第376話、ついでに弟子の装備を新調する錬金術師
先日考えたリュナドさんの普段使いの鎧。それをまた竜の鱗で作ってみた。
勿論内側に緩衝材を張り付けて、打撃の衝撃は和らげる様に。
竜の鱗に頼り過ぎな気もするけれど、これ以上良い素材が無いので仕方ない。
「物理耐性も魔法耐性も高いからなぁ・・・」
魔力の籠った攻撃は、ただの物理攻撃とは種類が違う。
けれどこの鱗ならどちらも同じ様に防げてしまう。
ならその鱗を使うのが一番武具として適している。他を使う理由がない。
「・・・加工の難点さえ除けばだけど・・・疲れたぁ」
先日の思い付きからこっち、睡眠時間を削って作っていた。
興が乗ってしまったのも理由だけど、それぐらい集中しないと駄目な理由もある。
竜の素材は一歩間違えば全部危険物だ。それは鱗だって例外じゃない。
普通の素材を使って作るよりもかなり神経を使う。
何より単純に加工が手間だ。大量の魔法石と引き換えの加工になる。
普通の加工道具じゃ歯が立たないから、どうしても魔法の存在は不可欠だ。
私の様な凡人の魔力量では、魔法石が無ければ決して加工出来ないだろう。
「・・・まあ、自力で出来る人も居るけど」
確かお母さんの仕事の知り合いに、そういう事が出来る人が居た気がする。
声が大きくて圧が有って苦手だったから、殆ど話した事なんて無いけど。
今となると、どうやってたのか聞いても良かったなぁ、と少し思う。
まあ顔も覚えてないし、その前に実家が解らないし、聞きに行く事なんて出来ないけど。
「そもそも会話が成り立つかどうか、かな」
仮面が在れば会話出来るかもしれないけど、やっぱり圧のある人は苦手だ。
それに私の記憶が間違っていなければ、全く人の話を聞かない人だったはず。
あのお母さんすら、話が終わった後に『疲れた』という人だったし。
「うん、無理だね・・・あ、精霊達、リュナドさんに伝言お願いして良いかな」
『『『『『キャー♪』』』』』
そう結論を出したら出来た防具の最終確認をしつつ、精霊達に報告を頼んだ。
何故か沢山走って行ったけど、一体だけで良いんだよ? まあ良いけど。
確認が終わって問題無いと判断した所で、メイラ達が帰って来た。
「先生、ただいま帰りました」
「セレスさん、ただいまです!」
「ん、お帰り。あ、そうだ、二人共これ付けてみて」
二人を出迎え、丁度良いと思い防具を手渡す。
先ず二人に合わせて作った胸当てだ。
手渡した防具を受け取ると、二人は言われた通り身に着ける。
「付け心地はどうかな。サイズはあってると思うんだけど」
「ちょ、ちょっと待って下さいね、セレスさん。えっと、これ、こうやって、あれ?」
「メイラ様、手伝いますよ」
ただ普段付けなれないせいか、メイラが少し手間取っている。
単純な構造にしたはずなんだけど。この子は偶にこういう所が在る。
普段はしっかりした子なんだけどなぁ。当然パックは普通に装備できた。
「セレスさん、付けれました!」
「うん。どうかな、付け心地悪くない?」
「普段付けないから少し違和感ありますけど、軽いし慣れれば気にならないと思います」
「そっか。パックは?」
「僕もほぼ同じ感想ですね。腕を動かすにも邪魔になりませんし、理想的な胸当てです」
どうやら二人共問題無い様だ。そうだ、アレも渡さないと。
胸当てはリュナドさんの装備を作るついでだけど、二人用に特別に作った物が有る。
その時は二人が居なかったし、鎧も作らなきゃで倉庫に入れっぱなしだ。
「家精霊、この前二人用に作ってたもの、持って来て貰えるかな」
家精霊はニコリと笑って頷き、すい~っと倉庫に向かって行く。
そして二つの袋を持って来て、一つずつ、パックとメイラに手渡した。
「先生、これは?」
「セレスさん、開けて良いんですか?」
「勿論。二人の為の物だから」
