第254話、同士を見つける錬金術師

街に戻ったら一旦家に帰る事にした。

家に帰れば精霊達が居るから、頼めば彼の家に案内してくれるだろう。

庭の上空に着くと家精霊と山精霊が庭で出迎えてくれていて、その目の前に降り立つ。


「ただいま家精霊。ごめんね、急に出かけて」


謝罪をすると、フルフルと笑顔で首を振る家精霊。

優しい笑顔を見せてくれる事が嬉しくて、自然と手が精霊の頭を撫でる。

精霊は嬉しいのか球体になりかけた所で、ふと黒塊の件を思い出す。


「ねえ、家精霊、黒塊の事だけど・・・」


黒塊の事を口にした瞬間、人型に戻って若干不機嫌そうな顔をする家精霊。

あ、あれ、許可貰って出て来たんじゃないの? もしかして違うの?


「わ、私が呼んだ、から、ほら、ね?」


でも流石に私の指示で黒塊が怒られるのは避けたいと思い、家精霊の顔を伺いながら訊ねる。

すると家精霊は会話用の板を持って来て、不機嫌な理由を書き込んだ。


『主様の指示は聞こえ、結界を通してあげようとしたら、薄くなった瞬間結界を破って行った。お陰で結界に綻びが出来、修復する手間がかかった。帰って来たらお仕置きをする』


・・・黒塊、もう少しだけ待てなかったの? 待てなかったんだろうなぁ。

これメイラが帰って来たら、また黒塊が無視されるやつだよね。

折角褒められたのに、また嫌われる事しちゃってる。なんだかなぁ。


『キャー?』


そこで『あー、やっぱり主帰ってるー。何で―?』という、山精霊の鳴き声が聞こえた。

声に反応して振り向くと、何時も頭の上に居る子がトテトテと近づいて来ている。

何処かで追い抜いているとは思っていたけど、案外早くに帰って来たんだね。


私の方が出発が後だったとしても、精霊が街に着くのはもう少し後だと思ってた。

想定以上に速いけど、もしかして小型状態の地力が上がってるのかな。


「メイラに頼み事されて、その為に一旦帰って来たんだ。先ずリュナドさんの所に行きたいんだけど、案内して貰えないかな。家の場所解んないから」

『キャー!』


了承してくれた精霊は、他の精霊達にばいばいと手を振って私の傍に残る。

他の精霊達は予定通り応援を頼んで、そのまま王都に向かうらしい。

庭に居た子達は半分ぐらい出て行き、街からもいくらか連れて行くんだろう。


「あ、家精霊、ごめんね、もうちょっと出かけて来るんだ。出来るだけ早く帰るつもりだけど、もしかしたら今回はちょっと時間がかかるかも。ごめんね」


罪悪感から何度も謝りながら告げると、ニッコリと笑って手を振ってくれる家精霊。

それにもう一度謝ってからお礼を言い、山精霊を絨毯に載せてリュナドさんの家へと飛ぶ。

着いた所は元々住んでいた人が多い区画で、その中に在る長屋の一つに彼は住んでいる様だ。


「あの家、だよね?」

『キャー』


そして精霊が彼の住処を指さす先には、その家の扉をどんどんと叩く女性が居た。

彼へのお客さんだろうか。そうなら彼が対応するだろうし様子を見よう。

そう思っていたのだけど、彼は家から出てくる様子が無い。居るっぽい感じはするんだけどな。


「・・・いえ、いる、よね?」

『キャー』


精霊はこくんと頷くと定位置の頭の上に戻り、もう一度ご機嫌にキャーと鳴いた。

肯定をする山精霊と、だけど一向に出て来ないリュナドさん。

もしかして苦手な人なのかな。いやでも彼にそんな事が・・・有るのかな?


そんな風に目の前の出来事に首を傾げていると、少々人の視線が集まっている事に気が付いた。

私を指差して色々何か話している様子が沢山目に入る。


「お、降りよう・・・!」


夜中でも見つかる程人が多いのは、私にとっては辛い環境だなぁ。

仮面が有るからそれなりに耐えられるけど、だからってずっと我慢はしたくない。

なんて思いながら慌てて降りて、地に足を着けてから失敗に気が付く。

彼の家の前に降りてしまった。どうしよう、女性が物凄く見てる。


「れ、錬金術師・・・!」


あ、私の事、知ってるんだ。え、何でそんな目で見るの。顔が凄く険しいんだけど。

視線が鋭く明らかに睨まれていて、何かやってしまったかなと怯んで一歩下がった。


「な、何よ! 邪魔する気!?」


すると女性は何故か更に眉間に皴がより、怒鳴られてしまった。怖い。

じゃ、邪魔は、する気は、あんまりなくて、ホントは、待ってようと思ってたんだけど。


いやでも彼が嫌がってるなら、代わりに頑張って対応するべきなのかな。

何時も助けて貰っているんだし、彼が対応したくない人なら私が助けるしか。

うう、でも怒鳴ってくる人の対応は、仮面が有っても凄く怖いなぁ。


「うっ、わ、私はただ、好きな人に会いに来ただけよ、あ、貴女はそんな人間に手を出す気?」


いや、その、別に手を出す気は・・・え、好きな人?

