第299話、誰のせいでの出来事か気がつく錬金術師
ライナが声をかけてくれたおかげで、リュナドさんに一杯感謝を告げる事が出来た。
ついでにこれからも宜しくね・・・っていうのは図々しかったかな?
でもリュナドさんは頷いてくれたし、きっと大丈夫だよね。
それにしても竜信仰の国は、私に対して一体何を言ったんだろう。
彼が私に内容を伝えるのを躊躇する程だし、よっぽど嫌な事言われたのかなぁ。
・・・あれ、何かライナがむーんって難しい顔してる。どうしたんだろう。
「さぁーて、んじゃこっからは全面戦争、って事かしら!」
「おい馬鹿アスバ、止めろ。街が独立して早々に戦争とか勘弁しろ」
「誰が馬鹿よ! ヘタレリュナド! 既に一回してんだから今更でしょ!」
「うっせえ、ヘタレで悪いか。それにあの時とは状況が違うだろうが。そもそもあれは無血で終わったからこそ、今の状況が有るって事も忘れるな」
「ふんっ、解ってるわよ。それでも可能性はあるでしょうが」
「それでも先ずはもうちょっと大人しい方向で物事考えろよ・・・」
これは私もリュナドさんに同意したい。アスバちゃんは時々過激なんだよなあ。
それにリュナドさんは全然ヘタレなんかじゃないと思うし。
にしても戦争の可能性は有るんだ。リュナドさん否定してないし、そういう事だよね?
こういう時の為ではなかったけど、彼の鎧を作っておいて大正解だったかも。
とはいえ彼自身は戦争に反対っぽいし、危ない事は無いにこした事はないと思う。
ただ、前に有った戦争って、そんなの有ったっけ?
知らない話に首を傾げていると、次の瞬間アスバちゃんが驚く事を言いだした。
「ってもどうすんのよ。連中からしたら、セレスは確実に敵でしょ」
え、そ、そうなの? 敵、敵なのかぁ。私が敵って思われるような事しちゃったのかな。
いやでも、彼が追い返したって事だし、こちらも敵と認識して良い相手なのかも。
だからこそ戦争の可能性を否定しなかった、って事なんじゃないかな。
そっか、追い返したのはそういう理由もあったんだね。
私に嫌な事を言ったってだけじゃなくて、敵だったからなんだ。
あれ、でもそれなら彼が捕縛か退治する様な・・あれ? 私何か勘違いしてる?
「それはセレスに対してだけの話だし、彼女に対し実害を及ぼす行動はしていない。それにセレスの事が気に食わない、っていう連中にいちいち戦争なんか吹っ掛けてられっか」
「ええ。僕もリュナドさんに同意です。相手は宗教国家。戦争になれば信者を徴兵し、上層部の企みなどと関係のない民が傷つく。他国とはいえそれは望ましくない。いや、他国だからこそ、先生の評判を更に落とす真似はしたくないですね」
「ちっ、わーってるわよ。戦争なんて本気で言ってないわよ・・・」
「アスバ殿はセレス殿が大好きだからな。セレス殿に敵対する相手が気に食わないのは解る」
「フルヴァドォ・・・人を揶揄うのも大概にしないと、一度本気でぶっ飛ばすわよ・・・」
・・・ん、待って。今何か、ちょっと、皆の会話がおかしかった様な。
今回の話って、リュナドさんがその宗教国家に来ないか、って誘われたお話だよね。
断ったから、次向こうが何して来るのか、ある程度対策の相談をと。
そう最初に聞いてたから、私全く関係ないつもりでいたんだけど。
だから敵って話も、私だけじゃなくて、皆にとっても敵だと思ってた。
けどリュナドさんは今言った。確かに言った。
『それはセレスに対してだけの話だし』
つまり今回来た人達は『私を』敵だと思っている人達なんだ。
他の誰でもない、ただ私を、私だけを敵だと認識している。
そしてその発言を誰も否定せず、パックは私の評判を『更に』落としたくないと言った。
つまり私は既に、その敵対した誰かに、敵対されるような真似をしたって事だろうか。
向こうが先に私に嫌な事をしに来たんじゃなくて、私が嫌な事をしたから敵になった。
知らない内に、昔の様に、ただ私が悪くてそうなっているっていう事じゃ。
・・・あ、どうしよう、脂汗が出て来た。自分がやらかした事実に今更気がついた。
もし実際に会ってたら囲まれて睨まれたんだろうか。やっぱり怒られたんだろうか。
その想像をしただけで体が震えて来る。泣きそうになる。
最近上手く行ってる事が多かったから気を抜いてたけど、やっぱり私は私なんだ。
何をやったのか、そもそも何が悪かったのか、何で機嫌を損ねたのか、全く解らない。
それに、それにだ。その事実を知って、一番問題なのは別の事だ。
