第412話、友人の疲れを心配する錬金術師
久々にリュナドさんと会えたのが嬉しくて、無意識に手を掴んで引いていた。
その事に気が付き、ちょっとはしゃぎ過ぎただろうかと思う。
でも実際会うのは久々だし嬉しいから良いか、と結論付けて家の中へ。
「お茶菓子は何にしようかな」
『『『『『キャー!』』』』』
「ん、良いけど・・・家精霊にちゃんと聞きなよ?」
『『『『『キャー♪』』』』』
山精霊達が『僕がとって来る!』というので任せ、私とリュナドさんはそのまま居間へ。
ただ居間に入ったは良いものの、どうしようかと立ち止まってしまった。
いや、座れば良いんだけどね。でもそうすると手を放す事になるなぁと。
隣に座る? でもそれだと顔を見て話し難いしなぁ。
折角広く使えるんだから、彼だってゆったり座りたいだろうし。
何時も通り正面居座る方が良いかな? でも横なら彼の近くだしそれも悪くない。
「セ、セレス、どうした?」
「あ、ごめんなさい、えっと、気にせず座って」
「あ、ああ・・・」
むぅと少し唸りながら悩んでいたせいか、リュナドさんが心配そうに訊ねて来た。
そこでちょっと正気に戻り、ぱっと手を放して彼を席に勧める。
嬉しいからってやっぱりはしゃぎ過ぎだ。優しい彼を困らせてどうするのか。
『『『『『キャー♪』』』』』
その間に山精霊達は山もりのお菓子を持って来て、テーブルに並べて行く。
ねえ、それ本当に許可貰ったの? 勝手に持ってきたりしてないよね?
明らかにお客さんに出す為じゃなくて、自分達が食べる為に持って来てるよね?
『『『『『キャー!』』』』』
ぺシペシと椅子を叩かれ、早く座ってと急かしてきた。
多分私達が座らないと食べられないからだろう。
「良いよ、食べても」
『『『『『キャー♪』』』』』
クスクスと笑いながら許可を出すと、精霊達はわーいと喜んで踊り出した。
一通り踊って満足すると、それぞれお菓子に手を伸ばし始める。
数が有るから取り合いにならず、なったとしても割れたのを食べて幸せそうだ。
これが数が少ないと争奪戦になって、途中で家精霊に外へ投げ捨てられる。
「菓子さえ食べさせてればご機嫌だよな、こいつらは」
「そうだね。解り易くて、私は付き合いやすいけど」
彼が少し呆れたように口にしたのを、ふふっと笑いながら応える。
そうして彼が席に座るのを見ながら、私も彼の隣に座った。
「・・・ん?」
「ん、何? リュナドさん」
「え、いや・・・なんでも、無いです」
「? そう?」
何故か彼が不思議そうな顔をして首を傾げたので、同じように首を傾げ返した。
私はおかしな事をしただろうか。何でもないって言ってるから気にしなくて良いのかな?
なんてまだ少し首を傾げていると、家精霊がお茶を持って来た。
私達を見てとてもいい笑顔を見せ、テーブルにお茶を並べてくれる。
そして精霊達が持って来た物とは別のお菓子も並べられた。
「ありがと、家精霊」
「ありがとう。頂くよ」
私とリュナドさんが礼を口にすると、心から嬉しそうに笑う家精霊。
そして私達の為に出したお菓子に近付く山精霊を掴んで、窓から外に放り投げた。
いや、その、ちょっと分けるぐらい良いんだけどな。駄目なの? そっか、駄目なのか。
「相変らずお茶も菓子も美味いな」
「うん、この子の作る物は、全部美味しいから」
傍に寄って来た家精霊を撫でながら、私もお茶とお菓子を口にする。
今はメイラが居ないからか、家精霊は私の膝に寄りかかって少し溶けている。
前にちょっと聞いたけど、あの子の前ではなるべくキリっとしていたいらしい。
でも家精霊って割とよく溶けてるから手遅れの様な気もする。
だってメイラが家精霊を撫でる時も、喜びを隠しきれずに少し溶けてるし。
悲しい時とか拗ねた時は球体になるし、あんまりキリッと出来てないよね?
