第243話、焼く判断を精霊使いに任せる錬金術師
「セレス、馬車を焼くのは流石に注意しなきゃ駄目だと思うわ」
「ふえ? 何の話?」
何時も通りライナの店に行ったら、奥に呼ばれてそんな事を言われた。
最近彼女が私に何かを注意する時は、メイラから引き離されている。
保護者が叱られているという図は、余り気分の良い物ではないだろうという事らしい。
だから多分何か叱られるんだろうなーと思っていたら、身に覚えが無かったので首を傾げた。
「精霊達が馬車を焼いたって、そう聞いたわよ?」
「・・・何、それ。私、知らない」
「え、精霊達は褒められたって言ってたみたいだけど」
「手紙焼くのは、褒めたよ。でも、流石に車焼いたら、私も驚くよ」
「成程・・・」
私の言葉を聞き、ライナら困った様子で頬をかきながら俯いた。
何だか少し緊張感を感じる沈黙にそわそわしながら、大人しく彼女の言葉を待つ。
「んー・・・ねえセレス。印が有れば何でも必ず焼く、と精霊達は認識してると思うの。だからこのままだと、似た様な印が付いていたら家屋でも燃やす、なんて事にもなりかねないわ」
「え、それは、駄目、だよ」
建物とか燃やしたら大変な事になる。火事は人死にだって出る大惨事だ。
「ええそうね。だから精霊に、セレスがちゃんと注意して欲しいの。今回の事はもう仕方ないけど、次は同じ様な事が無いようにしておかないと」
「う、うん、解った。帰ったら、燃やした子に言っておくね」
どの子だったか解らないけど、帰ってから山精霊達に聞けばすぐ解るだろう。
それにしても、前に燃やしたって言ってたのは車だったのか。
その部分が解ってたら驚いたし、確認に行ったのに。
・・・あれ? でもちょっと待って。確かリュナドさんが嫌がったからって言ってたよね。
「・・・リュナドさんとパックには良くないから燃やした、って精霊達は言ってたよ?」
「あー・・・まあ・・・それは、そうなんだけど」
「そうなんだ」
ライナが肯定するって事は、その部分は間違ってないって事なのか。
あれ、じゃあ別に燃やして問題無いんじゃないかな。少なくとも今回の車に関しては。
「いえ、その、待ってセレス。考えている事は想像つくんだけど・・・あ、そうだ、今回は怪我人が出なかったから良いけど、火事は関係ない犠牲が出る可能性も有るでしょ?」
「あ、うん、そう、だね」
「だから燃やす前に、燃やす物と状況を詳しく報告する様にさせて。出来ればセレスじゃなくてリュナドさんに。あの子達これに関しては、セレスが言わないと聞きそうにないから」
「そうなの?」
「あの印主が嫌いだから僕達も嫌い。リュナドも嫌ってるからもっと嫌い。って聞かないのよ」
実際あの印の良い印象は無いし、嫌いかと言われれば確かに嫌いだ。
ただ燃やす判断を私に委ねられると、多分問題しか起こさない予感がする。
ここはライナの提案通り、リュナドさんに任せておくのが得策だろう。
「ん、解った。ちゃんとそう言っておくね」
「ええ。彼の判断なら、早々事故は起きないでしょうし」
「うん、リュナドさんなら大丈夫だよね」
今まで彼に頼って駄目だった事は殆どない。頼りになる人だ。
それにしても山精霊がライナの言う事も効かないなんて、珍しい事も有るもんだね。
私そんなに嫌そうに見えたのかな。いや、実際嫌なんだけど。
「・・・彼の事、信頼してるわねぇ」
「ん、だって、リュナドさんだし」
「セレスがここまで信頼してる事を、あの人もいい加減気が付いてくれないかしらね」
「え、普段から、私言ってるよ? 信頼してるし、リュナドさんの事は好きだよって」
「そうね、そうだったわね。はぁ・・・」
あ、あれ、何で溜息吐かれたんだろう。言っちゃ駄目なのかな。
「ああ、勘違いしないでね、今のはセレスに対する溜息じゃないから」
「う、うん、わかった」
良かった。びっくりした。ほっと息を吐きつつ、少しして首を傾げる。
