第472話、助ける手段を悩む錬金術師

「セレス、何か解ったのか?」

「・・・予測は、多少ついた、程度」


リュナドさんの真剣な問いに、まだ少し悩みながら答える。


私が石から何の力も感じない以上、種類的には呪いの力の可能性がやっぱり高いと思う。

精霊達が感知できない理由が解らないままだけど、単純にそういう性質にしたのかも。

ここに居る何かを封じる為に、滅すために、感づかれない様に。


そしてそれだけの事を成しえるには、それ相応の力を持った素材が要る。

だから私が知る限り一番の『石』が素材だと想定している訳だ。

勿論『星屑の石』以外にも同性能の素材が無いとは言えない。だって世界は広いんだから。


お母さんならそれ以上の素材も知っていそうだけど、ここに居ない以上は頼れない。

今考えるとお母さんの知識と素材の収集癖は、本当に凄まじい物だったんだなと思う。

私が気ままに暮らして集められる素材では、絶対に入手不可能な物沢山持ってたし。


「・・・やっぱり、もどき、だね、私は」


些細な所で母と自分の差を理解させられる。やはり私は錬金術師もどきなのだと。

お母さんの凄さを実感すると同時に、自分の力の無さに少し情けなくなる。


「・・・どうした、セレス?」

「・・・ん、ゴメン、何でもない」


落ち込んでる場合じゃない。お母さんは居ないんだ。なら私は私の選択肢を使わなければ。

幸い今の私にはお母さんが居ない代わりに、他にも頼れる存在が居てくれる。


「・・・とりあえず、上がろうか」

「もうここは良いのか?」

「・・・ん」


ここに手掛かりは多分もう無い。あるとすれば地上への道ぐらいだろうか。

おそらくだけど、この祭壇は誰かが埋めたんだと思う。

周囲の土質と違う土が不自然に在り、多分これを動かせば道が出来るんじゃないかな。


神性を貶めたのではと思ったのも、そういった形跡があったからだ。

多分この祭壇は誰かの手で封印された物なんだと思う。

ただその想定が正解だとすると、一刻も早く対処をしないといけない。


だってそんな封印されるモノと、山精霊が一緒に居るって事なんだから。


「・・・行こう、リュナドさん」

「ん、解った。おいお前ら、行くぞー」

『『『『『キャー!』』』』』

「姫様、私共も参りましょう」

「え、ええ」


少し慌てた気持ちで荷車に戻って滞空させていた精霊を撫で、皆が乗り込むのを待つ。

そして操作を変わって上空まで飛び上がり、相変わらず寝ている竜の下へと向かった。

すると竜はピクリと動き、ゆっくり目を開いてからゆらっと頭を荷車まで上げる。


「何か妙な物を持っているな」

「・・・解る?」

「何となくだがな。あまり良い物では無い。お前の弟子が内に持つ物と同じ気配がする。ただ同時に精霊殺しだったか、あれと似た様な気配もするな」

「・・・精霊殺しと?」

「ああ。その力を感じさせないようにする力、とでもいえば良いか。なので少々力が見難い。お前の弟子であっても注視して初めて解る程度かもしれないな」

「・・・成程」


竜なら解るんじゃないかと思ったら、思った通り呪いの気配がするらしい。

以前メイラの体質の事も見通した事があるから、もしかしたらと思ったら大正解だ。

精霊殺しの力は予想外だったけど、説明を聞いて納得が出来た。


やっぱりそういう類の力があったから、精霊達は何も感じられなかったんだろう。

精霊殺しと初めて会った時も、あの子達は精霊殺しを認識できていなかった。


「・・・これなんだけど、神性を封じ込めてるみたい・・・壊せそう?」

「ふむ・・・」


結界を操作して石を前に出し、竜が目を細めてじっくりと石を見つめる。


「壊せない事は無い」


すると想定通りの答えが聞けて、少しだけホッとする。

竜に壊せないとなると、これを壊すのは相当難しい事になる。

アスバちゃんと協力して何とか、という事になっていただろう。


「しかし内に感じる力が凄まじい。ただ壊せば、その力によってこの地が吹き飛ぶだろうな」

「・・・そっか」


想定はしていたけど、竜が言うならもう確定だろう。

この石は神性の力を溜め込んでいて、壊せばそれが暴力となって解放される。

多分崇められていた『何か』には相当の力があったんだろう。


となれば単純にこの石を砕けば、その衝撃で中の山精霊もただではすまない事になる。

危険物を壊すだけ、って事なら遥か上空で無理やり壊すという手段もあったんだけどな。


「・・・どうしよう」


思わずうなる様に呟き、歯を食いしばりながら頭を回す。


最善は何だろう。一度帰ってメイラに協力を仰ぐのが正解かな。

ただ帰るにしてもそれなりに時間がかかるし、その間に山精霊が無事とは限らない。

転移石はまだ残っているし追加も作っているけど、この石を転移させられるか不安がある。


いやそもそも竜が忠告をする程に力が籠った石を、あの子に任せて良い事だろうか。

もし下手を打てばあの子が死ぬ。それは嫌だ。そんな事はさせられない。

けれどこうやって悩んでいる間にも、中に居る山精霊が危険な目に遭っているかも。


込められた力を抜く方法は無くはないけど、私の知る方法では時間がかかる。

素材を集めて道具を作らないと無理だし、その時間精霊が耐えられる保証が無い。

そもそも力を抜いた事で、精霊の力を引き抜く力が上がる可能性だってある。


「・・・中に居る精霊に、衝撃を与えない様に壊す・・・のは、無茶か」