「さて・・・そろそろ本題に入って良いか?」
「ん、本題? 良いけど・・・」
思わず首を傾げながら彼の顔を下から覗き込む。
一体何の話だろう。あ、でも庭では特に会話らしい会話ほぼしてなかったっけ。
何か用事があったのだとしたら、私がはしゃいでたせいで言いそびれたのかな。
もしそうだったら申し訳ない。悪い事をしてしまった。
先程までの嬉しい気持ちから一転、少し沈んだ気持で彼の事を見上げる。
不快にさせてないかなと、心配になりながら上目遣いで。
「っ・・・」
すると何故か彼は背筋を伸ばし、緊張した面持ちになった。
な、なんだろう、そんなに大事な話なのかな。
余計に不安が増して来たんだけど。一体何を言われるんだろう。
ドキドキしながら彼の言葉を待つ。待つ。待つ・・・・・・・・・?
「・・・リュナド、さん?」
「っ、な、なんだ」
「・・・いや、えと、その・・・本題って、なに?」
「・・・へ?」
何故か彼は呆けた顔になり、お互いに良く解らない感じで見つめあってしまう。
視界の端で家精霊が何故か半眼で私達を見ていたが、それも良く解らない。
最近この子良くこの目をするんだけど、聞いても首を横に振るだけだしなぁ。
何か不満が有るのは解るから、気にせず言ってくれて良いのに。
「いや、俺は殿下から、聞いて来たんだけど・・・」
「パックから? 何を?」
「セレスが、俺が来ないって言ってるって・・・」
私そんな事言ったっけ? いや、何回か言ったような気もする。
彼に会えなくてちょっと寂しいとか、会いに行こうかなとかも。
でも邪魔になるかなーって諦めてた訳で、パックがその事を伝えたのかな?
「・・・そっか、それで会いに来てくれたんだ」
「え、ま、まあ、そう、だけど」
「そっか・・・そっかぁ」
どうしよう。嬉しい。凄く、嬉しい。顔がにやけてしまう。
私が会いたがっている。ただそれだけの為に来てくれたのか。
何だか嬉し過ぎて変な顔になっちゃう。沈んだ気持ちなんか何処かに行ってしまった。
「ありがとう、リュナドさん」
「え、あ、うん・・・うん?」
彼は礼を言われて首を傾げているけど、そんな事は気にしなくても構わない。
きっと彼にとっては当たり前の事なんだろう。優しい彼にとっては。
だから彼に礼を言われる理由は無くて、けれど私にとっては十分に礼を言う理由になる。
ああ、好きだなー。やっぱり私、この人の事大好きだ。
「にへへ・・・」
「!?」
思わずにやけて彼の腕を取り、ギュッと抱きしめてしまう。
彼の体温と臭いに安心する。近くに彼が居るだけで心が落ち着く。
ライナと一緒に居る時に似てるけど、彼女とはまた違う心地良さだ。
ああ、もう今日はこのまま、ずっと幸せな気持ちで居たいな。
こうやってると頭がポヤポヤして来る。にへへー・・・。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、彼は暫くそのまま動かなかった。
ただ途中ではっと気が付く。彼は私の為に来てくれたんだよね。
つまり忙しい中やっと出来た時間を使ったって事で、本当は休みたかったんじゃと。
・・・こうやってお茶してるよりも、ゆっくり寝た方が疲れがとれるんじゃないかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ナニコレどういう状況。え、待って、マジで訳が分からない。
セレスさん何してるの。何でご機嫌に俺の腕持ってしなだれかかってんの。
ちょっと待って整理が出来ない。今の状況の意味が本気で解らない。
いや、落ち着け。ちょっと落ち着こうか。混乱した頭で何考えても纏まらない。
取り敢えず掴まれていない手をお茶に伸ばし、一口飲んで息を吐く。
そして深く深呼吸をしてから菓子を口にして、もう一度お茶を飲んでカップを置いた。
・・・うん、やっぱ意味解んねぇ!
