第154話、心配だけど見送る錬金術師。
メイラをつれて採取に出てから暫く経ち、あれから毎日のんびりと教える日々が続いている。
ただやっぱりメイラは、こう、なんというか、余り覚える事が得意じゃない様だ。
大体1割は間違えた物を採って来る。それでも1割になっただけマシになったんだけど。
最初の頃はそれこそ半分ぐらい間違えて、若干半泣きで見比べていたし。
「毒草と間違える物を先に教えなかったのは正解ね」
とライナに言われ、完全にその手の事が頭から抜けていた事に私も凹んだ。
確かにそうだよね。触った際に怪我をして、中に毒が入る物も有るんだから。
ライナの気遣いの素晴らしさと共に、自分の迂闊さを改めて認識してしまった。
なので最近はそうなりそうな物は避けて、だけど幾つか教える数が増えている。
最初に教えた薬草が採れる環境の近くに生える、別の薬草類を多少程度だけど。
あんまり多く教えても駄目なのは解っているので、そこは本当に気を付けた。
因みに採取量も少なめだ。何せ採っても使う予定が余り無い。普段使わない薬草が多いからね。
腐らせてももったいないので、せめてメイラの練習用に使う事にしている。
ただ、たとえ少量でも毎日同じ場所で採取、となると何時かは無くなってしまう。
なので少しずつ移動をしながら別の場所で採取するのだけど、その結果メイラは困惑していた。
少し移動すれば当然自然なので環境が変わる。変わった結果草花も少し姿を変える。
つまり、移動した結果、間違える事も起きる、という訳だ。
相手は生き物なので、完全に同じという事はどうしても有りえない。
こればかりは流石に慣れてもらうしかないと、頑張ってやらせている。
とはいえ先のとおり、最近は大分間違えない様になっては来ているのだけど。
そんな折、メイラがとある提案をして来た。
「そ、その、今まで教えて貰った分を、一人で探しに行ってみて、いい、ですか?」
一瞬何を言われたのか解らず、理解するのに時間がかかった。
だってメイラが一人で出かけるなんて言い出すとは思わなかったもん。
「え、め、メイラ、ひ、一人は危ないよ。だ、だって、一人なんだから」
焦って訳の分からない事を言っている。一人なんだから一人が危ないって意味が解らない。
だけどだけど実際一人は危ない。メイラの身を守る術はまだまだ他者任せなんだから。
それに外に出たら男の人が沢山居る。まだ精霊兵隊さん達だって慣れきってないのに。
「え、えっと、その、わ、私の目標は、セレスさんのお手伝いをする事、なんです。だから、採取は自分でしてきて、採ってきた物をセレスさんに、見て、もらう方が良いかなって。まだまだ全然覚えられなくて、セレスさんの作業時間、その、奪って、ますし」
別に作業時間ぐらいどうとでもなる。今の所焦って作業した日なんて一度もない。
そもそもお昼寝の為に一気にやっている所が有る訳で、少しお昼寝時間を削れば良いだけだ。
とは思うものの、メイラの目標と聞くと、否定を口にはし難くなってしまう。
「で、でもそれでも、メイラは身を守る術は、まだ無いから、危ないよ。ほ、ほら、山が開かれて魔獣や獣が減ったとはいえ、居ない訳じゃないんだから。一人は危険だよ。ね?」
「あ、その、ひ、一人って言っても、精霊さん達には、付いて来てもらう、つもりです、から」
『『『キャー』』』
でもやっぱり心配で止めようと思ったら、精霊達がメイラに応えてオーッと拳を掲げる。
確かに精霊達が居ればこの山では早々滅多な事は無いだろう。その為に三体付けたんだし。
だけど万が一って事は有る。最低限メイラが身を守れるなら許可を出せたけど、不安過ぎる。
だってメイラが怖がると思って言ってないけど、敵が潜んでいる可能性だって有るんだから。
「そ、その、だめ、です、か?」
上目遣いで問いかけて来る彼女を見て、口から『でも』という言葉が出なかった。
目を瞑ってぐっと堪え、眉間どころか顔中に皺が寄って変顔になるのを自覚しながら俯く。
「わ、解った。精霊と、一緒なら、良いよ。メイラは、そうしたいん、だよね?」
「は、はい・・・!」
私の言葉に嬉しそうな声を上げるメイラだが、だけど私にも譲れない部分が有る。
自分の胸のもやもやを押さえつけて、本音をぐっと堪え、顔を上げてメイラに目を合わせた。
「で、でも、危険を感じたら、無理だって感じたら、絶対すぐに帰ってくる事。精霊達の傍からは、絶対離れない事。精霊達も、絶対、メイラに危険が無い様に、気を付けて。や、約束ね」
「は、はい、や、約束します」
『『『キャー!』』』
メイラも精霊も、約束を守ると応えてくれた。なら私にはもう、これ以上の事は言えない。
本音で言えば心配でついて行きたいけど、きっとついて行っちゃ駄目なんだろう。
これがメイラの望みなんだ。だから、我慢しないと、駄目なんだ。
「じゃあ、行ってきます・・・!」
『『『キャー・・・!』』』
「う、うん、ほ、本当に気を付けて、ね?」
気合を入れて家を出て行くメイラと山精霊を、不安げに見送る私と家精霊。
ただメイラの姿が見えなくなった所で、家精霊が何やら山精霊達に指示を出し始める。
すると山精霊達はキャーキャーと騒ぎながら大半が庭から消えてしまった。
「え、あれ、今の、何?」
訳が解らず問いかけるも、家精霊はにっこりと笑い、山精霊はご機嫌に鳴くだけだった。
え、本当に何だったんだろう、今の。山精霊達何しに行ったの?
