第327話、弟子の為の武器を作っておく錬金術師

腕を治した翌日、リュナドさんから腕の件の話が改めてあった。

領主と相談した結果、やっぱり色々話を詰めてから向かう方が良いと言う事らしい。

なら急いで治す必要無かったな―、と少し思ったけど、彼の言葉で直ぐ考えを改めた。


「治る治らないの不確定な話をしなくて良いから、早い仕事は助かるよ」


彼はそう言っていたので、早めに済ませた自分の判断を褒めてあげたくなった。

とは言えこれは彼に治して欲しいって言われての事だから、私の判断とは言えないけど。

ただ指示された事を、淡々と指示通りにやった。ただそれだけだし。


まあそんな訳で帰って来てから暫く、のんびりした日を送っている。

朝は毎日メイラとパックを見送り、その間私は仕事や本を作る作業を進める。

二人が帰って来たら採取物の確認と、物の良し悪しなどの授業。

実作業も交えた後に少し休憩して、それから魔法の訓練をするようにした。


魔法の訓練を最後にしたのは、時間的な理由が有る。

二人はどうしても訓練を頑張ってしまうし、私も頑張ってると止め難い。

けどこうすれば夕食前には止めないといけないし、二人が無理し過ぎる事も無い。


「ほら、安定したからって気を抜かない! その状態を保つ! メイラは絨毯を操れるんだから、一定量の制御の大事さは解ってるはずでしょうが! 殿下は力を抜きなさい! 体に力を入れた所で魔力の制御は変わんないわよ! むしろ無駄に力入ってるから集中できないのよ!」

「「はい!」」


・・・ただ何で、私じゃなくて、アスバちゃんが指導してるんだろう。

しかもさっきから、結構厳しめだし。怒鳴られてるせいで私が怖い。

でも二人共生き生きしてるし、口出さない方が良いんだろうなぁ。

アスバちゃんが混ざってきた時も、二人共頭を下げてお願いしてたし。


「うう・・・私も参加したい・・・けどアスバちゃんが怖い・・・」


私は居場所がない気分で呟きながら、庭の端っこで魔法石を作っている。

二人魔法制御を眺めつつ、威力を大幅に落とした魔法石をだ。


今の二人では魔法石を作る事は出来ない。間違いなく暴発する。

けれど『作る』のが無理でも『使う』だけなら不可能じゃない。

今は少し厳しいだろうけど、あの感じだと数日訓練すれば行けるとは思う。


勿論普段私が使ってる魔法石は無理だ。

あれは私が使う為に作ってあるから、多分カギを外せない。

二人が私と同じだけの制御能力が在れば別だけど、まだまだその域には無い。


「・・・複合魔法石にしないなら、出来ない事も無いけど、ね」


魔法石の魔法には指向性が無い。それは複合魔法石を作る為だ。

下手に指向性や、力のブレが存在すると、複合時に余計な制御が要る。

複数の魔法石を一つの魔法として繋げられる様に、ただただ魔法だけを詰めている。


つまり魔法石を使用する際には、ある程度使用者本人が指向性を制御する必要が有る訳だ。

けれど魔法石を作れるだけの技量が有れば、その程度の事は簡単に出来る。

むしろその程度の事が出来なければ、魔法石の作成なんて絶対に出来ないし。


ただ使用は別だ。やろうと思えば使えない訳じゃない。だって指向性が無いだけだもん。

けど指向性の無い魔法を使えばどうなるか。結果なんて目に見えている。

その場で、使用者を、魔法が襲う。指向性が無いのだから当然だ。


だから私は魔法石に鍵を付けている。下手に発動したら危険だもん。


「二人の制御だと・・・このぐらい、かなぁ。うーん、威力が心許ない・・・」


今詰め込んだ魔法には、魔獣を打倒する様な威力は無い。

少し怯ませる、良くて急所に当たれば気絶、程度の魔法だ。

けれどそれが有るか無いかでは、大分話も変わるだろう。

目晦まし程度になれば、逃げる時間だって稼げるはず。


勿論これにだって鍵をかける。二人がきっちり指向性を持たせられないと外せない様に。

そうしないと二人が危ないからね。理解や制御が出来ない力程危ないものはない。

二人の制御訓練を見て、それに見合った程度の物しか渡す気は無い。

そう決めて魔法石を作りながら、二人の訓練に目を向ける。


「ほら、また力が入ってる! 武術の鍛錬してんじゃないんだから、力抜きなさいっての!」

「はい、すみません!」

「メイラは殿下を気にしない! アンタは制御は一定になりつつあるけど、魔力を絞る事が出来てないの! 自分は出来てるつもりになってんじゃないわよ!」

「は、はい、ご、ごめんなさい!」


・・・二人とも凄いなぁ。私ならそろそろ泣き出してる気がする。


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『今日も来たよー!』

『今日はねー、この黒い・・・黒い・・・何だっけ?』

『解んないけど黒い甘いのー! あと硬い!』

『歯ごたえ有って美味しいよねー。もぐもぐ』


ミリザに貰ったお菓子を床に広げ、良く見えない空間でもぐもぐ食べる。

食べながらそのうちの一つを差し出すと、僕の手から一瞬で消え去った。

もったいない。お菓子はゆっくり食べるのが美味しいんだよー。


『・・・これで用は済んだだろウ。去レ。小さき神性ヨ』

『僕だって早く出たいもん!』

『そーだそーだー!』

『ここが見えないのが悪いんだもん!』

『地図完成しないと僕達迷子扱いされて、アスバちゃんにバーンってされるんだぞ!』


見えない何かが帰れって言うけど、全員で文句を言い返す。

僕だって帰れるならとっくに帰ってるもん。せめて街の方に行ってるもん!

