第306話、法主の事情を聞く錬金術師

自己紹介を済ませると、法主さんは笑顔のまま小さく息を吐き、すっとお茶に手を伸ばす。

そして軽く喉を潤す程度の量を流し込むと、また小さく息を吐いた。


たったそれだけの事なのに、所作がとても綺麗だと感じる。

上手く言葉に出来ない不思議な魅力というか、引き込まれる物が在る様な感じだ。

優し気な笑顔である事も相まって、緊張が少しずつ解れて行く様な気がした。


「では自己紹介も済みましたし、早速ご用件を伺わせて頂いても宜しいですか? 態々精霊公様ご本人が、この様に急ぎで、直接訪問された理由をお聞かせ頂きたいですね」


彼女はカップを置くと、穏やかな笑みのままリュナドさんに視線を向けて問いかける。

むしろさっきよりも笑みが深く、声音もそれに相応しくとても優しい。

ただその視線を受けるリュナドさんはというと、彼女と違い少し困った表情に見える。


何故だろうかと一瞬思ったものの、すぐに当たり前だろうという結論に行きついた。

だって今回の件は私の用事で、リュナドさんは付き添いなんだもん。

まるで彼がここに用が有ったかの様に言われたら、困った顔くらいはするよね。


「・・・用が有るのは、私」

「ふむ・・・それは大変失礼致しました。ではセレス様、どういったご用件でしょう」

「・・・話を、聞きたくて」


慌てて訂正をすると、法主さんは一瞬驚いた様な顔の後、視線を私に向ける。

ただすぐに笑顔に戻っていたので、さして詰まらずに返答する事が出来た。

けれど私の言葉を受けた彼女は、笑顔のまま可愛らしく首を傾げる。


「お話、ですか。随分漠然としていますね。して、どういった話を?」


あ、そ、そうだよね、話を聞きたいって言われたって、解んないよね。

えっと、最初はすぐに謝ろうと思ってたけど、ライナは先ず話を聞けと言っていた。

誰も彼もが私を敵とは思ってないかもしれないから、相手から事情をちゃんと聞く様にと。

なら先ずは、彼女が私を敵対視しているかどうか、っていう点を聞くべきなのかな。


「・・・貴女は、私を、敵だと思っている?」


おずおずと様子を窺うように問うと、彼女は一瞬笑顔のまま固まった様に見えた。

けれどすぐにカップに手を伸ばし、喉にお茶を流し込むとふぅと息を吐く。

彼女はさっきも同じ様な動作をしていた。息を吐くのは癖なのかな。


あ、でも私も似たような所あるかも。

お茶を飲んでホッとすると、はふって息が出ちゃうし。

早く帰って家精霊のお茶を飲みたいなぁ。


「私個人としては、敵対はしたくありません。そもそも戦闘が嫌いですし、出来る限り誰とも戦わずに事を終わらせたい。誰かを敵だ、などという思考は出来れば余り持ちたくありません」


家精霊の事を想いながら返答を待っていると、彼女は静かな声でそう返した。

あ、なら、彼女は私を敵だとは思ってないって事かな。

良かった。ライナの言う通り、ちゃんと話を聞かなきゃ解らなかった。


「そして法主としても、貴女と敵対したくはありません。貴女と戦う事になれば、どんな犠牲が出るか解らない。民を守る者として、出来れば貴女方と相対したいとは思いませんね」


