第420話、弟子の為に行動を起こす錬金術師
『キャー!』
「ん、なに・・・封筒?」
「手紙らしいですよ、セレスさん」
朝に井戸でメイラと一緒に顔を洗っていたら、山精霊が封筒を突き出して来た。
手紙らしいのでしゃがんで受け取ってから、礼を言って頭を撫でてあげる。
それだけで精霊は『キャー♪』っと嬉しそうに鳴いて走って行った。
あれ、もうちょっとで朝食なんだけど、あの子は要らないのかな。
大体朝方に来た時は、どの子も大抵食事に飛びつくんだけど。
「まあ良いか・・・これ誰からだろう」
「リュナドさんかパック君からでしょうか」
特にこれと言ってゴテゴテした印のような物は付いていない。
という事は貴族の類からではなく、ならメイラの言う通り二人からだろうか。
精霊が直接渡して来るなら大体どっちかだし、ミリザさんなら名前書いてるし。
「取り敢えず開けてみよっか」
精霊が直接持って来た以上私に危険は無いと思うし、実際無さそうに見える。
なら開ければ解るかと思い中を見ると、アスバちゃんからの手紙だった。
帰って来るのが少し遅くなる、という旨の事が書かれている。
最初は直ぐに帰ろうと思ったんだけどけど、もう少しだけ仕上げておきたいとか何とか。
仕上げるって。何の話なんだろう。何を仕上げるのかが書いてないんだけど。
アスバちゃんは時々こういう所があるから困る。
とはいえ私も説明不足で怒られるから、似た者同士って言えるのかも。
いや、私と似てるとか言ったら、アスバちゃんに失礼なんだけどさ。
「・・・帰って来るの、遅くなるのか」
早く帰って来ないかなー、と思っていただけに残念・・・ん、帰って来る?
手紙をもう一度よく読みなおし、確かに『帰るのが少し遅くなる』と書いている。
て事は帰っては来るんだ。そっか、やっと帰って来るんだ。嬉しいな。
遅くなるのは残念だけど、何時か帰って来ると思えばそこまで寂しくない。
「やっと何時もの生活が戻って来るね」
『キャー♪』
頭の上の山精霊を突きながら言うと、嬉しそうな鳴き声で応えてくれた。
でもこれはよく考えると、リュナドさんがちゃんと連絡してくれたからなのかな?
また後でお礼を言っておこう。最近また彼に甘えてばかりだから、何か返さないとなぁ。
最近良く遊びに来てくれるし、一緒に寝てると凄く心地良いし。
リュナドさんの傍って落ち着くんだよねー。くっついてると頭がぽやーってなる。
最近の私の元気は彼のおかげもある気がするんだ。勿論家精霊の力が一番なんだけど。
「弟さんも一緒でしょうから、イーリエさんが喜びますね」
「そうだね。あ、なら教えてあげた方が良くないかな。弟君もこの街に来るって」
「良いんですか? 伝えて良いなら教えてあげたいです。きっと喜ぶと思います」
「別に良いんじゃない、かな」
「解りました。ありがとうございます!」
メイラは嬉しそうに笑って礼を言うけど、私はちょっと首を傾げている。
伝える事に確認を取る必要も無かった気がするんだけどな。
弟君が来るってだけの話だし、別に内緒の話でもない。
まあ嬉しそうだしいっか。何か問題がある訳でもないし。
「あ、家精霊さん。ごめんね、すぐ行くね。セレスさん、朝食の準備出来たらしいです」
「ん、待たせてごめんね。ありがとう、家精霊」
朝食の準備が出来たけど戻って来ないので、迎えに来てくれたらしい。
家精霊の頭を撫でつつ家に戻り、何時も通り美味しい朝食を食べる。
そしていつも通り山精霊が群がって来て、泥団子片手の子は窓から投げ捨てられた。
流石に泥団子は仕方ない。それは私もちょっと勘弁してほしい。
土も食べれない訳じゃないけど、美味しい食事に土が混ざるのは嫌だ。
「土か・・・」
そういえば砂漠の土って、今どういう状態になってんだろう。
スライムの一件からこっち、私は一度も現場を見に行っていない。
リュナドさんは何度か行ってるらしいけど、彼には変化が良く解らないそうだ。
本当にあの砂漠が砂漠でなくなるのか、どうにも疑問で仕方ないと言っていた。