なんて思っていると、視界の端にで黒い物が動くのが見えた。黒塊が動いた。
『我も――――』
ただ黒塊が珍しく塔から移動しようとすると、即座に家精霊が捕まえに行った。
本当に珍しい。ここの所動くどころか言葉すら発さなかったのに。
『我は我が娘の――――解った、戻る、我は戻る。動かぬ』
家精霊が何を言ったのか、黒塊は何か言いたかった事を諦めた様な感じだった。
納得したのか家精霊は手を放し、ポトンと落ちた黒塊を山精霊が慰める様に撫でている。
案外仲良くなってるね、君達。最近はちょっかい出す事も無いし。
『我に構うな。貴様らも我が娘を守りに行け』
『『『『『キャー』』』』』
『こら、抱えるな。まて、何を―――――』
黒塊を担いで伸ばし始めた。仲良くなったと思ったのは勘違いだったかもしれない。
止めた方が良いかな。でも家精霊との約束を破ろうとしたっぽいんだよね、多分。
・・・いや、まって。黒塊は山精霊に『貴様らも我が娘を守りに行け』って言ったよね。
もしかしてさっきの家精霊の指示って、山精霊達に守る様に言ったのかな。
そういえばメイラも精霊は一緒って言ってたもんね。あの数で守るなら多少安心かな?
とはいえやっぱり、メイラ自身の身体能力の低さが心配だけど。
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「弟子らしき娘が、一人で山に入って行ったぞ!」
見張りの一人が大急ぎでアジトに戻って来て、そんな報告を上司に告げた。
「だろうな。いずれはそうなるとは思っていた」
上司は得意満面な笑みでそう呟き、クックックと楽しそうに笑う。
彼の頭の中では、予想通りで、予定通りの事が運んでいるのだろう。
あの仮面の小さい娘。あの娘に関しては複数の噂が街で飛び交っていた。
曰く、錬金術師の妹。曰く、錬金術師が引き取った娘。曰く、精霊使いとの子供。
ただしどれも噂好きな連中が好き勝手に言っている物で、信憑性は無い。
ただ一つ、あの娘は錬金術師が弟子にとった娘だ、という事以外は。
それならばあの似た様な服装や仮面にも合点がいくし、最近の行動にも理由が付く。
今まで山に入って行かなかったのは、単純に家の中で教えられる事を教えていたのだろう。
そしてそろそろ外に出て教える日が来て、薬草などの採取をし始めた。
というのが、あの上司様の予想だ。正直その辺りは俺も同意せざるを得ないのが悔しい所だ。
ただここから先が、俺と彼とでは意見が分かれる。
「その内弟子一人で行かせる日が来ると睨んでいた。山の中ならばあのうっとおしい精霊使いも態々出てくるまい。これでつけ込む隙が出来た・・・!」
つまり彼は、弟子が一人になる瞬間がいつか来ると、それを心待ちにしていた。
勿論今すぐ行動に起こす気は無い様だが、一人で行動しだしたのならば計画は容易だと。
「罠くせぇ・・・」
ただ俺からすれば、余りにあからさま過ぎる。あの女は俺達の存在に気が付いている。
山で採取の最中にも、何度かあの女は俺達を見た。確実に気が付いていた。
なのに何の策も無く、無防備にあんな小娘を一人で山に行かせるだろうか。
襲いに行ったところで一網打尽、なんて場面が容易に想像出来る。
「なりふり構わず逃げる頃合いかもな・・・」
割と真面目に、もう安全に逃げるタイミングなんて無いのかもしれない。
嬉しそうに含み笑いをする気持ち悪い上司を見て、心底上司運の無さを呪った。
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