第241話、相手をする気は無いと思われる錬金術師

「・・・やってしまった」


また頭に血が上って勢いのまま行動をしてしまった。

相手が魔獣だったから良かったけど、二人への授業が物凄く中途半端だったよね。

一応その後言おうとしてた事は伝えたけど、燃やしたせいで正確な変化を見せられなかった。


従士さんの時に反省したはずなのに、相変わらず私は駄目過ぎる。

その上メイラとパックに慰められてしまったし、本当に何やってるんだろう。

あの子達は本当に優しくてできた子だなぁ。私とは大違いだ。


「・・・でも、リュナドさんに怪我が無くて、よかった」


あと少し動くのが遅れていたら、多分彼は地面に叩きつけられていたと思う。

ん? 結界石が発動しなかった辺り、彼は命の危険とは感じてなかったのかな。

となると私が勝手に焦って勝手に怒っただけなんだろうか・・・うう、やってしまった。


落ち込みながら彼が町の人との話を終えるのを待ち、終わったらそのまま家へ飛ぶ。

また二組に分かれて飛んでいたけれど、行きと違ってメイラに気を配る余裕はなかった。

落ち込みながら黙々と家に絨毯を飛ばし、精霊達に迎えられて庭に降り立つ。


「・・・ん、ただいま」


山精霊達は何時も通りだったけど、家精霊は少し心配そうな様子を見せている。

何時もながら察知能力が凄いなぁと思いながら、家精霊をギューッと抱きしめた。

すると優しくポンポンと頭を叩かれた後に撫でられ、その心地良さに目を瞑る。


今はちょっと甘えさせて貰おう。落ち込み過ぎてちょっと泣きそうだし。

何だか足元で山精霊達がキャーキャーと騒がしいけど、今はちょっと許してね。


「お、降りれ、降りれました・・・!」

「お、お疲れ様です、メイラ様」

「大分慎重に下りたな。お疲れメイラちゃん」


そうしている間にメイラが自力で地上に降り、リュナドさんが労いの言葉をかけていた。


「あ、そ、そうだ、着地の方が、危ないんだった」


慌てて家精霊の胸から顔を上げ、メイラの様子を見に戻る。

するとメイラは私に視線を向け、少し不安そうな顔を向けていた。

う、ちゃんと見てなかった事、言われちゃうのかな。


「あの、セレスさん、私、ちゃんと飛べました、よね?」

「え、う、うん、大分頑張ってたと、思うよ」

「―――――、え、えへへ、良かったぁ」


物凄く嬉しそうに笑うメイラの様子に、少しほんわかした気分になって来る。

思わず口元に笑みが浮かび、彼女の頭に手を伸ばす。

頭を撫でてあげるとメイラは目を細め、嬉しそうに手を受け入れてくれた。

そのおかげだろうか。気持ちが大分落ち着いている事に気が付く。


「良かったですね、メイラ様」

「はい! あ、パック君、その、ちょっと強引に乗せてしまって、ごめんなさい」

「いえ、乗り心地は良かったので、お気になさらず」

「そう、ですか? 結構ふらふらしていた自覚は有るんですが・・・」


パックが声をかけるとはっとした様に目を開け、少し恥ずかしそうな様子を見せるメイラ。

それに首を傾げつつメイラを撫で、二人の会話をポケッっと聞く。

確かにちょっとふらふらしてたよね。行きしか見てなかったけど。


「セレス。俺は領主様に報告に行くが、セレスはどうする」

「ん、私は、行かないけど。このまま家でいつも通り過ごすよ?」

「そうか、そうだよな。解った」


領主に報告に行くというのは何時もの事だけど、何で私にそんな事を訊ねて来たんだろう。

一緒に行った方が良かったのかな。でも解ったって事はいかなくて良いん、だよね?


