第369話、日常に幸せを見る錬金術師
日常が帰って来た。何時も通り、のんびりした毎日が。
「はふぅ・・・おはようございます、セレスさん」
「ん、おはよう。ふぁ~」
『『『『『キャ~・・・』』』』』
朝起きたら隣にメイラが居て、階下からいい匂いが上がる。
何体かの山精霊も一緒だけれど、私達が起きるとこの子達も目を覚ます。
そして美味しそうな匂いで寝ぼけた頭を起こし、一緒に降りて精霊達に声をかける。
『『『『『キャー♪』』』』』
「うん、おはよう。家精霊もおはよう」
「おはよう精霊さん達」
家精霊はにこりと笑うと手ぬぐいを手渡してくれて、私達は顔を洗う為に外に出る。
最近はとても暑くて、外に出てると日差しが強い。
とはいえ結界内は過ごしやすく、普段通り過ごせるのだけど。
家の中は更に快適で、夜の寝苦しさなど感じた事が無い。
家精霊のありがたさに感謝しながら、顔を洗って家に戻る。
そして戻れば当然朝食の時間だ。
「はぁ・・・美味しい・・・本当に美味しい・・・」
『『『『キャー・・・』』』』
健康的ではあるけど美味しくない食事を食べたせいもあり、家精霊のありがたさが染みる。
帰ってきて数日は、頭の上の子やメイラ付きの子達が感謝の祈りをささげていた程だ。
まあ普段そんな事しない山精霊がやったから、家精霊は顔に「?」と出ていたけど
「おはようございます、先生、メイラ様」
「ん、おはようパック」
「おはようございます、パック君。じゃあセレスさん、いってきます!」
「うん、気を付けて。精霊達もお願いね」
『『『『『キャー♪』』』』』
食事を食べ終わる頃にはパックがやって来て、メイラと一緒に山へ向かう。
私はその間にやる事があればやってしまい、無ければぽけっと過ごしている。
偶にうとうと転寝をして、二人が帰って来たら昼過ぎからは錬金術の授業だ。
「先生、出来ました。どうでしょう」
「ん・・・うん、合ってるね。パックは記憶に関しては優秀だね」
「セレスさん、私も出来ました!」
「んー・・・メイラはここと、ここ。あとここも間違ってる。あ、ここも」
「あぅ・・・」
筆記の問題みたいな物を作ってみて、試験の様な物をしてみたりもした。
試験内容は今まで教えた物から適当に選んでいる。
パックは流石の記憶力で全問正解。メイラは実技をしていない物は半分ぐらい間違えた。
「先生、これで、どうでしょう・・・」
「んー、出来てない事は無いけど、ちょっと微妙な出来かな?」
「セレスさん、出来ました!」
「うん、メイラのは良いね。何も問題無しだと思う」
逆に実技をやらせると、相変らず真逆の結果になる。
パックは出来ない事は無いんだけれど、基本的に応用が上手くないんだよね。
レシピ通りに作るから効果は出る。ただ素材の質による量の調整が出来ていない。
一番問題なのは、似た様な素材の区別がついていない時が有る事かな。
逆にメイラはその辺りがほぼ完璧だ。勿論何度もやった事がある物に限るけど。
「よーし二人共そのまま! 暫くそのままよ。魔力を絞った状態で安定させなさい」
「「はい!」」
偶にアスバちゃんが遊びに来て、夕方頃に二人に魔力制御を教えている。
こうなると私は参加できないので、また庭の端っこで魔法石を作る羽目に。
私も参加したい。けど彼女が居る以上言う事が何も無いんだよなぁ・・・。
フルヴァドさんも彼女と一緒に来たり、一人でお茶を飲みに来たりと遊びに来てくれる。
偶にパックと剣の鍛錬をしたりしてるけど、精霊殺しが無いと相変らずちょっと動きが鈍い。
そういえば最近、精霊兵隊を指示できる立場にされたと言っていた。
臨時だと領主は言っていたのに『その話を解除した覚えはない』とか言われたそうな。
「リュナド殿に良いのかと聞いても、部下が納得してるなら良いんじゃないかと言うんだ」
遊びに来た時、お茶を飲みながらそんな事を言っていた。
勿論リュナドさんが精霊兵隊を率いるのは変わってはいないらしい。
あくまで隊長は彼で、けれどフルヴァドさんも同列の立場。
何かそんな感じになったらしい。
「いやだってなぁ・・・別に俺だってやりたくて隊長やってる訳じゃないし・・・」
彼はそんな風に言っていたので、フルヴァドさんも諦めている様だけど。
そうそう。偶に彼も仕事以外でやって来て、のんびりお茶をしたりもしている。
最近色々大変らしく、ここに来ると静かで落ち着くそうだ。