そう告げると二人は袋を開け、中を確認して少し不思議そうな顔になる。
「これは・・・手袋と靴とローブの・・・予備ですか?」
「確かに最近裾がちょっとヨレてますけど、まだこれ使えますよ?」
二人は見ただけじゃ、中身が今使っている外套や手袋と思ったらしい。
確かに見ただけじゃ普段の外套と変わらない。外側は普通の布だから。
靴は布じゃないけど、それもぱっと見は普段の靴と変わらない。
「それは中に竜の皮を入れてあるんだ」
「竜の皮!」
「え、あの竜さん、皮あるんですか!?」
「鱗に覆われているけど、竜にだって皮は有るよ。竜の皮を加工して作った装備は、流石に鱗には劣るけど頑丈なんだ。ただ危ないから、再生しない様にしてるけど」
再生に呑み込まれて手足に癒着、なんて笑えない。
なので今回フルヴァドさんの鎧を作った時と同じ作り方をしている。
という訳で素材の生命力は殺してしまったけれど、頑丈さだけはそのままだ。
まあ鱗と違って異常な頑丈さは無いから、一枚の皮じゃなくて重ねて作ってるけど。
それに肌触りがあんまり良くなかったから、布の内側に入れる形に落ち着いた。
「一応胸当ては在った方が良いかなと思って作ったけど、これが在れば体全体を守れるから」
外套も手袋も靴も、何時も使っている靴と手袋と同じ加工をしている。
つまり衝撃は軽くする事で抑え、斬撃は皮の頑丈さで防ぐ。
今までの外套や手袋と靴は、どれだけ攻撃を軽くしても鋭利な物であれば切れた。
それは魔獣の爪も同じくで、けど魔獣の皮で作った外套なら話は違う。
重ねた竜の皮となれば尚の事だ。その辺の魔獣じゃ簡単には切り裂けない。
「ただリュナドさんの鎧と同じで、魔獣の素材だけど空を飛んだりは出来ないから」
どうも竜の鱗は、重さを変える鉱石と相性が良くないらしい。
だからリュナドさんの鎧も、飛び上がる事は出来ても飛び続けられない。
難儀な素材だ。思い通りに行かない事が多くて困る。
もしかしたら竜は『魔獣』と思わない方が良いのかもしれない。
今までそんな風に考えた事は無かったけど、また種類の違う生き物なのかも。
「今後はこれを使うと良いよ」
「「はい、ありがとうございます」」
二人は喜んでくれた様だ。笑顔で礼を言う二人に私も笑みを浮かべてしまう。
ただパックが「あ、でも」と呟き、どうしたのかと首を傾げた。
「その、今使っているこのローブ類は、持っていても宜しいでしょうか」
「ん、構わないよ?」
私の答えを聞くと、今度はメイラが慌てた様に口を開く。
「あ、私も、私も持ってて良いですか!?」
「え、う、うん、良いよ」
二人の不思議な質問に頷き返すと、二人とも何故か凄く嬉しそうに顔を見合わせた。
そんなに愛着有ったのかな。それならアレを再加工してあげればよかったかも。
まあ良いか。どっちにしろ喜んでくれたんだから。
「今までしてなかったけど、これから体術訓練で、外套で受ける訓練もしようか。軽くすれば受けられるって解ってても、咄嗟に出来ないと無意味だし」
「「はい!」」
二人は元気よく答えると、いそいそと装備を付け替え始めた。
因みに私の装備は既に竜の皮が入っている。
魔獣の攻撃をどこまで耐えられるか、もう実験済みだから安心だ。
これで二人が怪我する可能性はまた減らせるだろう。
『『『『『キャー!』』』』』
山精霊達は何故態々外套を作り出してからいそいそと纏ってるんだろう。
君達来てる服そのまま変化させられる―――――。
「ん、あれ?」
・・・おかしいな。今一瞬、アスバちゃんの魔力を感じた様な。
周囲を探ってみるも、今感じた魔力は何処にも無い。
そもそも彼女はこの街に居ない訳で、感じるはずはないんだけども。
「・・・気のせい、だったの、かな?」
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「お、見えて来たぞ、あの街だ」