「ま、何か有ればまた来る事にするが、先ずは報告に行って来るよ」

「うん・・・あ、待って」

「ん、どうした?」

「その、今日は、ごめんなさい」

「あー・・・うん、まあ、俺は特に気にしてない。自分が油断したせいだと思ってるからな」


いや、えっと、そっちもなんだけど、どちらかというとその後の事の方が。

とは思った物の上手く説明できず口ごもっていると、話が終わったと判断されてしまった。

引き留める言葉も口に出来ず、去って行く彼と精霊を見送る。


優しい彼の事だからどっちにしろ気にするなというのだろうけど、やっぱり申し訳ないな。

怪我させなかったから良いけど、一歩間違えてたら皆に火傷負わせてたわけだし。

そうだよ。二人も危なかったんだよね。本当に私は駄目だ。


「・・・パック、メイラ、今日はごめんね。私がカッとなったせいで」

「そんな、何度も謝らないで下さい。先生はちゃんと皆に危険が無い様に配慮していたじゃありませんか。あれは守る為にした行動でしょう」

「そ、そうですよ。リュナドさんがケガしない様に、って思ったんですよね」


それはそうなんだけど。うう、なんかまた慰められてしまっている。

私一応保護者の立場のはずなのになぁ。何でこうなるんだろうか。


「それに、あれはリュナドさんが大事だから、ですよね?」

「・・・ん、それは、勿論」

「なら良いじゃないですか。リュナドさんが無事で、私達も無事で、お仕事も終わったんです」


そう言われるとそういう気もして来る。確かに結果を見れば何の問題も無い。

ただライナには報告したら少し怒られそうな気がするんだよなぁ。


「それに私達が危険な目に遭っても、きっとセレスさんは焦ってくれます、よね?」

「・・・当たり前だよ。危ない目に遭わせない様に、対応技術を身に付けさせたいんだし」

「えへへ、だったら私は嬉しいです。だからそんなに気にしないで下さい」


にっこりと笑うメイラに、これ以上へこんでいるのも申し訳ないという気分になって来る。

そうだね。その場にいた三人が皆気にするなって言うなら、もう気にしない様にしよう。

次気を付け・・・うん気を付けたいな。なるべく。出来れば。


「・・・僕も、焦って貰える、のでしょうか」

「・・・へ?」

「あ、いえ、す、すみません、厚かましい事を申しました!」

「・・・焦るよ。当り前だよ、そんなの」


パックは教え子・・・私は師匠としては未熟だけど、教え子なんだもん。

これだけ関わった相手に危険が有れば、当然焦るよ。


「―――――、ありがとう、ございます」

「? う、うん」


何で礼を言われたんだろう、今の。聞かれた事に応えただけだったんだけど。

ああいや、この子質問に答えただけで良く礼を言ってるから、何時もの事か。


「あ、セレスさん、家精霊さんがお菓子の用意をしてるそうですよ」

「ん、それじゃ、ちょっと休憩にしようか」

『『『『『キャー!』』』』』


家精霊のお菓子と聞いて、我先にと山精霊達が家に突撃していく。

残念ながら扉も窓も私達が近づくまで開かず、一体も入れなかったようだけど。


「そうか、焦って、くれるのか・・・心構えと本音は別、で良いのかな」

「・・・パック、どうしたの?」

「あ、い、いえ、すみません、お茶の用意を手伝ってきます!」

「う、うん・・・」


凄く焦って台所に行っちゃったけど、何か変な事聞いちゃったのかな。

疑問の形で呟いてた様に聞こえたから、私に質問なのかと思ったんだけど。

でもすごく笑顔だった気もするし・・・見間違いだったのかな?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『『『『『ただいまー!』』』』』

