第471話、珍しいものだと解る錬金術師

地図を読み取り部屋の位置を割り出すと、かなり地下にある事が解った。

これなら城の壁や地面を掘っていくよりも、外壁に穴を空けた方が安全で早い。

そう判断したら一旦外に出て、荷車で大体の予測位置へ移動した。


魔法で動かした感じ崩落はしないと思うけど、念の為しっかりと固めてから奥へ進む。

すると精霊達の地図通り明らかな建造物があり、そこは何かを祀った祭壇の様に見えた。

魚に手足が生えた様な、神様というよりも魔獣という方が正しい様な像がある。


それを口に出す前にリュナドさんが注意してくれて助かった。

竜神の様な存在ならともかく、黒塊みたいな存在なら取り返しがつかないかもしれない。

私より会話が通じない事が多いぐらいだし、怒らせたらもうどうしようもない気がする。


「・・・んー?」


とはいえ結局問題はある。私は神性や呪いの力を感じる能力が殆ど無いに等しい。

現状脅威らしき感覚も無いのは、単純に敵意を持たれてないからだろうか。

それともここはただ単に祭壇になってるだけで何も存在していないのか。


「・・・リュナドさん、何か居る感じとか、する?」

「ん? え、俺? ・・・いや、特に何も感じないけど・・・お前らは?」

『『『『『キャー?』』』』』


彼は困ったように頬をかきながら応え、精霊達も首を傾げて応える。

精霊達も何も解らないらしい。という事はここには何もないのだろうか。

でもこの石がここから見つかったなら、無関係という事は無いと思うんだけどな。


流石に精霊を吸い込む石が自然に出来た、とは思えない。

可能性としては無くはないけど、薄い可能性だと思う。

もし自然にそんな石がここに生まれたなら、もう幾つか見つかっておかしくない。


けれど見渡す限り同じような石は無くて、ならこれは単純な自然石の類じゃないだろう。

そもそも加工の後が見えるし、自然に出来た石にしては綺麗すぎる上に周囲と性質も違う。


『『『『『キャー?』』』』』

「コラコラコラ! 食うな食うな! 後でなんかやるから!」

『『『『『キャー♪』』』』』


精霊達が首を傾げながら砕けた像の欠片を拾ったと思ったら、いくつか食べてしまった。

私が驚いている内にリュナドさんが止めたけど、齧りかけの石がいっぱいに。

だ、大丈夫かな、怒ってないかな・・・反応が無いからやっぱり居ないのかな・・・?


「・・・王女は、何も知らないん、だよね?」

「は、はい。この場所の存在自体、初めて知りました。多分お父様も、お兄様も知らないんじゃないでしょうか。流石に知っていたなら、その石の事も知っている気がしますし・・・」


困ったな。何か手掛かりが有るかと思ったんだけど・・・とりあえず祭壇調べてみようか。

とはいっても魔力の気配は全然しないし、生物の気配も感じない。何から調べたものか。

祭壇自体は何の変哲も無い、ただの作られた祭壇にしか見えないし。


「・・・メイラがいれば、もっとハッキリするんだけどな」

「あー・・・そうだな」


黒塊の時も精霊達は「何か居る」ぐらいの感覚だった。

けどメイラは明確にその存在を知覚していたと後から聞いた。

ならあの子がここに居れば、判断を確実なものに出来ただろう。


「あ、あの、そのメイラ様とは、こういった物に詳しい方なのですか?」


リュナドさんと二人でうーんと唸っていると、王女が恐る恐るという様子で訊ねて来た。

そういえば王女が訊ねて来た時は不在だったし、名前を出されても困るか。


「・・・私の弟子。神性や呪いは、あの子の方が上」

「な、なる、ほど?」


何で成程と言いながら首を傾げたんだろう。

まあ良いか。納得してくれたならそれで。


あの子ならこの石からも何かを感じ取れるかもしれない。

山精霊を助ける為だし、迷惑とかを考えるのは後にして一旦帰ろうかな。

勿論あの子が怖がるようなら、無理に手伝わせる事は出来ないけど。


「・・・特に、何もない、かな」


砕けた像はただの石材のようだ。調べた限り特に珍しい石でもない。

だた崩落や経年劣化で砕けたにしては、砕け方がおかしい様な気が。


「・・・誰かが、壊した?」


何かで叩いて壊したような、そんな跡が見て取れる。

勿論自然にそうなった可能性もゼロじゃないけども。

もし誰かがこの像を壊したとなると、ここに居た何かと敵対していた?


