第417話、砂漠に居た魔獣の説明をする錬金術師

成程。何で三人が居るのかと思ったら、砂漠に魔獣が現れたからだったんだ。

ただ魔獣が現れた連絡を貰ったけど、リュナドさんは休んでいる。

なので取り敢えず確認だけでもと、竜の背に乗ってやってきた。


そしてそのまま戦いに入り、途中で埒が明かないとメイラが本気になったらしい。

すると黒塊を解除する間もなく精霊と竜が暴れ出し、二人の壁になっていたと。


「・・・そっか、アレ、倒したんだ。確かにメイラと黒塊なら行けるかな」


砂漠に現れた魔獣の戦闘を聞く限り、私が予想していた魔獣と同じだろう。

あの魔獣を普通に倒そうとすると、そう簡単に倒す事は出来ない。

けれどメイラの規格外の呪いに蝕まれて、本来の機能を発揮できずに死んだろう。


「先生、そのご様子ですと、やはりこの砂漠に居た魔獣をご存じだったので?」

「・・・ん、そうだね。見るまでは断言出来なかったけど、聞く限り合ってたみたいだね」


あくまで予想は予想。現物を見て見ないと断言はできないし、今も本当は断言しちゃいけない。

だって死体を確認出来ていないから、間違い無く予想通りかは確認できないし。

でも9割がた間違ってはいないと思う。ほぼ正解って感じだろう。


「あれ、何だったんですか? 倒しても倒しても何度も何度も現れて、お二人は同じ魔獣だって言ってましたけど、私は未だに良く解ってない感じなんです。だってあんなに粉々に吹き飛ばしたり磨り潰したりしたのに、再生したって言われても・・・まさか精霊とかですか?」


魔法使いの少女は二人から生体の予想を聞いても、納得がいっていないらしい。

私も初めて見た時はアレをふざけた生き物だと思ったし、同じ気持ちなのだろう。

普通の生き物の基準で当てはめてしまうと、あの魔獣は明らかに異常だ。


だから気になる気持ちは解るし、知ってるなら教えて欲しいというのも解る。

解るんだけど、ちょっと勢いが強いのと、目力が強くてちょっと怖い。

もうちょっと、もうちょっとだけ離れて、そっと横を向いて欲しい。

そう思いつつ私が視線を逸らし、視界に竜の姿が入った。


「・・・竜は、アレの事、知ってるんだよね?」

「経験則で予想は付いている。それにアレは少々特殊な魔力の揺らぎがある。注意して観察していれば、おのずと答えは出て来るだろう。と思ったのだが、まだ我が弟子は未熟だった様だ」

「す、すみません・・・」


どうやら竜は、魔法使いの少女が魔獣の正体を見破る事を期待していたらしい。

けれど最後まで解らなかった彼女は、しょぼんとした様子で竜に謝る。

そこで視線が逸れたので、少しだけホッとしていると、メイラが首を傾げた。


「魔力の揺らぎ・・・ねえ精霊さん達は、アレの正体気が付いてなかったの?」

『キャー?』『キャー』『キャー!』『キャー、キャー!』『キャ~』


メイラが精霊達に訊ねると、それぞれ様々な反応をしめる。

首を傾げたり、周りに訊ねたり、普通に応えて返していたり。

暫くその様子を見つめていると、途中でメイラが脱力した様に砂漠に膝を突いた。


「えぇ・・・じゃあ途中で教えてよぉ」

『『『キャー・・・』』』


どうやら精霊達はあの魔獣がおかしい、という事には気が付いていたらしい。

けどそれらしい会話が無かったから、解ってないと思っていたのかな。

何時も一緒の三体は、気まずそうに鳴きながら目を逸らしている。


『全く、やはり精霊など我が娘の役に立たんな』

『『『キャー!?』』』


そこで黒塊が勝ち誇ったように口を出し、精霊達が「なにをー!?」とばかりに怒った。

ただその黒塊に対し、メイラは半眼で訊ねる。


「黒塊は気が付いてたの?」

『無論だ』

「・・・精霊さん達、コレ殴って良いよ」

『『『『『キャー!』』』』』

『ぐふっ!? 貴様等、久々に本気で殴ったな!? それに娘よ何故だ!?』


・・・いや、なぜだも何も、今のは私でも解るかなぁ。

だって今の流れだと、気が付いてたなら言ってよって事で、黒塊も言ってなかったんだよね?

何で勝ち誇ったのか良く解らない。何時もの事だけど相変わらずちょっとずれている。


「ええと、話が逸れそうなんだが・・・結局その化け物は何だったんだ、セレス」


あ、しまった。意識を逸らすのを優先して、その話を忘れてしまっていた。

リュナドさんのおかげで思い出したけど、少女の視線も戻って来たから振出しに戻った。

仕方ない。我慢しよう。きっと気になるんだ。うん、仕方ない。よし・・・!