でも長年砂漠であり続けた場所である以上、そうそう簡単に変化は起きないと思う。
とはいえ砂漠でなくなった方がきっと良いんだろうなとも、彼は言っていた。
「ちょっと行ってこようかな・・・」
あれから結構日が経っている。多少変化はあるかも知れない。
それに変化が無ければ呪いがまだ残っている可能性も有る。
山精霊達は『多分大丈夫ー』という曖昧な返事だし、一度確認した方が良いかも。
「メイラ、今日はちょっと出かけて来るね」
「はい、解りました。何処に行くんですか?」
「砂漠の様子。ちょっと見に行こうかなって。本当に呪いが消えてるのかも確認したいし」
「あ・・・はい、すみません・・・私のせいで」
出かける理由を説明をすると、メイラは落ち込んでしまった。
一瞬なんで落ち込んだのかと固まり、けれどすぐに応えは出た。
呪いの原因はメイラだ。この子がちょっと頑張り過ぎた結果でそうなった。
当時ちゃんと納得してくれたと思ってたけど、まだ自分を責めているのか。
困ったな。本当に気にしなくていいのに。謝る必要なんて無いんだけどな。
「その、メイラは自分のやれる事を、精いっぱい頑張ったんだから、もう気にしなくて良いと思うよ。悪いのは別にメイラじゃないんだし、リュナドさんもそう言ってたんでしょ?」
「それは・・・はい」
あの後メイラは改めて、リュナドさんにも謝りに行ったらしい。
私が傍に居ると甘えるからと、一人で領主館に向かって一対一で謝って来たと聞いた。
かなり怖かっただろうし、凄く頑張って来たんだと思う。だからもう良いと思うんだ。
『メイラは時々真面目過ぎるな。師匠と同じになられたら困るが、少し心配だ』
なんて、リュナドさんも言っていたし。そして私は少しショックだったけど。
やっぱり困るよね、私と同じ様になられたら。色々解ってないもんなぁ。
そんな私程周りが見えてないのは困るけど、メイラは少し自分を責めすぎな気がするんだ。
私も自分の未熟は良くないと思うし、自分で自分の事を駄目だなって思う事は多々ある。
でも謝って許して貰えたら、反省はしてもそれ以上は気にしない。
けれどこの子は許して貰った後も、何度も思い出して「ごめんなさい」と暗くなる。
きっと優しい子だからなんだと思う。私なんかよりもずっとずっと優しい子。
人の考えや気持ちが良く解らない私より、人の考えを察せられるからこそ落ち込むんだ。
そんな事を以前ライナが言っていて、私も凄く納得した覚えがある。
『そういう子はね、気にするな、って言った所で気にするのよ。勿論気にするなと言わない方が良い訳じゃないけど・・・気にしなくて良い状況にしてあげるしかないのよ』
そうライナに言われた時は「そうなんだ」ぐらいの気持ちで聞いていた。
けれど今がその「してあげるしかない」状況なのだろう。
いや、多分今までも何度かあったけど、私が気が付いてないだけな気がする。
なら、気が付いたなら、行動すれば良い。珍しく気が付いたのだから師匠をやるべきだ。
ライナの言葉は何時も私を助けてくれる。何時も私に大事な事を教えてくれる。
「メイラ、今日は一緒に行こうか。仕事も全部一旦措いておこう」
「え、は、はい、解りました・・・」
砂漠の呪いが気になるなら、呪いが無くなりさえすれば何も気にしなくて良いよね。
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『ここつまんないー・・・早く交代したーい・・・』
『もぐもぐ・・・ぺっ、やっぱり美味しくないー、ここの石まずいー』
『お菓子たべたーい! 駄目なら美味しい石たべたーい! 砂ばっかりー!!』
砂の上をゴロゴロ転がりながら、交代の僕を待つ僕。
もしかしたら美味しい石は無いかと、けれどやっぱり美味しくなくてやさぐれる僕。
美味しい物を暫く食べていないせいで、八つ当たり気味に砂をかき分ける僕。
そして僕は何もやる気が無くてぼーっと座っている。だってやる事無いもん。
