第242話、良く解らない確認をされる錬金術師
『・・・! キャー!』
「へ? 燃やした? 何を?」
『『キャー!』』
「ん、君達も? どういう事?」
今日は何をしようか考えていると、お昼寝をしていた山精霊が急に起き上がった。
それ自体は割と良くある事だから気にしなかったのだけど、その内容に首を傾げる。
リュナドさんの為に燃やした事を主に報告し忘れていた、と言われても何の事やら。
山精霊達から伝えられる内容が断片過ぎて良く解らない。バラバラの内容を言うから余計に。
こういう時メイラが居れば良いのだけど、残念ながらさっきパックと共に出てしまった。
何時もの山での採取だ。と言っても最近はパックに教えるのがメインになってるみたいだけど。
『『『キャー!』』』
「んー・・・えーと・・・何を?」
どうやらこの三体の精霊達が、私が燃やすと言った物を燃やしたらしい。
私何か言ったっけ? 褒めて褒めてって言われても、先ず何の事か解らないんだけど。
そう思っていると一体の山精霊がペンとノートを作り出し、何かの模様を書き始めた。
出来上がった物を見ると確かに燃やすと言った覚えがある。この間手紙に在った印の事か。
「リュナドさんが嫌がってたから、代わりに燃やした、って事、かな?」
『『『キャー!』』』
「そっか。お疲れさま。よしよし」
『『『キャー♪』』』
精霊達を褒めながら頭を撫でてあげると、三体とも嬉しそうに声を上げる。
そしてそのまま跳ね跳びながら庭に向かい、庭の精霊達と話し始めた。
腰に手を当ててふんぞり返っている。褒められた事を自慢してるのかな。
「それにしても、リュナドさんが嫌がるって・・・そんなに沢山来てたのか」
燃やすのを嫌がるって事は、それだけの作業量が有ったって事だよね。
精霊達は私に褒められたくてやったみたいだけど、彼の役に立てたなら良かった。
いや、結果的に私に褒められる事をしただけで、彼の役に立ちたかったのかな?
「まあ、いっか、どっちでも。精霊達も嬉しそうだし・・・・ん?」
庭で楽しそうにしている精霊達を見てクスリと笑い、扉を締めようとした。
その時かすかに走る足音が近づくのが耳に入り、街道への通路へ目を向ける。
するとリュナドさんが焦った様子でやって来て、息を切らして近づいて来た。
「ど、どうしたの、リュナドさん」
「はぁ・・・はぁ・・・さ、さっき、精霊達から・・・セレスが燃やすって言ったから、燃やしたって聞いて、い、急いで確認に来たんだが・・・じ、事実か・・・?」
ん、これって多分さっきの精霊の話かな。彼の代わりに燃やしたって話の事だよね?
「う、うん、そうだと、思うけど・・・あの印が付いてる物は燃やしたら、って、前にリュナドさんに言った、よね? リュナドさんもそうするって、言ってた、よね?」
あの話って、リュナドさんとした話だよね。彼が知らないはずないと思うんだけど。
不思議に思いながら応えると、彼は大きなため息を吐いて蹲ってしまった。
「うん、確かに言った。うん、言ってたなぁ・・・そっかぁ・・・」
え、な、なんでそんな落ち込んだ様子なの。ど、どうしたの。
まさか山精霊達、燃やしちゃいけないものまで燃やしたのかな。
「あ、まさか精霊達、印の無い物、燃やしたの?」
「・・・いや、確かに印は在る。精霊達は、何も間違えてない。うん、間違えてないんだよ」
あ、あれ? そうなんだ。なら何でリュナドさんはこんなに落ち込んでるんだろう。
不安になりつつもどうしたら良いのか解らず、蹲る彼の反応をオロオロとしながら待つ。
少しして彼はまた大きなため息を吐いてから立ち上がった。
「一応、連中が碌な態度じゃなかった事は門兵から報告を受けている。この場に及んでこの地の領主の正規兵に真面な態度じゃないって時点で、色々と期待は出来ないだろうな」
連中って誰の事だろう。というか、話が飛び過ぎて何の事か解んない。
思わず首を傾げながら聞くも、彼は私の態度を気にした様子なく続ける。
「だから精霊達の行動は門兵を助けた形になるんだろう。そして精霊様が行われた事ならば自分達もそれに従おう、と門兵達は判断したらしい。結果として連中は何も出来ずに逃げ帰った」
・・・どうしよう、増々言われている内容が解らない。
内容的には精霊達が役に立って、門番さん達が助かったって話だよね。
それは解ったけど、何でいきなりそんな話をされているのかが全く理解できない。
「言っててなんだが、結果的に街中では何も問題起きずに終わった形か。はぁ・・・」
ううん? 問題が無かったなら良いんじゃないのかな。
良く解んないんだけど、何でそんなに溜息吐いてるんだろう。
「・・・セレスは、俺にどうなって欲しいんだ」
「え、私は、リュナドさんが友達で居てくれれば、それで良いけど」
突然変な事を聞く彼にキョトンとしつつも即座に返す。だって当たり前だし。
