第470話、地下への道を作る錬金術師

城の地図を書けないかと尋ねたら、精霊達は気合いの入った声で『出来る!』と答えた。

良かった。それなら何とかなりそうだ。この子達なら配管や通気口も含めて書いてくれるし。

以前パックの城の地図を見せて貰った時は、隠し通路までしっかり網羅されていた。


「・・・それじゃ、これに描いて貰えるかな」

『『『『『キャー♪』』』』』


カバンからメモ紙を複数取り出し、精霊達に手渡していく。

ご機嫌な様子で受け取った精霊達は、その紙を床に並べだした。

一体何をと思っていると、今度はそれぞれ自分のノートを取り出して見合わし始める。


メイラとパックの持つノートとお揃いにした、時々何書いてるのか認識できないノートだ。

精霊達の不思議能力で作り出したものだからだろうな。ペンもそうだし。


『キャー?』

『キャー!』

『キャー・・・』

『キャー!?』

『『『『『キャー♪』』』』』


楽し気に描き始める精霊達の地図の上に、魔法の光を浮かべて上から眺める。

成程、複数の紙を一枚に見立てて、そこに城の全景を書いていたのか。

単純な見取り図から立体図、細かい通気口なども書いている。


「あ、あの、これ、私見なかった事にした方が良い、ですよね」

「そうだな。国王達には黙っていてくれると、面倒が無くて助かる」

「そうします・・・」


王女がそんな精霊達の様子を見て、不思議な事をリュナドさんに訊ねていた。

ただ不思議に思ったのは私だけだったのか、彼は頷いて肯定を返す。

それどころか侍女さんも頷いたのを見て、王女は溜息吐いて蹲ってしまった。


一体何が駄目だったんだろう。まあ良いか、納得してるみたいだし。


『『『『『キャー♪』』』』』


そして暫くして精霊達が地図を書き上げ、わーいと嬉しそうに飛び跳ねまわる。

その間完成図を頭に叩き込んでいると、途中で精霊達が群がって来て中断されてしまった。


『『『『『キャー!』』』』』

「わぷ・・・ん、ありがとう、助かったよ」

『『『『『キャー♪』』』』』


頑張ってくれた精霊達の頭を撫で、満足した精霊達は踊り始めた。


「ここか、どこにも通路が繋がってない部屋が有るな」

「・・・ん、だね」


その間リュナドさんが地図をじっと見つめ、目的の場所意を指さす。

精霊が離れてくれたので私も確認して、地図の全容を頭に叩き込む。

叩き込み終わったら紙を纏め、鞄の中に突っ込んだ。


「・・・私の知らない通路は、お父様なら知っているのかしら」

「あんな所に隠し通路なんてあったんですね・・・」


ただそこで一緒に見ていた王女と侍女がそんな事を言い、入れようとしていた手を止めた。

もしかして王女は城の事を把握してないのかな。自分の住む場所把握してないのは危なくない?

