第220話、場を締めて帰る錬金術師。

コレは一体何を言ってるんだろう。街の事に私は何も関係ないし、メイラだってそうだ。

なんで私達が関りがある、みたいな風に言ってるんだろうか。

大体敗れたどうこうって、住処の近くに攻めて来たら撃退するのは当たり前じゃないかな。


ただ流石に王子が何か企んでいるという話は、私には良く解らない事ではある。

もしかしたら本当なのかもしれないけれど、コレの言う事を信じるのは悪手だろう。


「・・・コレは敵だしね」


捕らえて無力化して、もう手を出す必要が無いとしてもそこは変わらない。

私の友達を手にかけようとした敵である以上、何を言おうと信用に値しないと判断する。

これに関しては私の勘違いという事は無い、確実な事柄だ。ならコレを信じる価値が無い。


少なくとも王子はお母さんに好意を持っていて、私にもそこそこ親切なのだから。

後私が欲しいって、私は物じゃないし、そんな事言われた覚えもない。


そもそも私、あの街からもう離れる気全くないから、攻めて来たら全力で撃退するけど。

街にはライナだって居るんだから、私が戦わない理由はどこにも無い。敵なら怖くないし。

まあ別に私が何かしなくても、精霊達が守ってくれそうだけど。


それに砂の城って、砂で城なんか作ったら崩れるのが当然だけど、城なんか街に無いよ。

本当に何を言ってるんだろうね、コレ。訳の解んない事ばっかり言ってる。

なんて思いながら、私には関係ない話だなと、ぼーっと眺めていた。


「・・・言いたい事は言い終わりましたか、国王陛下」


すると従士さんが国王の前に立ち、何かを口にした後に剣の力を身に纏う。

ただそれは前に見せて貰った時とどこか違い、彼女の為の力に成った様に見えた。


「条件を付け加えた・・・ううん、違うかな。書き換えた、が正しいのかもしれない」


あの剣から少し話を聞いたけど、精霊殺しは持ち主の行動の結果生まれた存在らしい。

精霊という強大な相手から人を守る為に戦い、精霊殺しと他者に呼ばれる様になった事で。

決定打は『数々の精霊を屠って来た精霊殺しの相棒で、斬れねえもんなんてねえんだよ!』という持ち主の言葉と、自身と戦場に溜まっていた様々な力の影響により魔剣として目覚めたと。


だからこそ持ち主を失った精霊殺しは、生前の主が取る行動を条件に力を行使する形になった。

あくまで精霊殺しは持ち主の生き方により目覚めた剣。戦うにはそれをなぞる必要が有る。

だけど今は、今の持ち主は彼女だ。だから今の持ち主に合わせたんだろう。

元々条件の範囲内で力を発揮できる性質を、彼女に合う条件に変える事で全力を出せる様に。


多分精霊殺しも彼女も、今の時点で本当の意味での『所有者』と『持ち物』になったんだろう。

これは精霊殺しの都合というよりも、従士さんが剣の所有者になると本格的に決めたからかな。

それにしても優しい光だ。優しい彼女にはとても似合う。この光はとても心地良い。


「我が剣の力を見た者達よ、世に語るが良い! 我と剣は街の守護者!」


・・・え、あ、もしかして従士さん、ずっとこの街に住むの? やった。嬉しい。

いつかどこかに行っちゃうのかなー、とか思ってたから、それはとても嬉しい。

思わずニコニコしながら眺めていたら、彼女はこっちへやって来た。


「ふふ、勢いでやり過ぎたかな。これで街から出て行けなくなってしまった」

「ん? 多分、出てくだけなら、大丈夫、だと思う」


さっきのは剣の力を使う為の条件。だから彼女が個人的に出かける事に関しては問題ない筈。

それに『精霊殺し』の力が消えた訳では無いだろうし、多分例外も多少有ると思う。

あくまでも剣自身の特性はまだ精霊殺しであり、相手が精霊ならば力を行使できる筈だ。


「そうだな。だけど決めたから。今度こそ、決めた事を最後まで全うしたいと思うんだ。私はこの剣を最後まで持ち、必ず後継者も作ろう。そうすれば、精霊殺しも寂しくないだろう?」


