第197話、リュナドへの用意の成果を確認する錬金術師
『『『『『キャー』』』』』
「うん、ありがとう」
今回の納品分を荷車に乗せてくれた山精霊達にお礼を言い、念の為軽く確認。
今日は自分達からやるって言ったから大丈夫だとは思うけど、時々何か齧ってそうで怖いし。
最近家精霊の料理の量が増えたからあんまり齧らなくなったけど、それでも偶に齧るんだよね。
「ん、今日は大丈夫」
『『『『『キャー♪』』』』』
山精霊達に大丈夫だと伝えると、彼らはわーいと喜びながら家精霊の前に整列し始める。
そして並ばれている家精霊の腕にはバスケットが有り、中にはちょっと大きいクッキーが。
蜂蜜入りの甘いクッキーを一枚ずつ、荷積みをした子達が受け取って行く。
最近気が付いた事なのだけど、この子達はお菓子をバクバクと食べなくなった。
食事の時は以前と余り変わり無いのだけど、お菓子の時はそうでもない。
その小さな口に似合った速度で、ゆっくりと味わって食べている。
何でなのか気になって聞いてみると『お菓子は贅沢だから味わうんだよー?』と返された。
どこかの誰かにそう言われたらしく、以来ゆっくり味わう様に食べているらしい。
クッキーをちゃんと行儀良く順番に受け取っていく様子も、多分同じ人がしていたのかな。
まあ本人達が楽しそうなら良いのだけど。何故か家精霊もちょっと楽しそうだし。
全員分を配り終えた所で通路の向こうが騒がしくなり始めた。リュナドさんが来た様だ。
「いらっしゃい、リュナドさん」
「ああ、もう荷車の用意は・・・出来てるみたいだな」
「うん、精霊達が、率先してやってくれたから。多分、お菓子の為だけど」
「順調にちび共に感化されてるな。まあ仲良くしてるみたいだから良いけど」
「ちび共?」
こてんと首を傾げて彼に問いかけると、どうやらこの子達の行動は孤児院で学んだ事らしい。
子供達がお手伝いをして、その報酬にお菓子を貰う。その行動の真似だそうだ。
さっきの一列に並んでお菓子を貰っていたのも、お手伝いを終えた後に子供達がやっている事。
そしてこれも子供達の真似なのか、今やって来た精霊達にクッキーを半分割って渡している。
受け取った精霊達もお礼を言う様に『キャー』と鳴き、並んで美味しそうに食べ始めた。
「人の真似するの好きだからな、こいつら」
「そうだね。でも不思議な事に、悪い事は真似しないんだよね」
「不思議でも何でもないからな。俺とライナが言い含めてるだけだし、偶にやるぞ、こいつら」
「あ、そう、なんだ」
どうやら事前に『こういう事をしては駄目』だと、二人に教えられているらしい。
偶にそれを忘れてやらかした子は、他の山精霊に叱られるそうな。
ただこの子達はその場のテンションで動いてしまうので、やってから気が付く事も多いらしい。
私の前では素材を齧るぐらいだから、初めて知った事実だ。
「街に迷惑かけちゃダメ、って約束したのに」
『『『『『キャー・・・』』』』』
私の呟きが聞こえたのか、山精霊達が食べかけのクッキーをおずおずと差し出して来た。
ただ陰で隠れてポリポリと食べて居る子も居る。音で完全にバレバレだけど。
どっちにしろ没収する気は無いので、気にせず食べる様に言っておいた。
「まあ、自分達同士で注意し合ってる間は大丈夫だろ。それが駄目だって解ってんだからな」
『『『『『キャー!』』』』』
リュナドさんの言葉に元気よく『大丈夫!』と答える精霊達だけれど、説得力は無い様な気が。
とはいえ彼がそう言うのであれば気にしないでも良いか。ライナも注意している訳だし。
山精霊達はリュナドさんが庇ってくれたのが嬉しかったのか、いつも以上に纏わりついている。
顔に這われても全く気にする様子の無いリュナドさんは、最早精霊の行動に慣れ切ってるなぁ。
因みにポケットの精霊はそこが縄張りらしく、入って行く子はペイッと投げ捨てられていた。
私の頭の上の子といい、定位置を手に入れた後の縄張り意識が高いな、この子達。
「うん、揃ってるな。じゃあ持って行かせて貰う」
「あ、ちょっと、待って、リュナドさん」
「ん、どうした、他に何か有ったっけ?」
「昨日で、薬全部、飲み切ったよね?」
「え、あ、ああ、そう、だな。全部飲んだ」
「体の調子、どう?」
私がそう訊ねると彼は一旦自分の体を見て、調子を確かめる様に動かしていく。
そして一通り確かめてから、こきっと首を鳴らして口を開いた。
「相変わらず不調の類は無い。絶好調、と言って良いぐらいだな。その・・・腹も痛くないし」
「身体能力は、どうかな。上がった?」
「上がったのは、かなり上がった感覚は有る。体力も筋力も、前より。何せ先輩に力負けしなくなったし。つっても同じぐらいだから、体格にしては力が強い、って程度だと思ってるけど」
良かった。予定通り、順調にリュナドさんの体は強化されたらしい。
