第429話、理解するのを諦めてピンチな錬金術師

気になって弟君にも質問したら、思ってたのと違う答えが返って来た。

王子として名乗り上げるのがやらないといけない事って、そんな事私に聞かれても。

そもそも弟君王子じゃなかったの? 王様の子供なんだよね? なら王子では?


何だか色々良く解らない。そもそも最初なんでこんな話してたんだっけ?

ああそうだ、アスバちゃんにちょっかいかけて来る国が、もう動けないって話してたんだった。

いやそれは解決してるんだっけか。ああもう何が何だか全く解らなくなって来た。


大体が私は完全に部外者なのに、何か質問する事自体間違いだったかも。

ああ駄目だ考えれば考える程邪魔してる気がして来た。今日何だか話が噛み合わな過ぎる。

皆に迷惑だと思われてないかな。解らないなら話の邪魔するなよって。うう。


アスバちゃんの怒りだけは解ったんだけどな。それ以外が上手く理解出来てない。


もう良いや。暫く大人しくしてよう。多分話したって役に立たないし。

そう思い菓子をもぐもぐ食べ、お茶をちまちま飲む事に専念する。

美味しい。菓子もお茶も美味しくてほんわかする。


混乱し尽くしていたけど、お茶と菓子のおかげで少し回復してきた。

因みに途中から全然話を聞いてなかったけど、どうにか話し合いは纏まったらしい。


あれ? 何故だろう、家精霊が死んだ目で私を見ている。私何かしたかな。

お菓子食べ過ぎたかな。そんなにいっぱいは食べてないつもりなんだけど。


『『『『『キャー♪』』』』』


山精霊達は何時も通りで安心するね。今日は私もこっち側だよ。

いやリュナドさんから見てみると、私も何時もこっち側なのかも。

大体迷惑かけてるし、何時も助けて貰ってばかりだし。


「じゃあ、そういう事で良いな。セレスは・・・何かあるか?」

「・・・ん、無いけど」

「そうか。なら、各自準備を。全員調ったら出発といこう」


話しが全部纏まった所で声をかけられ、けれど言う事は無いので頷いて返す。

だってそもそも話ちゃんと聞いてなかったし。そんな私に言える事なんて無い。

そんな風に思っていると、魔法使い姉弟が立ち上がって私に頭を下げた。


「ありがとうございます、セレスさん」

「ありがとうございます」

「・・・何が?」


え、なに、何か礼を言われる様な事したっけ。話聞いてなかったから何も解んない。

二人にお礼を言われる事なんて、何にも覚えが無いよ。片方なら兎も角。

私弟君とはほぼ関わりないもん。どんな子なのかも解ってないし。

だから首を傾げるしか出来ず、すると顔を上げた二人は苦笑を見せた。


「貴女がどう思っていても何を考えていても、それでも私は貴女に感謝しています。貴女が居なければ私はきっと力を抑えられなかった。魔法使いになれなかった。弟もどうなっていたか」

「俺も同じです。貴女と貴女の弟子に教えられました。そして貴女が居たから姉さんは助かった。感謝しています。この場を作りあげてくれて、本当にありがとうございました」


二人は首を傾げる私に礼の理由を語り、流石に成程と納得できた。

どうやら二人は別々の理由で礼を言っていたみたいだ。

少女の方は竜を紹介した事。弟君はこの場の会話を設けた事を。


とはいえどちらも見当違いだ。私は何もしていない。むしろ何も出来ていない。

少女の事は私が力になれないから竜に任せただけだもん。

弟君が助かったどうこうに関しても、助けたのはフルヴァドさんとアスバちゃんだよ?