「・・・間違ってなければ、砂漠に居た魔獣はスライム、だよ」

「「「「は?」」」」


結論を言うと、四人は怪訝な顔を私に返した。メイラとパックまでだ。

とはいえそれが普通なんだろうな。流石にこれは私もその顔の気持ちが解る。


「先生、スライムって・・・教えて貰ったあのスライムの事で合ってますか? 液体みたいな、生物と言って良いのかも悩む様な生物って言っていた・・・」

「水場とかに生息してる生き物じゃありませんでしたっけ、あれって・・・それにあれ、どう見てもしっかりした形でしたよ。明らかに虫の形してましたし」


まだ実物を見せた事は無いけれど、その存在をパックとメイラには教えている。

だから教えられた知識と照らし合わせ、けれど全く該当しない事に困惑している様だ。

ただ二人に教えたのは、典型的なスライムの生態だけだ。特殊個体は教えていない。


「・・・普通はそうだね。けど偶に形を変えるのが出て来るんだ。前に教えた時に、水さえあれば環境に適応する能力が高い、とも教えたでしょ。生き易い様に変化する事も有るとも」


そう告げてから、現物を見ていない以上憶測ではあるけれど、私は説明を続ける。


先ずその魔獣の再生能力。これに関しては簡単だ。だって元が固形や単体ではないのだから。

あの魔獣は粉々にしようとも磨り潰そうとも、幾らか集まれば復活する。

倒れた後に地中に潜り、体を集めて元に戻して地上に出て来るのを繰り返していたんだと。


「で、でも、感触は堅かったですよ。触った感じは完全に甲殻でした」


それでもメイラが納得いかないのか、魔獣を相手にした感触を告げる。

ただそれを聞いた私は、砂漠を軽く見渡した。砂漠には何も残っていない。


「・・・それだけ巨大な魔獣の甲殻が、たとえ砂漠としても、何で何処にも落ちてないのかな」

「え? あっ!」

「・・・確かに。長期戦闘だったし砂が何度も大きく舞って埋もれていましたが、だとしても欠片も無いのはおかしい。色々不可解な事が多過ぎて見落としていました」


私の質問でメイラは気が付き、パックも納得した様だ。

魔法使いの少女も驚いた顔で見渡し、リュナドさんは不思議そうに首を傾げている。


「聞いてた感じ、かなり大規模な戦闘だったんだろ? それこそ精霊は走り回ってたみたいだし、踏んで粉々とかになってたら砂に埋もれてたりしないのか?」

「・・・その可能性も無いとは言えないけど、戦闘の規模や魔獣の大きさを考えると、地上に何も残ってないのは不自然過ぎるかな。空から見た時も、何処にも残骸が見えなかったし」


地上に降りる前に軽く周囲は見渡している。けれど何処にも何も残っていない。

流石にそれだけの戦闘があったなら、普通は絶対欠片は残骸が有るはずだ。


「・・・ただ虫の形を取った理由は解らない。その魔獣にとって、過去一番強かった外敵が虫だったのかもしれない。けれど魔獣の正体はスライムだから、どれだけ斬撃打撃を与えて粉々に吹き飛ばしても、地面に落ちて地中で再生するからほぼ無意味。完全にとは言わないけど」


魔獣を倒す度に、体液が溢れる様に零れ落ちていたと聞いた。

それこそが本体であり、外殻は変化させていたにすぎない。

虫の形を取って、虫のように動き、だけれど正体は液体の様な物。


いや、その外殻も本体ではある。だから外殻も暫くすると液体に戻って地中に潜る。

そうしてまた集まって再生して、虫の魔獣が再生したかのように表れた。

多分それがこの砂漠で起きた事の内容だ。パックが同じ魔獣だと気が付いたのは賢いと思う。


「で、でもここ、砂漠ですよ? 普通は水辺に居るって、セレスさんは教えてくれましたよ?」

「・・・うん、水を、吸い上げていたんだろうね。いっぱい、いっぱい。それこそ草木が育たなくなる程に、いっぱいに、ずっと長い事。だから、この砂漠には水がほぼ残らない」