今日のリュナドさんは変な確認が多いなぁ。どうしたんだろう。
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魔獣討伐を問題無く終えた事をマスターに告げ、そのまま領主館に向かう。
館に着くと即座に領主の下へ案内され、王子の車が来ている事を報告した。
ついでにセレスがガン無視してたことも報告すると、苦笑しながら領主は迎えを出す。
「迎えた所でお断りの旨を伝えるだけになるが、迎えん訳にもいかんだろうしな」
「パック殿下以外相手にする気全くなさそうですからね、セレスは」
「それだけ見込みがある、という事だろう」
見込みか。確かに聡明な人間だとは思うが、セレスを信じ切っている所が少し怖い。
セレスがやれと言えば、それこそ人が大量に死ぬ事もやりかねない危うさを感じる。
そういう意味では見込みが有るというよりも、操縦し易さで選んだのではと思った。
邪推と言われればそれまでだが、パック殿下の態度を見てるとどうにもな。
「殿下が面倒を起こしても困る。護衛に付いてくれるか」
「・・・私が居ても居なくても変わりはしないと思いますが」
「馬鹿を言うな。今のこの街で誰よりも価値を持つのは貴様だ。錬金術師は確かに重要だが、貴様が居なければ話にならん。そしてそれが解らんのならば早々に帰って頂く」
うーん。むず痒い。そんな高評価を貰う様な人間じゃないんだが。
俺の言う事なら聞くと思われがちだけど、あいつ別に俺の言う事なんて聞かないしな。
ある程度俺の要望には許容してくれるだけで、基本人の事なんて気にしちゃいないと思う。
「殿下が来れば呼ぶから、その間休んでおけ」
「はっ」
言われた通り別室で体を休め、久々にぼーっと何も考えずに待つ。
周りでキャーキャーと煩くは有るが、もう日常なので気にもならない。
そうして待つ事暫く、文官が慌てた様子で俺を呼びに来た。
至急領主の下へ来て欲しいと言われ、困惑しつつ早足で向かう。
「来たか、リュナド」
「何か有ったので?」
「・・・成程、少なくとも貴様の判断では無さそうだな」
今のは俺の反応から何かを判断した答えだ。凄く嫌な予感がする。
「先程門の前で王子殿下の乗る車が燃やされた。犯人は精霊との事だ」
絶句した。いや、こんなのどう答えろって言うんだよ。
まって、それって俺がやったって思われるやつじゃん。
っていうか何でだ。何で燃やした。
「・・・お前ら、何でそんな事したんだ」
精霊達に問いかけると、お互いに顔を見合わせキャーキャーと話し合いを始めた。
その間俺は兵士から事の顛末を聞き、王子達の態度に呆れつつも精霊の対応に頭を抱える。
すると一匹が大きく声を上げて鳴き、呼応するかの様に他の精霊達も鳴き出した。
『『『『『キャー!』』』』』
「マジか・・・勘弁してくれ・・・」
「リュナド、精霊方は何と言った」
「セレスの指示、だそうです」
「やはりそうか」
精霊達の答えは『主が燃やせって言ってたからだと思うー』だった。
俺もそんな気はしていたが、領主は最初からそうだと思っていたらしい。
「一応確認を頼めるか」
「・・・答えるかどうか解りませんが、行って参ります」
指示されずとも流石に確認に行きたい内容だったので、即座にセレスの下へ向かう。
全力で走って辿り着くと、いつもの様に扉を開けて構えていた。
俺が来る事が解っていた態度のセレスに、呼吸を整えつつ今回の事を訊ねる。
「あの印が付いてる物は燃やしたら、って、前にリュナドさんに言った、よね? リュナドさんもそうするって、言ってた、よね?」」
そして帰って来た答えは、事前に確認していただろうという物だった。
いや確かにされてたけど。まさか印が付いてたら車までも燃やすとは思わないだろ。
しかも言い方的に、俺の判断で実行した風に見せたのはそれが理由って事かよ。
つまり今回の件は俺の意図も噛んで動いている、と思わせたいという事か。
ただその先の意図が解らない。一体セレスは俺に何をさせたいんだ。
セレスだけでなく、俺個人もパック王子に付いたと思わせたいのか。
「結果的に街中で問題起きずに終わった形か。はぁ・・・」
正直この後に面倒が絶対あるとは思うが、結果的に現状損害無しなのが文句を言い難い。
門兵達にしてみれば、自分達が追い払えない横柄な連中を精霊が追い払った形だしな。
これもしかして、俺への求心力を上げたのか。いや、上げてどうするつもりだ。
「・・・セレスは、俺にどうなって欲しいんだ」
「え、私は、リュナドさんが友達で居てくれれば、それで良いけど」
真顔で返された。どうしよう。本気でセレスの考えが解らない。
言葉通りに受け取るには色々と策を張り巡らし過ぎだろ。
取り敢えず、俺の返答も原因だったって報告しに戻るか・・・言い難いなぁ。
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