それに弟君の言ってる事は尚更見当違いが過ぎる。だってよく考えて欲しい。

彼に教えを与えたのはアスバちゃんで、手合わせの経験としては弟子達だけの話だ。

私は何もしていないし、何も教えていない。大体この場は成り行きだったし。


そうだよ。私アスバちゃん帰って来て喜んでただけなんだよ。

なのに何故か突然良く解らない話になって、アスバちゃんが凄く怒りだして怖かった。

いや、怒ってる理由は解ってるんだけど、何で我が家でこんな話になったのだろうかと。


「・・・私は何もしてないし、礼を言われる様な事は・・・竜を紹介した事だけだよ。他の事は二人が自力で解決したか、アスバちゃんとフルヴァドさん、リュナドさん達のおかげだよ」

「はい。勿論解ってます。でも、それでも、ありがとうございました」

「ありがとうございました!」


だから考えのままに事実を告げたけど、それでも二人はお礼を再度口にした。

弟君は勢いと圧が強いから、ちょっとだけ圧されて背筋が伸びる。

アスバちゃんも圧が強いし似た者師弟なのかもしれない。


役に立ってないのは解ってるけど礼を言いたいって、言われてる事が全く解らないんだけど。

まあ、いいか。何かよく解らないけど、それでも礼が言いたいらしいし。


「貴女が話を聞いてくれてる。今はそれだけで安心できます」

「はい。頼りにしてます!」


え゛・・・ど、どうしよう。私さっき全く話聞いてなかったんだけど。

これ聞いてなかったとか言ったらどういう反応されるんだろう。

脂汗をだらだらと流しながら、思わず二人から顔をそむける。


その先に居るのはフルヴァドさん。わざとじゃなく偶々彼女がそこに居た。


「任せてくれ。私は私の仕事をして来るよ。二人の事も、出来る限り守ろう。とはいえ他国に出てしまうと、二人に守られる可能性の方が高いとは思うがね」


キリッとした顔で胸を叩く彼女に、二人は頼もしそうな表情を見せる。

私は二人の視線が逸れた事にホッとしつつ、じわっとリュナドさんの背後に隠れた。

罪悪感が凄い。どうしよう。後で彼に内容聞こうかな。このままは絶対不味いし。


今回の事は聞いても良く解らない事が多そうだけど、せめて聞くだけはしておこう・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあ大雑把な内訳は決まったな」


グインズがセレスに肯定の言葉を貰うと、リュナドがそんな事を言い出した。

暫くずっと黙ってたくせに、セレスの誘導が入ったからって張り切っちゃてまあ。

いや違うかしら。今回安全圏でのんびりできるから、後で文句言われない様にしてるだけね。


「決まったって何がよ。何にも決まって無いじゃないの」

「弟君・・・グインズ君が名乗りを上げるなら、当然フルヴァドさんと組む事になる。そして魔法使いの一族追うのは、イーリエとアスバだろ?」

「・・・まあそりゃそうでしょうけど、四人で国一つ何とかしろっての?」

「その為の聖女様と、救世主の王子殿下、だろ」


リュナドの言わんとする事は解る。つまり混乱する国で苦しんでいる民達を使えという事だ。

それは当然の事だろう。何せ自分たちの国の事だ。助かりたいなら自分で戦うしかない。

けれど追い詰められてる連中を動かすには、それなりの神輿が必要になる。


聖女。聖剣。それが認めた王子。上手く使えば確かに良い武器になるでしょうね。


「それだけじゃ少し弱いですね。その後を押し切る為にも、僕も行きましょう」

「パ、パックさん!? いやでも、貴方は・・・!」


唐突なパックの提案に、イーリエが驚いた顔を見せる。

いや、彼女だけじゃなく、皆驚いていた。

たった一人、黙々と菓子を食べて動じない師匠以外は。

パックはチラッとセレスを見て、問題無いと判断したように頷く。


「どうやら行って良い様ですから。先生の判断に間違いはありません」

「だ、大丈夫、なんですか、その、戦争とかになったり・・・」

「兵は連れて行きませんよ。この件に関しては行動を起こすのは全て貴女の弟君です。僕はただ彼が王だと説得力を持たせる為に行くだけですよ。ああ、もう一人物好きな王子殿下が居ましたので、彼も巻き込んでしまいましょう。これで二国の後ろ盾ができますね」

「む、無茶苦茶言ってる・・・」

「でも僕達は直接は何もしませんよ。こっそり薬を撒いたりは、するかもしれませんけど。グインズ王子について来る者には救いの手が差し伸べられれば、民衆はどう判断するでしょうね」

「く、黑い・・・」


この王子殿下、セレスの弟子になったせいで前よりたち悪くなってない?

