第244話、やはりと思われる錬金術師

「おや、お二人で買い物とは珍しい!」

「まあ、うん、俺は偶々居合わせただけだったんだけどな。何故かこうなってる」


今日は何時も通り本を書こうと思ったら、インクが切れた事に気が付いた。

そこでインクを作ろうと思っていたのだけど、偶々居合わせた彼の一言で市場に来ている。

よく考えたらリュナドさんと一緒に市場に来るのって初めてかも。


『・・・紙の時と同じ様に、インク買いに行っちゃ駄目なのか?』


彼にそう言われ、私はどっちでも良いかなと思ったので言われたとおりにした。

ただせっかくなので今日は彼に付いて来て貰ったんだよね。彼なら安心だし。

ついでだと思い家精霊に欲しい物を聞き、その買い物も済ませて帰るつもりだ。


「いやいや、精霊使い様と錬金術師様が仲が良いと、我々も安心ですよ!」

「・・・うん、まあ、うん・・・それで良いよ。もう言い訳すんのも面倒臭い」


元気そうな店主の言葉に、リュナドさんが頭を抱えながら対応している。

私はそんな彼に背後に立ち、彼の服の袖をちょこんと握ってついていく。

何だかこの位置久しぶりだなぁ。ああ、ここ安心する。大きい背中がとても良い。


「セレス、これで良いのか?」

「・・・ん」

「店主、後は頼んだ」

「ありがとうございます! おら、お前らとっとと錬金術師様の荷車までお運びしろ!」


店主の指示で店員が荷車に荷物を運んでいく。

それを見届けたら次の店に向かい、またリュナドさんが店主と話す。


『『『『『キャー!』』』』』


あ、荷運びを精霊が手伝ってる。後で褒めてあげよう。


「あらあらあら! 精霊使い様と錬金術師様!」

「いやー、お二方が揃っている所を見られるとは、これは運が良い!」

「やはり仲睦まじい。お熱いですなぁ」

「宝飾品は如何ですか! お二人にぴったりな揃いの物もありますよ!」

「お二方! 私どもの商品も、ぜひ眺めるだけでも!」


・・・その度に何故かやけに店主のテンションが高く、更に今日は何時もより騒がしい。

仮面も有るし彼の背中に居るから平気だけど、彼が居なかったら流石にちょっと怖いかも。

だけど彼はそんな私を気遣う様にチラチラ見つつ、買い物を手際よく済ませて行く。

最終的に私は一言も発する事無く買い物を済ませ、荷車に乗って家路に着いた。


「・・・全員俺の言う事聞きやしねぇ」

「え、ちゃんと出来てたと思うけど・・・」


家に着いた瞬間リュナドさんが項垂れながら呟き、思わず首を傾げてしまう。

私の眼からは何の問題も無かったけどな。むしろ手際が凄い良かった。

メイラと一緒に行く時の半分も時間がかかってないもん。


「やっぱ、そういう風に見せたいのか?」

「そういう風って言われても、良く解んないんだけど・・・」

「・・・お前、ほんと・・・ああもう、疲れる・・・・」


え、ええぇ。な、何で。そんな事言われても解んないんだもん。


「ああ、悪かった悪かった。解り切った事を聞いた俺が悪かったから、その顔は止めてくれ。俺達の関係は俺達が解っていればいい。周りがどういうと知った事じゃない。そうだよな」

「え、あ、うん・・・私は、そう、だね」


周りがどう思って何と言おうが、リュナドさんが私を友達だと思ってくれればそれで良い。

あ、でも出来れば、友達はみんな友達だって、そう思っててほしくはあるけど。

アスバちゃんとか、従士さんとか、特にライナとか。


「本当に俺の判断で良いのか一応聞きに来ただけだったのに、どっと疲れた・・・」

「あ、ご、ごめんね。リュナドさんも疲れるよね。家精霊にお願いしてすぐお茶にするから」

「・・・『も』ね。まあ、そりゃそうか・・・・はぁ、俺って甘いよなぁ」


最後の小さな呟きに、思わず頷いてしまう。

だってその通りだよね。リュナドさん多分私に凄く甘い。

ライナと違って叱られた事ほぼ無いもん。

でも甘いから好きな訳じゃないよ。リュナドさんは本当に良い人なんだもん。


「・・・はぁ」


ううん、何だか何時も以上に溜息多いなぁ。今日はゆっくり休んで貰おう。


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「ふざけるな、このまま引けると思っているのか! あそこまでやってコケにされたんだぞ!」


内に溢れる怒りのままに、テーブルを叩きつけながら叫ぶ。

それで怒りが晴れるはずも無く、胸の内で増々どす黒く膨らんでいく。

何故私が町に入る事を拒否されねばならん。何故ひとつ前の街に戻らねばならん。

ここまで腹が立ったのは初めてだ。ふざけるな。ふざけるなよ・・・!


