第226話、怒り心頭のアスバに困惑する錬金術師
リュナドさんと従士さんの用はあれだけだった様で、その後はお茶を飲み切って帰って行った。
私は二人を見送った後静かになった家がちょっと寂しく、家精霊を抱えながら作業に入る。
家精霊は私の膝の上で球体になっているけど、溶け気味なので機嫌は良いんだろう。
「最近ちょっと、依頼量多い気がするなぁ・・・」
受ける頻度の低い私が悪いのかもしれないけれど、受ける度に依頼が増えてる気がする。
討伐系統の依頼が全く無くなりつつあるから余裕はあるけど、それでもちょっと多い様な。
まあ処理しきれない訳でもないし、お昼寝もやろうと思えばする余裕はあるけど。
「メイラに教える時間が無くなりそうなら、流石に減らして貰おうかな」
とはいえ基本的には薬の依頼しかないし、一気に作れば良いだけなのだけど。
たまーに『何か面白い物が欲しい』みたいな依頼も来るけど、そんなのは稀だ。
因みにその手の依頼の時は、ライナやリュナドさん達に作る物の確認をして貰っている。
私の判断で作ると危ないからだって。別に防具類とかなら危なくないと思うんだけどなぁ。
「種火石が売れたのが一番意外だったかな」
私の愛用している道具の一つ。魔力を通す事で熱を発し、火種にする事が出来る道具。
ただしこの道具は魔法石と違い、魔法を籠めている訳では無い。
とある鉱石と魔獣の素材を混ぜて乾燥させ、石のように硬くなった物をそう呼んでいる。
これの存在を領主が知った所、これこそ売りに出すべきだという話になった。
確かに火種として持ち運びは便利だし、私も外で火が要る時に良く使っている。
それに台所で炭や薪に火を付けるのにも便利なので、家精霊にも壺に入れて渡していた。
ただしこれの問題点は、絨毯などと同じで魔力を操れないと使えないという事だ。
「・・・何でもやってみるもんだよねぇ」
ただし、今の種火石はその条件をクリアしている。その要因はまた山精霊達だ。
作り方は本来の種火石に、精霊達が用意した素材を混ぜるだけ。
要はこの仮面と同じ、精霊達の作り出した『人の精神に作用する石』を混ぜた訳だ。
結果として一般に流通出来る道具となり、主に飲食店で物凄く売れているそうな。
勿論作る為には精霊達の協力は不可欠で、あの子達にも報酬は与えている。
家精霊から一日に与えられるお菓子の量が1割増えた。
それで良いのかと思うけど、精霊達は満足そうなのできっと良いんだろう。
「多分精霊達に頼らずとも、別の素材でも行けそうな気はするんだよね・・・」
今迄試した事は無かったけれど、知識に在る素材を使えば出来るのではという気持ちはある。
ただそれを探しに行くのが面倒くさい。だって流石に危険な所に有るし。
万全に準備をして行かなければ、死ぬ危険がある様な所に有る素材だ。余り気乗りしない。
お母さんに突然連れて行かれた時は生き残るのに必死だった覚えがある。
「今思うと、お母さんは『自分が使う事』を基本前提として作ってたんだろうな。他人が自分の道具を使う事を前提としてないから、魔法が使えないと使えないままの道具も多いんだ」
特に顕著なのが魔法石だろう。これは魔法が使える事が大前提の道具だ。
ただしここで重要なのは『高度な魔法技術を必要としない』という事なのだけど。
魔法石は時間さえかければ、魔法が下手でも高威力で精度の高い魔法を放つ事が出来る道具。
何せお母さんは然程魔法が上手くない。だけど私より高威力の魔法石を作れる。
それは私が一つに時間をかけないせいでもあるけど、詰まる所時間さえあれば作れるという事。
確かに作る為に技術と慣れは要るけど、それさえクリアすれば誰でも大魔法が使える優れ物だ。
「・・・今迄実感した事無かったけど、本当に大発明だよね、これ。これが無かったら精霊には勝てないし、アスバちゃんの魔法も防げないもん。お母さん、凄いなぁ」
追い出された時の手紙に『教える事は教えた』という事は書かれていた。
今こうやって生活できている事を考えると、あれは紛れもない真実だったんだと思う。
「ああもう、解ったから! 後で構ってあげるからちょっと待ってなさい!」
アスバちゃんの事を頭に浮かべていると、彼女の声が聞こえた。凄いタイミングだ。
精霊の楽しげな声より先に聞こえて来るのは珍しい。
取り敢えず出迎えようと家精霊を抱えたまま立ち上がり、庭へと向かう。
「アスバちゃん、いらっしゃい」
「ん」
アスバちゃんを出迎えると、何故か彼女は私に手を差し出した。
手のひらは上に向かれていて、顔つきは少しむっとした様子に見える。
何だろうと思いつつそっと手をのせると、パシンと強く叩かれた。酷い。
「痛い・・・」
「あんたがふざけるからでしょうが」
「えぇ、ふざけてないんだけど・・・」
「良いから出す物出しなさい! ほら!」
何故か怒り気味にまた手を差し出してくるアスバちゃん。
出す物出しなさいって、何を出せばいいんだろう。アスバちゃんに何か言われてたっけ?
