第364話、関係ない事だと思っていた錬金術師
同盟の細かい部分の話が決まった後、やっとお家に帰れると思っていた。
「取り敢えず、街の人間安心させないとな。はぁ・・・また、見世物になるのか」
と、リュナドさんが項垂れながら、まだ街に居なきゃいけないと言っていた。
どうも街に出て、ミリザさんと一緒に色々説明をするそうな。
流石にそんな彼を置いて先に帰る、なんて事は言えるはずもないだろう。
そもそもパックも一緒に協力する様子だったので、尚の事私一人我が儘は言えない。
という訳で今日は休もうという話になって、またメイラと二人で部屋に籠っている。
家精霊、寂しがってるだろうなぁ。今回はメイラも居ないし。
処置してすぐ帰るつもりだったから、かなり予定外の長さになってる。
フルヴァドさんやライナが様子を見に行ってくれてると良いんだけど。
「帰ったら家精霊を労ってあげなきゃなぁ」
「今頃寂しくて丸くなってそうですよね、家精霊さん」
「うん、なってそう」
「家精霊さん、拗ねる時も丸くなるんですよね。表情見られたくないみたいで」
「怒ってる時と笑ってる時以外は、見せないようにするね、あの子」
あの子は自分の事よりも私達が優先だから、嫌な事を余り嫌って言わない。
それが家精霊ってものなんだけど、それでも私はあの子を家族だと思っている。
だったら出来るだけ、あの子が快く生活出来るように、とは考えたいな。
「セレスさん、割った水晶こっちに置いておきますね。神性の力も先に込めてます。私がやって呪いになると怖いので、精霊さんに任せちゃってますけど、確認はちゃんとしました」
『『『キャー♪』』』
「ん、ありがとう」
因みにただ籠っているだけじゃなくて、魔法石の作成をやっている。
本当はのんびり寝ていたい所なんだけど、竜神との戦闘で手持ちが心もとない。
特に結界石だ。あの時全部使い切ってしまった。流石に守りが無いのは不味い。
なので水晶が取れる所が近くに無いかと、ミリザさんに訊ねてみた。
すると今ある分を分けて貰えるという話になり、採取に出る時間を省けている。
結界石がない状態での採取は若干危険もあるし、素直に甘えさせて貰った。
私は魔法石の作成に集中し、水晶の加工はメイラに任せている。
精霊達も手伝ってくれているんだけど、さっきからガリガリと食べている様な。
まあ良いか。元々この子達は石類が主食だ。手伝ってくれる報酬と考えよう。
「魔法の訓練をする様になってからこの光景を見ると、本当に何時か同じ事出来るのかなって思っちゃいます。本当に凄いですよね、セレスさんの魔法石」
「んーそうかな。私はお母さんに教えて貰っただけだからなぁ。凄いのはお母さんだよ」
「そういえば、セレスさんはお母さんが錬金術師のお師匠様なんですよね」
「うん、そうだね。私より凄い錬金術師だよ」
「・・・セレスさんより凄い人って、想像が難しいですね」
そうかな? 私より凄い人なんて沢山いると思うけど。
リュナドさんやライナがそうだし、パックだって対人能力は私より上だ。
むしろ私より対人能力の無い人が居るなら、会ってみたいと思う。
「セレスさんのお母さんって、どんな人なんですか?」
「お母さんは・・・根っからの錬金術師で、私にその術を教える事すら楽しんでたと思う」
「セレスさんを錬金術師として育て上げる事を楽しんでいた、って事ですか?」
「んー・・・それはちょっと違うかな。お母さんは、私に才能があったから教えただけ。別に錬金術師にしたかった訳じゃないと思う。ただ錬金術が好きなんだ、あの人は」
只ひたすらに、知らない事を知る事が好き。
知った事でも何度も実験して違う結果が出るのが好き。
何度やっても理解出来ない事を何度もやってみるのが好き。
だからお母さんにとっては、子育てすらその範疇だったんじゃないかなって気もする。
もしかすると私を家から追い出したのすら、実験の範疇なのかもしれない。
いや、流石にそれは無いかな。無いと思いたい。
「ふふっ、じゃあセレスさんと一緒ですね」
「・・・そうかな?」
「ええ、楽しそうですもん、何か作ってる時とか、調べてる時とか」
・・・前にもリュナドさんに、似た様な事言われたなぁ。
あの街に行くまで、私とお母さんに似てる所なんて、見た目ぐらいだと思ってた。
優秀で、何でも出来て、凄く強い、本物の錬金術師。私とは違う存在。
「・・・そうだと、嬉しいな」
尊敬するあの人と、お母さんと似てると言われるのは、嬉しい。
私は一生半人前で、きっとお母さんに届く事なんて無いと思っていた。
一人前なんて言葉は、きっと私には、一生縁が無いと思っていたから。
「いつか、お母さんみたいに一人前に、なりたいね」
こんな風に思える日が来るなんて、追い出されたあの日は考えもしなかった。
自らそうなりたいと、弟子に胸を張れる人間になりたいと、そんな事を考える日が。
「セレスさんが半人前だったら、私は四分の一以下ですね。頑張らなきゃ」
「メイラは頑張ってるよ。むしろ無理しないで欲しいな」
「いえ、頑張ります! もっと頑張りたいです!」
「ふふっ、そっか」
ふんすと気合を入れる可愛い弟子が可愛くて、思わず笑いながら頭を撫でる。
まあ無理をしていたら家精霊が気が付いてくれるだろう。
念の為、帰ったらその辺り伝えておこうかな?
