第416話、落ち着いて確認を取る錬金術師

実を言うと、警戒をしなければと思う反面、余り警戒の必要もないのではと思っていた。

だってあの竜は案外話が通じるし、何だかんだリュナドさんに懐いていた。

何よりアスバちゃんへのリベンジを胸に抱いている。だから大事ではないんじゃないかなと。


けれど目の前の光景に警戒を上げ、きちんと用意した物を持って来て良かったと思った。


『ヴァァアアアアアア!』

『グルアアアアアアア!』


山精霊と掴みあい、声を上げて押し合っている。

まさかあの竜は本当に敵に回る気なのだろうか。

一瞬そう思ったけれど、その近くに二人より小さな黒い巨人が立っていた。


アレはメイラだろう。何故メイラがここに居るんだろうか。領主館に居たんじゃ。

色々と疑問はあるけれど、一旦その疑問は措いておこう。今重要なのはそこじゃない。


黒巨人状態だから少し自信が無いけど、メイラは構えた様子が無い。

ただただ二人の様子を見守っている様な、特に警戒していない様な感じだ。

むしろ巻き込まれない様に避難している気がする。

全員大き過ぎて距離感が掴み難いけど、メイラは精霊と竜から結構離れている様だ。


「・・・確認が先、だよね。竜と、山精霊だし・・・」


となれば先制攻撃よりも、何故こんな事になっているのか確認の方が先だ。

今なら不意打ちは出来るけど、冷静に見るとただじゃれてるだけにも見える。

だって争ってるのが竜と山精霊だもん。とはいえ警戒は最大限にあげたままだけど。


最悪の万が一は一応頭に置いておいて、荷車の速度を少し上げて黒巨人に近付く。


『ア、セレス、サン・・・』


竜と精霊に取っ組み合いに巻き込まれない様に近付くと、黒巨人の目が私に向いた気がした。

実際は明確な目玉なんて無いから、ただそんな気配がしただけだけど。

響く声にはそれだけで凄い力が籠っていて、一瞬膝から力が抜けてカクンと落ちかけた。

ギリギリ足は踏ん張れたものの、荷車を上手く飛ばせずガクンと揺らしてしまう。


「うを!? だ、大丈夫かセレス!」

「・・・だい、じょうぶ。ごめん、揺らして」

「い、いや、俺は驚いただけだし・・・本当に大丈夫か、今ふらついただろ」

「ん、でも、本当に大丈夫、だから。ごめんね、心配かけて」


その際少しふらついた事に気が付かれたせいで、リュナドさんに心配をかけてしまった。

すると黒巨人から物凄く慌てた様子が見え、見る見る内に黒い物が溶ける様に小さくなる。

そこで初めて気が付いたのだけれど、黒巨人の背後に誰かが立っていた。


「アレは・・・」

「イーリエと殿下? 何であの二人まで・・・って良く考えたら当たり前か」


何であの二人がと、一瞬リュナドさんと同じ疑問を持ったけど、本当に一瞬だった。

どういう結論で当たり前になったのか解らないけど、あの二人はここに居て当然らしい。

なら何でここに居るのか、という疑問は措いておこう。彼が解ってるなら問題無い。


「えと・・・取り敢えず、三人の所まで降りるね?」

「ああ、解った」


リュナドさんに伝えてから荷車を降下させ、三人の傍に着地させる。


「ご、ごめんなさい、セレスさん! 大丈夫ですか!? 本当にごめんなさい!!」

「だ、大丈夫だよ、メイラ。ほら、ちゃんと立ってるから」


するとメイラが泣きそうな顔で走って来て、むしろ泣きながら謝って来た。

多分さっきの私に力を浴びせた事を謝っているんだろう。

