。
何時だって私を助けてくれる彼に、また私は頼ってしまう。
「ああ、解った」
槍が煌めき、その瞬間結界が破壊され、封じられていた石に彼の手が伸びる。
掴んですぐは何の反応も無く、けれど少しして石から嫌な気配が立ち上る。
精霊を取り込んだ時には感じなかった、黒塊を相手にした時と同じ気配だ。
まるで精霊の時とは違い、確実に取り込むべき相手を見つけたと言わんばかりに。
「待ってろ、ちょっと迎えに行ってくっから」
そうして彼は私に告げると、精霊と同じように石の中に吸い込まれていった。
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「うを!?」
突然切り替わった事に驚き、まるで何もない闇の中をキョロキョロと見まわす。
どこを見ても黒く塗りつぶされた世界で、距離感が全くつかめない。
けど不思議と地に足をつけている感じがして、余計に違和感を覚えてしまった。
「・・・精霊が見えねぇ・・・どこだ?」
てっきり吸い込まれた先ですぐ会えると思っていたのに、近くに精霊が居る様子が無い。
『うーん・・・たぶんあっちー?』
『こっちじゃない?』
『僕こっちだと思うー』
「意見を統一しろ」
精霊達はバラバラの方向を示し役に立ちそうにない。
とはいえ立ち止まってる訳にもいかないんだよな。
竜が石を壊す前に見つけないと。とりあえず走ってみるか。
「・・・かっこつけすぎたな」
正直今も不安で怖くて堪らない。入った今はむしろ入る前より怖いぐらいだ。
こんな所に入って本当に出られるのか。そもそも破壊の衝撃とやらに本当に耐えられるのか。
けどあいつの顔を見たらんなもんふっとんじまった。あんな顔しながら言うなよ。
「・・・前なら気が付かなかったのにな」
鋭い目と掠れた低い声。以前なら確実に怯えて怯んだはずだ。
その目の奥に光るものになんて、絶対に気が付かなかった。
気が付いた時は思わず体と口が動いてたなんて、自分に呆れて溜息が出る。
『っ、リュナド、あっち!』
『近い、多分すぐそば!』
『この辺に居る!』
「っ、こっちか!」
竜よもう少し待ってくれよと思いながら走っていると、精霊達が騒ぎ出した。
指示されるままに走りながら周りを見渡すも、やっぱり何も見えずに真っ暗だ。
けれど今はこいつらの指示しか頼りになる物がなくて――――――。
「っ、なんだ、あれ」
『さかなー!』
『さかなー?』
『さかなにんげんー!』
暫くして突然少し前の方に、宙に浮く魚の尾と人間の体が見えた。
上半身は女の姿で下半身が魚。少なくとも崇められていたあの像とはまるで違う。
てっきりあの像がここに居る何かだと思ってただけに面食らった。
『リュナドー!』
『は、なに、あれ・・・え、本当に何こいつ、意味が解んないんだけど、何これ』
その足元に精霊が居て、向こうも俺を見つけたのか嬉しそうに駆け寄って来る。
ただ宙に浮いている人魚らしき何かは、俺を警戒する視線を向けていた。
『リュナド迎えに来てくれたのー?』
「おう、迎えに来たぞ」
『ならもっと早く来てよー。僕寂しかったんだからね!』
「お前な・・・」
この野郎。お前どれだけ心配させたと思ってんだ。伸ばしてやる。
頬を掴んでビローンと伸ばすも余り応えた様子はない。むしろ楽しそうだ。
「お前帰ったらおやつ抜きな」
『なっ・・・そ、そんな・・・神は、死んだ・・・!』
「お前絶対余裕あるだろこの野郎」
後神様はお前だよ。生きろ。
『・・・ふうん、アンタがその変な精霊の主って訳、精霊が変なら主も変ね』
「心外すぎる。あと俺はこいつらの主じゃないぞ」
『あら、じゃ何なの?』
「相棒だ」
『相棒・・・ねぇ・・・』
崩れ落ちている精霊に目を向けながら、怪訝な様子の人魚。
そもそも人を変とか言う前に、こっちもあんたの事は怪しいんだが。
後近づいて来るにしても前を隠してくれないかな。視線のやり場が無い。
『あら、可愛い反応。まさか見慣れてないのかしら。別にみても良いわよ?』
・・・うん、何かむかつくわコイツ。アスバと似た様な感じがする。
一応目を逸らしたのは気を使ってだったけど、そういう態度なら構うもんかよ。
「・・・お前は何なんだ?」
『あら、ご挨拶ね。まあそのチビが私を知らなかった時点で、私の事なんてもう誰も覚えてないんでしょうけど。あれからどれだけ経ったのかしら。国はもう砂漠にでもなっちゃった?』
「っ、やっぱり何か関係あるのか、あの国の砂漠が広がる理由と」
『関係あると言えばあるわね。ああ、別に私のせいで砂漠になってる訳じゃないわよ?』
ニマニマと話す人魚は、けれど真面目に話す気は無いように見える。
肝心の部分は口にせず、俺の反応を楽しんでいる様に―――――。
『っ、なに!?』
「やべっ! おい、何時までも崩れてないでこっちに来い!」
『わ、わかったー!』
どうやら竜が石の破壊を始めたらしい。のんびり話している暇はなさそうだ。
崩れ落ちていた精霊は慌てて俺の中に入り、衝撃に備えて槍を構える。
おいおいおい、マジかよこの野郎。本当にこれどうにかできるんだろうな。
初めて感じるほどの大きな力に、恐怖の方が段々と強くなってくる。
『・・・あー、そっか。やっとか。長かったなぁ・・・とうとう終わりか』
その様子を見ていた人魚は何かを悟ったように、力を感じる方向を向いて呟いた。
それはとても寂しそうな笑みで、同時にとても悲し気な顔にも見える。
すべてを諦めて、けれど諦められない、そんな顔に。
「っ、おい、俺の後ろに下がってろ!」
『え・・・』
「ああクソ、本当に俺は何時も何時も余計な事ばっかしてんな! 行くぞお前ら! 帰るぞ!」
人魚をかばうように前に出て、精霊達に号令をかける。
『行くぞー!』
『帰るー!』
『主の下へー!』
『『『『『リュナドは絶対帰すぞー!』』』』』
力があふれる。竜神の時以上に、精霊の力が膨れ上がる。
『ば、馬鹿何やってんのよ、私を盾にしたらあんた達の生存率が上がる事ぐらい解るでしょ!』
ああ、そうだろうな。何となくわかるよ。お前が凄い力を持ってるのは。
精霊達と一緒になってる時だけは、不思議な力も感じ取れるからな。
けどな、ダメなんだよ、そういうの。助けられるなら、手を伸ばせるなら。
「俺は兵士なんでな。槍振るってどうにかなるなら、前に出るしかねえんだよ」
誰かを守る為に俺は兵士をやってるんだ。
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