第257話、燃える屋敷から出る錬金術師

それで良いのかって、そんな当たり前の事聞かれてもなぁ。

パックの為に助けるんだし、良いに決まってると思うんだけど。むしろ何が悪いんだろう。

取り敢えず納得してくれたみたいだし、後はアスバちゃんに連れて帰って貰終わりだね。


「それで精霊使い、死体をどう偽装するつもりだ」

「屋敷ごと燃やす」

「それでも骨は残るぞ。何も残らねば不審に思う者は現れる」

「問題無い。セレスが居るからな」

「どういう事だ?」


リュナドさんと話し合っているのに、何故か私に問いかける国王。

どういう事も何も、私に聞かれても困るんだけど。何にも聞いてないし。


「あんたは彼女の戦闘を見た事が無いから知らないだろうが、彼女の魔法は骨すら全て灰になる程の威力が有る。爆発の魔法が有名になってるから余り知られてないけどな」


ああ成程、私が魔法石で屋敷を燃やせば良いのか。そっかそっか。

確かに人体程度なら灰に出来るね。完全に焼き切るなら五個ぐらいかなぁ。

あれ、私の爆発の魔法有名なの? 知らなかった。


「納得したならさっさと手を取りなさい」

「いや、まだだ。錬金術師。別に小娘でも良いが、私の顔を焼け。原型が解らん様にな」


突然何言ってるのこの人。何でそんな事する必要が有るの。

意味の解らない発言に困惑していると、アスバちゃんが手から炎を上げた。


「ま、それが一番妥当、よね」


え、そ、そうなの?

解らなくてリュナドさんに視線を向けると、彼もこくんと頷いている。

えぇ・・・せっかく怪我もしてないのに・・・パックが泣かないかなぁ。


「無詠唱か。とことん化け物だな、貴様。良く今まで誰に取り上げられることも、危険視される事も無かったものだ」

「私は馬鹿じゃないの。全力を出せばどうなるかなんて知ってるわ。けど知ってる奴に、策謀の全てを上回っていく奴が居るのよね。私にはそっちの方がよっぽど化け物だと思うけど?」

「はっ、違いない。確かに化け物だ」


化け物って、そんな人が居るのか。策謀を全部上回るとか凄いなぁ。

私はそういうの全然解んないから、ちょっと羨ましいと思ってしまう。

そういう事が出来る人間なら、もうちょっと対人能力高かったんだろうなぁ。


「一応聞いておくけど、本当に良いのね」

「構わん。やれ」

「はっ、偉そうに。あんたはもう王様じゃないのよ?」

「ふん、育った気質は変えられん。だがこの歳であれば、そう違和感も無いだろう」

「まあね、酒場にそういう偉そうなオッサンが幾らでも居るわ」


ふっと二人が笑うと、火を纏うアスバちゃんの手が、国王の顔に近づく。


「・・・良いの? パックに、無事な姿で、会わなくて」


きっと皆納得の上で、本人も納得の上での事なんだろう、とは思う。

でも私には色々良く解らなくて、思わず訊ねてしまった。

折角逃げられるのに。無事な姿で出れるのに。その姿を見せなくて良いの?


「何処までも化け物が。貴様の考えは全く解らんな」


あ、う、そ、そうだよね、私が変、なんだよね。

最近ちゃんとお話しできてたから錯覚してたけど、これが普通なんだよね。

皆私に気を使ってくれてるだけで、やっぱり私っておかしいんだよね・・・。


「こうなる前に一度、立派になったパックに会えた。ならば今生の私はそれで満足だ。死ぬ前にもう一度、等と言う気は無い、だが・・・感謝はしておこう。錬金術師」


え、ど、どっちなの。感謝なのか怒られてるのか、どっち?