じゃあ一体何に対する溜息だったんだろう。今私しかここに居ないのに。
まさかリュナドさんに? いや、別に彼に溜息を吐く様な事は何も言って無かったよね。
信頼してるってのは言ってるから彼も知ってるし。
「さて、じゃあ戻りましょうか」
「うん!」
ああ良かった。今回は叱られずに済んだ。
叱られて涙目で戻ると、メイラが心配するんだよね。
「あ、お帰りなさい。セレスさん、ライナさん。食器は片付けしておきました」
「あら、ありがとう。メイラちゃんは本当に働き者ね」
「あ、で、でも精霊さん達も一緒だったので」
『『『『『キャー♪』』』』』
「はいはい、貴方達もご苦労様」
食堂に戻ると既に片付けが終わっていたので、最後にお茶を少し飲んで帰った。
のんびりしてると精霊に言い忘れそうだったから、何時もより早めにだけどね。
帰ったら早速精霊達に今回の事を伝えると、良い返事をしてくれたので大丈夫だろう。
「・・・大丈夫かな?」
自分で言ってちょっと心配になった。だってこの子達返事『だけ』は良いからなぁ。
いや、リュナドさんに任せておけば大丈夫だよね。うん。
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『キャー!』
「ん・・・何だよ、まだ真夜中じゃねえか・・・どうした・・・」
精霊に頬をぺちぺちと叩かれ、眠たい目をこすりながら起き上がる。
もし眠いからと無視すると、今度はベチベチ叩かれていたいんだよな。
「んー・・・手紙?」
『キャー!』
精霊は折り畳まれた紙を差し出し、取り敢えず受け取って開いてみる。
差出人はライナか。どうやらまたセレス関連の内容らしい。
「あん? なんだって?」
読み進めるうちに頭が覚めて行き、内容を理解した頃には完全に覚醒していた。
ただしすっきり目覚めたなんて気分じゃなく、勘弁してくれという重い気分だが。
「マジかよ、俺に判断任せるとか、止めてくれよ・・・」
向こうでどういう話になったのか知らないが、何故かそういう結論に至ったらしい。
勿論そこまでのいきさつは手紙に書いてあるが、それを信用する訳が無いだろう。
セレスが車燃やしたとは思ってなかったって、んな訳ねえだろ。
絶対解ってて燃やしてるって。知らない振りしてるだけだろう。
ただ何故かあいつはライナには逆らえないから、責任を俺に押し付けやがったんだ。
「・・・いや、少し違うか」
元々あいつは今回の件を『俺の判断』に見せかけていた。
実際門番達も、それを見ていた連中も、皆俺の指示だと思っている。
違うと解っているのは事情を知っているセレスや領主だけだ。
「むしろ好都合。お前の意思できっちりやれ。って事なのかもな」
そういう考え方をすれば、手紙の内容も納得出来る部分は出て来る。
この『セレスは貴方の事を全面的に信頼してる』って一文な。
いやー、どうなんだ。って正直思うけど、何となく意図は察せられる。
『お前は私の意図を理解しただろう。上手くやれ。お前なら出来るだろう』
っていう、信頼しているという言葉の圧力だよな、これ。
なんでライナの奴はあんなに言葉通りに受け止められるんだ。
俺にはそっちの方が解らねぇよ。今までが今までだったし。
「・・・いや、前回の事、まだ確認できて無かったか」
あの真意を聞く覚悟と、あいつに協力する覚悟って別物なんだよなぁ。
セレスに協力するのはもう覚悟決めてるよ。んなもんとっくに決めてるさ。
けどあいつに信頼されてるてきな思考は、色々怖くて出来ねえんだよなぁ。
「はぁ・・・まあ、良いか。知らない所でやられるより、よっぽど良いか」
報告を全て俺に上げてくれるなら、その方がやり易い。
望み通り上手く動いてやるとしますか。出来るかどうかは解んねえけどな。
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