その人達は私の敵として立ち回って、けれどリュナドさんが庇ってくれた。
つまり彼が私のせいで誰かに敵対行動を取られたと言う事。
そしてその結果、最終的に戦争になる可能性、周りを巻き込む可能性が有ると。
私には何も関係が無いと思っていたこの集まりは、私が原因で集まっているんだ。
彼が私を庇って誰かを追い返したせいで、これからの行動を考えあぐねている。
きっと私の事が無かったら、皆は悩んでいないのかもしれない。
私が友達だから、守るべき住民だから、だから私を守る為に皆考えてくれている。
ああ、そうか。だからここなんだ。ライナも居るこの店なんだ。
私の事を誰よりも解っている彼女が一番の相談相手だったんだろう。
何を私は、何の関係もないと、のほほんとしていたんだろうか。
「――――――レス・・・セレス?」
「っ」
リュナドさんの呼びかけで、はっと顔を上げる。
焦りと混乱と恐怖と罪悪感で、意識を塞いでしまっていた。
少し困った様な彼の顔を視界に捉え、けれどまた俯いてしまう。
事実を理解していなかったさっきまでと違い、理解してしまった今は彼の顔を見れない。
彼は優し過ぎると思う。何で私を叱らないんだろう。
きっと今回ライナが私を叱らないのは、当事者である彼が私を責めないからじゃないかな。
ライナがさっき何か難しい顔をしてたのは、そのせいだったんだと思う。
悪い事は悪い。だから謝るべき事は謝る。彼女は私にそう言う人だもん。
この街に来て失敗した時も、リュナドさんに謝りに行くように言われたもんね。
そうだ、なら、私が謝りに行けば良いんじゃないかな。
ちゃんとごめんなさいって言えば、皆に迷惑かけるような事はないよね。
怖いけど、凄く怖怖いけど、怒られるのも怒鳴られるのも怖くて震えるけど――――。
「・・・私、その国に行って来る」
私だけが怒られてるならきっと逃げる。怖いから絶対に逃げる。関わり合いになりたくない。
今だって涙目で、泣くのを堪えてかすれた声で、心から怖くて逃げだしたい。
けれど今被害に遭っているのは大好きな友達だ。なら、それは、逃げるのは凄く嫌だ。
私のせいでリュナドさん達が戦う事になるより、悩ませて苦しませるよりよっぽどマシだ。
・・・で、でもやっぱり怖いな。で、できれば誰か、つ、付いて来てくれないかな。
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「とはいえ・・・実際何処までが教義を狂信してるのか、俺は怪しいと思うけどな」
「ええ。幾ら宗教国家とはいえ、全員が全員国教を心から信じている、とは考え難い。特に上層部になればなる程、教義を統治の為に利用している可能性が高いと、僕は思っています」
俺の言葉に殿下が同意する。これは領主も言っていた。
やっぱり考える所はそこだよな。相手が何処まで俺を利用しようとしているのか。
いや、どういう意図で利用しようとしているのか、かな。
「今回の連中が明らかに悪手を取ったのは、わざとって事よね」
「ああ。俺が断る様に、わざと断る様な人間をさし向けた可能性が有ると思う」
たとえ宗教国家であろうと、組織の上に立つ人間は清濁を飲み干す必要が有ると思う。
むしろ上層部は神なんて信じちゃいないかもしれない。
だってそうだろう、彼等は操る側だ。上層部は教義と政治のずれを都合よく合わせているはず。
もし本気であんな狂信者しか居ない国なら、今頃ずっと戦争を続けているだろう。
何せ狂信者だ。信じない者は悪だ。そんな人間だけの国が平穏であるはずがない。
竜を神と崇めない国を悉く潰し、もしくは完全に潰されて国が無くななるか支配されるか。
少なくとも止まる理由が出来るまで止まらない、恐ろしい戦争国家になっていたに違いない。
「国の在り方を考えると『竜人公』と『竜』という存在は、喉から手が出る程欲しいと思いそうな物なのだが。だってその方が色々と楽ではないかい?」
フルヴァドさんが口にした疑問は、表面上を見ればその通りだろう。
竜の力は圧倒的だ。その存在がそこに居るだけで脅威を感じるレベルだ。
そんな存在が国内に居ると言う事は、それだけで宗教国家としての力を増す事が出来る。
政治側に傾けずとも、軍事に余り金をかけずとも、竜が守護する国。
それは悪い言い方をすれば、教義を信じていれば救われるという洗脳をしやすいと言う事。
政治と宗教のすり合わせ、何て面倒な手間をある程度省ける。