それに彼の口ぶりからして、異常な変化も無さそうだ。
実際今の彼の見た目は、前より少し逞しくなった、という程度の変化しかない。
もしこれでもっと異常な身体能力を手に入れているなら、それは別の薬が必要になる所だ。
「薬飲んでから、それ、使ってみた?」
「それって・・・この腕輪類、か。最初に使って以降は一度も使ってない」
「ここで、試してくれる?」
「・・・解った」
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錬金術師の要望に応える為、庭の中央に移動して深呼吸を一つ。
因みに移動をしたのは周囲に被害を出さない為だ。
一応家精霊が守っているとは聞いていても、万が一何かを壊した時が怖過ぎる。
「ふぅ・・・」
正直前に使った時のしんどさは、下手な病気よりもきつかった。
使っている最中は当然の事、使用を止めた後も痛みを引きずったからな。
一番きつかったのは吐き気だが、そこは何故か精霊達に群がられている間に治った。
どや顔で『キャー』と鳴いていたので、多分治してくれたんだろうと思っている。
「っし・・・!」
嫌な記憶が過ぎて躊躇する気持ちを無理やり切り替え、気合と共にアクセサリーを起動させる。
次の瞬間来るであろう吐き気と痛みに構えていたら、そんな物は感じなかった。
ただ体に流れる血の中に何かが走っている様な、若干の気持ち悪さが有る。
「どう、体、痛い?」
「・・・痛みは、多分、無い、かな?」
取り敢えず現時点では痛みは無い。ただこの奇妙な感覚が気になるけれど。
つーか・・・何だ、これ。耳がやたら音を拾うし、鼻も今迄匂わなかった物が匂う。
視力なんか向こうの山で山菜取ってる人間がはっきり見えるんだが。
「これ、筋力上がるだけじゃ、なかった、のか」
「うん、色々、強化されてると、思う。私は体が耐えられないから、薬で鈍らせたけど」
「そういうのは先に言って欲しいんだが・・・」
「身体強化って、言った、よ?」
「あ、はい、そうですね・・・俺が悪かったです・・・」
んな事言われてもこちとら魔法なんか使えないんだから解んねえよ!
「・・・リュナドさん、歩けそう?」
「ん? 別に痛みも無いし、この状態なら歩くぐら――――――」
そう言って一歩踏み出そうとして、そのまま宙を舞った事だけは解った。
「・・・え、ちょ、まっ、高い高い高い!!」
何時だったか靴で思い切り飛ばされ、かなり高度から落ちた時を思い出す。
今回は前に行ったおかげでそこまで飛んでいないが、それはそれで速度が付いている事が怖い。
『キャー』
「え、あ、そ、そうか、わかった!」
精霊に靴と手袋に魔力を籠めたと伝えられ、何時もの調子で着地を試みる。
取り敢えず手ごろな木を足場にして、と思ったらその木をぶち折った。
しかも着地のつもりの動きが完全に蹴り足になっていた様で、また上空へ跳ね上がってしまう。
「うおっ!? な、なんだこれぇ!?」
思った様に体が動かない。いや、違う、思った以上に力が入り過ぎる!
「リュナドさん! そのまま動かないで!」
「っ!」
声のした方に視線を向けると、絨毯で飛んでくるセレスの姿が。
取り敢えず言われた通りじっとしていると、ボスッと絨毯に受け止められた。
「た、助かった・・・」
「強化切って、動く前に。でないと、危ないかも」
「あ、ああ、えっと・・・」
起き上がろうとした所で止められ、言われた通りアクセサリーに念じて強化を落とす。
そして恐る恐る起き上がり、ちゃんと普通に動けている事を確認した。
「良かった・・・うーん、おかしいな、私の時より、出力が高い様な・・・何でだろう」
「そ、そう、なのか」
「私の時は、あんな自然な動きであんな飛び方しなかった。明らかにリュナドさんの強化の出力は高過ぎる。幾ら薬で体を慣らしたとはいえ・・・他に要因が在ると、思うんだけど」
「えーと・・・結論として、使わない方が良い、って事で良いのか?」
「ううん。リュナドさんの体に不調が無いなら、使って大丈夫。たださっきみたいな事にならない様に、加減を覚える必要が有るけど。取り敢えず広い何も無い所で歩く練習から、かな?」
靴の力無しであんな動きが出来る状態に慣れろって、どんな状況把握してるんだよ。
「これで、使いこなせれば、リュナドさんに滅多な事は、ないから、ね?」
「・・・ハイ、ガンバリマス」
はい、使いこなさないと危険な事が待ってるって事ですね。やるよ。やりますよ。
めっちゃ可愛い声音と笑顔で脅して来るの止めてくれませんか、セレスさん。
まあ、王子が王都に向かった事を考えれば、使えた方が良いのは確かだもんな。
あー・・・また人間扱いから遠のく。俺自身は相変わらず大して変わってねーのに。
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