第432話、親友に対策を報告する錬金術師
「―――――て事があったんだ」
『『『『『キャー♪』』』』』
「・・・成程ねぇ」
私の説明を聞き、少し思案しながら頷くライナ。何の説明かと言えば、ここ最近の事だ。
とはいえ砂漠の事や、リュナドさんが良く泊まるようになった事は元から伝えている。
なので新しく伝えた事と言えば、当然アスバちゃんと弟子達の事。
ただし精霊達が鳴いている言葉に説明があったのかは、私にはさっぱり解らない。
食事をしているので単に美味しいって鳴いただけの可能性も有る。
もうこの街にパックは居ない。今日の朝見送り、当然メイラもアスバちゃんも出発した。
付いて行きたい気持ちにかられながら、けれどぐっと我慢して見送った。
だって寂しいんだもん。今日から暫く二人とも家に居ないんだよ。とても寂しい。
リュナドさんが泊まりに来る日は有るけど、それだって毎日って訳じゃないし。
家精霊と山精霊が居るけど、だからといって二人の居ない寂しさに嘘は付けない。
何よりも、心配だ。怪我をしないか、とても。
「それで、リュナドさんの提案に乗った事が不安、って訳ね」
「・・・う、その、えっと・・・リュナドさんの事、悪く言うつもりは、無くてね?」
あの時リュナドさんが、私の余計な行動を許してくれた。協力してくれた。
その事はとても感謝しているし、その時は彼の行動だから問題無いと思っていた。
けれどやっぱり余計な事は余計な事だ。ライナに会いに来ると、その不安がまた生まれた。
彼女は優しいけれど厳しくて、そして何時でも私を正しい方向へ導いてくれた人。
お母さんや彼女の真似をして、頑張って師匠をしているつもり、だった。
けれど今回彼女に何の相談も無く行動をして、もしかして失敗だったかなって。
怒られるかなと不安になり、指を胸元でいじりながら上目遣いで様子を伺う。
「・・・まず最初に言っておくけど、怒る気なんて無いわよ?」
「そ、そう、なの? 私余計な事、したよ?」
「その辺り少し難しい所かもしれないけど・・・少なくとも私はセレスの行動を責める気なんて無いわよ。何も悪くなんて無いし、師匠としても、家族としても、心配は当たり前でしょ?」
「そ、そっか・・・当たり前か・・・よかったぁ・・・」
『『『『『キャ~』』』』』
ライナの言葉にホッと息を吐き、改めてリュナドさんに感謝をする。
きっと彼も同じ様に考えていたから、私を助けてくれたんじゃないだろうか。
余計な事だと解っていても、それは咎められる事ではないと。
そして何故か精霊達もホッと息を吐く。本当に何故だろう。
「確かに本人達がやる気になって、本人達の意志で出かけて行ったなら、あんまり余計な事はしない方が本人の成長に繋がるのかもしれない。けど世の中には万が一があるわ。そんな万が一に備えておく事は、何も悪い事ではないと思うの。セレスがやった事はそれでしょ?」
「えと・・・うん、その、一応、そうなってる、ね」
自信をもってウンと言えないのは、これはリュナドさんの提案だからだ。
私は彼の協力を得た際、てっきり道具の受け渡しをしてくれると思っていた。
それらを持っていく用意とか、そういう感じの協力だと。
けれど実際は何も告げず、基本的には手を出さず、万が一に備えて準備をしておくという事に。
なのでパックの見送りの時、隠している事がバレないか不安になりながら見送った。
焦りで挙動不審だったから疑われてるかも。いやそもそもちゃんと見送れなくて悲しい。
一応最後にギューッと抱きしめたので、それだけは満足できたけれど。
パックは抱きしめようとすると逃げるからなぁ。もっと抱きしめさせて欲しい。
「まあ、その形を提案したのがリュナドさんだとしても、セレスの行動を間違いだとは思わないわよ。セレスにとって二人は未熟なんでしょ。なら心配になって手を出すのは普通じゃない?」
