第316話、何時かの勉強を考える錬金術師

早く帰って良い事になったらしいので、法主さんにお礼を言って荷車へと足早に向かう。

荷車の番をしてくれていた精霊達に礼を言って、とっとと乗り込んだ所でふと後ろを振り向く。

そしてそんな私を不思議そうに見るリュナドさんに、今沸いた疑問をぶつける。


「えっと、ここから荷車を飛ばして良い、のかな?」


入る時は確かリュナドさんがいきなり入らないようにと言っていた。

なら出る時はどうなんだろう。完全に飛ばして出るつもりだったんだけど・・・。


「あー・・・まあ、良いんじゃないか。法主殿も早く帰って良いと言っていたんだし」

「そっか」


成程、確かに早く帰るなら飛ばした方が早い。

リュナドさんの言う通り、すぐさま荷車を上空へと飛ばす。

氷漬けの腕は・・・その辺に転がしておこう。

一応布で包んであるけど、ずっと持ってるには冷たいし。


荷車の番をしていた精霊達は、その腕を不思議そうにつんつん突いている。

ただリュナドさんに付いていた精霊が鳴くと、ムッとした顔で腕を睨み始めた。

そのまま放置すると叩き始めそうだったので、壊しちゃ駄目だよと注意しておく。


『『『『『キャー・・・』』』』』


すっごく不満そう。事情を聞いたから気に食わない、って感じなんだろうか。

でも気持ちは良く解る。私だって何でこんな物治さなきゃいけないんだろうと思うし。

けどそれがリュナドさんの願いなんだから、私の感情はそのまま横に置いておく。


その後は竜に合流しに向かうと寝ていたので、文字通り叩き起こす事に。

精霊達が総出でキャーキャーと騒ぎながら、竜をベチベチ叩いて何とか起きた感じだ。


『『『『『キャー!』』』』』

「ふあぁ~、うむ、すまんな・・・主よ、用は済んだのか?」

「ああ、だから帰るぞ」


寝ぼけた顔で聞いて来る竜にリュナドさんが応え、寝転がっていた竜が立ち上がる。

うーん、寝転がれる所を探したんだろうけど、それでも被害が酷い事になってるなぁ。

まあ街中に被害が出てないだけよしとしよう。一応山に転がってた訳だし。

竜が立ったら荷車を着た時と同じように背に乗せ、帰りも行きと同じルートを飛んでもらう。


「・・・もう帰るだけだし、鎧脱ぐか。暑いし」


リュナドさんはそう言うと鎧を脱ぎだし、鎧を纏めたら幌に背を預けて座る。

確かに最近ちょっと暑いし、そんな中鎧で完全装備は暑いよね

今度はその対策でも考えとここう。案が無い訳でもないし。

ただ取り外し可能な物で考えておかないと、寒い時に困るから気を付けよう。


彼が鎧を脱ぐと精霊達も普段の姿に戻り、それぞれ好きなように動き始めた。

いや、元々好きな様には動いていたっけ。規律も特に無かった気がする。


その後暫く無言の時間が続くと、リュナドさんの呼吸が少し変わった様な気がした。

ふと見ると彼は座ったまま寝ていて、精霊達はお互いにしーっと指を立てて注意をしている。

朝方眠そうにしていたし、やっぱり睡眠不足だったんだろうか。


あ、今更だけど、私の寝相が悪いせいで寝られなかったとか?