ならばもっと下調べをし、俺がどんな人間かを認識した上で、妥協点を探ってくるはずだ。
だが今回、そんな素振りはなかった。
向こうの行動は、明らかに断られる結果しか見えない行動だ。
国としての腹の部分を一切見せる気のない、表面上だけでの交渉。
もし俺が本当に欲しいなら、あんな真似を上が許すとは思えない。
「今回の噂を流した理由が、俺を迎えに行く事を伝えられなかったから、とか言ってたんだよ。アレも失敗させる為の手段だったんじゃねえかな。俺に真実を伝えない事を不快と思った狂信者がどう出るのか、解ってて伝えなかった気がするんだよ」
「つまり、上層部にとっては、本当はリュナド殿が居ない方が都合が良い理由が有ると」
「かもしれないな。その理由までは解らないが」
国の在り方を考えれば、宗教という力を強める為ならば、俺の存在は欲しいと思うだろう。
だが逆に宗教が強すぎる事を望まない者達が居れば、きっと話は変わって来る。
そういう連中にとっちゃ、俺の存在はむしろ邪魔でしかない。
「それならば、むしろ事は簡単なのでは? 上層部がリュナド殿に関わりたくないというのであれば、国全体でそういう動きになっていくだろう。こちらも特に関わる必要は無いのだし」
「フルヴァド、アンタ脳みそ筋肉で出来てんの?」
「・・・酷いな。頭が良いとは思ってないが、そんなに見当違いな事を言ったかい?」
「たとえリュナドを要らないと思っていても、迎えに寄こした。つまりそれは、本気でリュナドを迎える気の人間もいるって事よ。確実にこれからもちょっかい出して来るわよ」
「あー・・・ああ、そうか、そういう事か」
そう、面倒なのはそこだ。あちらの国は誠心誠意、俺へは崇める態度を崩さない。
だが俺が断る様に、国に来ない様に、信者たちが失敗する様に導けば。
そうすれば下手に狂信者を刺激せずに、俺を国に寄せ付けないで済む。
俺としても一応向こうが敵対行動でない以上、下手に手を出す事も出来ず追い返すしかない。
だがたとえ追い返されたとしても、迎えたい人間が居る以上また誰かが送られて来るだろう。
つまりそれは、今後も何かしらちょっかい出してくる、って事だ。
自分達上層部が悪者にならない様に、出来る限り錬金術師やこの街が悪者になる様に。
その結果戦争まで行くような事さえなければ、多少の損害は許容しようって所かもな。
一番嫌なのは、不快にさせたなら信者の処刑もどうぞ、って言ってきそうな所なんだよ。
その事実が周辺に出回れば、どう捻じ曲がって噂になるか解らない。
俺はある程度武力を見せて相手を抑えるのは有りだとしても、実際に振るうのは別の話だ。
戦争を仕掛けられたなら、戦うのも仕方ないだろう。大人しくやられる気は無い。
けれど竜までいるこちらから仕掛けるのは、周辺国から余計な警戒をされるだけだ。
次は自分の国かもしれない、なんて思われたら、一体どれだけ何を仕掛けて来るか。
「とはいえ、セレスに直接何かを仕掛けてこない限り、暫くはただ追い返そうとは思っているんだが。下手に歩み寄る方が面倒な気がするし。それで良いかな、セレス・・・セレス?」
セレスに一応許可を取っておこうと思い訊ねるも、彼女は俯いて返答をしなかった。
だから不思議に思いながら恐る恐る呼ぶと、彼女はハッとした様に顔を上げる。
けれどまた少し俯き、初対面時を思い出す下から睨みつける様な目を向けられた。
・・・え、なに、俺セレスを怒らせるような事言ったっけ。ただ質問しただけなんだけど。
その迫力驚き、冷や汗を流しながら固まっていると、セレスはゆっくりと口を開いた。
「・・・私、その国に行って来る」
何に怒っているのか、何に気がついたのか、彼女はすさまじく不機嫌な声音でそう言った。
低く、掠れた、威圧感のある言葉で、自分が直接対処して来ると。
彼女がそう言う以上、きっと解決案が有るのだろう。否という気は無い。
というか言える訳がねえって。何に怒ってんのか知らねえがすっげぇこええ。
歯ぎしりも聞こえるしテーブルに乗ってる手が全力で握られてる。めっちゃ怒ってる。
うん、まあいいさ。解決してくれるならそれに越した事はない。セレスに任せるか。
「・・・リュナドさん、付いて来て、くれる?」
え、俺も行くの? 俺要るの? って言うかそれ疑問じゃないよな? 命令だよな?
この怒ってるセレスに付いてくのかなぁ・・・やだなぁ・・・でも行くしかないかぁ。
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