特に隠し通路を家主が知らないのは、絶対危ないと思うんだけどな。


国王は知ってるのかな。うーん・・・まあ良いか、これ彼女にあげれば。

そう思い紙束を鞄から出して王女へと差し出す。


「・・・あげる」

「え? わ、私に、ですか?」

「・・・ん。覚えておいた方が、良い」

「は、はい、わかりました」


王女は紙束を受け取ると大事そうに抱え、真剣な顔で頷いて応えた。

やっぱりちょっと心配だったのかな。役に立ちそうで良かった。

彼女には迷惑をかけちゃってるから、これで少しはお返しできたかな。


「・・・リュナドさん、外に出よう。城の中からじゃ逆に向かい難いと思う」

「解った。王女殿下も付いて来るか?」

「は、はい、行きます!」


リュナドさんに声をかけると、彼は王女にも確認をとった。

彼女は地図を一生懸命見ていて、リュナドさんの言葉に慌てて顔を上げる。

今急いで見なくても良いと思うんだけど・・・いや気になるか。うん、気になるよね。


私も自宅に隠し通路とかあったら、気になって仕方ないと思うし。

まあ私の家には家精霊が居るから、隠し通路なんてあったら教えてくれてると思うけど。


「徒歩で向かうのか?」

「・・・ううん、荷車の方が、良いかな」

「そうか、ならとっとと行くか」

「・・・ん」


リュナドさんを先頭に物置を出て、明かりの魔法を消して荷車へ向かう。

荷車を見張っている精霊にお礼を言って乗り込み、自力で飛ばして海の方へ。

城を超えた先の崖沿いに荷車を下ろしていき、海面近くで荷車を止める。


「・・・荷車の維持お願いして良いかな」

『キャー♪』


頭の上の子にお願いして、魔法石を握り込んだ。


ー-----------------------------------------


目の前でとんでもない事が起こっている。明らかに不味い事が。

城の内部構造が正確に、とても精密に紙に描かれていく。


『『『『『キャー♪』』』』』


楽し気な声と共に歩き回り、段々と地図が完成していく。

簡易な見取り図ではなく、立体的な絵図も付け加えた物が。

更に本来部外者が知って良いはずがない所まで描かれいる。


しかも私が知らない通路もある。この部屋もあの部屋も私は知らない。

父や兄に言うべきなんだろうか。それともちゃんと解っているんだろうか。

黙っておくと約束したから、聞く事は出来ないんだけども。


いやそれよりも、あっさりと城の内部構造を調べ、隠し通路まで調べ上げる精霊達だ。


精霊達が自由に城を動いている事には気が付いていたけど、こんな事まで出来るなんて。

これじゃ隠し通路からこっそり忍び込んで暗殺、なんて事もたやすく出来るだろう。

勿論二人がそんな事をする理由は――――――ある。あった。そうだあった。



二人は私に『王』となる覚悟を求めている。



ならこの情報は、その為に必要な物だ。知っておかなきゃいけないものだ。

いざという時に成し遂げる為に、きっと私は覚えておかなきゃいけない。

そんな日が来る事なんて望んでないけど、望んでなくても危機は訪れる。


「・・・あげる」

「え? わ、私に、ですか?」

「・・・ん。覚えておいた方が、良い」

「は、はい、わかりました」


実際錬金術師は私に紙束を渡し、覚えておけと忠告をした。

受け取る手が少し震える。けれど今更逃げ出す訳にはいかない。

それにもしかしたら、あの石の事が何か解れば状況が変わるかもしれない。


明らかにあの石は怪しい。彼女も最大限に警戒している様に見える。

何よりも精霊が消された事を考えると、絶対にこの土地に無関係じゃないはず。

あんな物が地下にある何て知らなかった。そもそも知らない地下が有る事が驚きだ。


ついて行けば危険が有るのかもしれない。けれど何も知らないままはもう止めだ。

私は知らなきゃいけないと思う。もっとちゃんと考えないといけないんだと思う。

そう思い探索について行くと答え、昨日と同じく荷車に乗せて貰った。


そして海に出て崖を降りると、錬金術師が懐から綺麗な石を取り出す。

彼女がその石を崖に押さえつけると、土が蠢き洞窟が生まれ始める。


「―――――すごい」


あの石を封じ込めている結界も凄いと思ったけど、今度のはそれどころじゃない。

崖に穴をあけて人が通れる洞窟を、ほぼほぼ一瞬で作り上げているのだから。

下手な魔法使いでは、あんなに鮮やかに穴をあける事は出来ない。


解っていたつもりでまだ理解出来ていなかった実力を見せつけられた気分だ。

呆けた顔で出来上がっていく洞窟を眺めていると、彼女はその洞窟へ飛び移った。

それを見て精霊公も後を追い、精霊達も『キャー♪』とついて行く。


『キャー?』

「は、はい、いきます・・・!」


束ねた髪から『行かないの?』と問われ、慌てて応えて私も飛び移る。

侍女も一緒は私が飛び移るのを確認してから、スッと飛び移っていた。

私はちょっと怖かったけど、彼女は相変わらずそつなくこなす感じだ。


「・・・もうちょっと、奥、だね」


錬金術師はそう呟くと、懐からまた石を幾つか取り出した。

今度はその石を放り投げ、落ちた石が地面に溶け込む様に消える。


「・・・危なくない様に固めてるから、少し待って」

「あいよ。安全第一でゆっくりやってくれ」

「・・・ん」

『『『『『キャー♪』』』』』


精霊公の指示に頷いた彼女は、その指示通りに作業を進めた。

いや、私には良く解っていないけど、多分進めてるはず。

精霊達は何が楽しいのか、その間ずっと踊っていた。


そうして待つ事暫く、作業が終わったのか錬金術師が歩き出す。

精霊公はその後ろをついて行き、精霊達もまたわらわらとついて行く。


「姫様」

「う、うん、行こう」


侍女の声に頷いて応え、少し緊張しながら足を踏み出した。

少し奥に進むとまた彼女は魔法で明かりを作り、洞窟内を光が照らす。

そしてその光が奥まで通り抜け、最奥に何かが有るのが見えた。


「あそこが、例の部屋か」

「・・・多分。何かの祭壇、かな」

『『『『『キャー!』』』』』


そこは錬金術師の言う通り、何かをまつった祭壇の様に見えた。

中央には割れて崩れた像が有る。これは・・・魚? 魚人の像、だろうか。

魚に手足が生えていて、何とも奇妙な像に見える。と言うか若干怖い。


魔獣を模した像だろうか。似た様な魚の魔獣は一応居たはず。


「崩れているが、残っている原型を見る限り・・・魚か? 珍妙な像だな・・・いや、祭壇の像にそれは失礼か、何かいて下手に怒らせたら面倒だしな・・・」

「・・・そう、だね、うん。失礼、だね」

『『『『『キャー?』』』』』


・・・私も変な像だと思ってしまったのは、口に出さないでおいた。

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