けどこの良く解んないのが居るせいで、この辺りの地図が完成しない。

これじゃ主に見せられないし、迷子になってたって言われちゃうかもしれない。


『だからお菓子あげるから、見える様にしてよー!』

『美味しい物食べたから良いでしょー!』

『美味しくない料理じゃないんだよー?』

『あれ・・・本当に美味しくない・・・もうヤダ・・・』


ミリザが毎日食べてる料理を思い出して、何だか悲しくなって来る。

僕達も普段はあれを食べるしかないから、我慢して食べてるんだもん。

皆でしくしく泣いていると、カツカツと足音が響いて来た。


「やはりこちらでしたか。抱えて走って行くからおそらくとは思いましたが・・・簡単に侵入されると少々困るんですよ? 本当はこの部屋に辿り着くのは、私でも簡単ではないのですから」

『あ、ミリザー。アイツ狡いんだよー!』

『そうだよ! 美味しいお菓子食べたのに、言う事聞いてくれないんだよ!』

『酷いよね! 僕達も食べたいのに! もぐもぐ!』

『『『あー! 最後の一個食べたー!』』』

『僕まだ食べた数一個少なかったもん!』

「・・・これは話を聞いてませんね、多分・・・はぁ」


食べた食べてないで喧嘩をしていると、ミリザがカツカツと僕達を通り過ぎる。

そして膝をついて手を頭の上で組み、何かに向かって頭を下げた。

この建物の色んな所で、住人達が良くやってる動きだ。

何となく僕達もその横に並んで、同じ様な体勢を取ってみる。


「我らが偉大なる守り神よ。彼の者達は我らが協力者。その細やかな願いを聞き届けて頂く事は叶いませぬでしょうか」

『それらは貴様の言葉に従いはしなイ。真に信仰するは主と仰ぐ女ダ。容易く貴様の敵になル。信用は危険ゾ』

『なんだとー!』

『僕達危険じゃないもん!』

『そうだぞ! 危ない事するとライナとリュナドに叱られるんだぞー!』

『それにミリザはお菓子くれるから嫌いじゃないもん!』


立ち上がって文句を言うけど、反応が返って来ない。

もう、なんでこいつはこうなの! 主に言われた通り、仲良くしようとしてるのに!

ミリザはすぐに仲良くなってくれたんだから良いじゃん! 

あと言う事きかないならお菓子返せー!


「勿論我が神の危惧は解っております。ですが彼女と事を構える事こそ、民にとって危険かと。我等が民を守る為にも、彼等とは手を取り合いたいと、そう思っております」

『あの竜であれバ、どうにかなるとしてもカ』

「我が神の全力を使うは最終手段でありましょう。先日は力をほんの少しお借りしましたが、それでも私には身に余る力。この国を守る為にも、まだ私は倒れる訳にはいきませぬ」


竜って、あの竜の事なのかなー。でもこの良く解んないの、そんなに強いのかな?

一つになってない僕達を外に吹き飛ばすぐらいの力は有るけど、なーんかよく解んない。

強い様な気もするけど、そうでもない様な気もする。ふしぎー。


『・・・確かニ。今貴様に死なれては困ル』


その声が響いた瞬間、部屋の中がはっきりと見える様になった。

部屋の中はこの建物のどこかに在った祭壇に似てたけど、一つだけ全然違う物が在る。

祭壇には確か石像が有った。けどここには、その石像が有った場所に、別の何かが居る。


『部屋は見える様になったけど、アレはよく見えないー』

『ムー、やっぱり意地悪ー』

『お菓子食べたでしょ! ちゃんとやって!』

『報酬貰ったらお仕事でしょ!』

『・・・これで貴様らの目的は達せるはずダ。これ以上の譲歩は無イ』


むう、我儘なやつー。けどこれでちゃんと地図が出来るし、まいっか!


「願いを聞き届けて頂けた事、深く感謝を致します」

『願いを聞き届けた訳ではなイ。いい加減コレの相手が面倒になっただけダ。故に対価も無ク、ただ今まで通り祈れば良イ。当代の法主ヨ。我が半身ヨ。わが愛する民ヨ。健やかに生きヨ』

「仰せのままに、我が神よ。この身は民と、民を守りし貴方様の為に」


なんか偉そうに言ってるけど、やっとここから離れられる事の方が大事だもんね!

早く地図書いて、街に出るぞー! やっと美味しい食べ物探せるぞー!!


『見えないけどこれなら触れ――――』


あ、触ろうとした僕が外に吹き飛ばされた。今日はあっちに飛ばされたのかー・・・あれ?

僕が何処に居るか解る様になってる? 今まで全然解んなかったのに。

急に何でだろ・・・良いや! 早く地図書いて街に出よっと!

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