「あ、う、うん・・・」
ライナには全てお見通しだった。そうです。リュナドさんの考えです。
でも心配で手を出そうと思ったのは私で、ライナの言う通りあの子達は未熟だ。
勿論人間的にはきっと私よりも成熟していて、むしろ私の方が半人前にも程がある。
けれどあの子達は、錬金術師として、まだまだ未熟だ。
パックは大分色々と出来るようになったけど、まだ魔獣を倒して素材を収集できない。
勿論弱い個体なら何とかなるけど、そこそこ強めの個体になると大分損壊させる。
基本的に戦闘能力が低い。それは何かの拍子で大怪我をするという事でもある。
メイラは戦闘能力という点で言うと、実を言えば間違い無く私より強い。
黒塊を纏ってしまえば大概の魔獣なんて相手にならなくて、竜でも下手をしたら負けると思う。
それぐらい強いけど、ただあの子は多分、人の形をしたものを殺せない。
野盗の類を相手にした時、今ならあの子は震えながらも戦えるだろう。
けれどそれが逆に問題になる。ちゃんと黒塊を制御出来るから殺せない。
そしてその結果、あの子にとって不愉快な事になる可能性がある。
あの子は強くなった。けど震えながら耐える強さだ。限度を超えれば、どうなるか。
私の様に泣いて逃げるだけなら良い。もしそれで済まなければとは思ってしまう。
「ならセレスは間違ってないわ。きっとおばさんだって同じ事を言ってくれるわよ。だって思い出して。私やおばさんは、セレスがどうしようもない時は傍に居たでしょ?」
「あ・・・うん、そう、だね」
お母さんが「行って来い!」と家から追い出した時、失敗した時は助けてくれた。
私が人とのかかわりがどうしても出来なくて、困り果ててる時はライナが助けてくれた。
どうしようもなくなった時点で二人は傍に居てくれた。確かに、そうだ。
「無暗に助けるのは本人の為にならないから、そりゃあ出来る限り本人にやらせるわよ。けどそれで大失敗して、二度と出来なくなる様な事になったら元も子もないでしょ。今回に限って言うなら、その失敗は怪我に繋がる。万が一が在れば、大怪我じゃ済まない。そうでしょ」
「・・・そう、だね。二人は闘う準備をしていた。だから、多分、そういう事もあり得なくないんじゃないかなって、思ってる」
そこまで言って、ハッと大事な事を思い出した。私出かける理由まだ聞いてない!
いや二人が友達の為に出て行った事は解ってるけど、魔法使い姉弟の目的聞くの忘れてた!
後でリュナドさんに聞くつもりだったのに、その後色々あったせいで何も解ってないよ!?
「ど、どうしよう、そんなに危ないのかな、二人共・・・!」
「・・・え? どういう事? セレスは解ってて見送ったんでしょ?」
「あ、え、えっと、その、あのね、私、皆が出かける理由・・・その・・・聞いてなくて」
そこでライナは目を見開いて驚き、は~~~と凄まじく大きな溜息を吐いた。
あ、これは怒られるやつだ。怒鳴られないけど叱られるやつだ。泣きそう。
「セレス。貴方が話しを聞いてないのは良くある事だけど、大事な弟子の話でしょう。何でそこちゃんと聞いてないの。聞いた上で納得して送り出す所でしょう」
「う、ご、ごめん、なさい・・・」
「アスバちゃんが店に寄ってくれなかったのが痛いわね・・・事情を把握してなかったから私も詳しくは解らないし。でもまあ、一応リュナドさんから事情を聞いてるから予測は出来るけど」
流石ライナだ。私と違って、詳しく聞かずとも大体解るらしい。凄い。
「とはいえ・・・まあ、アスバちゃんとフルヴァドさんが向かった事を考えると、セレスは事情を知らずに見送って正解なのかもしれないわね。二人の性格的に、お師匠様が見送ってくれたから頑張ろう、って考えてるでしょうし。詳しく知ったら付いて行きそうだもの貴女」
「え、じゃ、じゃあ、知らない方が良かった、のかな」
