第370話、弟子への手助けに感謝を告げる錬金術師
竜神との一件から暫く経ち、あれからやっぱり変わらない日常を送っている。
アスバちゃんの件に関しても特に変化はない。手紙のやり取りをしている国が遠いせいらしい。
こっちも向こうも要求を譲らないから、話が一向に進んでいないそうな。
もう最近涼しくなって来てるのに。手紙貰った時って暑くなる少し前ぐらいだったよね?
「いいからアスバ殿を寄こせの一点張りなんですよねー。ホント話が進みませんねぇ」
「手紙運んでる使者の言葉信じてないんだろうなぁ。俺は手紙を運びに来るたびに青い顔してる彼が、段々気の毒になって来たよ。何も逆らえない下っ端ってホント可哀そう・・・」
「どうでしょうね。解っていてあえて無視している可能性も有ると思いますよ」
「・・・あー、国が離れてるから行軍出来ないと踏んで、か」
「空を飛んでいくにしても、他国の空を勝手に通過は、やはり印象が悪いですからね」
「許可取ろうにも、他の国には関係ない事だから色々面倒だしなぁ・・・」
パックとリュナドさんは先日そんな事を言っていた。
とはいえ何故二人共私にその事を報告して来るんだろう。
いや、アレは報告じゃなくて、ただの世間話なのかな。よく考えるとそうかもしれない。
大体そういう話をしてるのは皆揃ってる時だし、ここが寄り合い所みたいになってるのかも。
そう思うと私は本当に変わったと感じる。皆がここに集まる事を喜んでいるんだから。
昔は周りに人が増えて関係無い話をされてるのは苦痛だった。
だって私必要無かったし。何喋ってるか解らない事も多かったし。
何より私に無理に会話に参加しろ、って言う人も居たりするから余計に辛い。
けれど今の私にそんな感情は無い。多分周りに居るのが友達だけだからだろう。
ライナ以外にこんなに友達が出来るなんて、昔は全く思わなかったな。
まあ流石に全く知らない人が家に沢山集まったら、私は部屋に籠って人が減るのを待つけど。
「セレスさん、ちょっと山精霊さんを注意して下さい」
「どうしたのメイラ・・・山精霊達が何かしたの?」
『『『『『キャ~・・・』』』』』
ただそんな中、何やら山精霊がやらかしたらしい。正確にはやらかす所だったかな。
どうもアスバちゃん関連の事が気に食わないらしく、色々とやり返すつもりだったそうだ。
ただその中に『黒塊を千切って投げ込む』と言い出した子がいたらしい。
これを聞いたメイラが慌てて精霊を叱り、私にも注意して欲しいと言って来た。
流石に私もそれは不味いと思い、きっちりと釘を刺しておく事に。
「気に食わない気持ちは解るけど、勝手に危ない事しちゃ駄目だよ。その事はちゃんとリュナドさんとパックが対応してるんだから、二人の言う事を聞かないと。解った?」
『『『『『キャー!』』』』』
精霊達は皆「はーい! 言う事聞くー!」と元気よく答えたので、多分大丈夫だろう。
私の判断だと間違えそうで危ないけど、あの二人に任せておけば安心だ。
そんなこんなで変わらず平和な毎日を送っているある日、珍しいお客がやって来た。
「やあ、元気そうだね、セレス殿」
「ん、元気だよ」
海の国の中年王子様だ。相変らず王子様と言う名称が似合わないと思うのは失礼かな。
この人が前に来たのはリュナドさんが貴族位を貰う時だったっけ。
あの頃は少し暑い日がちらほらある日だったから・・・そう考えると珍しくはないかも。
うん、何だか定期的に遊びに来ている気がして来た。
しかも彼は私と違って何日もかけてやって来ている。王子さまって暇なんだろうか。
前に聞いた時に『暇という訳じゃない』って言ってたような気がするんだけどなぁ。
取り敢えず彼を家に迎え入れ、案内の精霊兵隊さんも中に促す。
ただ精霊兵隊さんはそこで「いえ、仕事中ですので」と言って庭を去って行った。
てっきり王子の案内は仕事かなと思ってたけど違ったらしい。
「やっと貴女の力になれそうで嬉しいよ。このまま借りを何も返せないのでは、と思っていた私にはパック殿下の提案は渡りに船だ。いやはや彼が私の事を思い出してくれて良かった」
「・・・?」
王子は席について家精霊からお茶を受け取ると、そんな事を言い出した。
一体何の話だろう。そもそも借りって一体何の事・・・ああ、お母さんの事か。
いや、精霊達の事かな。色々手を貸して貰ったって言ってたし。
「別に私は何もしてないから、気にしなくて良いのに」
「ふふっ、貴女はがそう言う事は勿論解っているがね。これは私がやりたい事なんだよ」