とはいえ迂闊に近付いた私も悪いし、大事は無かったから泣かなくても良いのに。


「ご、ごめんなさい、私、気を抜いてて、セレスさんが大怪我してたら、私、私・・・!」

「め、メイラ、本当に大丈夫だから。そんなに謝らなくて良いから。ね?」

「・・・はい、ぐすっ、ごめん、なさい」

「うん、大丈夫。大丈夫だよ」


メイラの背中をポンポンと叩きながら、大丈夫と繰り返す。

正直に言うとちょっと危なかったけど、ちょっとで済ませられる程度だ。

折角黒塊の力を前より怖がらなくなったのに、私の迂闊でまた怖がらせたくはないし。


「それで、イーリエに殿下。アレは一体どういう事だ?」

「隊長・・・ええと、その・・・私には、良く解らなくて・・・」


メイラを慰めていると、リュナドさんが二人に事情を聞きに行った。

私も気になるし警戒はしてるんだけど、今はちょっと手が離せない。彼に任せておこう。

ただ問われたものの彼女は応えられない様で、けれどパックは平然と答えた。


「おそらくですが、山精霊が竜殿を挑発し、受けて立った感じかと」

「・・・は?」

「グルアアアアア!!」

『ヴァーーーー!?』


そこで山精霊が竜に押し飛ばされ、バーンと弾けてバラバラになって決着がついた様だった。

どうやら竜は何も悪くないみたいだ。なら何も問題無さそう。良かった良かった。

弾けた山精霊達は『キャー』と悲鳴を上げて落ちて行くけど、精霊だから多分大丈夫だろう。

押し飛ばされただけだし、高い所から落ちた程度じゃ死なないし。


「・・・殿下。お願いなので、一から、詳しく、説明を頼みます」

「そうですね、何処から話しましょうか・・・先ず―――――」


ただ詳細を聞きたいリュナドさんが訊ね、何があったのかパックの口から聞く事になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「きゃあああああああ!!」


突然強風に煽られて、竜の背中から吹き飛ばされた。

驚いて叫び声を上げてしまったけれど、頭の片隅に冷静な自分が居る。

この程度、命の危機でも何でもない。そう判断している自分が。


「っ!」


何時も通り。そう、何時もの通り、吹き飛ばされたなら先ずは身を守る。

追撃への防御と、激突の緩和。その為に全力で結界を展開する。


「イーリエさん!」


その途中で黒い塊から声が響いた。ゾクリとするような異様な力の塊。

触れちゃ駄目だ。アレに近付かれちゃ駄目だ。アレは恐ろしい物だ。

そう感じる黒い化け物から、メイラさんの声がする。


よく見ると黒い塊だと思った物は、その黒を纏うメイラさん。

彼女はどうやっているのか、凄まじい速さで私に近付いて来る。

きっと助けに来てくれているのだという理解と、アレに近付いて欲しくない恐怖。

その相反した感覚と理解に整理を付けられず、彼女を凝視して固まってしまう。


「こっのぉ!」


ただ彼女は私を通り過ぎて、私の後ろに黒を振りかざした。

そこではっと振り返ると、巨大な虫の魔獣が黒に抉り取られていた。

斬るでも、潰すでも、殴るでもない。空間を丸ごと削った様な一撃。

私を襲いに来た魔獣を倒してくれた感謝よりも、その攻撃の方に意識が向いてしまう。


「なに、あれ・・・!」


ただ者じゃないんだろうとは思っていた。だってあの錬金術師の弟子なのだから。

けれどこれは、こんなの、普通の人間の域を遥かに超えている。

一体あの黒い物は、彼女は一体何なの!?


