第450話、大人しく帰る錬金術師

王様へのお礼は問題無く出来て、その上嬉しい事まで言われてしまった。

リュナドさんと仲睦まじく、メイラの事も大事にしている様に見えると。

王子だけじゃなく、他の人もそう思うなら、これ程嬉しい事は無い。


ちゃんと伝わっている。友達以外にも自分の気持ちが周りに伝わっている。

その事実が余りに嬉し過ぎて、彼に抱き付く腕の力を強くなってしまう。

だってそれもこれも全部、彼の言葉のおかげだから。彼が教えてくれたから。


もっと言って欲しいって。思ってる事はもっと伝えて欲しいって。そのおかげだ。


彼の事が好きだと告げるだけの事だけど、その想いがちゃんと伝わるのが本当に嬉しい。

やっぱりリュナドさんは凄いなぁ。きっとここまで考えて言ってくれたんだろうなぁ。


「・・・にへ」


そんな風に彼への尊敬と好意を想いながら寄りかかり、その後は大人しくしていた。

だって途中からどこかの国への支援がどうとか、支払いがどうとかいう話になってたから。

私の知らない話だから、口を出したら邪魔になると思って黙ってた。


ただ途中で魔法使いの弟姉の名前が有ったから、あの子達の国の話なのは解ったけど。

アノ死者が暴れたせいで街が大変な事になったから、その支援的な事がどうとか。

それ以外の事は良く解らない事も多かった。近隣国との力関係がどうのとかいう話は特に。


なので私ずっとリュナドさんに体を預け、大人しく話が終わるまで待つ。

途中彼も会話に混ざっていたので、私だけ・・・いや、メイラも参加してないか。

私達だけ場違いっぽいけど、邪魔しなきゃ良いよねと、ぽけーっとしながら待った。


「それで宜しいか、錬金術師殿? 貴殿からは何か意見は無いかね?」


ただ話が纏まったらしい所で、突然王様に話を振られてポヤッとした意識を外に向ける。

え、何で私に確認? え、な、何、何で皆私見てるの? 王様の考えている事が解んない。

私に聞いたって何も無いよ。だって今も何も考えずリュナドさんに抱き付いてただけだし。


「・・・私は、何も、解らないから、何も、意見は、無いよ」


パックとリュナドさんが会話に入っていたのだし、彼ら以上の判断が出来るはずもない。

なので私に聞く事自体が間違いだと思う。私絶対役に立たないから。


「・・・ただ、リュナドさんとパックの、良い様にしたら、良いんじゃない、かな」


何か有るならきっと二人が言うだろう。だからそう伝えた。

すると王様はクックックと笑いだし、愉快気な笑顔を二人に向ける。


「全く敵わんな、君達の大事な錬金術師殿には。あくまで君達と話し合えという事か」

「僕の先生ですから」

「彼女はこういう人間ですから」


王様は兎に角楽し気で、パックは胸を張り、リュナドさんは少し溜息を吐いている。

三者三様に態度が違い、私は褒められたのか呆れられたのか解らない。

そもそも何をもってして敵わないと評されたのかもよく解んないし。


ただリュナドさんが溜息を吐いているのは気になる。また呆れさせただろうか。

何時もならここでしょぼんと落ち込んで、何も言えないままで終わるのだろう。

でも今の私は違う。大好きな彼になら、もっと頑張れるのだ。


「・・・リュナドさん、何か駄目、だった?」

「え、いや、駄目な事は、何も無いです。はい」

「・・・なら、良かった」


ちゃんと彼に何が駄目だったのか聞いて、けれどその答えにホッとした。

という事はさっきの溜め息は私に対してではなかった、という事なんだろう。

安心すると体の力が少し抜けたのを感じ、彼の肩にコテンと頭をのせる。


「くくっ・・・精霊公よ、今日は我が城へ滞在してゆくのかね」

「申し訳ありません。仕事が残っておりますので、今日の所はお暇したいと思っております」

「そうか、それは残念だ。今度こそ君達を歓待出来ると思っていたのだがな」

「畏まった場は苦手なので、出来ればご遠慮願いたいですね」

「本当に愉快だな君達は。パック殿下が羨ましい」


何故かパックが羨ましがられていて、本人は良い笑顔で応えている。

私何か面白い事したかな。自覚が無いけど変な事したのかも。

いやでも君達って言われたから、リュナドさんもやったって事なのかな。


まあみんな笑顔だし、悪い事はしてないと思うし、気にしなくていっか。

私が恥をかくのは何時もの事だ。今更一つ二つ情けない所を見られても今更だと思う。

あ、でも弟子達には、あんまり見せたくない気もする。うーん・・・。


「陛下、そろそろお時間が・・・」

「もう時間か。すまんな、この後も予定があるので、この辺りで切り上げさせて貰いたい」


部屋の端に立っていた文官らしき男性が声をかけ、王様が応えた事で話は終わった。

そして私はリュナドさんとの約束通り帰る為に、荷車へと戻っている。

当然リュナドさんとメイラとは手を繋いだままだ。とてもご機嫌だ。


『『『キャー♪』』』

「ん、ありがとう」


荷車をちゃんと守ってたよーと告げる精霊達を撫でて褒め、そのまま荷車に乗り込む。

リュナドさんも私の後に続いて乗り込み・・・パックとメイラは乗って来なかった。

どうしたんだろうと首をかしげていると、王子が一歩前に出る。


「ではセレス殿、君の弟子達を街まで送った時に、またお茶でも」

「しっかり役目を果たしてきます、先生」

「わ、私も、がんばり、ます」

『『『『『キャー♪』』』』』


あ、あれ、待って、二人共、一緒に帰らないの? もう帰れるんじゃないの?

