第280話、竜の性格に少し困る錬金術師

リュナドさんがパックのお願いを聞いてくれると、そう言ってくれた。

聞き間違いじゃなければ『私がそう言うなら』と言っていた様に思う。

それが何故かとても嬉しくて、抑え様が無いぐらい嬉しさが溢れて顔がにやける。


その後二人は領主とも話したいとの事で、数体の精霊達と共に庭を去って行った。

出来る限り早く話を纏めたい、っていうパックのお願いだそうだ。

ただリュナドさんが項垂れながらついて行てったのが気になるけど、大丈夫かな。


話が纏まったら私にも報告するってさ。何でだろうね?

あ、でもリュナドさんにお祝いとか考えるなら、教えて貰った方が良いのかも。

いやでも、彼は嫌がってた訳だし、嫌な事にお祝いは嫌かな?


「我が主は、もしゃもしゃ、忙しい、もぐもぐ、様だな、ごくん。うむ、この地の草木は美味いな。どれも力強く育っている」


何故か竜は家の上にまだ残っている。そして唐突に頭の上で木をバリバリ食べないで欲しい。

いや、食べるのは良いんだよ。来る前にそういう話をしていた訳だしさ。

だからこそ竜は岩のある方の山近くに降りたんだろうし。


たださっきから、バッサバッサ小枝や葉が庭に落ちてきてるの。

木だけじゃなく草もあの巨大な前足で器用に毟って、でもバラバラ落としてる。


家精霊が凄く嫌そうな顔してるから、その辺りで止めて欲しい。

干してたシーツが葉っぱだらけになってるから。せっかく洗ったのに。あ、虫ついてる。

というか我が主って言ってるのに、何でリュナドさんを追いかけないの。


『『『『『キャー』』』』』


ただ山精霊達は落ち着いた様子で、うんうんと満足気に頷きながら鳴いている。

山の木が褒められた事が嬉しいのかな?

あの木は岩のある方から引っこ抜いてたから、精霊が育てたとも言えなくはないかも。


それより引っこ抜く度に若干の地響きが鳴り、前足を動かすたびに強風が舞う方が気になる。

これちょっとした災害なのでは。竜の足元の人達は大丈夫かな。

因みにメイラは樹木を引っこ抜いて食べる竜にあっけにとられ、口を開けてぽかーんとしてる。


「寝起きは、もぐもぐ、腹が空くから、あぐ、近くにこれだけの物が有るのは素晴らしいな。うむ、これだけでもここに来た甲斐がある。小さき精霊よ、感謝するぞ」

『『『『『キャー♪』』』』』


メキメキもしゃもしゃと満足そうに、ゆっくりと味わう様に咀嚼する竜。

目を細めながら食べる様子には言葉通りの満足が感じ取れる。

そんな竜の言葉にご満悦なのか、山精霊はとてもご機嫌そうだ。


屋根に上ってから飛び跳ね、竜によじ登って頭の上に集まり始めている。

何体か口の中に入ってしまっていたけど、出て来るまで竜は口を動かさず待っていた。

出会って数日も経ってないのに中々良い関係が出来上がっている様だ。今日まで寝てたのに。


ただご機嫌な山精霊とは正反対に、家精霊の目はどんどん死んでいっている。

ああ、屋根にも枝がいっぱいだ。庭も凄い事になってるし、今日はもう掃除にしよう。

何時も家精霊に任せてるけど、これを任せるのは申し訳ない気がする。


いやその前に竜を止めよう。何でそんな当たり前の事が頭に浮かばなかったんだろう。

私もあっけにとられていたのかも。だって唐突に頭の上で食べ始めたら驚くよね?