多分寝てる間に抱きしめたんだと思うけど、変な所を締めちゃってたのかも。

メイラやアスバちゃんだと問題無いんだけどなぁ。


「・・・お休み」


どうせ荷車の制御は私か精霊にしかできないのだし、彼にはゆっくり寝てて貰おう。

そうして飛ぶ事暫く、竜が方向を変えたのを感じた。砂漠まで来たらしい。

やっぱり早いな。荷車で飛ぶよりあっという間だ。


「・・・それだけじゃない、かな」


彼が居る。リュナドさんが居る。たったそれだけの事で時間が経つのが何時も早い。

家でお茶をしている時だって、気が付いたら日が動いている。

多分今も同じだろう。彼がそこに居るだけで移動時間を短く感じているんだ。


『キャー』

「ん、着いたね」


その証拠とでもいう様に、時間が飛んだように街に着いた。

ただ彼の顔をずっと眺めていただけで、他には何もしていないのに。


「この速度なら、余裕で降りれそう、かな」


竜は行きと違って軽く着地できる様に、道中速度を落としていたらしい。

然程旋回で速度を落とす事無く、比較的ゆっくりと地面へ降り立った。

まあこの巨体が地面に降りれば、どれだけゆっくり降りても限界が有るけど。

少なくとも着地で木々が飛んで街に被害が、なんて事はない様だ。


リュナドさんを起こさないように、外に出て竜の頭の傍に向かう。

街に近いから人の目は多いけど、リュナドさんを起こすぐらいなら我慢しよう。


「・・・ありがとう、じゃあ私は帰るね。リュナドさんは寝てるから連れてくけど、良いよね」

「構わん。主が寝ているならば私も寝るとしよう」


竜の返事を聞いてから荷車に戻り、出来るだけ揺らさないように家へと向ける。

そうして庭の上空に差し掛かった所で、家精霊が笑顔で待っているのが見えた。

ただ家の周りに居る山精霊達がキャーキャーと騒ぎ、リュナドさんが起きてしまったけど。


「すまん、寝てたか・・・」

「気にしないで。寝不足だったんだよね?」

「ああ、まあ、うん」

「だったら、家でもうちょっと寝て行く?」

「・・・それは魅力的だが、報告に行かないとな」

「そっか」


彼の返事を聞きながらゆっくり庭に降り、近付いて来た家精霊を抱きしめる。

すると嬉しそうに私を受け入れ、さらに擦り寄るように抱きしめ返して来た。

メイラが居るのに、相変らず寂しがり屋だね。あれ、そういえばメイラは。


「ただいま。メイラは・・・山かな?」


よく考えれば、時間的には採取に向かっている頃合いだ。

そう思い訊ねると、コクコクと家精霊が頷く。

なら帰って来る前に腕を運んで、治す準備でも始めようかな。


折角だし、今回はメイラとパックの前でやろう。

獣の手足では既に多少やったけど、人体の構造を実際に見る良い機会だ。

どうせなら一体丸ごと参考にした方が良いんだけど。


・・・今度野盗に会う機会が有れば、メイラとパックの勉強の為に持って帰ろうかな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ただいまー・・・あれ?』

『荷車が無い!』

『何で⁉』

『あ、あそこあそこ! 飛んでっちゃってる!!』


地図の空白をどうにか埋められないかと頑張ってたら、荷車が無くなっている。

驚いてキョロキョロと周りを見てみると、遠くの空に竜が飛んで行くのが見えた。

その近くに僕達と主の気配が有るから、みんなあそこに居るみたい。


『おいてかれた?』

『おいてかれたねー』

『ここの食事、美味しくないのにー』

『でも地図埋まってないから、仕方ないー?』


僕達はあの後も、何とかして地図の空白を埋めようと頑張った。

何度も突撃しては外に吹き飛ばされ、繰り返すうちに僕達は学んだんだ。

突撃するから吹き飛ばされるんだって! ゆっくり近づけばアイツ吹き飛ばしてこない!


それが解った僕達は、ゆーっくり、そーっと近づいて、ペタペタ手探りで調べ始めた。

ただ話しかけるとまた放り出されるから、今度は口を押えて調べる事に。

けど口を押えてると手が使えない。困った。

どうしようかなーと悩みながら一旦帰って来たら、主においてかれちゃった。


『諜報員続けるー?』

『でもここ美味しくない・・・けど地図完成してないから別の所行けない・・・』

『そうだねー・・・』

『料理は美味しくないよねー。もぐもぐ』


皆でしょぼんと項垂れる。今回は残る気あんまりなかったのになぁー。

でも残っちゃったのが僕達だけなら仕方ない。諜報活動を続けるしかない。


『うーん、主に何かあったのかな?』

『何か解る―?』

『んー・・・解んない!』

『僕達別行動だったもんねー、もぐもぐ』


主の事なら別行動でも大体僕達は解るけど、今回はこの家の中に居たから全然解らない。

やっぱりこの建物の中は僕達の力があんまり使えない。

だから主の場所も解らなかったし、置いて行かれたのも外に出ないと気が付けなかった。


『もぐもぐ・・・仕方ない、がんばろー』

『・・・さっきから何食べてるの?』


懐から取り出した小さな何かを、僕が大事そうに食べている。

しかもとっても美味しそうに。


『お菓子ー。地図書いてる途中でちょっとだけ見つけたー』

『あー、狡い! どこで見つけたの!?』

『もう無いよー。これで最後ー。もぐもぐ』

『全部食べたー! ちょっとぐらい分けてよー!』

『僕が見つけたんだもーん。それにちょっとしかもう無かったんだもん』

『絶対まだ隠してるでしょ! だせー!』

『も、もうないもん! 袖に隠して無いもん!』

『『『袖だ! 奪えー!』』』

『やだー! これ僕のだもーん! お菓子はゆっくり食べるのー!!』


僕は袖を抱えて走って逃げだし、僕達は全力で追いかける。

食べ物の恨みは怖いんだよって、主も前に言ってたんだぞ! よこせー!


そうやって建物に逃げ込んだ僕を追いかけ、気が付いたら皆散り散りになってた。

この建物の中なら見つけられないからって、中に逃げるなんて狡い!


確かにお菓子は美味しかったって、主と合流した時に聞いてた。

けど全然見つからないから諦めてたら、独り占めしてたなんて。

絶対僕も見つけてやる! 見つけたら内緒で食べてやる!


「・・・精霊、様? 帰られたのでは?」

『? だれー?』


プンプンと怒っていると、後ろから声を掛けられた。

見ると顔に布をたらした人と、その後ろに知ってる男が立っている。

確か主を案内してた奴だ。ならこの布も主の知り合いなのかな?

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