てっきりやる事が終わったから、こっちに戻ってきたと思ってたんだけど。

精霊達まで頑張るーって残る気みたいだし、もしかしてまだやる事あるのかな。


なら、連れて帰っちゃ、駄目なんだろうな。うう・・・やだなぁ。

でも仕方ない。二人のやりたい事をさせると決めたんだから。

少なくともこの辺りなら、きっと危ない事も、そうないはずだし・・・大丈夫、私大丈夫。


「・・・待ってる、からね。帰って、くるの」

「「はい!」」

『『『『『キャー!』』』』』


元気よく答える二人に、もうそれ以上何も言えなかった。やっぱり待つべきだよねと。

嬉しい気分から一変、少し悲しくなりながら荷車に腰を下ろす。

そうしてゆっくりと荷車を浮かべ、帰りは少し遅めに街へと向けた。


「リュナドさん、鎧、ちょっと、外して貰って、良い?」

「ん? 鎧を? 良いけど・・・何するんだ?」


彼は私のお願いにすぐに答えて鎧を外し、中の服だけになった。

それを確認してから荷車を精霊に任せ、彼にギュッと抱き付く。

うん。やっぱり鎧が無い方が、彼の体温が伝わって心地良い。


「セ、セレス?」

「やっぱり、ちょっと、寂しくて・・・ごめん、なさい」

「・・・そっか」


失礼だと思う。弟子が居ない寂しさを、彼で誤魔化しているのは。

でも彼はそれを許してくれて、私の頭を優しく撫でてくれる。

彼の体温と、彼の匂いと、彼の優しさに、寂しさが紛れるのを感じた。


「・・・これで一応一件落着か・・・もう面倒が起きないと良いんだが」


そんな彼の呟きを聞きながらも、街に帰るまでずっと彼に抱き付いていた。

本当に彼は私に甘い。甘すぎてずっと傍に居て欲しくなる。大好き。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当に、森が、ある・・・」

「砂漠の中央に、不自然に森が有りますね・・・」


目の前の光景に呆然としながら呟き、連れがその言葉に応えた。

不自然に植物が育たない土地。いや、育たなかったはずの土地。

むしろ段々と砂漠が広がり、どうしようもない土地だと言われていたはずだ。


何処の国も見捨てておきながら、それでも他人に渡すのは嫌がった砂漠。

なのでこの辺りの土地の所有権はややこしい事になっていた。

ただ少し前にとある国が、この砂漠を正式に所有したいと行動を起こす。


最初こそどの国も渋ったものの、かなりの金が積まれた事で大半はその国の物になっている。

当然だろう。死んだ土地だ。旨味の無い土地だ。過去何人もが開墾を試み挫折した砂漠だ。

そんな場所が大金になると言われたら、たいていの国は気にせず売り渡すだろう。


何かやりたいのだろうが、どうせ失敗する。きっとそう判断して。

勿論その国が最近噂の国という事もあり、無碍にするのを躊躇われたのも理由だろう。

力を持つ国とは友好関係を築いておきたいのは、何時の時代の小国も同じ事だ。


その前に大きな魔獣が現れ、再来の危険も考えての放棄もあったらしい。

何処の国だって、魔獣被害を自国のせいにされたくはないし、被害に遭いたくも無い。

対処できる国が対処をするというのであれば、その上金も貰えるのであれば好都合だろう。



そうしてある日、突然森が出来たという。本当に突然、唐突に。



『キャー?』

「うわっ・・・こ、小人?」

「これが噂の精霊ではないでしょうか」


ぼーっと森を眺めていると、足元から声がして、びっくりして飛びのいてしまった。

コテンと首を傾げながら私を見つめ、キャーっと鳴く不思議な存在。

ここには精霊が居ると聞いていたけれど、話しに聞くより随分と可愛らしく見える。


噂では結構酷い目に遭った話を幾つも聞いたのだけど、こんな小さな存在に出来るのだろうか。

そんな風に思いながら恐る恐る近付いて、精霊らしき存在の前でしゃがんで見つめる。


『キャー』

「え、えっと、喋れないの、かな」

「精霊ですから、人間の言語能力などは必要無いのかもしれませんね」


確かに言われてみれば『精霊』が人間と同じ様に喋れる必要は無い気がする。

人間社会に溶け込む必要が無いのだし、言語という文化は不必要か。


『キャー!』

「え、あ、ご、ご、ごめん、なさい」

「・・・どうされたのですか?」

「え、いや、いま、ちゃんと喋れるもんって、怒られた、んだけど」

「・・・私にはただキャーと叫んだだけにしか聞こえませんでしたが」


私も耳に届いたのはキャーという声で、けれど頭はその内容を理解していた。

まるで直接頭の中に意志を叩き込まれた様な、不思議な感覚を覚えている。


「あ、そ、そうだ、これ、どう、かな」

『キャー?』

「えっと、干物なんだけど・・・保存食としては、割と美味しいよ」

『キャー!』


荷物から魚の干物を渡すと、精霊は嬉しそうに受け取って掲げた。

そして掲げながら踊り始め、その様子はとても可愛らしい。

食べ物を好むと聞いていたけど、これほど効果的とは思わなかった。


「その、ええと、森を見学したいんだけど・・・良いかな?」

『キャー』


まただ。今度は『良いよー、おいで―』と頭に伝わった。

取り敢えず敵対心を持たれないという点は、上手く行った様だ。

一つ上手く行ったことにホッと息を吐き、けれどまだ最初だと気合を入れ直す。


「砂漠が蘇った理由が解れば、いや、解らなくても、どうにかしないと・・・」

『キャー♪』


干物を美味しそうに食べながら先導する精霊に、呟きながら付いて行った。

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