どうしたって解放時の衝撃は精霊を襲う。普通に壊す方向では助けられない。

けどおそらくこの石は破壊しないと、何時までも機能を発揮し続けると思う。

となるとやはり壊すしか手早く助ける方法が無くて、けれど壊すと助けられない。


手段を模索している時間が惜しいのを考えると、やっぱりメイラを頼るのが最善なんだろうか。


「何、その中に同胞が居るのか?」

『『『『『キャー!』』』』』

「・・・成程」


私が考え込んでいると、精霊の答えを聞いた竜も少し考え込み始めた。

精霊達もうーんと唸るような動きを見せ、一緒に考え込み始める。

いや、まあ、本当に考えてるかはちょっと怪しいけど。


「・・・手が無い事は無い」


そして私が答えを出すよりも早く、竜がそう告げた。


ー------------------------------------------


精霊があの変な石に吸い込まれてから、セレスの気配が若干どころじゃなく怖い。

一見落ち着いたようにも見えるが、かなり周囲を警戒しているのが解る。

どこまで何が危険なのか解らない以上は仕方ないんだろうな。


調査の間の受け答えは何時も通りと言えば何時も通りだが、何時もより若干声音が低い。

時々歯をギリッと鳴らして考え込む様子を見せたり、拳を強く握り込んでいる時も。

明らかにイラついているのが解るし、とても怖いので恐る恐る話しかけている。


だが焦る様子が無いのだけは流石セレスか。

早速予測が付いたと動き出し、そして竜に石を見せて対処を考え始めている。


「・・・これなんだけど、壊せそう?」

「ふむ・・・壊せない事は無い」


そんな会話に壊す方向で行けるのかと思っていると、どうも難しいらしいな。

壊すとこの辺が吹き飛ぶとなると、下手に壊す訳にも行かないだろう。

というか精霊も一緒に吹き飛んじまうんじゃないか。


そうなると精霊達に事を大事に思うセレスが実行するはずもない。


「・・・どうしよう」

「―――――」


ただセレスが唸る様にそう呟いたそれは、明らかに行動に悩んでいる。

以前ならイラついている様にも感じたそれが、なぜか不安で堪らない様に聞こえた。

精霊の事だからだろうか。俺の頭にあの時のセレスの泣き顔がちらつくからだろうか。


けれど今俺に出来る事は何も無い。俺が出来るのはセレスが動き易くする事だけだ。

俺だって助けてやれるなら助けてやりたいが、俺の頭じゃ何の解決法も浮かばない。

あんな訳の分からない石にどうやって対処すりゃいいんだよ畜生。


「・・・手が無い事は無い」

「っ!」


無意識に槍を強く握り込んでいたが、竜の発言でハッと顔を上げる。

セレスも竜の声に耳を傾ける様に、仮面の奥から鋭い目を向けていた。


「小さき同胞たちよ、その中に居る同胞の事は感じ取れるか?」

『『『『『キャー!』』』』』

「ふむ・・・ならば、行けるか」


精霊達が何と答えたのか解らないが、竜はニヤッと歯を見せて笑う。

流石長生きしてる竜なだけあって、こういう時は頼りになる。

頼むぞ。今度こそセレスに精霊を失わせないでやってくれ。


「我らが主よ、出番だ。神を殺せるその力、上手く使えば同胞を助けられるだろう」

「・・・え、俺?」


まさか俺が呼ばれると思ってなくて、間抜けな声で答えてしまった。

ただ竜はそれに突っ込む事なくゆるりと頷いて返す。

神を殺せるって・・・竜神とやった時のあれの事だよな。


一応生きてる死体とやった時も出来たから、出来ない事は無いと思うが・・・。


「つっても、何したら良いんだ。俺に出来る事なんて、槍を振る事だけだぞ」


もしそれでこの石を壊せって事なら、俺は近距離でその力とやらを食らう事になる。

そうなったら死ぬ気しかしないし、精霊達も無事じゃすまないと思うんだが。


「その石は神性を持つ者を取り込むのだろう? ならば主が神性を纏えば中に入れるのではないか。そして内側から全力で槍を振るえば破壊の衝撃を殺す事も出来る・・・はずだ」


おい、はずってなんだはずって。どう考えても不安しかないぞ。

俺は嫌だぞ、そんな不確定な話に命を懸けるのは。怖すぎるだろ。


『『『『『キャー!』』』』』


コラコラコラ! 何やる気になってんだお前ら! 無理、あ、ちょ、入ってくんな!

俺はまだやるって言ってないだろ!? 下手打ったらお前らも消し飛ぶんだぞ!?


『でもこのままだと主が泣いちゃいそうだよー』


・・・それを引き合いに出すのは卑怯だろ。

大体泣かせた原因はお前らだからな。そこちゃんと解ってんだろうな!


『解ってる解ってるー。全く、吸い込まれるなんて僕も情けないよねー』

『吸い込まれた僕は僕達の中でも最弱・・・』

『次なる僕に挑んで勝てるかなー!』


何でこの状況でそんな緊張感の無い事言えるのお前ら。


『だいじょぶだいじょぶー、いざとなったらリュナドだけは助けるからー』


――――――ざけんな。それでお前らが助からないんじゃ意味がねーだろうか。

お前らを助けるためにお前らを犠牲にしてどうすんだ。


『リュナドが頑張ればだいじょぶー。ねー、あいぼー』


・・・ああクソ、畜生解ったよ、やれば良いんだろうがやれば!

だけどな、お前ら絶対全員で戻ってくる気でやれよ!!


『『『『『りょーかーい!』』』』』


本当に本気でやりたくないけどな! また貧乏くじだよ畜生!

ああもう怖えなぁ!

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