ん、えっと、言ってる事はさっきと同じ事・・・だよね。法主としてってだけで。

ならやっぱり敵対する気は無い、って事で良いのかな。

戦ったら犠牲が出るのが嫌だから戦わない、って言ってるんだし。


「だからこそ、今の先走っている者達、金や権力に目が眩んでいる者達の行動は、不愉快極まりない。彼らはこの国の在り方を、根底から変えるつもりでいます」


彼女はまたお茶を飲んで息を吐くと、穏やかな声のままそう言った。

急に話が飛んだような。先走ってる人達って、一体何の事で誰の事だろう。

唐突に良く解らない方向に話が行き、解らないんだけど何て訊ねれば解るのかが解らない。


「私達に関わるべきではない。それがミリザ殿の判断という事で宜しいか」


理解不能で固まってしまった私を見かねたのか、リュナドさんがそう問いかけた。

さっきの言葉からどうやってその結論に至ったんだろう。

ただ法主さんがニッコリ笑って頷いたから、彼の言葉は間違ってないらしい。


・・・自分でやるつもりだったのに、また彼に助けられてしまった。

でもでも、だって、今の難しいと思うんだ。途中で全然違う話になったもん。

普通に「関わる気が無かった」て言ってくれたら解ったのに。

あれ、でもそれなら何で、僧侶達はリュナドさんを誘ったんだろう。


「勿論ただ友好的に国交を持つ、という事で有れば積極的に関わるべきだと思っています。武力の在る国と仲が良いという事は、それだけで周辺国への抑止力になりますから」

「それは私達を引き込んでも、結果は同じ事ではないか?」

「かもしれません。ですがそうなれば、この国は変わってしまう。私はそれを望みません」


私達を引き込むって、誘われてたのはリュナドさんだけじゃなかったっけ。

もしかして他にも誰か誘われてたのかな。その話は聞いてないけど。


「この国の上層部は今、単純に分ければ二つ、もう少し詳しく分けると四つの派閥に別れていると考えられるでしょう。もっと詳しく言えば、四つどころではありませんが」

「・・・その様な事を私達に語って大丈夫なのか」

「竜を伴い直接乗り込んで来た貴方に、この程度の事を隠す方が悪手では? それに何時かは事実に行きつくでしょう。ならば貴方が来た事を良い機会と考え、先に話してしまった方が良い」

「・・・そうか。ならば聞かせて頂こう」


相変らず二人の話が難しくて、理解出来ない所がちらほらある。

派閥が有るのは解ったけど、悪手どうこうの意味が解らない。

別にリュナドさんは派閥の事を聞いてなかったから、喋る必要もない様な。

けど彼は興味津々のようだし、暫く口を挟まないでおこう。


「先ず大きく二つ。竜人公を迎え入れたい者達と、精霊公を竜人公とは認めない者達です。そして先に述べた通り、私は精霊公を国へ迎え入れる気はありません」


法主さんが迎えたくないって言っても、それでも迎えたい人が居るんだ。

そっか。でもそれもそうか。考え方は皆違うよね。

ただリュナドさんが嫌がってる時点で、結局どうにもならないんだけど。

むしろ彼の嫌がる事をしないって言ってる分、私としては法主さんの方が好ましい。


「そして四つに分けた場合、貴方を竜人公だと信じている者、竜人公だと信じていないが引き込み実権を握ろうと考える者、単純に竜人公とは信じていないから拒む者、そして貴方が国に絡む事で国内が荒れる事を懸念する者。私はどれかと言われれば、一番最後になりますね」

「成程。だがそういう事であれば、私への接触を禁ずる事も出来たのではないか?」

「残念ながら法主という立場は、そこまで絶対的な物ではないんです。特に貴方は『竜人公』だと信じてしまいそうな程の力を持っている。そうなると信徒全員を抑えるのは難しいでしょう」


リュナドさんは彼女の言葉を聞くと、少しだけ俯いて考える様子を見せた。

その間法主さんは相変らず穏やかに微笑み、全てを受け入れてくれそうな雰囲気を出している。

思わずその笑顔に見ほれ、ぽーっとしながらリュナドさんの反応を待つ。


「つまり下手に信者が暴走しない様に、制限をかけて精霊公への接触を許可したと?」

「そういう事です。精霊公を利用しようと考える者達の息がかかった使者は出させず、けれど貴方を竜人公と信じる者達に行かせる。この形であれば、私は反対しつつも、彼等のやりたい事はやらせる形を取れます。最低限の要望を通した以上、私へ不満も言い難い」

「・・・もっと言えば、失敗が目に見えていた。そして精霊公や錬金術師に接触する者達を本人達の手で処分させ、信者達が自主的に接触を断つ様にさせようと考えた。違うか?」

「ふふっ、大正解です」


処分? 処分ってどういう事だろう・・・刑罰とかかな。

リュナドさんは貴族だし、余りしつこい場合は彼が裁く事になったとか、そういう事?


