第449話、ちゃんと意図が伝わっていると安堵する錬金術師
王様に挨拶に向かう必要があると、パックはそう言って私を避けてしまう。
それはつまり挨拶を終えた後であれば良いのだろうと、私も付いて行く事にした。
『『『『『キャー♪』』』』』
精霊達は相変わらず何も気にしていない。というかやけにご機嫌だね。
私はと言えばその反対に、少しだけ何時もの調子に戻っていた。だって人目が有るもん。
当然片手にはメイラの手が繋がれ、片方の手はリュナドさんの腕に絡まっている。
むしろリュナドさんには体ごと預けている。こうしていると人目があっても落ち着けるし。
さっき気が付いたんだけど、やけに人目を集めてたんだよね。びっくりした。
弟子達に会えたのが嬉し過ぎて、敵意の無い視線は感じ取れなかったっぽい。
勿論ただパックと触れ合いたいだけじゃなくて、私もお礼を告げたいという意図もある。
弟子がお世話になったんだ。それはきっと、私もお礼を言うべきだろう。
そう思い中年王子に付いて行っているのだけど・・・前とは道が違う様な?
「・・・謁見の間とは、違うんだね」
「ああ。私的な場の方が殿下にとっては良いかと思ってね。駄目だったかな?」
前に通された所が王様との謁見の間だったから、その違いに気が付いた独り言だった。
けれど王子はしっかり聞いていたらしく、私の成否を問うてくる。
とはいえ今のは完全にただの独り言で、自分自身に確認を取っただけに過ぎない。
「・・・駄目な事は、無い。パックの為なら、全然、構わない、から」
慌てたせいで一瞬言葉が出てこず、けれどパックを視界に入れたおかげでちゃんと返せた。
王子はあの子の為を考えてくれたと言った。それなら何にも悪い事なんかない。
そもそもただの確認でしかないし、むしろ私が気を遣わせて申し訳ない。
「それは良かった。君の機嫌を損ねるのは二度とごめんだからね」
すると王子はホッとした様子で応え、ただその返答に思わず首を傾げる。
彼が私の機嫌を損ねた事なんてあっただろうか。むしろお世話になっている自覚がある。
勿論彼が私に世話を焼くのは、お母さんの事が有るからだろう。それは間違いない。
私はそれに甘えている部分があるし、彼に悪い所なんて無いと思う。
「・・・私は、貴方に気を悪くした覚えは、無いよ」
「―――――そうか、感謝する」
あれ? 何故か感謝の言葉を告げられてしまった。おかしいな。
まあ良いか。悪く思ってないって事は伝わったみたいだし。
「それにしてもセレス殿は、精霊公との仲を以前より深めたようだな」
「―――――っ!」
王子の言葉に思わずピンと背筋が伸びる。だって、だって、そんなの嬉しいもん。
ちゃんとそう見えるんだ。王子の目からもそう見えるんだ。凄く嬉しい。
私の想いがちゃんと伝わっているんだ。もっと彼にちゃんと告げようという想いが。
「そう見えるなら、良かった・・・」
ギュッと彼の腕を抱きしめ、仮面越しで見えないと思うけど笑みを向ける。
今きっとだらしない笑顔だろうなぁ。でも嬉しいのだから仕方ない。
思わず彼に両手でギューッと抱き付きたくなったけど、片手が塞がっているので出来ない。
手を放せばできるけど、メイラの手を放すなんてとんでもない。
ああ、幸せだけど、幸せだけど辛い。両方やりたい。出来ればパックも抱きしめたい。
なんて考えている内に王様の部屋の前に付いたらしい。
部屋の前を兵士達が守っていて、王子の指示で扉が開かれる。
そうして部屋の奥の椅子に座っていて、どうも王妃様も居るらしい。
二人には師匠として、パックと一緒にちゃんとお礼を言わなきゃ。
そう思うと少し緊張してきたので、最後リュナドさんの腕をギュッと抱きしめた。
すると二人は少し驚いた様子で私を見た気がした。あ、あれ、何か、変な事したかな。
と、取り敢えずお礼を言わなきゃ。二人がお世話になったんだから。え、ええと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
セレスさんと手を繋ぎ、テクテクと歩いている。何故か当たり前のように。
いや、セレスさんが私と手をつなぐのも、くっつくのもいつもの事だ。
むしろ逃げるパック君を抱きしめるぐらい、セレスさんには当たり前の事だ。
ただ、思わずチラッと横を見ると、何時もと違う光景が有る。
「・・・ん-」
何かを言いたくなり、けれどそれが言語にならない。
明らかにセレスさんの様子が違うんだけど、それを指摘して良いのかも気になる。
だって、お師匠様が何だかやけに、女の人っぽい感じがするなんて、言えなくて。
元々セレスさんがリュナドさんを好きだという事は知っている。
むしろ当たり前の常識だ。精霊兵隊の人達なんて何を今更と言う話だ。
けどセレスさんは本人の前では余りそれを見せないし、公にも余り見せない。
なのに今はどうだろう。まるで恋人の様に、リュナドさんの腕を抱きしめている。
しかも人に見せつける様に。まるで知らない他人にも宣伝する様に。
今まで人前ではして来なかったのに、突然どうしたんだろう。
その疑問が大き過ぎて、抱えていた疑問を聞きそびれてしまっている。