優しく剣を撫でる彼女の眼はとても優しく、何だか自分にも優しくされている様に感じる。

彼女は本当に優しい人だ。そんな彼女に攻撃しようとした事実には、全力で反省しないとなぁ。

まあ今日は喜んでおこう。友達がずっと近くに住む事になったんだもん。


「錬金術師、答えろ、貴様は何故、何を考えている・・・これから何をするつもりだ・・・!」


そんな嬉しい気持ちは、何故か私に話しかけて来た国王の言葉で邪魔をされた。

思わず冷たい目を向けてしまうと、国王は目を見開いて私を見つめ返す。

普段なら怖いけど、コレ相手なら怖くは無い。だって何も考えなくて良いんだから。


大体何を考えているって言われても、従士さんが傍に住む事を喜んでいただけなんだけど。

それにこれから何をするつもりかなんて言われても、何にも考えてないから困る。

ああ、取り敢えずメイラを連れて帰って、心配したんだよって言いたいかな。

でもそれをコレに言う必要あるかな。無いよね。むしろ出来れば会話もしたくない。


「・・・貴様に、応える必要は、ない」

「―――――っ」


まだ胸の内に怒りは残っている。そんな相手に楽しい気持ちを邪魔された。

そう感じてしまったせいで少し怒った感じに言っちゃったけど、問題は無いだろう。

国王も再度問う様子は無いし、問われた所で応える気も無いし。


とはいえ怒った気持でメイラに会う訳にはいかない。一旦深呼吸をして心を落ち着けうよう。

深く息を吸って吐き、そこでふと、もしかしたら手伝いが要るのかな、なんて思った。


「リュナドさん、私、何か手伝う事、有る?」

「え、あ、いや、だ、大丈夫、だが、その、元々セレス抜きでやるつもり、だったんだし」

「?」


リュナドさんに問うとやる事は無いと言われたが、何故か彼は凄くどもって返してきた。

まるで焦った時の私の様だけど、何に焦っているんだろう。

その事に思わず首を傾げつつも、私が居ない事が前提なら居るだけ邪魔だろうと結論を出す。


「そっか、じゃあ私、メイラを連れて帰るね?」

「あ、ああ、わ、解った」


リュナドさんと従士さんとアスバちゃんにまた後でと声をかけ、メイラの寝ているテントへ。

中に入るとすやすやと眠るメイラと、医者らしき格好をしている精霊達の姿が。

黒塊は何故かメイラの頭の上に浮いているけど、あれは何か意味があるんだろうか。


『『『キャー』』』

「ん、ありがとう。じゃあ起こさない様に連れて帰ろうか」


メイラは疲れていて、今は回復の為に寝ていると精霊達が教えてくれた。

今はそれが解れば良い。詳しい話はここでせずとも、この子が起きてからで良いだろう。

メイラを優しく抱きかかえて荷車に向かい、精霊達に操縦を任せて家に帰った。


因みに家に帰った後、黒塊が家精霊に掴まれたけど、山精霊が間に入って事なきを得た。

庭から消えた事にメイラが絡んでいた為、渋々といった様子で納得したらしい。


『ふん、貴様らの哀れみなど受けぬ』


なのに黒塊はそんな事を言うから、山精霊達にまたボールにされていたけど。

私黒塊のああいう所割と好きなんだけど、黒塊はどうでも良いんだろうなぁ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・・・こっわ。何あれこっわ。今迄あいつの不機嫌な様子は見て来たが、今回は物が違う。

セレスが荷車を飛ばして去って行くのを眺めながら、さっきの様子を思い出す。


『・・・貴様に、応える必要は、ない』


国王への返しは、酷く冷たい声音だった。それはまるで相手を『人』とも思わない様な。

だというのに直後に俺に声をかけて来た時は普段通りで、それが尚の事恐ろしかったと感じる。

相変わらず何を考えているのか解り難い態度で、だけど確かに一つだけ解る事が有った。


セレスは結局の所、国王など眼中にない。敵としてすら見ていなかったという事だ。

そしてその態度を衆人環視の中でやり、わざわざ王子に声をかけずに去って行った。

本来なら王子に媚びるはずの立場である者が、王子を完全に無視した行動をとった事実。

それを目の当たりにした国王陛下は、目を見開いて飛んで行く荷車を見つめている。


「なん、何だ、やつは、一体、何なんだ・・・!」

「彼女の思考を推し量るだけ無駄ですよ、国王陛下殿。彼女にとって貴方など、路傍の石ころと変わらない。勿論それは私もです。ただ敵対してないから見逃して貰っているだけ」

「まさ、か・・・!」

「やっと至りましたか。ええそうです。立場が逆なんですよ、あなたの想像とは。勿論他国の連中は貴方と同じ考えの可能性が高いでしょう。ですが私はそれを抑える事で、彼女に働いた無礼を見逃して貰う必要が有る。それとは別の恩義も理由に有りますけどね」


国王は王子の言葉を聞き、本当の力関係を正しく理解する事が出来た様だ。

確かに国王がさっき語った事は、いくつかは事実で真実だ。

セレスと王子の関係性を正しく理解する事なんて、普通は出来ないだろうからな。

だからこそセレスはこの場で王子を無視したんだろう。


何せ国王軍には事前に「勝ち馬に乗っていい」と王子が伝えた連中が加わっている。

つまり国王が勝てば、国王側に付いて利を得る事が出来る。

国王が負けても咎める事はせず、その後こちらに付くならば悪いようにはしない。

そんな甘い言葉に乗せられた連中は、さっきのセレスの態度を見て何を思うか。


「ほんと、あいつ、人の扱い上手すぎるよなぁ・・・怖いわ、ほんと」


これで今回の事態はそこそこ丸く収まり、誰かがすぐに手を出す様な事はしてこないだろう。

何せ強者は錬金術師。そしてその錬金術師の命令に逆らえない他国の王子。

王子が従えばアスバも当然出て来るし、錬金術師が動かない以上メイラも居る。

当然俺だって街を守る為に動くつもりだが、それらの印象に比べれば弱いだろうな。


「あー・・・いや、そうでもないのか」


忘れてた。あいつは真っ先に『俺』に声をかけて来て、帰る時もそうだった。

アスバとフルヴァドさんに声をかけてはいたが、メインはほぼ俺だ。

・・・やべえ、これまた何か勘違いされる流れじゃねえかな。凄く嫌な予感がする。

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