「だがその場合、私は貴国に不快と不信を抱く可能性が高い。そちらの方が危険ではないか」

「それでも私には、これが最善手でしたから。貴方を竜人公として招き入れる気は無く、そんな私の意思を伝える使者は送らせたくはない。そう考える人達が居る中で、もし私が無理に使者を送ればどうなりますか?」

「・・・最悪、使者の殺害だろうな」

「ええ、そうです。私はこんな事に命をかけさせたくはない。貴方に『国に来ないで欲しい』と交渉に行くだけで殺されるなんて、まったくもって馬鹿馬鹿しいと思いませんか」


彼女はにっこりと、明るい声で、そんな事を言った。

誰かを送るっていうそれだけの事で、そんな馬鹿馬鹿しい事で人を殺す者が居ると。

その事実を聞かされた瞬間、驚いて思考が止まってしまった。

けれど少しして頭が回り出し、納得出来ない気持ちが胸を占める。


理解出来ない。意味が解らない。だってそれは、別に敵対行動じゃないのに。

ただ彼を国に誘いたくない事を伝えたいと、たったそれだけの話じゃないか。

そんな事で人を殺すのか。自分の身が、大事な人が危ない訳でもないのに。


―――――――そんな連中が、リュナドさんを誘っている。


ああ、そうか、ライナが言っていたのはこういう事だったんだ。

事情をちゃんと聞いて良かった。きっと彼女は全部理解していたんだろう。

だから謝るよりも、法主さんから話を聞く様に、敵対者が誰かを知る様に促したんだ。


ここには欲望の為に人を容易く殺す連中が居る。その事を知れて良かった。

そんな連中野盗と何も変わりが無い。獣と何の変わりもない。

私に関わらないなら放置でも構わなかったけど、連中はリュナドさんに接触している。


自分の意のままに行かなければ人を殺す。同郷の者に対してそんな事をやるんだ。

ならその欲望の為にリュナドさんが邪魔になれば、きっと彼の事も殺すんだろう。


―――――――なら、私の敵だ。謝る気も、必要も、無い。


「・・・敵は、容赦、しない」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「私が竜を伴い滅ぼしに来る可能性を考えれば、無理をしてでも使者を出す価値はあるだろう。誘いに乗った可能性だってある。馬鹿馬鹿しいと断じる事は出来ないはずだ」


殺害の可能性が有るのに、使者を送るなんて馬鹿馬鹿しい。

張り付けた笑顔でそう語る私に、彼は真剣な目を私に向けて指摘する。

確かにその可能性は否定できない。けれどかなり低い可能性だと私は思う。


「貴方の国に新たな王が・・・いえ、まだ王太子でしたね。とはいえ実質新王が王座に君臨し、けれど貴方は街の一貴族として残っている。その事実が既に、貴方が問答無用で攻め入らないという証明になりませんか」

「なりはしないだろう、そんな事では」

「そうでしょうか。私の認識では、貴方が自国を滅ぼしてもおかしくないだけの事があったはずですが。それでも貴方は自国に攻撃をせず、それ所か国に何も求めていない。もし使者が不快という程度で攻め入って来る方であれば、今頃貴方は精霊王と呼ばれていると思いますよ」


彼が問答無用で武力を振るう人物であれば、一番に振り下ろされるべきは国内だったはず。

なれば今頃彼は精霊公ではなく、新たな王として君臨していておかしくない。

けれど彼はその力を国民に向ける事は殆ど無く、全てを無血で終わらせてしまった。

それは錬金術師の暗躍も理由だろうけど、彼が好戦的な人間ではないからだろう。


「狂信者のおだてなんて尚の事です。高位貴族の地位を与えられておきながら、領主にすらなろうとしない。ただ街の治安の為だけに居る。そんな方が誘いに乗る可能性は低いでしょう」

「考えは解った。だがそれでも全て低い可能性の域を出ていない。違うか?」


確かに結局可能性だ。彼と直接話した訳でもない以上、全て憶測でしかない。

万が一の敵対、という可能性が無かったとは言えないだろう。

実際その可能性を考えていたからこそ、僧兵に時間稼ぎを頼んだのだから。

だけどそれでも私には、少ない味方に危険を冒させる気は起きなかった。


「・・・正直に話しますと、私には味方が少ないんですよ。そんな低い可能性の為に、少ない味方を無くしたくはない。味方の命の方が価値があると、そう判断したんです」

「味方が少ない? 法主なのにか?」

「ええ、この国の法主になるには、派閥の勢力よりもちょっとした条件が必要なんです。その条件を満たせなければ法主にはなれない。そしてその条件を知る者達は、法主の私を余り蔑ろに出来ない。だからこそ、味方が少なくても多少は我を通せます」