前にここの土を使った時、やけに水気が足りないと思った。

おそらくずっと吸い上げて来たのだろう。この周囲の水を長い事。


「っ、この砂漠が広がっていたのは、あの魔獣が原因という事ですか、先生」

「・・・多分、そうだと、思うよ。運良く長く生きた事で、地中に居る様な魔獣もアレに勝てなくなった。だからただひたすらに水を吸い上げ、この砂漠が出来たんだと思う」


以前似た様な事が起きた所があった。そこでも似た様にスライムの魔獣が居た。

最初は原因がそれだとは気が付かなかったけど、調べている内にそうだと解った。

でもあの時お母さんは最初から解ってたんだよね。教えてくれても良かったと思う。


「・・・魔獣を全部倒したのかは解らないけど、もし全部倒しているなら、おそらく今後砂漠が広がる事は無いと思う。とはいえ様子を見て、色々調べてみないと断言はできないけど」

「それは・・・一大事ですね、精霊公殿・・・!」

「まじか・・・まじかぁ・・・」


私がそこまで説明すると、何故かパックが『精霊公』と呼んだ。

すると彼は頭を抱えてしまい、それどころか蹲ってしまった。

ど、どうしたんだろう、な、何か問題、あったかな・・・。


「・・・そういえば、その魔獣、何で地上に出て来たのかな。地中で大人しくしてれば、やられる事も無く、安全に今まで通り生きていられただろうに」

『『『『『キャー♪』』』』』


ただそこでふと違和感を覚えて口にすると、精霊達が答えを口にした。

砂漠で色々頑張っていたら、地面に変なのが居る事に気が付いたと。

何だか気になったから殴ってみたら、急に集まってかかって来たらしい。


「・・・つまり、山精霊が殴ったから、反撃してきた、って事だね」

『『『『『・・・キャー?』』』』』


そういう事になるの? って感じで顔を見合わせてるけど、そういう事だよ。

多分山精霊は地中に潜れる。そこで気になったから、魔獣の居る所まで潜ったんだろう。

強い魔力の塊に攻撃を受けたスライムは、急遽集まって反撃に出たに違いない。


しかも本来なら安全地帯で攻撃を受けたんだ。

絶対に排除しないと、また攻撃される。そう思ったんだ。

だからしつこく精霊に攻撃し、せめて追い払いたかったんだろう。


なのに精霊は何時までも戦い続け、そして最後は呪いに殺されてしまった。

そう考えるとちょっとだけ可哀そうだな。引き籠ってたのに攻撃された訳だし。


「成程、山精霊達が、地中の魔獣を、成程成程・・・!」

「マジかぁ・・・」


何故かパックはやけに楽しそうで、正反対にリュナドさんはテンションがだだ下がっていた。

心配なんだけど、何でそんな風なのかが解らなくて、下手に声をかけられない・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


うん、砂漠の事は、何か解ったら教えて欲しいと、前に言ったのは俺だ。

間違い無く言ったと思う。だからきっと悪いのは俺なのかもしれない。

けどこれは無いだろ。いや砂漠化の原因が解ったのは喜ばしい事なんだけどさ。


「・・・これが理由かぁ」


つまりここ最近、精霊達を砂漠にやっていたのは、この為だったって事だ。

まるで事情を知らないかのように訊ねていたが、セレスが予想していないはずがない。

暫くすれば確実に精霊は魔獣に手を出す。その確信があって放置していたんだろう。


そして結果として、砂漠化の原因は取り除かれ、何時かここに緑が戻るだろう。

となると困るのが、この砂漠の国境をどうするのか、って話だ。

砂漠化したから使えない。けど他国に取られるのは嫌だ。だから多少は自分の物に。


そんな訳の分からない判断から、この砂漠の国境はかなり曖昧だ。

だって本当は誰も欲しくねえもん。作物も育たない、水もない、何にも使えない。

そんな土地を欲しがる国なんて在る訳が無い。けど事情が変わった。


この土地が改善されるなら、どの国も確実に有効利用するに決まってる。

なら曖昧な国境線の事で争いになる。これは間違いなく断言出来る。


勿論今まで砂漠だったんだし、直ぐに土地が回復する事は無いだろう。

ならそれまでに国境の問題を解決しておく必要が有る。

それに殿下の様子から察するに、先んじて砂漠に手を出すつもりなんだろう。


というか、俺を巻き込む気なんだろうな。態々精霊公って呼ばれたし。

多分精霊を使って土地を回復させたりとか、そういう功績を俺に与える思惑だろう。

実際精霊が起こした結果なんだけど、色々と腑に落ちなさ過ぎる。


「セレスは、魔獣の事、全部知ってたん、だよな?」

「・・・さっき言ったけど、予測はしてただけで、確信は無かったよ」


やっぱりあくまで白を切るつもりらしい。精霊が勝手にやった事だと。

となればその責任は精霊公であるお前の物だと言われてる訳だ。

お前何でそんなに俺に手柄与えたがるの? もう要らないって。ホントに。


「そっか・・・」

「・・・うん」


けど説明を始めた頃から少し感じる不機嫌な気配に、何も返す事が出来なかった。

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