『『『『『おかえりー!』』』』』


主の絨毯からピョンと降りて、迎えてくれた僕達と手をパーンと叩き合う。

近くに居た家は僕達を無視して主の傍に向かい、少し不安そうな顔で話しかけた。


『お帰りなさい、主様・・・何か御座いましたか?』

『主怒ったー』

『リュナド危なかったー』

『アチアチだったー』

『・・・成程。大体想像がつきました。お疲れ様です、主様』

「・・・ん、ただいま」


主が家にギューッと抱き付き、家は僕達に一切視線を向けず主を優しく受け入れている。

何それ狡い。僕達だって主を慰められるもん。


『家は何時も狡い』

『ねー、僕達の方が一緒に出掛けて役に立ってるのにねー?』

『ぶーぶー。僕達も主慰めるのー』

『煩いですね。黙ってなさい。今邪魔したら投げ飛ばしますよ』


家の周りで不満を口にしてると、メイラがふらふらしながら降りて来た。

地面に降り立つとメイラはほっと息を吐き、主に評価を貰えて凄く嬉しそう。

僕も上手に飛ばしてるのになぁ。僕も褒めて欲しい。


『そういえば、さっき焼くやつ見たよー』

『焼くやつ?』

『こんなのー』


リュナドと主が話しているのを待っていると、僕が地面にガリガリと模様を描きだす。

確か前に今度から焼くって言って、リュナドが領主館で焼いてた模様だ。


『車に付いてたー』

『領主館に有るのに似てる車だったね』

『どこで見たのー?』

『帰り道で街に近づいてたねー。リュナドが凄ーく嫌そうな顔してたー』

『パックもなんか不安そうだったー』


僕は見てなかったけど、主が焼く模様の物が近づいて来てるみたい。

うーん、リュナドもパックも嫌がってるのかー。

二人共焼いてる時、そんなに嫌そうな様子じゃなかったのにね?


『僕様子見て来るー』

『あ、じゃあ僕も行くー』

『僕も僕もー』


嫌がってるなら届く前にどうにかすれば、主も僕達を褒めてくれるよね!

そう思って家に残る僕達に行って来るねーと言って離れ、街道の方へ出て車を見に向かう。

暫く歩くと新しい門の所に車が止まっていて、何だか門番に嫌な感じの奴が詰め寄ってた。

むう。リュナドの仲間に何するの。やっぱりあの模様は悪い物なんだ。


『よし、燃やそう!』

『燃やすー!』

『でもどうやって燃やすのー?』

『これ使う! 主が火をつける時に使うやつ!』

『あ、魔力いっぱい籠めたら燃えるやつだ! 頭いいー!』


主や家が火をつける時に使ってる石。燃やすなら要るよねと思って倉庫から持って来た。

これに目いっぱい魔力を入れれば、あっという間に大きな火になる。


『よーし、点けるよー!』

『『おー!』』


車の下に潜り込んで石に魔力を流すと、一気に火柱が立った。

でも車はちょっと燃え難い物だったみたいで、すぐに火が点かなくて困る。


『んー? 中々燃えないね?』

『あ、石、崩れちゃった・・・』

『あー、まだ燃えてないのにー!』


車が燃える前に石が崩れ落ちて火が消えちゃった。

一個しか持ってないからもう付けられない。どうしよう。

僕達がそう思ってしょぼんとしていると、上からパチパチと音が聞こえて来た。


『あ、点いてる!』

『ほんとだ、点いたー!』

『やったやったー!』


石は無くなっちゃったけど、無事に火が付いた。暫くして車全体に火が移っていく。

目的を果たせた僕達はわーいと喜んでその場を離れ、跳ね飛びながら家へと戻る。


「な、何だ、何で火が!?」

「殿下、早くお離れ下さい!」

「くっ、こ、これが返答とでも言うつもりか!?」


後ろで何かわちゃわちゃ騒いでいたけど、やりたい事をやり切った僕達には関係ないもんね。

満足した気持ちで家に帰ると、家がお菓子を出してたから皆で食べてお昼寝をした。

いい仕事したし美味しいしお昼寝は気持ち良いし、僕凄く満足!


・・・あれ、そういえば何で燃やそうと思ったんだっけ?

ま、良いか。燃えたから良いよね! ちゃんと燃やした!

へへーんだ! 家のやつはここから出て行けないから僕達みたいに役に立てないでしょー!

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