第398話、山精霊の想いが解らない錬金術師
「家精霊のお茶のおかげかな。大分違和感が減った気がするよ」
「ん、良かった。でも薬はちゃんと塗ってね?」
「ああ、解っているさ。帰ったらテオにでも塗ってもらうとしよう。あの子はどうにも、頼まれ事が少ないと残念そうな顔を見せるのでね。こういう機会は丁度良い」
「あはは、家精霊と一緒だ」
帰るフルヴァドさんを見送る為に庭へ出て、その際の会話でクスクスと笑い合う。
家精霊はその発言が不服だったのか、ぷくーっと頬を膨らませてしまったけど。
でも実際頼まれ事が少ないと、家精霊も残念そうな顔するよね?
「家精霊はテオと違ってここしかない。余計に寂しいのだろうね」
「そうだね。家から出れたら少しは違うのかもしれないけど・・・」
家精霊は自分の有り方を受け入れ、だからこそ精霊として強い。
この子が外に出るには、その強さを全て捨てなければいけないだろう。
そもそも存在していられるかも怪しい。存在理由が消えてなくなるのだから。
「そうなったら一番困るのは私だね。家精霊が居ない生活なんてもう想像も出来ないし」
頬を膨らませる家精霊の頭を撫でると、直ぐに笑顔になってすり寄って来る。
ただそれは私がこの子の主だからでしかなく、だからこそ私はこの子の主でありたい。
何時も私を助けてくれる精霊が、この先も私の精霊であって欲しいと思っている。
「きっとこれは、私の我が儘なんだと思うんだ。家精霊の寂しさよりも、私がここに居て欲しいと思ってる。どこかに出かけても、ここが家だって思えるのは、この子が居るからだから」
この子はとても寂しがり屋だ。だから出来るだけ家に人が居て欲しいと思ってる。
それはこの子が外に出れないからでしかなく、出れる様に出来れば話は変わる。
なら本当は、主としては、この子が外に出られる手段を模索するべきなんだろう。
「それは違う。セレス殿」
「え?」
けれどフルヴァドさんは、真面目な表情で私の言葉を否定した。
その様子に思わず呆け、そんな私に彼女は続ける。
「家精霊は確かに寂しいのだろう。貴女が出ている間に会いに来た事が有るから解る。だがそれを不幸と嘆く精霊ではない。寂しさが有ったとしても、主の家を守れる事に誇りを持っている。なら貴女が『主である』と精霊を想う限り、家精霊は幸せだと思うよ。我が儘ではないさ」
フルヴァドさんの言葉を聞き、思わず視線を家精霊に向けた。
すると家精霊はとても優しい笑顔で頷いていて、その笑顔につられて私も笑う。
家精霊の事は理解していたつもりだったけど、まだ理解が足りてなかったみたいだ。
「そっか。うん。ありがとう、家精霊。フルヴァドさんも」
「なに、少しでも役に立ったなら何よりだ」
満足げに微笑むフルヴァドさんは、何時も以上に綺麗に見えた。
それこそ『聖女様』という肩書が、まさしく似合う様な雰囲気で。
言われた内容がとても身に染みて、凄く暖かい気持ちになれた。
「ありがとう、本当に。貴方が友達で、私は幸せ者だと思う」
「っ、そ、そうかな。むしろそれは、私の方だと思うけどな」
自然に出た笑みのまま、思った事を彼女に伝えた。
すると彼女は少し狼狽えて、それは逆だと答える。
「そう? んー、そうだと、私も嬉しいな」
「私も・・・そうだな。私も嬉しいよ。貴女と友になれた事は、きっと私にとってはかけがえのない宝だ。どんな財宝も霞む宝だ。ありがとう、あの時、私を助けてくれて。もう何度も礼を言った事だが、貴女が私を助けてくれたから今の私が在る。誇りを胸に持つ私が在るんだ」
彼女は手に胸を当て、微笑みながらそう言った。
その様子はやっぱり綺麗で、思わず見惚れる雰囲気を持っている。
胸の誇りか。私には全く無い物だ。だから余計に眩しく見えるのかな。
『『『『『キャー!』』』』』
「え、う、うん、そ、そっか。それは、良かったね」
ただ何故か山精霊がそこで対抗心を燃やし『僕達も会えて良かったよ!』と騒ぎ出した。
でも君達との出会いって、出会って即戦闘だったんだけど・・・。
『『『『『キャー!』』』』』
そんな思いが顔に出ていたせいなのか『ちがうのー!』と不満そうな山精霊達。
違うと言われても困る。何が違うのかを言ってくれないと。
ただ何故か家精霊が『ふふん』と満足気な顔で、フルヴァドさんはクスクスと笑っていた。
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『作戦会議ー! あつまれー!』
『『『『『あつまれー!』』』』』
庭の真ん中に集合して、定例会議を始める。
皆やる気満々だ。だって大変なんだ。凄く大変。
『何故主が幸せだって答えてくれなかったのか会議をします!』
僕達の方が役に立ってるはずなのに、何故か主は僕達には言ってくれなかった。
家には言ったのに! フルヴァドさんはしょうがないとしても、家には言ったのに!
