第217話、王子に海の事を確認をする錬金術師

「平和だねぇ」

「そうですねぇ」

『『『『『キャー』』』』』


昼食後のお茶の時間、メイラと家精霊、残った山精霊達でのんびりと過ごしている。

ここ最近本当に色々と気を張り過ぎていた反動なのか、物凄くまったりした気分だ。


とはいえもうそこそこ日数が経っているので、反動とか言い訳するなって言われそうだけど。

そうです。私は家でのんびりするのが大好きです。でもちゃんと仕事はしてるよ。

メイラも別にダラダラしている訳じゃなく、普段から変わらず頑張って勉強してるし。


「・・・はっ、そうだ、完全に忘れてた」


ふと、今の今迄忘れていた事を思い出した。

私の間が抜けている訳では無く、色々あり過ぎたせいだと思いたい。


「なにか、忘れてたんですか?」

「うん、そうだよ、完全に忘れてた。海、何時行けるんだろう」

「あ、そういえば、最初はそういう話でしたね・・・」


王子が許可はしてくれるって、そんなに時間はかからない、って言ってた気がするんだけどな。

何だかんだもう完全に海に行く季節じゃなくなっちゃったよ。

一応作った水着なら寒くても潜れるけど、どうせなら温かい時期の方が良かった。


「せっかく家精霊の要望通りにメイラの水着作ったのに・・・」

「何で私の要望じゃないのかは、不満を持って良いですよね?」

「え、あれ、可愛くなかった?」

「確かに可愛かったですけど・・・」


なら何が気に食わないんだろうかと首を傾げていると、庭の精霊達が少し騒がしくなった。

おそらく来客だろうと席を立つと、王子が来た様だとメイラが口にする。

丁度良い。海の件がどうなったのか聞こうと思い、仮面を被って庭に出た。


「ん、リュナドさんはともかく、アスバちゃんと従士さんも来たんだ」


何時もの笑顔で庭にやって来た王子。その後ろに三人が付いて来ている。

問題は精霊殺しも居る事で、そうなると家には入れられない。メイラが怖がる。

取り敢えず庭で出迎えてそのまま話す事に決め、王子にこちらから声をかけた。


「いらっしゃい。丁度貴方に話したい事が有った」

「これは話が早い。では錬金術師殿、どうするつもりか聞いてもよろしいかな?」


ん? どうするも何も、海の件は王子がどうにかするって言った気がするんだけど。

あれ、違ったかな。ちょっと不安になって来た。


「・・・海に行く手続きは貴方がやる、って言って、なかった?」

「なる、ほど。確かにそうだ・・・ふむ、了解した。ではすぐに対処しよう」

「へ? まだ、何も、してないの?」

「手厳しいね。何もしてないつもりは無かったんだが。ただ私は貴女達親子と違って凡人だ。手際の悪さはもう少し甘く見てくれるとありがたいな。せめて確認ぐらいはしておきたいしね」


凡人、と言われてもな。私はモノづくり以外は凡人以下なのだけど。

戦闘は一応出来るけど、それも何かを作る為の延長線上の技術だしなぁ。

まあ良いか。こっちはお願いする立場なのだし、すぐ動くって言ってるんだから待っておこう。


「ふふ、ほんと今から楽しみねぇ」

「・・・多分この中でそんなに楽しみなのお前だけだと思うぞ」

『『『『『キャー!!』』』』』

「・・・ああ、お前らも気合入ってるな。色々よく解ってない気もするけど」


アスバちゃんと山精霊達が何やらテンションが高いけど、反対にリュナドさんはとても低い。

調子が悪いのかなと一瞬思ったけれど、今の彼はそう簡単に調子は崩さない筈だ。

もしかしたら何か嫌な事でも有ったのかもしれない。


彼の事を心配して見つめていたら、従士さんが近づいてきた事に気が付いて彼女に顔を向ける。

その手には人型形態の精霊殺しが居て、手を繋いでいる姉と弟の様に見えた。

なんか、この子、いつ見ても手を繋いでいる気がするな。


「錬金術師殿・・・いや、セレス殿。私も、精霊使い殿と動くつもりだ。私はあくまでこの国に住む者として、国民として戦おう。未来がどうなろうと、少なくとも今はそれが正しいと思う」

「う、うん?」


え、えっと、もしかして従士さん、この街の兵士さんになる、って事かな。

と言う事は彼女も精霊兵隊に入るんだろうか。いやでも精霊殺しが居るから危ないかな?

敵ではなくなったとはいっても、この剣が精霊にとって脅威なのは変わらないのだし。


「貴女に救われた命だ。次は後悔しない様にしたい」

「私は、何もしてないよ?」


私は救った覚えはないんだけどな。あえて言うなら彼女を救ったのはリュナドさんだ。

彼女が人質に取られた時、私は上手く対処する事が出来なかったのだから。

この街に来る道中を守ったのはアスバちゃんだし、私は本当に何もしていない。


「ふふ、そうだな。だから私も好きにやるだけだ。だからこそ貴女の為にこの力を振るうと誓おう。そして今は、この街の人の為にも。幸い非力な私にも、今は力が手元にあるのだからな」