「イーリエさん! もう一体そっちに!」

「ギギッ!」


けれど驚いている場合じゃないと、落ちて行く彼女の叱咤で魔獣の接近に気が付く。

訓練の時とは違う。明確な殺意と、動けなければ確実に死ぬ未来を感じた。

その瞬間、動けと意識するよりも、体が先に動いた。

迫って来た魔獣に対し、全力で飛んで回避しながら風の魔法をぶつける。


「っ、何、今の、手ごたえ・・・!?」


直撃した魔法は魔獣を吹き飛ばし、それどころか当たった部分を粉々に吹き飛ばした。

けれどそんなに力を込めたつもりは無かった。軌道を変える程度の間隔だった。

思っていた以上に魔獣が柔いんだろうか。なんて思っているとまた驚きの様子を目にする。


「また治った・・・!」


さっき精霊にやられた時の様に、千切れた部分同士がくっついた。

綺麗に斬れた訳でもないのに、もう千切れた所が解らない。

夜だから暗くて見難いせいだろうか。いいや、そうだとしても綺麗すぎる。

自分の魔法の威力と魔獣の状態に困惑していると、パックさんが絨毯で近付いて来た。


「イーリエ殿! 無事ですか!?」

『『キャー?』』


慌てるパックさんとは大違いに、ゆーるい感じで声をかけて来る精霊達。

そのせいで少しだけ気が抜けて、おかげで自分の状態を顧みれた。


「パックさん。ええ、ハイ、無事です・・・体が、勝手に動いてくれましたから」


そう、勝手に動いた。思考して魔法を使う事無く、自然に体が魔法を放った。

突然落とされた時は驚いたけれど、それでも冷静な自分が何処かに居た。

魔獣が眼前に迫ってきた時は、何の魔法を使うなんて思考も躊躇も無かった。


「・・・ああ、そっか、そうか・・・私・・・!」


ぐっと拳を握り込み、そしてその拳に魔力を集める。

もっと、もっとだ、もっと出来るはずだ。

さっき私はどう放った。どんなふうに魔力を集めた。

明らかに、何時もと、意識している時と感覚が違ったはずだ。


「・・・そうか、手応えがおかしかったんじゃない。今までが下手過ぎたんだ」


恐ろしかった。ずっと恐ろしかった。私が私でなくなるのが恐ろしくて堪らなかった。

だからだろう。私は私の中にある魔力を、自分で使えない様に抑えてしまっていた。

だってこれは私の魔力じゃないから。私の魔力じゃないと思ってしまっていたから。


けれど竜との訓練で、命の危機を感じる訓練で、そんな事はどうでも良いと感じたんだ。

私の意識よりも、体が生きようとしていた。だからそんな恐怖、もうどうでも良いんだ。

そうだ。どうでも良い。私の意思じゃないモノなんて、一切どうでも良い・・・!


「パックさん、下がっててください。でないと、危ないと思うので」

「・・・解りました。無理はしない様に」

「はい、そちらもお気をつけて」


パックさんは私から離れて、メイラさんの方へと向かって行く。

それを最後まで見届けず、起き上がって私に向き直る魔獣を見下ろした。

迫る魔獣に手を翳し、魔力を更に凝縮させる。


「―――――っ!」


吐き気がする。頭痛がする。自分じゃない魔力を使う事を意識すると怖気が走る。

けれどこれは私の力だ。私の意志だ。私が振るう私の魔法だ。

今度こそちゃんとあの魔法を使おう。家精霊に一切通じなかった、私の得意な魔法を!


「っ、切り刻めぇ!」


この魔獣の再生能力が高いのは良く解った。けれど細切れにしてしまえば関係無い。

そう思い放った魔法の一撃は、自分の想定を遥かに超えた竜巻を起こした。

パックさん達を巻き込まない様にはしたけれど、それでも巻き込みかねない広範囲魔法。


一体だけを狙ったつもりだったけれど、周囲に居た魔獣全てが切り刻まれる。

魔獣の体液が風の中で巻き上がり、外殻らしき物も細かく破片の様になっていく。


「そうだ、それで良い! 自分を抑えるな! それはお前の力だ! 何も恐れる事はない!!」

「っ、はい!」


ビリビリと響く大声に、聞こえていないかもしれないけれど応える。

何度も死ぬかと思った。それでも生きる為には超えないといけないと思った。

けれど違ったんだ。私が恐れていた事は、気が付くべきだったのは、別の恐怖。


そうだ、死の恐怖に比べたら、師が放つ恐怖に比べたら、お前達なんて怖くもなんともない。

何がカルアの悲願だ。何が完成された魔導士だ。そんな物クソくらえだ!