「条件・・・それは」

「流石に、内容はお教え出来ません。ただどれだけ私の事が気に食わなくとも、条件を知っている者達は私を引きずり下ろす事は出来ない。そう思って頂ければ」

「成程、貴女を引きずり下ろす為に竜を求めたのか」

「ええ・・・そうなりますね」


法主に選ばれる条件を満たせる人間は少ない。

いや、厳密に言えば、同じ事をするだけなら出来る人間はそれなりに居る。

その中で群を抜いて最適だったのが私であり、それは法主の座を望んだ者達には脅威でもある。


私の判断一つで、下手をすれば国が亡ぶ。法主になれる者にはそれだけの力が有る。

だからこそ、小娘が上に立つ事を気に入らない者達が、彼を手に入れたいと望んだんだ。


今までの様に法主の力など必要とせず、解りやすく強大な『竜』という力を。

それがどれだけ愚かな選択か、考えもせずに。

もしそんな誘いに乗る人間だったなら、この国が良い様に蹂躙されると何故思わないのか。


「という訳で味方の少ない私は、彼等を自滅をさせようと考えた。自分で自分の首を絞める様に誘導させ、彼等の勢力を少しでも削ぎ落したかった。そういった味方が少ない故の打算でした」

「上手く行けば、やはり法主様が正しかった、となる様にか?」

「ふふっ、そういう事です」


狂信者達は扱い難くもあるけれど、その信心深さは扱い易くもある。

今は彼の事を本当に竜人公の降臨と思っているけど、その行動が違いすぎれば手の平を返す。

彼等は教義の都合の良い所しか見ない。見えない。理解しようとしない。


むしろ自分達が竜人公と言っていたくせに、竜人公を名乗る悪魔だなんて言い出しかねない。

狂信者とは、自分の信ずる物だけを、狂ったように信じる者なのだから。


とはいえ彼の訪問によって、予定を変更する必要がある。

街で彼を見た民達の反応は想像に容易い。余り悪い感情は持っていないだろう。

なのに二人を邪魔する様な手段を私が許可している、と民に思われる訳にはいかない。


少なくとも精霊公に協力して貰って、今回の訪問は誤解があったと公表する必要がある。

その上で私と彼はあくまで国交を結ぶ者としての友好を、という形を見せたい。

私と彼の意思が統一されていれば、信徒が暴走した所で非難の目は本人達にだけ向けられる。

そこまで行けば、もう他の派閥も黙るしかないだろう。


「だが、それなら尚の事、私を引き込みたい派閥が使者に人をねじ込むはず。そして私にとって都合の良い条件を出した者が居たかもしれないだろう」

「だからこそ、狂信者を向かわせたんですよ。心から信じている彼等に私が許可を出したのに、他の者が入り込む事を許す訳がない。自分達こそが法主の命を、神の命を全うするのだと、そう考える。そんな彼等には金銭や賄賂代わりの昇進も通用しませんから」


私はあまり乗り気ではないが、それでも許可を出そう。

そういう形を取る事で、私が誰を使者にするか選ぶ状況を作った。

もし本当に竜人公であれば、それこそ信者の誰でも問題は無いだろうとごり押して。


表面上は『竜人公を迎えたい』という物である以上、彼等に否定は出来ない。

狂信者と共に神を称える言葉を口にせねば、それは迎える理由にならないのだから。

我等が神は我等を見守ってくれている。なれば願えば降臨されると。


そして決まってしまえば狂信者で有る以上、変更の交渉も不可能だ。

更に言えば使者で有る以上、こそこそと向かう事も、無断の追加も許可されない。


最初から最後まで私が反対すると思ったんだろうけど、そう簡単に行くと思われては困る。

どうせ狂信者を煽って動かし、その中に自分達も付いて行くつもりだったんだろう。

失敗すれば罪は全て狂信者に被せ、上手く行けば実権を握る算段で。


「・・・成程な。その結果、予想通り私を不快にさせた訳だ」

「それに関しては、誠に申し訳ありません。心からの謝罪を致します。こうやって事情をお話出来た以上、今後は出来る限りご迷惑をおかけしない様、手を打ちたいと思っています」