解った上で彼は借りを返したいという。なら私には何も言えない。
やりたい事をやるなと言う権利は私には無いし、別に嫌な事をされる訳でもないし。
それに言い方からして、パックが彼に何かを頼んだって事だよね。
あの子にとって助かる事になるなら、それはありがたく受け取っておこう。
「ありがとう。パックを助けてくれるなら、嬉しい。あの子は、私の可愛い弟子だから」
「―――――ああ。貴女の大事な弟子だ。出来る限り手を貸そう」
心から感謝を口にすると、王子は一瞬面くらった様子を見せてから笑顔で頷いた。
私が彼にお礼を言うのって珍しかったっけ? 割と何度か言ってる気がするんだけど。
まあ良いか。パックの手を貸してくれるお客様だ。ちゃんとおもてなしさせて貰おう。
「今回は、どれぐらいこの街に居るの?」
「一応直接顔を合わせて話を詰めたいと思っているから、予定が本決まりするまでとしか決めていないかな。だからまだ未定だね。早いかもしれないし、長引くかもしれない」
「そっか。じゃあまた気が向いたら、お茶を飲みに来ると良いよ」
「それは嬉しいな。家精霊の茶は格別だからね。あ、そうだ、お土産を忘れていた」
『『『『『キャー!』』』』』
王子がお土産をテーブルに置くと、山精霊達が群がって来た。
おそらくお菓子と思ったんだろう。まあその通りお菓子なんだけど。
我先にと奪いあう事は無く、何故か並んで王子から受け取り始めた。
ただしその行列は長く家の外まで続いている。
「・・・これ、何時まで続くのかな」
「精霊が飽きるか、全部渡すまで、かな?」
「・・・やっぱりそうか」
結局お土産のお菓子がなくなるまで、王子は山精霊にお菓子を渡し続ける事になった。
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「んー、肩の感覚が少し変だな」
錬金術師の家を去り、領主館へ向かう車に乗りながら肩を回す。
菓子を手に取り精霊に渡す。たったそれだけの単純な作業だが数が多かった。
そのせいで肩に少し違和感を感じ、ゴキゴキ鳴らしながら解している
精霊達用に小さな菓子を大量に入れていたから、無くなるのに時間がかかってしまった。
『キャー?』
「いや、喜んで貰えたなら何よりだ」
『キャー♪』
一緒に車に乗る精霊が心配してくれたようなので笑顔で応える。
すると『嬉しいよー♪』と菓子を掲げてから、もしゃもしゃと食べ始めた。
それを確認してから一緒に乗る侍従に目を向け、フッと息を吐いて肩の力を抜く。
「やっと本格的に、錬金術師一行の仲間と認めて貰えた様だ」
元々最近彼女は私への態度が柔らかくなっていた。
一応仲間側に居た、と考えるのは自惚れではないと思っている。
それは精霊公の授与式に呼ばれた事を考えても確かだろう。
だが彼女は何時だって、そこに自分の意思は無い様に振舞う。
何か指示をするとしても、明確な言葉は避ける。
勿論明確に言葉にする事は有るが、それは状況が既に決する場合だった。
「ありがとう。パックを助けてくれるなら、嬉しい。あの子は、私の可愛い弟子だから」
そんな彼女が言ったのだ。パック殿下の事を頼むと。力を貸してくれと。
私に対しあの柔らかな笑顔で、大事な愛弟子をよろしく頼むと。
貸しも借りも関係の無いと言った上で、あの彼女が言葉を濁さずに告げたのだ。
それは私への信頼の証、と考えるのは流石に自惚れだろうか。
けれど多少はそう思っても良いだろう。やっと私は彼女の身内になれたのだと。
ならば私はその信頼に応えずどうする。ここで応えず何時借りを返せる。
「それは、陛下に良い報告が出来そうですね」
「皮肉か」
「いえ、本心ですよ」
「はっ、どうだか」
侍従の言葉に思わず鼻で笑う。この事を報告したら父は何と言うか。
いっそ彼女に求婚する為に街に住めば良い、なんて言い出しそうだ。
そういう関係ではないと何度も言っているというのに。
「まあ私も陛下と同じ事を多少思っていますよ。何時まで初恋をこじらせているのかと」
「・・・ちっ」
これは初恋ではない。そんな陳腐な物にしてくれるな。
私はただプリス殿への尊敬を未だ胸に持ち続けているだけだ。
まあ良い。私はするべき事をするだけ。そんな問答をするつもりは無い。
・・・さて、航路を利用しての接触に、あちらはどう出るかな?
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