第411話、大好きな友達に少しテンションが高い錬金術師

『『『『『キャー♪』』』』』

「ん?」


殆ど日課になりつつある魔法の訓練中に、山精霊のにぎやかな鳴き声が響いた。

通路向こうから声が響くという事は、多分誰かが来たんだろう。

ただ今日は精霊の声が普段より大きい・・・というよりも、鳴いた精霊の量が多いのかな。


「えと、リュナドさん、みたいですね」

「・・・ああ、そっか」


言葉の分かるメイラの説明に、成程と納得して返す。

精霊の声が普段より多いのは、彼が連れている精霊も一緒だからだろう。

前に私の家に向かう道中で、街中の精霊が付いて来て更に増えるって言ってたし。

とはいえ毎回付いて来る訳じゃないから、気分屋な所が良く解る。


「ん?」


いや、まって。リュナドさんが来たんだ。何で来たんだろう。

今日って何か約束とか有ったっけ。荷物も依頼もまだ先のはずだよね?


「・・・ま、いっか」


何の用かなんて彼に聞けば解る事だ。別に焦る必要も無いか。

それにただ遊びに来ただけかもしれないし・・・その方が私はちょっと嬉しい。

何て思いながらも弟子達の様子を見つつ、通路の向こうへも意識を向ける。


「いらっしゃい、リュナドさん」

「ん、庭に勢ぞろいって事は・・・魔法の訓練中に邪魔したかな」

『『『『『キャー♪』』』』』


少ししてリュナドさんと山精霊が庭に姿を現し、精霊達はご機嫌に駆け回り始める。

庭に居た子達もそれに応える様に走り回り、一瞬で庭がキャーキャーと騒がしくなった。

それでも集中を切らさないパックと、気を取られて制御が乱れるメイラ。


そんなメイラに気が付いたのか、精霊達は口々に応援を始めた様に見えた。

彼女を囲んでキャーキャーと鳴き、ただ逆にそれが集中を乱しているけど。


「ううっ、や、やり難い・・・!」

『『『『『キャー!』』』』』


多分山精霊は純粋な好意で応援してるから、メイラも文句を言い難いんだろう。

そもそもこの程度で魔力制御を乱していたら、魔法なんて何時までも使えない。

なので今回ばかりは家精霊も出て来ず、少し複雑な顔をして見守っている。

本当は山精霊を蹴散らしたいんだろうな。アレはそんな顔だ。


「セレス、止めなくて良いのか。どう見てもメイラが困ってる様に見えるんだが」

「んー、別に悪い事でもないから良いかなって。むしろ目的を考えたら、今は良い事やってるんじゃないかな? 山精霊達が意識してやってる訳じゃないとは思うけど」


メイラが魔力を上手く制御出来ないのは、集中が乱れているのが一番の理由だ。

けれど実は精霊という強い魔力が沢山傍にいるせいで、余計に上手く出来てなかったりする。

でもあれは制御の鍛錬には悪くない負荷だと思う。まあパックは全く問題ないみたいだけど。


「精霊達の行動が良い結果になるから、好きにさせるって事か?」

「うん」

「・・・精霊達が砂漠に向かうのを放置してるのも、同じ理由なのか?」


うん? 砂漠? 何の話だろう。

砂漠の行き来を放置してるのも同じ理由かって事かな。


「私は、そのつもりだけど・・・」


だってそのおかげで、ミリザさんと良く手紙のやりとりが出来てるし。

ミリザさんも精霊のおかげで色々助かってるって書いていた。迷惑そうな気配は無い。

なら悪い事じゃないし、むしろありがたいし、そのまま放置で良いんじゃないかな?