「・・・いえ、知っておいた方が絶対本当は良いんだけど、セレスの場合は・・・悩む所ね」
そうなんだ。ライナでも判断が付かない事、となると私には絶対無理だろう。
多分リュナドさんも悩んでいたんだ。だからあの時ずっと考えていたんだろう。
ただ私の不安を解消する為に、折衷案として手を貸してくれたんじゃないかな。
「じゃあ、私は、待ってるね。知らないままで。でも万が一の時は・・・手を出すね」
「・・・そうね。それで良いのかも、ね」
「ん、解った。ありがとう、ライナ」
ライナが肯定してくれたので、私は満足な気分で頷いた。やっぱりライナは頼りになる。
良かった。最後の最後に思いついた案は、本当に余計過ぎる事かと思っていたから。
これで安心だ。二人に何があっても、どうにか出来る。
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「じゃあね、ライナ。また明日も来るね」
「ん、じゃあね、セレス」
『『『『『キャー!』』』』』
手を振って絨毯で飛んで行くセレスを見送り、精霊達も手を振って見送る。
小さくなっていく彼女を見つめながら、先程の話を思い返していた。
セレスの不安を聞き、正直な所安心した。だって真っ当な感性の話だったから。
師匠として頑張って見送って、けれど不安で仕方ない。
そんなのは当たり前よね。大事な弟子で家族なら、危ない所に行くのが不安で当然。
それでもセレスは見送った。本人達が行きたいと望んだからと。
以前のセレスなら行かせないか、自分も付いて行ったと思う。
けれどそれをせずに本人達に任せ、成長を促す様にと行動した。
あのセレスがだ。実を言うとこの時点で感動で泣きそうな程だった。
なのに。なのによ。事情を全く把握してないって何。私の感動を返してほしい。
本当にセレスは相変らずセレスで、けれどセレスらしさが有るからこそ上手く行った。
二人は危険を承知で見送ってくれたと、多分そう思ってるでしょうねぇ・・・。
下手な事を言って乱入するよりは、アスバちゃんとフルヴァドさんに任せた方が良いわよね。
元々リュナドさんから多少の状況は聞いている。だからある程度の状況予測は付く。
となればセレスが一緒に向かったりしたら、むしろ邪魔になるかもしれない。
だって彼女は敵意には、殺意には、容赦なく殺意で返す人だから。
弟子二人が上手く止めてくれたら良いけど、むしろ二人が居るから問題かもしれない。
二人に殺意を向けた相手を、その場で皆殺しにしかねない危険がある。
最近のセレスは成長したからそんな事無いと思いたいけど、それこそ万が一が怖いのよね。
「・・・そんな事になれば、また変な悪評が付いちゃうし」
最近セレスの悪評は大分減っている。むしろ良い評価の方がかなり増えた。
生活の水準を上げ、不可能と思われた砂漠の復活を遂げ、周辺国に質の良い薬も売っている。
何よりも結界石のおかげで街道の安全性が増し、魔獣の心配が減っている事が一番大きい。
以前からその点は言われていたけれど、人の行き来が増えた今は尚の事良い評判だ。
なのに、折角そこまで盛り返したのに、他国に行って皆殺しにしましたとか笑えない。
これは黙っていよう。多分その方が良い。セレスには悪いけど解らないままでいて貰おう。
『ん、解った。ありがとう、ライナ』
ただ何の不安も疑いも無く、私の言葉に笑顔で頷いたセレスに少し罪悪感を覚えた。
けどきっとこれで良い。だってセレスの仕込みを聞いた以上、問題は無いはず。
全員にとって想定外の事が起きても、覆す事の出来る仕込みだと思う。
「後はリュナドさんと・・・山精霊達次第ね」
『『『『『キャー♪』』』』』
精霊達は『だいじょーぶ!』と胸を張るけど、むしろ私は貴方達が一番不安なのよ。
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