まあグインズの役に立つみたいだし、私は別に構わないけど。


「じゃあ・・・私は、アスバさん達に、付いて行きますね」

『『『キャー♪』』』

「は? 何言ってんのアンタ。メイラは今回の件に全く関係無いでしょうが。大体付いて来てどうするってのよ。アンタ人殺せる訳? それだけの呪いを、優しく使う人間が」


正直な所、メイラが本気になったら多分私でもかなり不味い。

竜も下手したら殺されるんじゃないかしら。それぐらいあの呪いは危険だ。

黒塊単体なら大した事は無いんだけど、メイラが使うと一気に危険度が跳ねあがるもの。


戦闘能力だけなら、私やセレスに届く。けどこの娘はそれだけの力を常に抑えている。

それは恐怖とかもあるだろうし、嫌悪もあると思う。けど一番の理由は優しいからだわ。

でなきゃあんな凶悪な呪いを撒いて、誰も死んでないなんて事ある訳無いもの。


「でも、多分私が居た方が、その人達を見つけやすいと思います」

「ふーん、続けて」

「えと、その人達が行方をくらまして、また同じ事を繰り返そうとしてるなら・・・きっとある程度の距離まで行けば、私なら呪いが見えます。黒塊と精霊さんに力を借りて、最初から探すつもりで行けば、ある程度距離があっても何とかなると思います」

「なる、ほど・・・」


それは確かに、有用かもしれない。けどセレスがそんな事を許すかしら。

メイラに関しては割と過保護だものコイツ。男とはなるべく顔を合わさせないし。

街中への買い物を一緒に行くだけで、あの子は頑張ってるなんて言い出すのよ。


そう思いチラッと目を目向けると、セレスは変わらず黙々食べていた。

むしろ精霊達と一緒になって、こっちの会話など知った事ではないという様子だ。

いや、逆になにしてんのよアンタ。関係無いふりにも限度があるでしょうが。


「・・・まあアンタがそれで良いなら良いけど。私はセレスみたいに気遣わないわよ」

「はい。解ってます。大丈夫、です・・・!」


想像だけで震えておきながら大丈夫も何もないわよね。

そもそもアンタ、グインズ相手だって仮面無しじゃ話せないでしょうに。

まあ良いわ。足手纏いにはならないでしょうし。万が一があっても守れば良いでしょ。


「メイラさん・・・本当に、大丈夫?」

「はい。私は、頑張らないと、いけないですから。それにきっとこういう時の為に、セレスさんは私に訓練を課してくれたんだと思います。ちゃんと、今度こそ、戦えます」


今度こそ、ね。思ったより竜神の時の事を気にしてたみたいね。

まさかセレスの奴、これを上手く使って弟子の悩み解消しようって事?

はー、本当に幾つも重ねて都合よくやってくれちゃってまあ。腹立つわね。


「・・・殿下も提案してくれたし、あの王子殿下は容赦なく巻き込ませて貰うか。本人も今回の件は喜んで参加してた訳だし、断りはしないだろう。それと・・・」


その後も要所要所でリュナドが口を出し、話はスムーズに進んで行く。

誰がどう動くかその後も少し話し、大体の方向性は決まった。

上手く行くのか知らないけど、全部グインズが自分でやると決めた事。

ならどうなろうと最後までやり切りなさい。骨は拾ってあげるから。


「じゃあ、そういう事で良いな。セレスは・・・何かあるか?」

「・・・ん、無いけど」

「そうか。なら、各自準備を。全員調ったら出発といこう」


最後に恐る恐るセレスへ確認取ってんじゃないわよ。このヘタレ。

まあどうせこのヘタレも、何もしないとか言いながらまた何かするんでしょうけど。

じゃなきゃセレスがこんなに静かに黙ってる訳無いわよね。



全く、おせっかいな奴だわ、全員ね。

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