「で、ですが、御身の為を想えば――――」

「私を想えば!? 私を想ってこのまま引けと言うのか! このまま引いて、あの下賤の血を引く弟に全てを譲れと言うのか! ここで引けば私は全てを失うも同然だろうが!!」


あの弟が私を、私達を恨んでいない筈がない。

もし奴がこのまま実権を握れば、確実に私達を殺しに来る。

奴にとって何よりも邪魔なのは私達だ。奴を見下していた人間だ。


「お、落ち着いてください、無理をすれば、今度はあの程度では済まないかもしれないのです」

「あの程度!? 王族の車を燃やす事があの程度だと言うのか!?」

「そ、それは・・・」


貴様が自ら来いというから、脅しに屈した事にしてやったというのに。

王族の呼び出しに応えないどころか、あんな真似をするなど・・・!

あの錬金術師は何処まで私を馬鹿にすれば気が済むんだ!


「本来なら不敬罪で処刑だぞ! 私をなんだと思っている!」

「そ、それなのですが、一つ思う処が有るのですが、宜しいのでしょうか」

「何だ! 貴様まで私を馬鹿にするのか!」

「い、いえ、滅相もありません。た、ただ少々引っかかる事が有るのです」

「ひっかかるだと?」


叫んだせいで荒くなった呼吸を吐きながら、意見を口にする配下を睨む。

この状況で何が引っかかるというんだ。何がおかしいというつもりだ。


「殿下、我々は一度として錬金術師に接触出来ておりません」

「当たり前だ。奴が応えないのだからな」

「ええ、だからこそ、何処から何処までその錬金術師の仕業なのか、と気になりませんか」

「・・・どういう事だ?」


言われている意味を理解し、少し心を落ち着けて話の先を促す。

俺が静かになった事に安堵したのか、配下はホッとした様子を見せてから口を開いた。


「今回の件は、精霊のやった事。つまり精霊使いの指示では、と」

「奴は錬金術師に与する者だろう。錬金術師に指示されればやっておかしくないだろうが」

「確かにそうかもしれません。ただ最近知った事ですが、あの二人にはとある噂が有ります」


だからそれは何だ。もったいぶった説明など、今の私には聞く余裕がないぞ。


「前置きは良い。要点を話せ」

「は、も、申し訳ありません」

「謝罪は良い。早く話せ!」

「で、では、結論を申し上げますと、此度の事に限らず、今までの対応全てが精霊使いの指示からなる物では、と思われます」


何を言っているんだコイツは。というか、先の前置きから話が飛んでいるんだが?


「で、殿下、ど、どうか、どうか最後までお聞き下さい!」

「・・・言ってみろ」


どうやら思いが顔に出ていた様だ。無意識のうちに睨み上げていた。


「どうやらあの街中では、錬金術師と精霊使いが恋仲だという事は有名な話だそうです」

「・・・そんな話、初めて聞いたぞ」

「ですが部下があの街に出入りする商人どもから集めた情報では、誰もが口を揃えてそう答えたそうです。このまま逃げ帰るのは、私共としても不服、という事をどうかご理解下さい」

「ふん、成程。貴様は貴様で動いていたという事か」


私にその報告を後回しにした事は気に食わんが、まあ良いだろう。

こ奴なりに私の力になりたい、という考えは伝わった。


「ご理解頂けて感謝の極み」

「・・・今は回りくどい言葉は要らん。良いから話を続けろ」

「はっ。我々が錬金術師に接触するには、領主と精霊使いを通さねばなりません。先ずそこが罠だったのでしょう。あれはパック殿下という都合の好い傀儡を最初から使う気だったのです」

「奴に殿下などとつけるな。虫唾が走る」

「・・・申し訳ございません。ではパックの存在を最初から引き込んでいた精霊使いは、奴を錬金術師に引き合わせた。そして次に錬金術師からの接触を断ってしまえば、後はどうなるか」


ふん、そんな事は解っている。だがそれも錬金術師の判断だろう。

何を言い出すのかと思えば、ただの現状確認ではないか。


「その上で、もし我々からの連絡を全て錬金術師が知らない、としたら」

「なに?」

「我々は錬金術師に何も関わらず、声もかけず、礼を尽くす気もない。敵対をする気だ、と取られているとすれば、錬金術師は間違いなくパックを取るでしょう」

「つまり、精霊使いが我々の言葉を捻じ曲げ、自分の都合の好いように動かしている、と?」

「ええ。でなければ何故、錬金術師本人が断りの手紙を書かないのでしょうか。送られてきた書状は全て領主からの物です。そして錬金術師は、精霊使いが居るからあの街に住んでいると」

「・・・ふん、成程な」


精霊使いとやらは元々ただの街の兵士だった、という話は聞いている。

どう上手く取り入ったのか知らんが、錬金術師に付く事で今の力を手に入れたのだろう。


そして欲をかいた。今以上の立場を得る為に、パックの奴に恩を売ったという所か。

上手くいけばパックは王となり、精霊使いはこの国で権力を手にする事が出来る。

パックは実質何も出来ない小僧だ。それが王になればやりたい放題だろう。


「成程、私の課題は、どうにかして錬金術師に直接会う事か」

「はい。その為には、王族である事を伏せ、変装して街に入り込む必要が有ります」

「・・・ちっ、気に食わんが良いだろう。私も後が無い事ぐらいは解っている」

「はっ、それではすぐに準備いたします」


精霊使いめ。覚えていろ。王をコケにした事を絶対に後悔させてやる。

私が玉座に座った暁には、貴様の首を切り落として家畜の餌にしてやるぞ・・・!

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