「ん、任せて、マスター」


従士さんの宣言に対し、きゅっと手を握る力を入れて応える精霊殺し。

少し前に精霊殺しを使う姿を見せて貰ったけれど、確かに力と言うに事足りる物だった。


色々非力な従士さんには確かに最適な武器だったんだろうな、コレ。

純粋な攻撃力もそうだけど、技量に関しても影響が出ているのが見て取れたもん。

どうやら持ち主を得た事で、単独の時より使用条件自体が緩和されてるみたいだし。


「さて、なれば私はすぐに動くとするよ。ではね、錬金術師殿」


精霊殺しと従士さんの相性に改めて思考していると、王子が声をかけて来たので意識を戻す。

何時もなら結構のんびりお茶でもしていくのに、今日はもう帰るらしい。珍しいな。


「ん、早く終わるの、待ってる」

「ああ、出来るだけ手早くやってみせよう。アスバ殿達も協力してくれているのだから」


そういえばアスバちゃんは王子の護衛とかやってるんだっけ。

リュナドさんも街では護衛してるみたいだし、王子が来ると皆大変だなぁ。

そんな風に思いながら皆が帰るのを見送り、ふとメイラが出てきた事に気が付く。


「わ、私も、頑張りますから。わたし、セレスさんの弟子ですから・・・!」

『『『キャー♪』』』

「う、うん? そ、そっか。でも、無理はしない、でね?」


何故かフンスフンスと気合の入っているメイラと、それを応援する様に鳴く精霊達。

家精霊が心配そうな顔してるのが不安なんだけど・・・大丈夫かな。

頑張り屋さんなのは良いんだけど、この子無理に頑張ろうとする所が有るからなぁ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「依頼達成の報告が届き、軍を動かしたと報告が入りました」

「・・・対処は今日中に決める。少し街で待機していろ」

「はっ」


去って行く諜報員から視線を切り、頭をかきながら侍従に目を向ける。

その眼には呆れの色が宿っていて、おそらく私の眼にも同じ様な物が有るだろう。


「まさか何も手を下さずとも、本当にやらかすとは思わなかったな」

「人間追い詰められると、信じたい事しか信じられないものですから」


暗殺者達は国王に『依頼達成』の書簡を送り届けた。

ただしそれは私の策謀ではなく、本当に彼らが依頼を達成したからだ。


依頼内容は『精霊消滅後の要人暗殺』ではあるが、国王は肝心の部分を忘れている。

精霊の消滅が不可能と判断した時点で、彼らの仕事は終わりだという部分の事を。

そもそも無茶な依頼なのに、未達成などという事になっては彼らも信用に関わる。

前提条件が不可能な事を確認した時点で依頼終了、にしていておかしくない。


「どうせ禄に確認してなかったんだろうな」

「最近は実の息子に迄攻撃されているそうですから。余程余裕が無いのでしょう」


そういう状況だからこそ、現状把握が一番大事な事だろうに。

大体わざと伏せられた情報ならともかく、向こうはきっちりと説明していたはずなんだが。

それに流石に街に斥候を送ってから動きを見せると思っていたのに、それすらも無いのは酷い。


もう全て諦めて王位を降りた方が、どう考えても明らかに良いだろう人間だ。

そうなれば一応殺される事も無く、引退した王族としては扱って貰えるだろうに。

いや、一番駄目なのは側近共か。能力のない連中しか残ってないのだろう。

ただ王都やそれぞれの領地はちゃんと回ってる辺り、有能な人間が確りと居るのは皮肉だな。


「まあ、良いか。どうせ彼女は想定済みだろう気がするが、報告に行って来るよ」

「はっ」


精霊使いに連絡を取り、アスバ殿とフルヴァド殿にも声をかけて錬金術師の下へ向かう。

道中何が有ったのか説明すると、精霊使いだけは気乗りしていないようだった。

とはいえ今の国王が動かせる程度の戦力なら、彼がやる気を出さずとも問題ないだろうが。

錬金術師の家に着くと彼女はいつも通り既に庭に居て、何時もの仮面をつけて立っていた。


「いらっしゃい。丁度貴方に話したい事が有った」


丁度今話したい。そう言われて何の事か察せない程に愚鈍ではない。

だからこそ率直にどう動くのかと聞けば、返って来たのは『お前が動け』という言葉。

確かに言われてみれば、私が『やる』と言った事ではあるので反論のしようも無いな。


ただ彼女の主観で物を言われるのは少し困った。私は彼女ほど有能ではない。

彼女にすればとうに得ていた情報だとしても、私はついさっき手に入れた物だ。

それでもまだ早い方だと思うのだけれど、彼女にすれば対応が遅いらしい。


本当に貴女の娘は有能過ぎる。色々有った自信が打ち砕かれてばかりだ。

とはいえ彼女に言った通り、何もしていなかったわけではない。

奴がこんな馬鹿を仕掛けた時の為の仕込みは、ある程度は出来ている。


「さあて、では凡人なりに、色々やらせてもらうとするか」


暗殺を依頼しておきながら暗殺を恐れ、私兵と共にこちらに向かって来る国王。

奴が今生き残るには、私の敵討ちを果たした、なんて馬鹿げた成果が必要だ。

その大義名分で街を制圧したら、手に入れた資源を盾に大手を振って帰る気なのだろう。

ついでに王都を荒らした魔法使いも退治したと告げれば、文句を言う者は居なくなると見て。


「・・・貴様が正しいのは、周りは既に敵だらけ、という認識だけだがな」


長い平和と言うのは、こうも組織の頭を腐らせるのだろうか。

適度な騒乱が健康な国を保つ、とは余り考えたくはないが。

・・・いや、単にあれが無能なだけだろう。我が国も海賊が出る以外は基本的に平和だしな。

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