いや解んねえって。だって今日二人っきりだぞ。対外的に見せる相手も居ないんだぞ。
そもそもさっき下から思いっきり睨まれたのは何だったんだ。
思わず背筋が伸びて緊張したのに、その次がこの状況って緩急が有り過ぎる。
っていうか、セレス何て言ってたっけ。驚きで前の会話が頭から吹き飛んでる。
えーと、確か本題に付いて尋ねて来てたよな。いやそれおかしくない?
俺お前に呼ばれたから来たんだけど。何で呼んだ本人がそこに疑問を持ってんだよ。
・・・あれ、でも待て。そういえば俺、話がある、とは言われてない、様な?
『先生が貴方に会いたそうでした。忙しい貴方の邪魔を避けた様ですけどね。なので貴方が手を止める理由を態々作る気は有りません。寂しそうでしたよ、先生は。では失礼』
・・・言われて、ないな。話があるとは一言も言われてねえわ。
いや待て。でもこれ言葉通りに取ると、ただ俺に会いたかったってだけになるんだが?
それは絶対無いだろと判断して来たのに、まさか本当に俺に会いたいだけって事か?
「ねえ、リュナドさん、疲れてない?」
「へ?」
未だ混乱の極みの中、セレスから声をかけられ間抜けな声で返してしまう。
目を向けるとさっきの笑みこそ消えたものの、穏やかな笑顔で首を傾げていた。
「疲れてるかって言われたら、まあ、最近ちょっと、忙しかったから疲れてる、けど」
砂漠に起きた異変の事とか、その原因らしい精霊の事とか、イーリエを狙う連中とか。
他にも貴族としての常識の勉強とか、精霊兵隊の訓練もさぼる事が出来ない。
ちょっとやる事多過ぎるんだよ今。
後精霊達の報告書作れるの俺だけだしな。何故か俺に報告したがるから。
これが一番面倒なんだけど、一番に役に立つから本当に困る。
「そっか、そうだよね。疲れてるよね」
セレスは俺から離れると、口元に手を当てて考える様子を見せた。
ただしその間も片手は俺の腕を握っている。逃がす気は無いと言われている気分だ。
「リュナドさん、今日は泊って行ったらどうかな。何処で寝るよりも疲れが取れると思うよ。家精霊の加護がリュナドさんにも効くのは、ちゃんと証明されてるし」
「あー、そう、だな・・・」
ニッコリと笑う笑顔とは裏腹に、腕にかかっている力が強いのは気のせいだろうか。
お前解ってんだろうな。断る選択肢はねえぞ。そう言われている気になる。笑顔が怖い。
「じゃあ、そうさせて貰おう、かな。実際最近ちょっと、寝不足気味だし・・・」
これは本当だ。普段から寝不足って訳じゃないが、ここ数日は余り寝れてない。
セレスからの呼び出しの不安も相まってだが、これは言わない方が良いだろう。
それにこの家に泊まると疲れが取れるのも事実。他の所で長時間寝るより良い。
後今更噂が一つ二つ増えても、最早どうでも良いという諦めも有るけど。
もう良いよ。好きに噂しろよ。否定しても無駄な事は解ってんだよ・・・。
「寝不足・・・そっか、じゃあこんな事してる場合じゃないか」
「え、何?」
「リュナドさん、二階に行こ」
セレスは俺の手を掴んだまま立ち上がり、俺を軽く引っ張る。
「ちょ、待って待って、突然どうしたセレス」
「だって、寝不足なんでしょ。寝た方が良いよ。リュナドさん頑張る人だし、寝不足が続いたら倒れるよ。寝れる時はちゃんと寝て、体を休めた方が良いと思う」
あれ、もしかして俺、普通に心配されてる?