見渡す限り砂、砂、砂、砂、時々石、砂、砂・・・なーんにも無い。魔獣も居ない。
何にも無いからこそ練習場所に選んだけど、今は何にもなさ過ぎてつまんなーい。
それにここに居るとちょっと疲れる。草木が無いと僕達少し脱力するみたい。
交代して山に向かうと元気が戻るから、多分合ってると思う。
ちょっと居るだけなら良いんだけど、ずーっといると段々ボーっとして来るんだよね。
ぎゅーってなる練習してる時は大丈夫だったんだけどなー。何でだろー。
『主のお願いじゃなかったらなー・・・でもお願いされちゃったもんねー・・・』
『リュナドとパックにもお願いされちゃったしねー・・・』
『メイラが泣きそうだったから、僕頑張るー・・・』
僕と同じ様に脱力組は、元気な僕を見ながらそう呟いていた。
そう、お願いされちゃったから仕方ない。最初はメイラが泣きそうだったからだけど。
リュナドが困ってるのは、まあ良いかなって思うけど、メイラが泣くのは駄目。
だから広がり過ぎて消すのが大変そうな呪いを、僕達皆でどうにかしようとしてみた。
そしたら暫く様子を見ていて欲しいって言われて、最初は嬉しかったんだけどなー。
主に頼られて、お願いされて、やっぱり僕達役に立つよね! って。
『でも疲れるー・・・段々体だるーい・・・』
リュナドが来ると不思議と元気になるんだけど、居ないとまた疲れて来る。
何時になったら僕達ここから離れて良いのかなー。
はっ、そういえば何時離れて良いのか、主に聞いてなかった!
『・・・ん? この気配・・・主だ!』
『え? あ、ほんとだ! 主が来る! わーい!』
『メイラも一緒だ! 主、主ー!』
主の気配を感じ、倒れていた僕もガバッと起き上がった。
皆で手を振って主を迎えて、降りて来る二人に突撃して行く。
『主ー、僕達頑張ってるよー! 偉い? ねえ偉い!?』
『ここ何にもないから退屈ー。でも僕我慢してるよ!』
『メイラー、もう泣いてないー? 大丈夫ー?』
『あれ、パックはー? 今日は一緒じゃないのー?』
「ん、精霊達、ご苦労様。頑張ってくれてありがとう」
「精霊さんありがとう。大丈夫だよ。パック君は別のお仕事で今日は居ないんだ」
主は僕達を褒めて撫でてくれて、メイラも僕達を撫でてくれた。
けどメイラは少し顔を上げると、砂漠を見てちょっと悲しそうな顔をする。
その顔を見てると僕も泣きたくなる。メイラが嫌な気分だと僕も嫌な気分になる。
呪いが消えてないからかな。でもちょっと難しいんだ。ここって死んでるから。
この場所に力が無くなってるから、呪いの方が付きやすい。
それを無理やり僕達が剥がそうとしてるから、僕達疲れて上手く行かないんだと思う。
でも多分大丈夫なんだよ。もうちょっと頑張れば。うん、多分。多分消える。きっと。
「呪い、消え切ってませんね・・・」
「・・・そっか。土もいまいち変化が無いね。長年の疲労を回復するにはまだまだ日数が足りないのか・・・あれから降った雨も少ないし、厳しいのかな」
「呪いのせいで回復してない、とか、可能性は有りませんか?」
「ん、有るとは、思う、かな・・・やっぱり、きになる、よね?」
「・・・はい、すみません」
メイラ泣きそう! 泣いてないけど、涙は流れてないけど、胸がギュッてなってる!
僕達がオロオロしながら心配していると、主が僕達の前にしゃがみ込んだ。
「ねえ山精霊達。出来なかったら出来ないで構わないんだけど、あの山にあった様な岩って作れるかな。城に使った様なのじゃなくて、植物の成長を促すやつ。この辺りの呪いも抑えて、土地の回復を促せるようには・・・無理かな?」
―――――――出来ない。
『出来るよ!』
『やるよー!』
『任せてー!』
『よーし、僕達集まれー!』
一瞬頭によぎったものなんて無視して、僕達は全員で主に応える。
主が僕達に望んだ。頼った。願った。なら出来ない事なんて何も無い。
今の僕達は主が居るから僕達なんだ。だったら主の願いを叶えない訳が無い!