「私が、イーリエだ! カルアも、リガスも、知った事か! 私はイーリエだああああ!」


全力で叫びながら魔法を放つ。まだまだ魔力には余裕がある。

だってこの体には幾人もの魔導士の魔力が在るのだから。

けれどこれはもう私の力だ。誰にも渡さない。私は私だ!


「ああ、そうか、こんなに簡単な事だっんだ。もう、お前達なんて、怖くない・・・!」


自分で自分を磨く事を諦めた。上には上が居る事を認めなかった。

才能が確かに有る事は認めて、けれど努力をしなかった。

自分より恵まれた者を嫉妬した。自分が恵まれてない事を僻んだ。

だから、呪った。呪って、呪って、呪って―――――理想の魔導士を人の命で作った。


「何て、情けない・・・!」


こんな馬鹿な連中を、私はずっと怖がっていたのか。

自分の身一つを磨いて挑む。それが叶わなかった時に後継へ託す。

そんな単純な事すら出来なかった連中に。

膨大な力を使いこなそうと、使い方を考えようとしなかったような連中に!


『ヴァアアアアアア!』


風の魔法を消し、砂漠に落ちて行く外殻と体液を見届けていると、精霊の声が響いた。

引きちぎってもらちが明かないと思ったのか、抑え込んで叩き潰している。

しかも空中から腕が8本も生えて、それが全て魔獣を打ちつけていた。


「うわぁ・・・」


えぐい。人の事は言えないけれど、精霊の攻撃も中々ひどい。

八か所がぐちゃッと潰れ、それぞれの部位がビタンビタンと跳ねる。

けれど複数に分けられたせいで、大きな精霊に反撃は出来ない様だ。


精霊はそれらが繋がらない様に、それぞれ離して手で磨り潰して行く。

両手で挟んでぐちゃぐちゃと捏ねて、ぼたぼたと体液が砂漠に落ちていく。

やっぱりえぐい。一瞬で仕留めてないから魔獣が苦しんでいるのが解る。


「ギギィィィイイイイイイイ!」


けれどそんな光景すら可愛いと思えるものが、魔獣の鳴き声と共に視界に入った。

苦しむ様に空を仰ぐ魔獣が、下から黒く浸食されていく。

助けて、助けてと懇願する様な鳴き声。けれどその黒は一切を許さない。


そして黒が完全に魔獣を覆うと、次の瞬間弾けて消えた。

吹き飛んだんじゃない。消え去った。欠片も体液も一切残さず。

その光景に恐怖がこみあげて来て、思わず吐きかけた。


「あれ、多分、メイラさん、だよね・・・」


こんな事を考えるのは申し訳ないのだけど、あの人本当に人間だろうか。

今の一体何。どう考えても魔法じゃない。欠片も魔力を感じなかった。

嫌な感じだけは凄くしたけど、一体何なのかサッパリ解らない。


けれどこれで魔獣は全て倒せただろうか。

暗いからはっきり見えないけれど、もう動く魔獣は――――――。


「嘘でしょ・・・」


もう魔獣は居ない。そう思った次の瞬間、砂漠の土が盛り上がった。

また同じ魔獣が現れた。先と同じぐらいの大きさのが複数。

いや、少し小さい気がするけど、数はさっきとほぼ同じだけ居る。


『ヴァー・・・』


心なしか巨大精霊が「もうやだー」と言っている様に聞こえた。

もしかして精霊は、何度も何度も倒しては闘っていたのだろうか。

そうだとしたら今の嫌そうな様子は良く解る。


「余裕はある、けど・・・」


今まで限界まで魔力を使った事が無い。だから自分の限界が解らない。

それなりに持久戦は出来ると思うけど、魔力が尽きるまでに魔獣を全て倒せるだろうか。

少し不安になりつつも、けれど初めて自由に使える力で殲滅を繰り返す。

そう、繰り返したんだ。


「何体出て来るの、この魔獣・・・イーリエさん、大丈夫?」

「ま、魔力は余裕が有るんだけど、気分的に辛いです・・・」

『ヴァー・・・』


倒しても倒しても、殲滅するとまた地下から新手が現れる。

そんな光景にうんざりしつつ、現れた新手の魔獣に魔法を放つ。