「それに無理しちゃ駄目なのは、セレスさんですよ。明日から大変じゃないですか。リュナドさんと一緒に、街をいっぱい回るんでしょうし、もうそろそろ寝た方が良くないですか?」
「・・・ん?」
え、何それ。そんな話私知らない。聞いてないよ!?
リュ、リュナドさんに確かめに・・・あ、でももう寝てるかも。
ど、どうしよう。ち、違うよね、メイラの勘違いだよね!?
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同盟の話が決まった翌日、説明は早い方が良いと法主と共に街に出た。
勿論法主は顔に布を被っていて、一般人に顔を晒す事は無い。
当然徒歩で出た訳ではなく、祭事用の車みたいな物の上にいる。
馬車の幌の上ぐらいの位置で、完全に見世物状態だ。パレードかよ。
そして俺は同盟を結んだ者として、錬金術師と共に隣に立っている。ただ・・・。
「あ、あのー、セレスさん」
「・・・何?」
「いえ何でもないです。気にしないでください」
「・・・そう」
セレスがくっそ不機嫌なんだよなぁ。目茶苦茶ピリピリしてる。
でもお前良いって言ったじゃん。ちゃんと確認取ったじゃん俺。
許可を出すのと気に食わないは別ってか。勘弁してくれ。
人前に出るのが嫌いなのは知ってるけど、今回は仕方ないだろ。
ああもう、言い知れぬ圧力みたいな物が凄く怖い。
でも声をかけると今の返事だし、話しかけるなって事だろうなぁ。
その割に腕に抱き付いていて、ただこれは狙いがあっての事だとは思う。
だって多分、狙い通りの言葉があちこちから聞こえるし。
「相変らず仲睦まじい」
「微笑ましいのう」
「お似合いの二人ですね」
セレスが街で戦闘をした事は、どうやっても誤魔化し様がない。
だから今日の説明をする前に、昨日の内に噂を既に多少流してある。
まあ信徒達が触れ回ったので、噂というのもおかしい気もするが。
その内容は『同盟を組むにあたって竜神自ら力を確かめた』という物だ。
勿論竜神が顕現した事も、高僧達が近距離で見た事も告げている。
街の住民もそれっぽい存在を遠目で見ているし、信憑性はそれなりにある。
そして俺は神と同じ力を使い、竜神が敬意を払う存在として扱われた。
結果として『竜神公』とは呼ばれなくなった。
代わりに『精霊公』という半分神様扱いだ。止めて欲しい。
んでその噂に更に乗せられたのが、セレス達は共に歩む者として力を見せたという物だ。
精霊公の従者として、って話だったと思うんだが、人の噂ってのは怖いな。
何処でどう変化したのか、精霊公に嫁ぐ者としての力を見せた、って話になってやがる。
何でだよ。事前の説明とまるで違うだろ。
まあ・・・多分最初にこの街に来た時の態度のせいだろうなぁ。
荷車で仲良く座ってるの見せつけてたもんな。畜生。
そんなこんなで法主殿は、流した噂を確実にする為の説明に回っている。
大体そんな状況だ。俺はもうただ黙って槍を構えて見世物になってるだけだ。
セレスは気に食わなくとも許可を出したし、ミリザさんとの約束もある。
だからこうやって俺の腕に体重を預ける様にしてるんだろう。
はた目からは仲が良い様にしか見えないからな。
まあバカな事を考える奴が出ない様に、俺達はあくまで同盟相手って見せてるんだろうが。
『『『『『キャー♪』』』』』
精霊達は楽し気に手を振ってる。ぴょんぴょん跳ねて全力で楽しんでる。
むしろ何故か街の住人に混ざって、こっちに手を振ってるのも居るな。
何なんだお前等。どういう立ち位置なんだよ・・・。
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