「やれ」

「はいはい、死ぬときまでホント偉そうに」


困惑している間に、アスバちゃんは手を国王の顔にゆっくりと這わせる。

肉の焼ける匂いが部屋に立ち込め、国王の苦悶の声が漏れる。

それでも国王は動く事無く焼かれ続け、顔全体が焼けると彼女は手を離した。


「ぐっ、うっ・・・終わった、か・・・!」

「気絶しなかったのは褒めてあげるわ。一応加減はしておいたから、処置さえすれば見た目以外に影響は出ないんじゃないかしら。失明もしてないでしょ?」

「はっ、気遣い感謝する、とでも言っておいてやろうか?」

「ふんっ、セレス、火傷に効く薬持ってないの? 勿論見た目まで治らない程度のね」

「・・・ん、有るよ」


顔全体が焼け、もう国王の顔に先程の面影はない。

誰が見ても痛々しい火傷後で、ただアスバちゃんの言葉通り加減の様子は見て取れた。

おそらくあの焼け方なら、腫れに腫れてぐずぐずに、とはならないで済むだろう。

崩れ過ぎた焼け方になっていないのは、アスバちゃんの魔法の腕のなせる業だろうか。


勿論最初は確実に腫れるし汚いだろうけど、薬を塗っておけばそのうち落ち着くはずだ。

ただ変色はしたままだろうし、明らかな火傷の残る顔になるだろうけど。

間違いなく、パッと見ただけでは、もう彼を容姿で判別する事は出来ない。


「じゃ、私はコイツ連れて荷車に戻っておくわ。薬は塗っておくからあとは・・・ん?」


薬をアスバちゃんに手渡し、彼女が国王の肩に手を触れた所で、スンと鼻を鳴らした。

スンスンと匂いを嗅ぐ彼女の行動に首を傾げ、だけど自分も何か匂う事に気が付く。

焦げ臭い。勿論さっき国王を焼いていたのだけど、それとはまた違う焦げ臭さ。


『キャー♪』


・・・燃えてる。ベッドが中々の勢いで燃えだしている。

え、待って、何してるの君。何で燃えてるベッドの前でご機嫌に鳴いてるの。


「ちょ、お前、何してんだ!?」

『キャー?』

「え、いや、確かに屋敷を燃やすとは言ったが・・・おい、部屋に居る精霊の数が少ないぞ。お前らまさか・・・!」


彼が慌てて部屋を出て通路を見ると、あちらこちらから火の手が上がっていた。

それと同時に色んな部屋から精霊達の『キャー♪』という声が聞こえる。

国王の焦げ臭さに気を取られていたけど、この燃え方はあの時点で既に燃やしているね。


「今燃やしてどうする! 俺達が中に居るんだぞ!」

『・・・キャー!?』

「うそだろ・・・気が付けよ・・・」


どうやら精霊達は彼の『屋敷を燃やす』という言葉を指示と思ったらしい。

言いたい事は有ると思うけど、取り敢えず脱出した方が良いと思う。

複数個所に一気に点けたせいだと思うけど、火の回りが早い。


「じゃ、私先に戻ってるからね」

「あ、おい、アスバ! くそっ、あいつ置いてきやがった! いや確かに俺とセレスが転移する訳には行かないけど、薄情過ぎんだろ!」

「リュナドさん、危ないから先ずは外に出よう。精霊達は火に呑まれたぐらいじゃ死なないから、好きにさせておけば良いと思う」

「そ、そうだな、脱出が先か」

『キャー!』


いや、急いでじゃなくてね。君が燃やしたんだからね?

まあ良いや。言っても仕方ないし、脱出が先って言ったの私だしね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「屋敷ごと燃やす」


リュナドがそう言った瞬間、僕達は全員やっと燃やせるとワクワクしてた。

何時やって良いのかな。もうやって良いのかな。まだかなまだかな。

そう思って待っているのに、リュナドはなかなか焼いて良いよって言ってくれない。


『まだかなー』

『ねー?』

『やっと燃やせるのにねー』

『僕廊下に燃やすの見つけたから、あれ燃やすー』

『じゃあ僕奥の部屋に燃えるのあるの知ってるから、それ燃やすねー』

『僕そこのベッド燃やす―。ほらほら、燃やす印ついてるー』


主たちが何か色々話している間、僕達は僕達で今か今かと思いながら役割分担を決める。

そうして待っていると、アスバちゃんが先に焼き始めた。

もう焼いて良いんだ。じゃあ僕達も焼くぞー!


『いくぞー! 焼くぞー、燃やすぞー!』

『僕の方が燃やすもーん!』

『あ、その部屋僕が入るつもりだったのにー!』

『早い者勝ち―!』

『僕リュナド守るからここに居るねー』


それぞれ僕達が好きな所に向かって、見つけた端から焼くやつを焼いて行く。


『燃えろー!』

『ファイヤー!』

『あはははははは!』

『全部燃えちゃえー!』

『わーい!』


僕達がある程度火をつけた所で、アスバちゃんが焼くのを止めていた。

けど僕達はまだ終わってない。もっと焼かなきゃ。

と思っていたら、リュナドが何で焼いてるのって、不思議な事言い出した。


『だって、リュナドが屋敷を焼くって言ったよー?』

「え、いや、確かに屋敷を燃やすとは言ったが・・・おい、部屋に居る精霊の数が少ないぞ。お前らまさか・・・! 今燃やしてどうする! 俺達が中に居るんだぞ!」

『・・・あー! しまったー!! リュナドがこんがりになっちゃう!?』

「うそだろ・・・気が付けよ・・・」


どうしようどうしよう。あ、アスバちゃん先に出て行っちゃった。

僕達も転移出来たら良いなー。出来ないかなー。ふんっ・・・出来ない!

脱出しなきゃ! 主も守らなきゃ! 


『主、主、急いで付いて来て! リュナドも守るよ!』


ワタワタと慌てながら部屋を出て、既に廊下も火で包まれているけど、まだ通路は残ってる。

今ならまだまにあ・・・廊下が崩れちゃった。あ、向こうの方の天井も崩れてる。

・・・リュナドが通れる所、無くなっちゃった。


『・・・ぼ、僕、ベッドしか、燃やしてない、から。僕悪くないよー?』

「お・ま・え・も・わ・る・い・ん・だ・よ!」


うー、リュナドが燃やして良いって言ったのにー! 主に怒られるー!


「仕方ない。精霊達全員集めて。急いで」

『みんなー! 主が集まれってー!!』

『『『『『はーい!!』』』』』


主の指示にすぐ従って、僕たち全員主の傍に集まる。

すると主は結界を張って炎を防いだ。

僕が一体結界の外に居たけど、主がひょいとつまんで中に入れてくれた。


「この手が有ったか・・・で、全焼するまで待つのか?」

「ううん、酸欠になりかねないから、一気に焼き切る」

「そっか。じゃあ任せた」

「ん」


主は懐から石を取り出すと、凄い魔力を放って火柱を起こした。

それは既に燃えていた火を飲み込んで、何もかもを全て一瞬で灰に変える。

相変らず主の魔法は僕達より魔力が多い。結界に入れてくれて良かったー。


『バーンも怖いけど、これも怖いねー』

『僕氷もちょっと怖い。見るとお腹イタイイタイになる気がする』

『『『『『解るー』』』』』


僕達は全員無事みたい。はー、リュナドも主も皆無事でよかったー。


「お前ら、今日の夕食抜きな」

『『『『『えー!?』』』』』


リュナド酷い! ちょっと失敗しただけなのに! お城の食事僕達も食べたいー!


「・・・リュナドさん危険に晒したのは、誰?」

『『『『『はい、僕達です! ごめんなさい!』』』』』


うう、主ちょっと怒ってる。怖いよぅ。

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