ならもしかしてこの石は、ここに居た何かを封じる為の石だったのかもしれない。

祭壇まで作られて祭り上げられていたって事は、神性を封じる為だよね。

それを強くないとはいえ神性を持つ山精霊が拾い、結果吸い込まれたって事かも。


「・・・という事はこれ、もしかして星屑の石、かな・・・珍しい」


空から降る石の欠片。それは遥かな天から落ちる力の籠った石。

構成素材は基本的に地上に在る物と変わらず、けれど明らかに違う力が籠っている。

星屑の石を素材にした道具は、通常の素材を使った時より遥かに強化された。


その力を全て『天に在るものを落とす』という概念の力に変換したのかも。

神として崇められるモノを落とす石。その石の中で、神性を貶める為に。

アレは魔術や呪術の増幅媒体としても優秀だから、やろうと思えばできなくはない。


粉にして触媒にして爆発の魔法を使ったら、軽くやったのに大爆発が起きた覚えがある。

上空に向けてだったから良かったけど、地上なら山が一つ吹き飛んでた。

少ない魔力でその威力だ。時間をかけて作り上げた呪いならどれだけの力を持つか。


もし星屑の石でなかったとしても、それ相応の力をもった石なのは間違いないだろう。

少なくともここに居た『何か』を吸い込む為に置かれていた物なのだろうし。


「・・・神性が消えれば、出られる・・・いや、そんな気楽な考えは良くないか」


神性を貶める為の道具だ。吸い込んだ存在が消滅するまで出さない可能性がある。

となると最終的にはこの石は絶対に砕かないと危ない。

ただ問題はそれだけの力を吸った星の石は、そう簡単に砕けないという事だけど。


「・・・砕けるかな。いや、方法はある。砕くだけなら、いけるはず」


山精霊は中でどうなってるか解らないから、単純に砕くのは危険かもしれないけど。

唯一の救いは、対神性の為の呪いっぽいから精霊なら暫くは大丈夫そうって事かな。

待っててね。絶対出してあげるから。少しだけ堪えてね。


ー-----------------------------------------


『ねえねえ、さかなー』

『人魚だっつってんでしょーが。人の話聞かない奴ね』

『さかなは何でこんな所に居るのー?』

『だから・・・はぁ、もう良いわ、あんたと言い合いしても不毛だし』


さかなは「はぁ」とため息を吐いて、僕の傍まで降りて来る。

そして僕の足元と同じ所まで降りると、尾ひれを畳んで座った。

やっぱり魚だよね? うん、魚だ。


『ねー、なんで。ねー』

『っさいわねぇ。覚えてないわよそんな事』

『えー・・・じゃあ何でさっきすぐに出てきてくれなかったのー?』

『自分を止めてたのよ。こんな中で普通に動いてたらおかしくなるわ』

『僕真っ暗で怖かったんだよー! すぐ出てきてくれないと怖いでしょ!』

『・・・久々の会話相手が会話の通じない相手って何なのよ』


さかなが遠い目をして空を見上げる。空ないけど。相変わらずまっくら。

でも会話が通じないって失礼だよね! 僕たちこれでもお喋りなんだよ!


『さかなお喋りしたかったの?』

『・・・ま、そうね。ずっとこんな所に居たら、ね』

『じゃあ出ようよー。僕ここやだー』

『出られるならとっくに出てるわよ』

『・・・出れないの?』

『出られないわね。私も、あんたも』


出れない? 僕出れないの? ここから出れなかったら、主に会えなくなる。

メイラにも、パックにも、リュナドにも会えない。ずっと真っ暗なまま?


『やだー!』

『・・・私だって嫌よ。いつまでこんな所に居るなんてね』

『僕出るもん! ここ嫌い!』

『出るもんって言っても・・・どうするつもりよ』

『だーしてー! 主助けてー!』

『・・・他人頼りなのね』

『他人じゃないもん! 主だもん!』


主ならきっと僕を出してくれる。僕達は主の為に居るけど、主は僕達を捨てないもん。

主の為なら僕は消滅しても構わないけど、ここで消えたらきっと主は泣いちゃう。

だって主は優しいもん。だから僕は出なきゃいけないんだ。主の為に。あと僕ここ嫌。


『ねーねーさかなー。どっち走ったら出られるか教えてー』

『だから・・・出られないってさっきから言ってるでしょうが』

『さかなは出ようとしたのー?』

『したわよ。何度も、何度もね・・・ええ、何度もしたわよ・・・でも出られなかった。そして一人になって・・・出るのを諦めたわ』

『一人? さかな以外のさかなが居たの?』

『ちょっとは魚から離れなさいよ! ったく、口が滑ったわ。そういう訳だからあんたも諦めなさい。もう二度と出れないわよ。その存在が保てなくなるその時までね』


むう、消えない為に出るのに、さかなはいじわるだ。

僕だけじゃないってホッとしたのに、むーっとしてきた。


『僕消えないもん! 美味しい物まだいっぱい食べるんだもん! 主にいっぱい美味しいもの教えてあげるんだもん! メイラとパックともいっぱい遊ぶんだもん! 出るもん!』

『あっそ。頑張ればいいんじゃない? 私はまた止まるから、好きにすれば良いわ』

『好きにするもん! 食べ物だって・・・そういえばここ、食べる物あるー?』

『は? ある訳ないでしょ』

『えぇー!? そんな・・・あ、さかな・・・じゅる』

『ちょ、ま、待ちなさい、何する気、あー! イタイイタイ! かむなぁ! だから私は魚じゃないって言ってんでしょうが! 精霊のくせに何で食い意地張ってるのよ!』

『さかなあんまりおいしくない・・・』

『噛みついといてふざけんなぁ!』


さかなにむんずと掴まれて思いっきり投げられた。さかなひどい!

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