もう噂は諦めた、とか言ってたけど、そっちは何の事か解らない。
とはいえ彼が家に来る時は大体疲れた様子だから、ゆっくり休んでいって欲しい。
あんまりにも疲れている時は泊まる事を勧めているけど、滅多に泊まる事は無い。
絶対この家で寝た方が疲れが取れるのになぁ。
因みにアスバちゃんは普通に泊まる。寝る時は一緒のベッドな事が多い。
夜になれば何時も通り、よっぽどいけない事が無い限りライナの店へ。
「ライナー。いるー?」
「はいはい、いらっしゃい。メイラちゃんもね」
「はい。おじゃまします」
暖かく迎えてくれる彼女の料理を食べて、生きる幸せを噛み締めている。
そして一日が終わればメイラを抱きしめて就寝し、また何時もの日々が始まる。
本当に何時も通りの、のんびりした毎日だ。とても幸せだ。
大変な事は、偶に買出しに行かなきゃいけないぐらいだろうか。
こればかりは仕方ない。全部自給自足は面倒くさいし、する気も意味も無いし。
質の良い物が欲しい時は流石に自分で作るけど、何でもかんでも作る気は無いもん。
以前と変わった事があるとすれば、ミリザさんと手紙のやり取りをする様になった事かな。
そんなに頻繁にやり取りをしている訳じゃないけれど、偶に書いて送っている。
配達は精霊達にお願いしているので、遅くても翌日には届いているはずだ。
「ん~・・・はぁ・・・幸せだなぁ・・・にへへ」
また朝起きて、朝日のさす窓を見ながら、そんな言葉が自然と漏れた。
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『皆あつまれー!』
『『『『『集まれー!』』』』』
キャーっと声を上げて、僕達が一か所に集まる。
今日は定期会議の日だ。さっき決めた。前回は無かったし次回は未定。
円になって固まると、真ん中に居る僕がオホンと咳をする。
『えー、これから会議を始める。議題は・・・なんだっけ?』
『アスバちゃんの敵についてだよー』
『あ、そうだったそうだったー。おほん。ではアスバちゃんの敵についての会議を始める』
この間アスバちゃんに手紙が来て、アスバちゃんを殺せという内容だった。
しかも何故かリュナドとか、主にやらせろって書いてあったから、僕達は皆怒ってる。
もうぷんぷんだよ! 本当に怒ってるんだから!
『アスバちゃんが喧嘩したら、僕達大変なのに!』
『絶対吹き飛ばされちゃうもん!』
『ばーんこわい・・・』
『アスバちゃんはびりびりとぼうぼうってされるのも怖いー』
『僕リュナドがアスバちゃんの前に立ったら逃げる。絶対に逃げる』
僕達は口々に文句を言って、僕も同じ様に文句を言っている。
だって怖いもん。アスバちゃんと喧嘩したら僕達絶対勝てないもん。
でも主が戦うなら戦わなきゃいけないしなぁ。主を守らないといけないもん。
本当になんてことを言い出すんだ。ぷんぷん!
『静粛に! 静粛に!』
ただ皆が思い思いにしゃべるのを、真ん中の僕が止める。
木で作った小さな槌を地面にダンダンとぶつけながら。
議長役はそういう物らしい。僕達は一旦皆喋るのをやめた。
そして議長の僕は付け髭を撫でながら、またオホンと咳をする。
『えー、アスバちゃんは機嫌を直してくれたし、主達がアスバちゃんと戦う事は有りません。なので今はその時の事を言うより、手紙の差出主にどう対処するかを語りましょう』
手紙の差出主。ここで言う差出主は、持って来た人間とは違うらしい。
最初に内容を知った時、持って来た人間を殴ろうとしたらフルヴァドさんに止められた。
その人はただ持って来ただけだから、手を出しちゃ駄目なんだってー。危ない危ない。
『では皆さん、案を!』
『燃やすー!』
『殴るー!』
『蹴るー!』
『叩くー!』
『かじるー!』
『投げるー!』
『えと、主にバーンってしてもらうー!』
『あ、じゃあ主にカチンって凍らせてもらうー!』
『じゃあ僕は黒塊投げ込むー』
『え? ええと、ええと・・・・・・あ、全部ー!!』
『『『『『さんせー!』』』』』
『では賛成多数で、全部やる事に決めます! 会議の結果は後で主に報告します!』
『『『『『はーい!』』』』』
全員賛成で会議は終わった。今日の会議も良い物だったと思う。
会議って多分こんな感じで合ってるよね?
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