『『『『『『『『『『いくぞー!』』』』』』』』』』
砂漠に居る僕がワラワラと集まり、一つになって大きくなっていく。
でも足りない。まだ足りない。もっと、もっとだ。もっと要る。
『ヴァアアアアアアアア!』
変化の途中で大声を上げて、僕達へと呼びかける。
言葉なんて要らない。声をかければきっと僕達はみんな解る。
だから精いっぱい声を張り上げて僕を呼ぶ。そして呼ばれた僕達がやって来る。
『入るぞー!』
『まだいけるー?』
『いけるいける!』
『えいっ! あ、詰まった。入れないー。誰か押してー』
『もーしょうがないなー。いくよー。えいっ! あ、飛び出ちゃった』
『何してるのー! 早くちゃんとぎゅーってしてよー!』
あーでもないこーでもないと騒ぎながら、ギューギューと僕を詰めていく。
いっぱいいっぱいになって、グーンって大きくなっていく。
それでも足りない。まだ足りない。もう詰められない気がするけどまだ駄目だ。
――――でも、やろう。
僕は、僕だ。僕になれたのは、僕が付いて行こうと思ったからだ。
主の頭の上に居る僕。全てはあの僕が主を仰いで、そうして僕達の主が出来た。
美味しい物をいっぱいくれる。楽しい事をいっぱいくれる。大好きな主。
『いいよね?』
だから、良いんだ。ちょっとぐらい僕が減ったって。僕は嫌じゃない。
僕が僕になれたのは主のおかげだから、だから僕は主の役に立つんだ。
『ヴァアアアアアアアアアア!!』
力を籠める。手の中に一杯力を籠める。この土地が蘇るだけの力を。
―――――出来ないよ、そんな事。
知ってる。解ってる。良く解んないけど、ほんとは出来ない事はなんでか解る。
―――――沢山消えちゃうよ、僕達。
そうだね。消えちゃうね。だって無理してるもん。無茶してるもん。
―――――でも、良いか。
うん、良いよね。主の為だもん。主の為ならそれで良いって決めたもん。
なら構わない。僕は嬉しい。主が笑ってくれたら、メイラが笑ってくれたら、嬉しい。
だから出来るんだ。出来なくても出来るんだよ僕は。だって僕だもん!
『よーし、できたー♪』
力が抜ける。体が小さくなった気がする。魔力がかなり減っちゃった。
けど出来た。主の願う物が。呪いがなじむ様な死んだ土地を生き返らせる力が。
だから元気よく声を上げる。ちゃんと出来たよって主に伝える為に。
『うっめろー、うっめろー♪』
砂を掘り返して、大きな穴の中に岩を入れる。これで多分大丈夫!
フー、いい仕事した! やったね!
「え、す、凄い・・・呪いが、吹き飛んだ・・・なにこれ・・・」
「凄い魔力・・・でも、これは山の岩とも違う・・・それに、山精霊の大きさが・・・」
メイラと主が驚いているのを見ながら、僕達はキャーっと弾けて元に戻る。
そのまま砂漠に落ちて地面に突き刺さり、もだもだともがいて地上に出た。
僕は残ったみたい。でもやっぱり結構な僕が消えちゃった。
『『『『『『『『『『『よーし踊るぞー!』』』』』』』』』』
でも仕上げの踊りをしないと。皆で埋めた岩を囲って踊るんだー!
別にしてもしなくても関係無いけど、僕達うれしいから踊るんだよ?
その後メイラは物凄く喜んでくれて、いっぱいお礼を言って撫でてくれた。
主も喜んでくれて・・・けど主は少し悲しそうだった。
『主ー、僕達役に立たなかったー?』
「・・・ううん、凄く、役に立ったよ。でも今度からは、無茶な時は、ちゃんと無茶だって言ってね。君達を無くしてまでやりたい訳じゃないから・・・解った?」
『んー、解ったー!』
僕達が減った事に気が付いちゃったみたい。でも良いんだけどなー。主の為だし。
どうせすぐに増えるよ! 多分! 最近僕いっぱい増えてるし!
「・・・ごめんね。でも、本当にありがとう」
『どういたしましてー! えへへー』
でも最後はお礼を言ってくれて、いっぱい撫でてくれた。だから僕満足!
次の朝には岩の周りには森が出来て、池も出来た。ちょっとだけ過ごしやすくなったー。
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