いやそりゃ寝不足は事実だけど、倒れる程頑張ってるつもりは無い。
時々寝落ちはしてるけど、アレはどちらかと言うと訓練疲れだし。
「ほら、行こう?」
「・・・あ、ああ」
けれど有無を言わさない彼女の笑顔に、色々諦めて立ち上がる。
そして何故か手を繋いだまま二階に上がり、前に泊った部屋に入った。
家精霊が常に掃除をしているのか、普段使ってないらしいのに相変わらず綺麗だ。
「ゆっくり寝て、疲れを取ってって」
「・・・はい」
正直セレスが何をしたいのか良く解らんが、これが目的の一つというの事は解った。
彼女にとって、俺が頑張り過ぎで倒れる、って自体は好ましくない事なんだろう。
大人しく従おうと思い、取り敢えず鎧を外して行く。
「ん、手伝うね」
「え、あ、ああ、悪い・・・」
ため息を吐きながら鎧を外していると、セレスが何故か手伝って来た。
別に要らないけど断るのも怖いし、好きな様にさせておく。
そうして鎧を脱いで中の服だけになると、何故かベッドの横まで手を引かれた。
「どうぞ」
「・・・うん」
ぽすぽすとベッドを叩くセレス。気のせいかな。何か楽しそう見えて来た。
まさか俺が寝たあと何か企んでる? 流石にそれは考え過ぎか?
でもここでやっぱ帰るとか言う方が、機嫌を損ねそうで怖い。素直に寝ておこう。
「じゃあ、まあ、ありがたく寝かせて貰うな」
「うん、ゆっくり寝てね」
ベッドに入ると言い様の無い心地良さに包まれ、この時点で疲れが取れた様な気がした。
前に寝た時よりも力が抜ける気がする。すげー気持ち良い。
何が違うんだろうかと思っていると、視界に不可解な物が映って良い気分が吹き飛んだ。
「あの、セレスさん、何してるんですかね」
何故かセレスが俺の隣に入り込んでいる。何してるのこの人。
「え、折角だし、私も一緒に寝ようかなって・・・」
「・・・そう、すか」
「うん、そうなの」
いや「そうなの」じゃねえよ。おれも「そうすか」じゃねえんだよ。
え、マジでどういうつもりだコイツ。本気か?
確かにお前がその気なら覚悟を決めよう、って事は考えた事あるけどさ。
まさか殿下に目配せして、メイラまで連れて行かせたのはこの為か?
「じゃあ、お休み・・・リュナドさん、にへへ」
驚きながらセレスの行動を見つめていると、彼女はそう言って目を瞑った。
そうして暫く吐息しか聞こえない時間が生まれる。
「・・・・・・は?」
「すー・・・すー・・・」
「え、もう寝たの? 早くない? ねえ、寝たふりしてない?」
「すー・・・むにゃ・・・」
「うっそだろ。マジで寝てんの? ってか今気が付いたけど何でまた手を握られてんの?」
がっちり手を握られている。つーか抱き付いて来るんですけど。ちょ、力つええ!
前に少し思ったけど、もしかしてお前抱き付き癖あんの!?
「何なんだこの状況・・・ホントに何なんだ・・・」
腕と半身を包むセレスの体温と、耳にかかる彼女の吐息。
横を見ると鼻が付きそうなぐらいの距離にあるセレスの顔。
けれど彼女はさっきの言葉通り、完全に眠りに入っている。
「・・・本当にただ寝るだけって意味だったのかよ」
じゃあ何で弟子達追い出したんだよ。あれ、俺もしかして遊ばれてない?
・・・良いや、もう考えるの面倒になって来た。寝よ・・・。
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