第302話、次にやる事を決める錬金術師

どうやら竜は、リュナドさんのしもべとして付いてくるつもりらしい。

なら荷車より竜の方が速いし、上にでも乗っけて貰おう。

本当は真っすぐ行くつもりだったから、砂漠に行く順路だと予定より時間かかる。

早く行って帰りたいなら、それが一番早い移動手段だよね。


「・・・上に乗せて貰って良い?」

「構わぬ。それで主の役に立てるのであれば」

『『『『『キャー♪』』』』』

「うむ、ならば何の問題も無い。任せると良い」


もしかしてリュナドさんの配下としての仕事は、精霊達から聞かされている事なんだろうか。

そう考えると、何処まで理解しているのか一気に不安になるのは私だけなのかな。

でもまあ流石に山精霊達でも、リュナドさんが本気で困る事は言わないよね?


荷車を滞空している竜の首元まで移動させ、落ちなさそうな所に降りる。

とはいえそのまま載せてるだけじゃ落ちるだろうし、姿勢制御は必要だろうけど。


「・・・竜は、どういう順路で飛ぶとか、解ってる?」

「そもそも目的地が解っていない。付いて来ただけだからな」


それもそうか。ただ竜に人間の地図を見せた所で読めない気がする。

地図の理解をさせるよりも、口頭で方向転換させた方が早いかもしれない。


『『『『『キャー♪』』』』』

「うむ、ならば道案内は小さき精霊達に頼もう」


どうやら精霊達が竜の誘導をしてくれるらしい。

あの子達に任せるのは若干不安だけど、自身満々だし任せてみようかな。

何だかんだ地図はかける訳だから、多分読み違える事はないと思うし。


「では、行くぞ」


竜はそう告げるとゆったりと加速をはじめ、荷車が落ちない様に気を遣ってくれている様だ。

いや、荷車というよりも、中に居るリュナドさんを気遣ったのかな。

竜の全力加速に彼が耐えられるかどうか、ちょっと怪しい所が有るし。


そうして竜と精霊に任せる事暫く、以前戦った砂漠が見えて来た。

落ち着いた状況で改めて砂漠を見ると、若干違和感が有る。

天候的にも立地的にも、人為的な影響なく砂漠が広がって行く環境ではなさそうなのに。


むしろ木を植えたり、畑にしようとしたり、色々頑張った事も有るらしい。

けどどれもこれも効果が無く、何処の国も諦めてしまっているそうだ。

となると原因は土壌その物しかない訳だけど、前回戦闘した時にそんな感じはしなかった。


魔法で土を操作した際の感触は、ほぼ近所の山の土と同じだったと思う。

勿論詳しく調べた訳じゃないから断言はできないけど、植物の生えない土の感触じゃなかった。

ただやけに水が無かったとは感じる。砂漠なのだから当然と言えば当然なのかもしれない。

けれどそこそこ地中深くまで土を使ったはずなのに、それでも湿り気が余り無かった。


「・・・生物、が、一番可能性、高いかな」


天候的に問題は無い。土質も問題無さそうだった。なのになぜか土が水を含まない。

岩盤砂漠という訳でもなく、水さえ有れば特に問題は無い様に見える。

そしてその水も、天候的に問題あるかと言えば、適度に雨が降っているはずだ。

となれば原因は土地ではなく、その土地に居る何かの可能性が高い。


「・・・心当たりは、無くは無いけど」


そういう事をする生き物に心当たりは有る。

けれど特に欲しい素材でもないし、退治する理由も調査する理由もない。

ああでも、魔獣化してたら少し欲しくは有るかな。少しだけだけど。


「セレス、どうかしたのか?」

「あ、ちょっと、砂漠化の原因が何かなって、考えてて」

「もしかして、原因が解るのか?」

「確定じゃなくて、もしかしたらそうかな、っていう程度」

「そうか・・・まあ、それなら結論が出た時にでも教えてくれ」


あれ、リュナドさん原因知りたいんだ。なら今度ちゃんと調査してみよう。

今は向かう所が有るから出来ないけど、終わってからならいくらでも時間が有る。

少しでも彼の役に立てるって解ったなら、調査をする理由には十分だ。


「任せて。解ったら真っ先に、リュナドさんに教えるから」

「お、おう・・・そっか。じゃあ楽しみに待ってるよ」


楽しみ。そっか、楽しみなんだ。なら出来るだけ早く調査に乗り出さないと。

さっきは気合が空回りし過ぎたけど、これはしっかりと頑張ろう。

これなら私も失敗しないだろうし、ちゃんと役に立てるからね。