『セレスさん、私達の事、助けに来てくれませんでしたか?』
役に立たなかった事を謝ったら、その事を聞きたいと思っていた。
けれどセレスさんは私の事をとても褒めてくれて、思わず泣いてしまった。
だから聞きそびれてしまい、そして今なお衝撃で聞けずじまいだ。
というかパック君も王子様も、聞いて良いのか様子を伺ってる気がする。私も気になる。
そんな変な緊張感を皆持ったまま、会話も無く歩き続ける。沈黙が重い。
『おっれいー、おっれいー♪』
『今日は何食べられるかなー?』
『王妃様何時もお菓子くれるもんねー』
『あれ、お礼って僕達がされるんだっけ?』
『・・・どっちだっけ?』
こんな状況でも精霊達は何時もの調子だ。正直今は凄く羨ましい。
そして気の抜ける会話が私しか解らないのがちょっと悔しい。返して緊張感。
重苦しいのもつらいんだけど、温度差が激しくて笑いそうになるの。
「・・・謁見の間とは、違うんだね」
なんて思っているとセレスさんがぽそりと呟き、その内容は予定外という意味だろうか。
本当は謁見の間で見せつけたかった。そういう事なのかもしれない。
ならこの態度はわざとで、意味がある事なのかな。セレスさんならそうなのかもしれない。
王子殿下も同じ事を思ったのか、すぐに反応して謝った。
ただ返答は『パック君の為なら問題無い』と、何処までも師匠としての言葉。
そして更にその関係を続ける対価なのか、王子殿下にも『気にするな』と告げたんだと思う。
アレはきっと、最初の事を言っているんだろう。私も彼に謝られた出来事を。
元々この国の貴族がセレスさんに迷惑をかけて、その対処の為にやって来た所もあった。
だから王子殿下は余計に気を使い、出来る限り負い目を払拭しようとしていたんだと思う。
けどセレスさんは今『私達は対等だ』って言ったんだ。もう気にするなって。
もしかしたらセレスさんが来たのは、王子殿下への感謝の為でもあったのかも。
てっきり私達を労いに来てくれただけかと思ってたけど、そこはやっぱりセレスさんだった。
ちゃんと色んな理由が有って、ならやっぱりリュナドさんとの様子も意味が有るんだ。
そう思いチラッと見上げるも、セレスさんは何時もの外出の様子になってて解らない。
リュナドさんに至ってはさっきからずっと真顔だ。思考してるのかも解らない。
だから余計に色々聞き難くて、なのに王子様は突っ込んで行った。
「そう見えるなら、良かった・・・」
そしてその返答は、何処までも幸せそうな、嬉しそうなセレスさんの言葉。
ただ何処かホッとした様にも、上手く行っているという確認にも聞こえた。
という事はやっぱり、見せつける目的だったって事なんだろうか。
ただ会話はそこで終わってしまい、セレスさんはそれ以上答える気が無いらしい。
目的は解らなかったけど、今後はずっとこの調子で見せつけるのかな。
もしかしてそろそろ結婚するのかもしれない。元々二人はそういう関係だし。
あ、でもそうなると、私どうしたら良いのかな。家を出た方が良いのかな。
新婚夫婦の家に他人の子供が住んでるって、あんまり良くないよね。
今度のその辺りパック君と相談しよう。セレスさんの邪魔したくないし。
何て今後の事を考えていると、王様の部屋に付いた。
するとセレスさんは更に見せつける様に、リュナドさんにギュッと抱き付く。
その様子に王様も王妃様も少し驚いていて、けれどセレスさんは気にしていない。
「・・・弟子の為に、手を貸してくれて、ありがとう」
そうして告げた言葉は、感謝の言葉。師匠としての言葉だった。ただとても低い声で。
王様相手でも何時も通りの『錬金術師』で、大丈夫なのかなと少し不安になる。
けどそれを聞いた王様達は、一瞬の間の後に大笑いをし始めた。
「くくっ、いやなに、気にするな。君の母への感謝に比べたら些細な事だ。それにそこまで仲睦まじい姿を見せられては、余計な事を言う気も失せる」
「ええ、ええ。とても仲が良くて、見てるだけで幸せになりそうだわ。それにお弟子さんも、手放したくないぐらい可愛がっているようですしね。ふふっ」
その言葉に、やっと私は納得がいった。パック君はもっと前に気が付いていたのかな。
王子殿下はセレスさんに近しい。そしてセレスさんは何処の国だって欲しいだろう。
けどどこの国にも行く気はない。リュナドさんの隣が自分の場所だと、見せつけてるんだ。
その上で『弟子達も渡さない』という意思表示をしつつ、表面上は礼を述べた。
これで私が変な勧誘を受ける事は無い。だってセレスさんの機嫌を損ねたくないから。
少なくともこの場で下手な事は言わないと思う。勿論パック君に対しても。
何よりパック君に良くしてやってくれと、言外に頼んでいる形にもなるのかな?
多分、そんな所じゃないかな。パック君に聞かないと正解は解らないけど。
セレスさんを目指すなら、こういう所も気が付かないといけないんだろうなぁ。
ちゃんと頑張ったって言われたけど、やっぱり落ち込んじゃう。お師匠様が偉大過ぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます