第329話、皆が迷子にならない為に頑張る錬金術師

アスバちゃんとリュナドさんの喧嘩から数日・・・どころじゃなく日数が経った。

けれど未だ私は家でのんびり過ごしていて、腕を繋ぎに行くという連絡は来ていない。

てっきりもっと早く行く事になると思ってたから、何だか忘れてしまいそうになる。


むしろ先日アスバちゃんがちょろっと話題に出さなければ、完全に忘れていた程だ。

そういえばそうだったと思いだし、けれど別にリュナドさんに訊ねてはいない。

だって私としては、別に直さなくて良いかなぁ、って思ってるし。


とはいえ何時か法主さんには会いに行きたいんだよね。後法主さんのお付きの人にも。

迷惑をかけちゃったし、お詫びも込めて何か出来ないかなって。

未だ良い案が浮かんでないんだけど、まだ誰にも相談していない。


出来れば人に相談せずに、自分で考えたいなぁってちょっと思ってる。

どうしても思いつかなければ誰かに相談するけど、もう少し自分で考えてみたいな。

と言う事を先日ライナに言ったら、頭を褒めて撫でられたので頑張りたいと思う。


「――――ふっ!」

「わあ、パック君凄い凄い!」

『『『『『キャー♪』』』』』


なんて事をポヤッと考えながら、目の前でパックが魔法石を使いこなす様子を眺めていた。

魔法石の魔法を解放し、小さな火柱を作り、そのまま暫く手の上で止まらせている。

メイラはパチパチと拍手をし、まるで自分の事の様な喜びようだ。


精霊達も一緒になってパチパチ手を叩いている。家精霊はパックに見えないのが残念だ。

あ、けど今日は服を着ているし、手を叩いているのは解るかな?


二人はあれからもずっと魔法の訓練を続けている。

とはいえ相変らず二人はまだ自力で魔法を使った事は無い。

有るのは今の様に、魔法石を使った魔法だけだ。


それも使えるのはパックだけで、メイラはまだ使えないんだけどね。

メイラの方が制御は上手かったはずなんだけど、最近はパックの方が上達が早い。

一度魔法石を使える様になると、一気に制御能力が上がった気配がある。


今もただ使っただけではなく、合成魔法石の制御もやって見せた。

勿論私が使っている物ではなく、二人用に威力を抑えた魔法石だけど。


「うん、ちゃんと制御出来てる。上手だよ、パック」

「あ、ありがとうございます・・・!」


頭を撫でながら褒めてあげると、パックは心底嬉しそうな顔を見せる。

どうも実技でメイラより先に出来た、という事が嬉しいらしい。

昨日メイラがそう言っていた。パック君は凄いのに小さい事を気にし過ぎですよねーって。


ただそう言うメイラはとても嬉しそうで、何だか私も嬉しくなった。

二人の仲が良いんだなって、それだけで凄く解るから。

当のパックはそう言われてちょっと照れ臭そうだったけどね。


「・・・先生、魔法石を作るには、魔法を使える必要が有るんですよね」

「ん? うん、そうだよ」


昨日の事を思い出していると、パックが真剣な顔で訊ねて来た。

突然どうしたんだろう。それは最初に説明したと思うんだけど。


「魔法を実際に使う訓練は、どの程度の制御能力を手に入れたらやる予定なのでしょう」

「んー・・・そうだなぁ」


おそらく今のパックなら、弱い魔法なら使えるだろう。

けれど魔法を魔法石に詰めるには、制御能力の足りない不安定な魔法になるはずだ。

その点を考えるのであれば、まだまだ制御の訓練を続ける方が意義がある。ただ・・・。


「何でそんな事を聞くの?」

「―――――っ、す、すみません、差し出がましい事を口にしました」


え、いや、ただ気になっただけで、謝る必要なんか無いんだけど。

しょぼんとしたパックに慌てていると、彼は私を上目遣いで見ながら続ける。


「気が逸っていました。早く魔法を使える様になって、早く魔法石を作れる様になれば、やっと私もメイラ様と共に並べるのではないかと・・・そう思い・・・申し訳ありません」


心から申し訳なさそうに謝るパックだけど、別に謝る必要は無い様な。

ただメイラと同じぐらいになりたい、っていう事でしょ?

でもパックはパックで凄い所沢山有るから、そこまで気にする事無いのになぁ。


それにしても、そっか、早く魔法を使う訓練をしたかったのか。

これは私の落ち度なんだろう。弟子の望みに全然気が付けなかった。


「そっか、良いよ、謝らなくて。私こそ、そんな風に悩ませてごめんね」

「せ、先生が謝る事ではありません。僕が先生を信じて我慢出来なかった未熟なだけで」


パックは本当に自分に厳しいなぁ。こういう所アスバちゃんにちょっと似ている様な。

思わずふふっと笑ってしまい、パックの頭を撫でる。


「未熟なら、私も師としては未熟だから、お互い様だよ。気にしなくて良いから」

「――――、は、はい」


パックが顔を真っ赤にしながら、コクコクと頷く。

最近段々とこうなる事減ってたけど、まだ時々照れ臭いらしい。

照れ所が良く解んないなー。でも嫌がってる訳じゃないらしいからいっか。なでなで。


「それじゃあ、少し魔法を実際に使う訓練もやってみようか」

「い、良いんですか?」

「パックがやりたいって言うなら、勿論」

「あ、ありがとうございます!」


嬉しそうに礼を言うパックと、それを微笑ましそうに見つめるメイラと家精霊。

所でメイラは制御がちょっと揺れてるよ。アスバちゃんに見られたら叱られちゃうよ。


そんな訳でパックには魔法を使用する訓練もつけてあげる事に。

・・・なったはずだったんだけど、すぐに制御訓練に戻る事になった。


「はぁ・・・! はあ・・・! ぐ、こんなに、違う物、なんですね・・・!」


実際に魔法を使う段になると、パックは脂汗を流しながら、小さな魔法しか出せなかった。

勿論それは私にとっては想定通りで、前にも多分そうなると告げている。

だからパックも予想通りだと思ったんだけど、どうやら予想よりきつかったらしい。


「すみません。先生が制御を鍛えろと言う理由が身に沁みました・・・」


そう言って、もう自力で魔法を使う事は無くなった。

私としても内心ハラハラしながら見てたから、ちょっとありがたかったりする。

あの状態って少し気を抜くと、大惨事になる時が有るからね。

いざという時助けに入る為、常に気を張ってないといけない。


そんなこんなで変わらない日々を過ごしていたある日、精霊がノートをくれと言い出した。

また美味しい物地図でも追加するのかと思いながら渡すと、また後日ノートを返される。


『『『『『キャー♪』』』』』

「ん、また美味しいもの沢山見つけたの?」


いっぱいになったからあげるー、と言われて受け取り、ぱらぱらと中を見る。

すると中には国中の地図が、とても詳細に書かれていた。

あれ、これ前のと違う。美味しい物とかそういうの書いてない。


というか、大きなお屋敷の見取り図とか、各街の水路とかまで詳細に書かれてる。

仕掛け通路というか、隠し通路かな。そう言うのもしっかり網羅されてる様な。

あれ、これ不法侵入してない? これは駄目なんじゃないかな。


不安になって精霊に目を向けると、精霊達は曇りの無い目でワクワクしている。

どう見ても『褒めて褒めて』と構えている様で、悪い事をやった自覚は無い。


『『『『『キャー♪』』』』』


可哀そうだけど叱らなければ、と思っていると、予想外の事を言われてしまった。


『迷子にならない様に頑張ったんだよー。これで主も僕達もリュナドも、アスバちゃんにばーんってされないよね! メイラとパックも安心!』


ああ、なるほど。あの件でこの地図を描いたのか。

うーん、リュナドさんの為かぁ・・・うーん、うーーーん・・・これは叱れない。

メイラやパックの身も案じてってのも悩み所だ。

それに私の為も想っての事だし、今回は褒める事、なのかなぁ。


「あ、ありがとう。ご苦労様」

『『『『『キャー♪』』』』』


労ってあげると精霊は撥ね飛んで喜び、家精霊にまで飛びついていた。

まさかの行動に家精霊が吃驚してたのは、ちょっと珍しい光景だったと思う。


「あ、でも彼の為って言うなら、彼に渡した方が・・・いやでも私の為でも在るのか」


となると、複写するべきかな。この量はちょっと時間がかかりそうだけど、頑張るか。

多分これぐらいの内容なら全部頭に叩き込めるとは思うけど、メイラとパックは無理だろう。

私が作った本の内容もまだ覚えられていない以上、現物が手元に有った方が良い。

なら原本は家に置いておいて・・・いや原本を渡した方が良いのかな?