取りあえず止めよう。今からでも遅くない。いやもう手遅れ感凄いけど。


「え、ええと、食べるのは良いから、出来れば山の上で食べて欲しいんだけど・・・」

「・・・何故だ? もぐもぐ」


えぇ、そこの理由必要? 止めてって言ってるんだから止めて欲しいんだけど。

まあ理由言って素直にやめてくれるなら説明すれば良い・・・あ、よだれが屋根に落ちた。

その瞬間、家精霊の目がクワっと見開かれ、竜に指を差して何かを叫び始めた。

けれど竜はその声が解らないのか、可愛くない巨体の首を傾げて見つめている。


「ふむ・・・ふむ・・・?」


あ、もしかして竜は家精霊の声が聞こえるんだろうか。

ならメイラ以外に会話出来る相手として、仲良くなれるんじゃ。


「・・・何かがそこに居る事と、何か意思を伝えて来ている事は解るが、何を言っているのか全く解らん・・・もしゃもしゃ」


・・・解ってなかった。そして食べるのは止めない。

おかげで家精霊が過去見た事が無いレベルでムキーって怒ってる。


『『『『『キャ~』』』』』


それを見ていた山精霊は『やれやれ』と言いたげな動きで呆れた様に鳴き声を上げた。

ただ家精霊にギッと音がしそうな程の眼光で睨まれ、全員口を閉じてすっと目を逸らしたけど。

私もちょっと怖いのでスススとメイラの背後へ移動し、抱きしめながら様子を見守る。


「ふむ・・・」


すると竜は食べるのを止め、家精霊の指の先を辿る様に視線を動かす。

そこに有るのは前足で器用に持っている一本の木。

もしかして何となく見えてはいるんだろうか。なら家精霊の言いたい事が通じたのかな。


「お前も食べたいのか?」


すっと木を一本差し出す竜。やっぱり全く通じてなかった。

家精霊がびっくりするぐらい酷い顔になってるんだけど。

あんなに眉間に皺の寄ってる家精霊初めて見た。


先程までの怒りの様子が消え、その代わりものすっごく嫌な物を見てる感じだと思う。

けれど竜は相変らず良く解らない様な感じで首を捻り、キョトンとした顔をしていた。

竜と家精霊は相性がちょっと悪いのかもしれない。主に竜がマイペース過ぎるせいで。


私でもあそこまで意志表示されたら、何言いたいのか何となくは解るんだけどな。

家精霊は割と素直に感情出す方だから結構解り易いのに。偶に解らないけど。

いやでも竜の言い方だと、要る事と何かの意思は解るけど、それ以上見て取れないのかも。

取りあえず言い損ねてた理由を説明すれば、素直に退いてくれるかな?


「ねえ竜、ここは私達の家で、家精霊は家と庭を管理してるから、家や庭を汚されるのは嫌なんだ。だから出来れば、別の所で食べて欲しいんだけど・・・」

「なんだ、そうなのか。もしゃもしゃ。ならば仕方ない。もぐもぐ」


仕方ないって言いながら何故食べるの。この竜が何考えてるのか全然わかんない。

いや、多分何も考えてないんだ。やっぱりこの竜は山精霊と同類だ。


「では言われた通り、今日は向こうで食べるとしよう。もぐもぐ、ではな、もしゃもしゃ」

『『『『『キャー!』』』』』


ただ私の言い分自体は聞いてくれたらしく、もしゃもしゃと食べながら竜は首を引っ込めた。

ついでに頭の上に居た山精霊達も行ってしまった。そっちは楽しそうだったから別に良いか。


その間もバリバリと木を食べながらだった為、街に枝がバラバラ落ちている。

ついでにえば涎も落ちている。絶対街のど真ん中に落ちたよアレ。

大丈夫なのかな。リュナドさんが怒られたりしないかな。竜は彼の管理らしいし。


「な、何だか、自由な人・・・竜さんですね」

「うん。そうだね・・・」


ただ呑気な自由さなのが救いかもしれない。

暴れ倒し、自分の言葉に従わなければ滅ぼす、っていう自由な個体も居るから。

話して解るという点でとてもやり易い。人間じゃないから会話も怖くないしね。


メイラは相変らずポカーンと口を開けながら、竜がもりもり食べているのを眺めている。

ただ巨体の割に食べる速度はゆっくりみたいだ。量はどれぐらい食べるんだろう。

食べ終わった後山の様子を見に行って、一食の量の確認をしに行ってみようかな。


「あ、う、うん。で、でもあの竜さんも、悪気はなかったんだと思うよ・・・多分」


遠くなった竜を見つめていると、メイラの声が耳に入り視線を下に落とす。

すると家精霊がムーッとした顔で何か喋っていた。

多分竜に対する不満だろう事は私でも解る。むしろそれ以外想像出来ない。


「あ、あはは、そ、そっか・・・」

「家精霊は何て言ってるの?」

「あー、その『悪気が無ければ許せる訳じゃありません。私、あの竜嫌いです』って。家精霊さん、どうも涎を家にたらされた事が許せなかったみたいで・・・」

「そ、そっか」


うーん。この様子だと、竜は余り家に近づけない方が良いのかなぁ。

今度お願いしておこうかな。変に喧嘩になるよりはその方が良いよね。

竜も別に悪いことしてる訳じゃないから、ちょっと言い難いけど。


その日家精霊は屋根と庭を掃除し、シーツを洗い直したら球体になってしまった。

私とメイラの前で取り乱し過ぎたと、後になって恥ずかしくなってしまったらしい。

二人がかりで構い倒したら元に戻ってくれたけど、やっぱり竜は家に近づけない方が良いね。


少なくとも食事の間だけは止めて貰おう。うん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『あははははは! 家があんなに怒ってるの初めて見たー!!』