僕達の方が主に先に会ったんだぞ! ドヤァって顔を向けられてすっごいムカムカ!
『僕達主の役に立ってるのにねー?』
『おかしいよね。こんなに僕達主が大好きで頑張ってるのに』
『なんで家の方が褒められるんだろう。僕達あんまり褒められないのに』
『でも作業の手つだいしてる時は褒めてくれるよ?』
『メイラとパックも良く褒めてくれるよねー。やっぱり僕達役に立ってる!』
うんうん。家は薬とか作れないもんね。魔法石も作れないんだよ!
ほらぁ、やっぱり僕達の方が主の役に立ってる。
僕達の作った結界石が街を守ってて、主の食事の為のお金にもなってるんだから。
『・・・じゃあ何で主は困った顔したんだろう?』
『・・・わかんない』
『主は僕達の事好きじゃないからじゃない?』
『知ってるけど言っちゃ駄目な事言った! 僕の口しばっちゃえ!』
『『『『『取り抑えろー!』』』』』
『もがもがもが!?』
聞きたくない真実を言った僕を取り押さえ、縄でぐるぐる巻きにしておいた。
僕達で作った縄だから抜けられない。暫くそこで反省してて。発言権は無くなりました。
『そもそも主は、僕達が主の事が好きっていうのも解ってない気がするー』
『前に大好きだよーって言ったら、首を傾げられたー』
『家が言うと凄い笑顔で返すのに・・・なんで・・・!』
『やっぱり最初に主に攻撃したのが駄目だったのかなー』
『だって仕方ないじゃん! あの時は僕達今と違ったんだもん!』
『でも主って、最初に持った印象ずっと引きずる性格してるよねー?』
『『『『『わかるー』』』』』
主は未だに僕達の事を、聞き分けの無い困った子扱いする時が有るもん。
手紙を渡す時とか、食べちゃ駄目だからね、って念押ししたりするし。
僕達が手紙を食べた事なんて偶にしかないのに。
調合中にも、材料をあまり食べちゃ駄目だよ、って注意される。
お仕事中にそんな事する訳ないのにね。お仕事終わったら食べるけど。
でも偶に気が付くと材料が減ってるんだよね。あれ不思議。何でだろう?
『・・・僕達今回役に立ってないせいかなー』
『アスバちゃんの事では、メイラに怒られちゃったし・・・』
『イーリエが来た時は、僕達みーんな吹き飛ばされたよね・・・』
『イーリエの弟にも僕じゃ勝てそうになかったなー・・・』
主の役に立ちたいけれど、主を守る為には力が足りない。
家が居なかったら、あの時僕達は幾つか消えていたと思うし。
ちょっと、凄く、大分、悔しい。
『僕達もうちょっと強くなれないかな』
『うーん、一つになる時に数を増やしてみる?』
『でも前に集まった時、多い分は押し出されちゃったよ』
『うん、ぎゅうぎゅうって感じで、ぐいって出ちゃった』
『でも追い出されない様に頑張れば行けない?』
『やってみる?』
『やるなら内緒で、出来る様になってから見せたら驚いてくれないかな!』
『良いね! でもどこでやる? この辺でやったら主に見つかっちゃうよー?』
『砂漠とかどうかなー。あそこ何にもないから、主も滅多に近寄らないし』
『さんせー! じゃあそこで交代で練習! 家を見返してやるぞー!』
『『『『『おー!』』』』』
よーし、これで強くなれたら、家にも大きい顔をさせないもんね!
下剋上だー! 僕達の方が先輩なんだぞー、って大きい顔してやるー!
あ、そういえば今回議長役わすれてた。今からでも遅くないかな。付け髭付け髭。
『・・・家精霊である私を出し抜く会議を、家の庭でやる辺りが本当に貴方達ですよね』
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