「うわぁ。すげぇ、マジで竜が居る」
「アレを従える精霊公か・・・そりゃ人も増えるし街も大きくなる訳だ」
同じ車に乗っていた客の声が耳に入り、瞑っていた目をゆっくりと開ける。
車の外を見れば大きな大きな竜と、まだまだ発展する兆しを見せる工事をする街。
パッと見ただけでもう普通の街じゃない事が解る。あの街には脅威が溢れている。
「・・・竜以外にも・・・精霊が沢山・・・それにこれは、呪い・・・?」
見えない範囲にも明らかに異常な力が幾つもこの街に存在している。
魔力を行き渡らせて探れば探るほど、背筋に嫌な物が走る。
今から自分がやるべき事を考えると、胃の中がひっくりかえりそうだ。
アレに挑むのか。私は無事で済むんだろうか。ちゃんと、帰れる、のかな。
「お嬢ちゃん、顔色が悪いが・・・大丈夫か?」
そんな私が不調に見えたのか、乗客の一人が顔をのぞき込んで来た。
余程ひどい顔をしているんだろう。他の客も少し心配そうだ。
自分の手を見ると震えていて、人の良い者が居れば心配して当然かと思った。
「・・・気にしないで、下さい。少し、酔っただけだから」
「あー・・・もうすぐ街に着くし、止めて貰うのは無理だろうなぁ」
「・・・大丈夫です。もうすぐなら、我慢できますから」
「ああ。でも本当にどうしようもなくなったら言いな。皆吐く時間ぐらいは待ってくれるよ」
女子供に言う言葉ではないとは思うけれど、心配しての言葉なので頷いて返す。
むしろそんな事に突っ込む余裕すらない。今は自分の心を落ち着ける方が先だ。
乗客が私から意識を外したのを確認して、小さく自分に向けて呟く。
「・・・アスバ・カルアが、ここに居る・・・震えている場合じゃ、ない」
何度も何度も聞かされた。一族の裏切り者。アスバ・カルアの誇りを汚した者。
一族が受け継いで来た全てを奪い去り、肉親すら殺した最悪の外道。
奴を殺す事が、殺せずとも超える事が、我等一族の願いになった。私はその成果。
「リガス・カルアの名を、誇りに思え・・・誇り高き魔法使いとして恐れるな・・・」
そうだ。恐れるな。私は一族の想いを為さなきゃならない。
新たな『名』で作り上げた、文字通り一族の命で作ったこの力。
この力を持って私が為せなければいけないんだ。でなきゃ次は弟の番になる。
そうなる様に、お母さんは手を打った。私が死ねば、その命はあの子の物。
でも、それは、この苦しみをあの子に与える事になる。あの子が苦しむ事になる。
カルアの力に憧れるあの子に、こんな辛い物見せちゃいけない。
それにあの子はこんな力要らないんだ。要らないぐらい強いんだ。
だからこそ、お母さんは私を殺したがっている。
でも、そうしたら、優しいあの子は、あの子の心は・・・。
「・・・お姉ちゃん、頑張るからね」
震える手を胸に押さえつけながら、胸に渦巻く感情も押さえつける。
呑まれるな。私は私だ。リガス・カルアは私だ。私が今代のカルアなんだ。
おじい様の恨みも、ひいおじい様の恨みも、そんな物は私の想いじゃない。
・・・本当は一族なんて、恨みなんて、そんなのどうもでいい。
碌な記憶も無いのに、胸に恨みだけが渦巻いている。
強い、強い呪いの様な感情だけが、アスバ・カルアに対する呪詛だけが。
こんな物私は要らない。弟にだって渡したくない。だから・・・。
「アスバ・カルア・・・もう、貴方は、要らないんだ」
ごめんなさい。弟の為に、私の為に、私は貴方を殺します。
それが唯一、私達がこの呪いから解放される手段。
胸に渦巻くこの呪詛は、貴方を殺す事でしか消えないから。
「アスバ・カルアさえ殺せれば・・・この恨みで弟が苦しむ事は、なくなる」
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