『凄い怒ってたー!』

『いっつもかっこつけてるのにねー?』


竜が座り直そうと動く頭の上で、家がバタバタ暴れながら怒っていた事を笑いあう。

普段すました顔の家があんな風になるなんて、すっごく面白い物が見れたー。


『貴方達は何時も落ち着きが無さ過ぎます。もう少し落ち着いて行動しなさい。でなければ何時か主様にご迷惑を・・・いえ、既に多少ご迷惑をおかけしているのですから』


とか言ってたのにねー。それに僕達主に迷惑かけてないもーん。

主の事大好きなんだから、役に立つ事しかしてないもんねー。

この前だってお城の壁直したんだもん。へへん!


『ねえねえ、竜にまた今度同じことして貰おー』

『家にいたずらー』

『僕達がやった訳じゃないから、僕達怒られないもんねー』


竜は家に攻撃した訳じゃないから、家の結界で防ぐ事が出来ない。

主に害が有れば別だけど、それも特に問題無かったから家には防げない。

主人を守る為じゃないから、結界の外に攻撃も出来ない。

出来るのは竜に文句を言うだけで、嫌そうで悔しそうな顔をするだけになる。


『ふふふ、普段の仕返しだー♪』

『家の奴、いっつも意地悪して来るもんねー』

『主が居ないとオヤツくれなかったりする。いじわる』

『ちょっとつまみ食いしたら、食事抜きにするんだよねー』

『家の柱かじったら、暫く動けなくなるぐらい吹き飛ばされたー』

『主の世話は自分の仕事って言うけど、外に出れないから僕達の方がお世話してるもんねー?』

『いっつも偉そうだし、いいきみー』

『黄身ー?』

『卵ー』

『鳥ー』

『はっ、僕ささみ食べたい』

『ささみの燻製好きー!』

『揚げ物が良いなぁ』

『揚げ物なら野菜の方が好きー。でも野菜ならライナの作る煮びたし食べたーい』


それぞれ家への不満を口にしていると、竜の頭は元の山の上に辿り着いていた。

僕達は皆解ってないよね。ライナの煮物ならキノコの方が良いに決まってるもん!

竜は座り直してバリバリと木を食べ、何でか人間達がそれを見に近くに集まって来てる。


『おはよー、竜ー!』

『おーはーよー!』

『竜のねぼすけー!』

『ねーおいしい? それおいしい?』

「ああ、おはよう。美味いぞ。お前達は食べないのか?」

『『『『『じゃあちょっと食べる―!』』』』』


街に居た僕達も集まって来て、皆竜の足から頭に登って来る。

竜はおっきいから、僕達がいっぱい上ってもまだまだ乗れるところは沢山だ。


僕達は木の枝を拾って来ていて、既に上っていた僕達に分けてくれた。

なので竜と一緒に皆でもしゃもしゃ枝を食べる。そう言えば最近あんまり石食べてないなー。

木をそのまま食べるのは好みじゃないけど、皆で食べるのは楽しくて好きー。

つまみ食いも楽しいから好きー。こそっと食べるのが楽しい。家はすぐ怒るからきらーい。


『何話してたのー?』

『野菜の揚げ物の話してたー』

『違うよ、鳥の料理の話だよー』

『卵じゃなかった?』

『キノコの話だよー』

『『『『『?』』』』』


え、何で皆首を傾げるの?

してたよ。ライナの煮物が美味しいって話してたもん!


『全部違うー。家への仕返し考えてたのー』


あ、そうだった。忘れてた。

それもこれもライナの料理がおいしいからいけないんだ。うんうん。

悪いのはライナ・・・って言ったら主にもライナにも怒られるから言ってない!

言ってないよ! 危ない危ない。家の奴は何て卑怯な事をするんだ。びっくりしたぁ。ふぅー。


『何それ何それ! 面白そう! 僕にも教えてー!』

『いいよー、えっとねー』


その後竜にまた家の上で食べる様に言ったら、ちゃんとやってくれた。

けど主が『何で止めてって言ったのにまた来たの』って聞いたら。


「小さき精霊達の指示だ。我が主に従う以上、小さき精霊にも従わねばいかんのだろう?」


って竜が言って、家にだけじゃなくて主にもメイラにも僕が怒られた。何でー?

しかもそれ以降竜が僕の言う事あんまり聞いてくれなくなった。

リュナドが良いって言わないとダメだって。僕が竜の先輩なのにー!

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