「・・・何の話?」
「すっとぼけんじゃないわよ! 私への招待状はどうしたのよ!」
「・・・招待状?」
「そうよ! リュナドとフルヴァドには有ったんだから、私にもあるでしょ!」
招待状・・・もしかしてパーティーの招待状かな。でもアスバちゃん宛のって無かったよね。
「無い、けど・・・」
「は? そんな訳ないでしょ」
「え、いや、本当に、無い、けど・・・」
「・・・え、ほんとに?」
強気な顔から一変、凄く不安そうな顔で聞いて来るアスバちゃんに頷いて返す。
すると彼女は愕然とした表情を見せた後、むきーっと怒って地団太を踏み始めた。
「何でよ! 何で私だけ!? 今回は私ちゃんと前に出たわよ!? 名乗ったわよ!? っていうか王都の連中震え上がらせたのは私だってのに!!」
むがーっと怒って叫び散らすアスバちゃんに、流石に精霊達もちょっと距離を取っている。
多分この間の空での魔法戦が原因だろう。あれちょっと怖かったらしい。凄く解る。
「ちょっと手紙と招待状持ってきなさい!!」
「う、うん、わ、わかった・・・」
アスバちゃんに気圧されて頷き、家精霊に封筒を持って来てもらう。
そのまま彼女に渡して中を確認してもらうと、アスバちゃんは俯いて肩を震わし始めた。
まさか泣いてるのかなと不安になっていると「ふ、ふふっ、ふふふっ」という笑いが耳に入る。
「上等じゃないの! ふっざけんじゃないよ! 呼ばれてなくても行ってやる! 魔力ダダ流しにして、護衛の連中全員震え上がらせてやるんだから!!」
「え、あ、アスバちゃん・・・」
「帰る!!」
「あ、はい」
小さい体を怒らせながら、ダンダンと足音強く帰って行くアスバちゃん。
あ、封筒持って行かれた。いや、いっか。返して貰うの怖いし。
・・・アスバちゃん、パーティー好きなのかな。なら知り合いだけ呼んで、今度してあげよう。
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王族の開くパーティーが有るとリュナドから聞いた。何が目的かなんて解りきっている催しだ。
当然その催しにセレスが行かないなんて事は最初から解ってる。
セレス自身がどこかの陣営に協力すれば、おそらくセレスの名を騙って動く馬鹿が現れるもの。
いや、協力しなくたって騙る奴は出てきている。
リュナドと精霊の監視の下に在る街中で騙る馬鹿が居るぐらいだもの。
目の届かない所でセレスの名がどう扱われるか、火を見るよりも明らかだわ。
「まあ、セレスがそれに気が付かない、なんて事は有り得ないけど」
ただセレスがこの領地とあの王子以外に関りが無ければ、その騙りは余り効果を発揮しない。
貴族連中の全員共通の認識は、未だ誰一人としてセレスに直接協力を得られていないという事。
いや、一人例外の筋肉領主が居たけれど、あれは権力を求めていないから除外なんでしょうね。
ともあれそんなセレスの協力を得られたとなれば、力関係の天秤は一気に動く。
ならば今の様な水面下の小競り合いではなく、一気に内戦にまで膨らむ可能性すら有るわ。
そんな事になれば、苦しむのは一般人だ。何の罪もない民人達だ。
たとえ決着が早々に付いて被害が少なくても、それは無視していい被害じゃない。
だけど上の連中はその被害を『数字』で見るから、そんな思考にはならない奴が絶対居る。
セレスはそれを理解しているからこそ、絶対に何処かの陣営に肩入れなんてしない。
「それにそんな事出来ないように、私がきっちり脅してあげましょうかね」
ただセレスと違って私の存在はそういった事に使えない。
何せ私はただの『戦力』だもの。それも戦った相手は王国軍。
味方に付いたと認識すれば面倒でしょうけど、そんな風に思わせる気は一切無いわ。
下手な真似をすればその場の全てを吹き飛ばす。そういう脅しとして出向くつもりだもの。
一番の重要人物はパーティーに不在で、ただ力だけを送られた。
その意図を察せない馬鹿は、仲間だと思ってる連中に内内で潰されるでしょうね。
連中だってそうなる可能性を考えているでしょうけど、それでも私を無視出来ない。
だって私は今回の件で、何よりも強力な『力』として動いたのだから。
セレスと王子が私を重宝しているという事実を無視出来る訳が無いわ。
「・・・ムカつく」
って思ってたのに、何よこの扱い!! 何で私だけ招待状無いのよ!
ああそう、そういう事、そういう事するのね連中は!!
ただ怖いだけの強力な戦力は来てくれるなと!! 扱い難い奴はやって来るなと!!
「絶対に行ってやる・・・!」
全員震え上がってダンスの足も踏み出せない様にしてやる・・・!!
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