正直魔獣自体は簡単に対処できる。でもとにかく数が多いし終わらない。

もう夜が明けてしまっていて、このままだと夜まで戦う羽目になるのではと思ってしまう。


「・・・メイラ様、現れる魔獣が少しずつ小さくなっていますよね」

「ええ。新手が現れる度に小さくなってます。これはもしかして・・・」

「はい。僕達はずっと同じ魔獣と戦っているのではないかと。どうやって再生しているのか全く解りませんし、再生しているのだとしても意味が解らない生態ですが、無敵ではない様です」

「・・・私が消し飛ばした分だけ、復活出来ていない、って感じでしょうか」

「減り方から察するに、おそらくは」


パックさんとメイラさんの会話を聞いて、驚きで声も出ない。

アレだけ粉々にして来たのに、それが全部治っていたって言うの?

何て魔獣だ。そんな化け物始めて聞いた。


「なら・・・手段は一つ、ですね。ちょっと、全力で、行きます。パック君はイーリエさんと一緒に、精霊さん達の後ろに隠れていて下さい。精霊さん達なら防げるので」

「解りました。ご武運を。行きましょう、イーリエ殿」

「え、あ、はい・・・」


何をするつもりだろうか。そんな疑問を返す暇なく、絨毯で巨大精霊の後ろへと運ばれる。

そして次の瞬間黒い巨人が現れ―――――――魔獣が逃げ出した。

さっきまで何があろうと向かって来た魔獣が、一目散に地中に逃げ始めた。


『ニガ、サナイ・・・!』


おどろおどろしい声が響き、心臓を握られたかのような恐怖を感じる。

それは魔獣も同じだったのか、全ての魔獣がピタリと動きを止めた。

けれど黒巨人は無慈悲にも全ての魔獣を掴み、黒く黒くその身を浸食して行く。


そして最後は黒が弾け、巨人の手には何も残らず消えて行った。

暫く魔獣が出て来るかそのまま待っていた様だけれど、どうやら次は無いらしい。


『ヴァアアアアアアアア!』


すると「やったぞー!」と言わんばかりに精霊が雄たけびを上げた。

物凄く煩い。近距離だったから耳にビリビリ来る。

ただそこに竜が降りて来て、ちょっと待てと口を挟んだ。


「今回の勝利者は錬金術師の弟子ではないか?」

『・・・ヴァー?』

「む、聞き捨てならんな。私は弟子がからくりに気が付くのを期待して、手を出さん様にしていただけだ。残念ながら無理だったようだがな。私はその気になればあの程度殲滅出来たぞ?」


うっ、痛い所を突かれてしまった。言われた通り、私は最終的に何も出来なかった。

竜は倒し方を知っているみたいだけど、どうやったら倒せたんだろう。


『ヴァー!』

「・・・ほう、良いだろう。力比べか。どれだけ変わったのか試してやろう」

『ヴァー・・・!』


え、な、なに、突然何だか剣呑な様子に、うわ、凄い音が鳴った。

手を掴み合っただけなのに、何かが爆発したかと思う音だった。


「イーリエ殿、避難します!」

「は、はい、お願いします」

『パック、クン、ワタシノ、ウシロ、カクレテ・・・』

「解りました!」


パックさんが急いで絨毯を飛ばし、黑い巨人の背後に隠れる。

近付くのすら怖い存在だと感じるけれど、今はそれよりも竜と精霊から離れるのが先決だった。


「・・・ありがとう、ございます・・・師匠」


ただ避難しながら竜を見ていると、自然とそんな言葉が漏れた。

私は、今日やっと私になれた。きっと全部、竜の師匠と・・・錬金術師さんのおかげだ。


そして、その後現れた錬金術師さんは、この状況に一切動じていなかった。

いや、メイラさんが泣きながら謝る事だけには慌てていたけど。

隊長は戸惑っているのに・・・やっぱり皆の言う通り、全部お見通しだったのかな・・・。

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