リュナドさんが好き、って事だよね。となるとちょっと好感を持ってしまう。

私も彼の事は大好きだし、そうなるとやっぱり邪魔しない方が良いのかな。


「ああもう、何してんだよ」

「あっ、精霊使い様ぁ♡」


ただそこでリュナドさんが出て来て、女性はすぐに彼へと笑顔を向けた。

更には私が邪魔だと言われ、その言葉に動かないリュナドさんの姿で少し落ち込む。

どうやら彼の邪魔もしていたみたいだ。出て来なかったのは何か理由が在ったんだろう。


仕方ない。彼の力を借りたかったけど、邪魔なら諦めよう。彼の邪魔はしたくない。

そう思い申し訳ない気分で見つめていると、彼は女性を精霊に頼んで何処かへ連れて行った。


「・・・良いの?」


良く解らない展開にあっけにとられつつもおずおずと訊ねると、彼は頭を抱える。


「勘弁してくれ・・・手を出す訳ないだろ・・・」


ん、手を出す? 殴るって事? てことはやっぱりさっきの人って迷惑だったって事かな。

でも彼は優しいし、迷惑でもそんな事はしなかったんだ。成程、それで居留守だったんだね。

ただあの人リュナドさんを好きって言ってたし、ちょっと可哀そう。

今度頑張ってお話してみようかな。リュナドさんが嫌がらない様にしてあげたい。


「で、どうしたんだこんな時間に。しかも俺の家まで来るなんて」

「あ、うん、えっと・・・取り敢えず、中に入って、良い?」


このままここに居ると注目されかねないから、説明するにも落ち着かない。

それに話の内容的に内緒話になると思うし、出来れば家に入れて欲しい。


「・・・・・・・・・・・・解った」


あ、あれ、何だか凄い返事が遅かったけど、嫌だったのかな。

でも解ったって言われたし、良いん、だよね?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


家に上がりたいというセレスの要望に応え、素直に迎えて扉を閉める。

ただ近所のおばちゃんたちが明らかに見ていたから、明日以降の噂が怖い。

女に対面していたセレスの事も含めて、どんな尾ひれがついた噂が回るのか。

否定しても燃料を追加するだけになるし、そもそもおばちゃん達に捕まるから諦めよう。


「で、用件は?」

「あ、うん、えっとね」


セレスに椅子を出し、俺はベッドに座って訊ねる。

そうして彼女が語り出した内容は、完全に予想外の内容だった。

だってこのタイミングだし、てっきり王子関連かと。

いやまあ、これも王子関連である事は間違いないけどさ。


「パック殿下の為に、国王を死んだ事にして助ける、ねぇ・・・」


確かにそうすれば、パック王子の心は少しは救われるだろう。

だがもしそれを行ってしまえば、暗黙の了解で助けて良い事になってしまう。

そんな事実が残る事はいただけないし、助けた後の事も考えなけりゃいけない。


少なくとも国王はその後、パックとは縁もゆかりもない人物になる必要が有る。

つまり助けた後、パックの父だ、などと名乗る事は許されない。


「パック殿下にその事は言ってるのか?」

「言ってない。言えないから」

「なるほど・・・」


あくまで助けるのはセレスの独断。パック王子の知らぬ所で出来事か。

それならギリギリ言い訳が効くだろうな。そもそもセレスは貴族じゃないし。

だがそうするとなると、国王が助かった事をどうやってパック殿下に知らせる気だ。

いやでも、ちょっとまて。根本的に引っかかるものがある。


「・・・なんで、俺に相談に?」


これだ。ここが一番肝心だ。コイツなら周りを欺く事なんて簡単なはずだ。

なのに態々国王の服毒を止め、時間を稼ぎ、街に帰って来て俺の所に来た。

そこに何かしらの意味が在る、と思うのが道理だろう。


案を思いつかないから相談に来た、ってのが本当の事なんて有りえないだろう。

お前が思いつかない事を、俺が思いつくはずがない。


「私じゃ、駄目だから。リュナドさんか、従士さんに相談に乗って貰おうと思って」

「・・・ライナやアスバじゃなくてか」

「うん」


あの二人を除外した、って事は俺かフルヴァドさんの立場的な物が必要って事か。

態々俺か彼女が動く事に意味が在る、って言われてるんだよな。

まさかこれ、俺が出向いて何かやれって言ってんのか。

でも俺に何を求めてるんだ。ハッキリ言っていい案なんか無いぞ。


死んだふりの案は思いついていたらしいし、大衆を欺く手段なんぞ俺にはない。

火葬時にはその前に大勢が本人を確認するだろうし、燃やした後は骨を拾う。

となれば人形とかで誤魔化す事も出来ないだろうし・・・。


「・・・ああ、もしかして、そういう事か」


くっそ、そういう事かよ畜生。ああクソ、気が付きたくなかった。

気が付いた以上、フルヴァドさんに押し付ける訳にはいかねえじゃねえか。


「俺が出向いて、国王陛下を殺しに行く。そうすりゃ・・・誤魔化しようはある、か」


むしろその後の事がお前にとっては本命なんだろうな。

いや違うか。全部本命で、全部上手くやる気なんだ、こいつは。

ああ良いよクソッタレ。もう既に後戻りなんて出来ねえんだ。やってやるよ。

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