「そうか・・・ふむ」

「?」


リュナドさんが考え込む様子を見せ、けれど私は首を傾げてしまう。

だって精霊の行き来はもう今更の話だ。何で今頃悩む事が有るんだろうか。


「何か問題でもあったの?」

「いや、問題は・・・今は特にない、な」


あれ、そうなんだ。てっきり何かあったのかと思った。


「えっと、取り敢えず、お茶でも・・・あ、でも今は訓練中だし・・・」


リュナドさんをお茶に誘おうと思ったけど、今は魔法の訓練中だ。

パックは最近凄く安定したけど、メイラはまだちょっと目を離せない。

いや、これは単に私が過保護なだけで、そんな事はないのだと理解はしてるんだけど。

どうしようか判断に迷いつつ、パック達に目を向けた。


「・・・先生。すみません、急用を思い出しました。教えを乞う身でありながら失礼だとは思いますが、今日はこの辺りで終わっても宜しいでしょうか」

「ん、そうなの? 別に、失礼とか気にしなくて良いけど・・・」


忘れそうになるけどパックは王子様だ。ここでの勉強以外にも何かやってるのは聞いている。

具体的には知らないけど、時々ここに来られない時が有る事も有るぐらいだ。

なら突然何かやる事が有る、なんて事もなくはないんだろう。

忙しいなら気にする必要は無いと思う。寂しいけど仕方ない。


「ありがとうございます。それと重ねて申し訳ないのですが、メイラさまもご一緒お願いして宜しいでしょうか」

「メイラも?」

「はい。少々頼りたい事が有りまして」

「・・・まあ、私は良い、けど」


チラッとメイラに目を向けつつ、少しだけ渋っている自分を自覚しながら応える。

私は頼って貰えないのだろうか。という情けない考えだ。

まあメイラを指名したという事は、私では出来ない事を頼むんだろう。仕方ない。


「・・・メイラが良いなら、今日は終わりにしようか」

「え、えと、はい、構いません!」


メイラが元気よく応え、それが余計に寂しい。要らないって言われてる気がしてしまう。

そんな訳ないのは解ってる。解ってるんだけどね。うん。


「では、先生。また後日。メイラ様、行きましょうか」

「は、はい。あの、リュナドさん、ゆっくりしていって下さいね」


そして許可を出すと二人共そそくさと庭を去って行った。

ただそこでふと気が付く。そうか、今日はリュナドさんとゆっくりいられるのか。

そう理解すると途端に嬉しくなるのは余りに現金だろうか。でも嬉しい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・気が重い。何の用やら」


重い気分を顔に出さず呟き、街中を一兵士の様に歩いて進む。

と言っても当然周りに精霊達が沢山居るから、一兵士だと誤魔化す事なんて出来ないが。

何故か知らないが集まって来るんだよな。気が付いたら家を出た時の倍ぐらいになってる。


せっかく軽装の鎧を貰ったのにな。結局どう足掻いても目立つか。

色々と諦めながら歩を進め続け、街を出てセレスの家の小道へと向かう。


「見張りご苦労」

「「はっ」」


見張りの精霊兵隊に声をかけて、セレスの家への通路を進む。

道中で何故かついて来た精霊達が、ご機嫌な鳴き声を上げていてとても騒がしい。

応える様に庭の精霊達も鳴き出すから余計にだ。


庭に入るとセレスが出迎えて来た、と一瞬思ったが違う様だ。

おそらく魔法の訓練、なんだと思う。俺には良く解らないが。

メイラが物凄く難しい顔をして踏ん張っているが大丈夫だろうか。


「んー、別に悪い事でもないから良いかなって。むしろ目的を考えたら、今は良い事やってるんじゃないかな? 山精霊達が意識してやってる訳じゃないとは思うけど」


訊ねるとセレスは何でもない風に答え、そしてそれは砂漠に関しても同じだと答えた。

てっきり知らないと答えられるかと思ったが、どうやら今回は違うらしい。

ただしセレスが指示したのではなく、精霊達が自主的にやっていると。


それはそれでとても不安だ。セレスは結果が解っているんだろうが、俺には不安過ぎる。


「何か問題でもあったの?」

「いや、問題は・・・今は特にない、な」


その気持ちを見透かされたのか、問題は別に無いだろうと言われてしまったが。

今のは疑問じゃない。問題無いんだから放置しておけって意味だ。

ああ、今日呼び出されたのはその念押しか。伝言じゃ不安だと思われたか?


「えっと、取り敢えず、お茶でも・・・あ、でも今は訓練中だし・・・」


セレスの真意を探っていると、パック殿下とセレスの目が合ったのが解った。

すると殿下はそそくさと訓練を止め、メイラを連れて庭を去って行く。


いやまて。絶対緊急の用事なんか無いだろ。今の誰がどう見たって嘘だろ。

つーかセレスとアイコンタクトした時点で丸わかり過ぎる。

え、なに、弟子達を何処かにやってする話があんの?


「じゃあ、リュナドさん、取り敢えず家に入ろっか。家精霊、お茶をお願いして良いかな」


そしてニッコリと笑顔を向けるセレスは、俺の手をがっちり握って逃がしてくれなかった。

待って。逃げないから。いや逃げたいけど逃走を防ぐのは怖いって。俺何されるの。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここから下は宣伝です。

引き籠り錬金術師3巻5日に発売予定です。宜しくお願いしまっす。

そして過去最高に表紙に精霊が多い。

https://dragon-novels.jp/product/322104000127.html

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る