良いや、もういっそ、三冊複写しちゃえ。

数日睡眠削ればなんとかなるよね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おーい、隊長殿ー。姫さんが愛しの旦那様に会いに来てんぞー」

「ちょ、誤解される事を大声で言わないで下さい!」

「あっはっは、誤解だと思ってんの、お前だけだと思うけどな」


怒鳴っても一切気にしない先輩に溜息を吐きながら、訓練を休止してセレスを迎えに行く。

彼女は領主館の客間で待っているらしく、ノックをしてから声をかけて彼女の反応を待つ。

するとかなり低い声が帰って来て、扉を開くのが嫌になった。


「・・・セレス、何かあったのか?」


恐る恐る中に入ると、セレスの鋭い目が突き刺さる。

すっげえ機嫌悪そう。確実に何か有っただろ、これ。


「・・・リュナドさんに、渡したい物が、あって」

「渡したい物?」


セレスは眉間に皺を寄せた後、怒りを堪える様に眉間を手で揉みながら応える。

声は低くて機嫌は悪いものの、俺に当たるという様子ではない。

その様子に少しホッとしながら彼女に近づく。

すると一冊の本を手渡され、何だこれはと思い中を開いてみる。


「・・・地図? なっ、ちょ、これ!」


そこに書かれていた物は、詳細な国の地図。

何処と戦争をやるとしても有用な、余りにも精密な地図だ。


しかも怖いのが、有力貴族の屋敷の見取り図も在る。

敵味方関係無く網羅され、隠し通路も全て書かれていた。

デカい商店の中とかも・・・うわこれ本気でヤバい情報あるじゃん。


「・・・精霊達が、作って、複写したから、あげる」


お前こんな物精霊に作らせてたのかよ。怖いわ。

あげるって、そんな気軽に渡して良い物じゃないだろ、これ。


・・・いや、今の俺は持つべきなのか。連中と対等に立ち回る為に。


「良いのか、俺が受け取って」

「・・・そんなの、当然だけど」


それでも俺が躊躇していると、セレスはギロリと見上げてそう告げた。

これは機嫌が悪いのではなく、甘い俺を咎めているのかもしれない。

もう少し危機管理をしろと、街中の精霊の情報を聞くだけじゃ足りないと。


「・・・感謝する」

「・・・ん、じゃあ、私は、帰るね。眠いし」

「ああ、見送りは居るか?」

「・・・訓練、してたの、邪魔したみたいだし、良いよ」

「そうか、解った」


彼女はゆら~っとした動きで扉に近づき、最後に俺に笑顔を向けてから去って行った。

鋭い目のままのニヤッとした笑顔だったけど、一応良しと判断されたって事かね。


「しっかし・・・いやこれ凄いな。目茶苦茶詳細だぞ・・・ん?」


ばらーっとめくっていると、最後ページに別で紙が幾つか挟まれていた。

一体何だろうかと思い開いて、今度こそ絶句する。


法主の住む建物の見取り図。しかも精霊が言ってた『何か』の居る場所まで書かれている!


「えぇ・・・まじかよ・・・」


これかなりやべーじゃん。持ってるの知られたら大事だぞ。

見なかった事にしたい。したいけど出来ないよなぁ。


「・・・多分、これを態々渡した理由、有るんだろうな」


けどセレスはそれを口にしなかった。つまり自分で考えろって事だ。

もしかして最後の笑顔ってこれが理由か。


勘弁してくれよ。絶対騒動が起きるって警告じゃねえか。

法主とのやり取りは順調なのに、すっげえ嫌な気分になって来た。

最初の様子も機嫌が悪いというよりも、能天気な俺に呆れてたとかだったのかも・・・。

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