「うん、待ってて」


そう思うと自然と笑顔になってしまい、にへーッと笑いながら彼に頷いて返していた。

ただ彼はそんな私を見て一瞬目を見開き、はぁと溜息を吐いてから返答をする。


「・・・機嫌が直った様で何よりだ。そんなにやりたいなら、こっち優先でも良いだが」


機嫌が直った? 別に私機嫌悪くなんてなってない・・・あ、恥ずかしがってた事かな。

確かにさっきの恥ずかしさは消えている様で、普段通り話せている。


もしかして心配してくれてたのかな。気合が入り過ぎて空回りしてた事。

そういえば入り過ぎてた気合も、今は若干抜けてしまっている様な。

リュナドさんは本当に私の事を良く見てくれてるなぁ。


「ごめんね。ありがとう。でも、大丈夫。砂漠の調査は、やる事が終わってからやるね」

「そ、そっか、解った」


先に調査をって言うのも、きっとそれで私が落ち着ける様にって言う気遣いだろう。

これなら私に失敗なんてそうそう無いし、失敗したとしても誰かに損害はない。

彼が残念に思いそうなのが嫌ではあるけど、解らないだけなら何も問題は無いもん。


だから今は、私のやるべき事を、やらないと迷惑がかかる事を、先にやらないと。

そう思い、彼の気遣いに胸をポカポカさせながら笑顔で返す。


『『『『『キャー』』』』』

「む、了承した、こちらだな」


そこで砂漠の中央辺りまで辿り着き、精霊の指示に従い竜が方向転換をする。

今度こそ目的地に向かって移動をはじめ、あっという間に国境を飛び越えた。

よし、空回りするのは良くないけど、気合を入れ直そう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日もいい天気だねぇ」

「ああ、これも竜神様のおかげだろう」


竜神様のおかげ。その言葉はこの国の挨拶の様な物だ。

良い日が続けば、作物が良く育てば、仕事がうまく行けば、それは竜神様の加護。

我等を常に見守ってくれている竜神様が、我等の為に力を貸して下さっていると。


勿論うまく行く日々ばかりではない。苦労が耐えない日もあるだろう。

だが共に神へ祈る隣人と力を合わせれば、こうやって明日を拝む事が出来る。


生きる上での感謝を。生かして頂けている感謝を。

常日頃その気持ちを持って生きるのが、この国の民の当然。

生まれた時から聖書を寝物語に聞き、竜神様を祭るのが当然の国の挨拶。


「そういえば、例の話、アンタはどう思う?」

「竜神様が降臨為された、って話かい? どうなんだろうねぇ」


そんな国にとっての神様が降臨なされた、という噂が最近飛び交っている。

とはいえ所詮は噂であって、信じている物はそこまで多くは無い。

ただ司祭様には信じている方も多く、竜の居る国へ使者まで出したそうだ。


「商人達が言うには、竜は本当に居た、って話なんだけどね」

「けどそれを竜神様と言うには、竜神様に失礼じゃないかい」

「でも人語を介したって話だよ。でなけりゃ司祭様が使者になんて無いだろうよ」

「司祭様達を疑う訳じゃないが、どうにも信じられなくてなぁ」


この国で生まれ育った以上、竜神様への感謝を胸に育ってきた。

だからこそ、竜神様が降臨された、という事実に少々納得がいかない。

もし本当に竜神様が降臨為されたというのであれば、この国に降りるはずではないか。


「実際見てみないと、到底信じられんねぇ」


そんな呟きをしたとき、ふっと急に空が陰り、強い風が舞った。

ついさっき見上げた時は青空だったのに、と思いながら空を見上げる。


「な・・・!」


視界に入ったのは巨大な、とても巨大な竜。

壁画では何度も見たことがあり、けれど実物は初めて見る存在。

余りに圧倒的過ぎる存在に思わず腰を抜かし、口を開いて見上げるしか出来なかった。


そしてそこから何かが、荷車の様な、いや、荷車が落ちて来た。

けれど地面に衝突する事はなく、ゆっくりと着地して中から何かが出て来る。

槍を手に持ち、竜の体を持った、二足歩行の何かが、小さな不思議な生き物を従えて。


「―――――りゅ、りゅうじん、さま」


寝物語で聞いた竜神様が――――――竜人公が、そこに、居た。この国に、降りられた。

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