嫌味なのかどうか悩む言い方をする彼に、胸で手を組んで軽く頭を下げる。

今後は出来るだけ狂信者が暴走しない様に、上手く言い聞かせる為の言葉を考えないと。

とはいえ完全制御は不可能なので、多少の迷惑をかける事にはなりそうだけれど。


「・・・敵は、容赦、しない」

「――――――っ」


突然の言葉と殺意に、今度は笑顔を保てなかった。だって、こんな、こんなの。

彼女の本気が、殺気が、何時でも戦闘に入れる構えが、全てが私を震わせる。

先程までの威圧が可愛い物だと感じる程の、本物の殺意。


「ふぅ・・・!」


けれど震える体を抑え込み、負けるものかと彼女を睨み返す。

何て威圧感だ。本当に彼女は人間なんだろうか。

いや、間違いなく人間なのは解っている。それでも疑ってしまうぐらいに恐ろしい。


きっと私がただの一般人なら、こんなに怖くなかったんだろう。

今まで法主である事を後悔した事は無いけど、初めて後悔した気分かもしれない。

自分の持つ力のせいで、彼女の怖さが解ってしまうんだから。


「流石に失礼ではありませんか、セレス様。その様な殺意をばら撒いては、恐ろしくてお話し所ではありません。少なくとも私は、貴女に敵対しない、と説明をしていたはずですが?」

「・・・ごめんなさい。思わず、口に、でた」


彼女を睨みながら咎めると、震える様な殺意は謝罪と共に消え去った。

けれど不機嫌そうな声音と威圧感、何よりも戦闘への構えは解かれていない。

ただ一応謝られてしまった以上、こちらも表面上の警戒は解くべきだろう。

一度お茶を飲んで息を吐き、無理やり笑顔を張り付け直す。


「思わず、ですか。そこまで不愉快な事を、私は言ってしまったでしょうか」

「・・・リュナドさんを害する敵は、私の敵。その事を、理解しただけ、だから」


ああ、つまり、私の打算に彼を巻き込むな。そういう事か。

自分の味方の命が惜しいなど知った事ではない。

お前の都合なんて知らない。お前の都合で彼を不快にさせるな。

何が在ろうと信徒の暴走は自分達で防ぎ、その上での国交しか認める気は無い。


―――――次同じ事があれば、容赦せずに殺す。


これは少々参った。錬金術師がそこまで精霊公に入れ込んでいるのは予想外だ。

男女の関係とはいえもう少し理性的に、利害の見える交渉が出来ると思っていたのに。

それだけ私やこの国が組み伏せ易い、と思われているのという事だろうか。


敵対したくないというのは本音だけれど、だからと言って余り侮られるのも困る。

確かにこちらの行動は彼を不愉快にさせるものではあった。

それに関しては謝罪する必要は有るし、自身にも申し訳ないという気持ちはある。

何せこちらの都合で彼を不快にさせた事は、何とも言い訳のしようが無い。


けれど表面上は彼に失礼を働いておらず、突然の訪問を許容する理由も本当は無い。

むしろ失礼という意味では、こちらこそが失礼な事をされているとも言える。

先ぶれも無く、威圧的に、竜という武力を持って門を開けさせられたのだから。


その事を考慮しない、駆け引きも無い、ただ武力による圧力は法主として許容出来ない。

もしそんな事を許してしまえば、ずるずると脅され続ける羽目になる。


「次に同じような事があれば、私も共に殺すと、そう仰る訳ですね」

「っ!」


そう問いながら睨みつけ、彼女に対して威圧を向ける。意図して力を開放する。

下準備はしていた。十分な時間が有った。それ故に今は十全に力を放てる。

驚愕に見開かれた彼女の眼を見るに、効果は有った様だ。


「私が大人しく殺されるとは、簡単に脅せる小娘とは思わないで頂きましょうか」


確かに私は貴方が恐ろしい。貴女もそれはきっと理解しているのだろう。

けれどこの身は一国を背負う法主。恐れで押し黙る小娘と思ってくれるな。

竜人公の力を、神の力を前にして、貴女はまだ私を侮れるか・・・!

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