第150話、教え方を注意される錬金術師。
アスバちゃんが帰った後、とりあえず今日は何時も通りお昼寝する事にした。
今後も錬金術は教える方針で行くとしても、一旦は落ち着いた方が良いと思ったからだ。
だって多分このままだと、私また泣かせちゃう気がするもん。それに純粋にお昼寝したいし。
「セ、セレスさん、お昼寝、で良いんですか?」
ただ何時もの調子で抱きかかえてベッドに向かうと、メイラはそんな事を訊ねて来た。
何でそんな事を聞くんだろう。もう何時ものお昼寝の時間帯だよね?
「えっと、お昼寝しちゃ、何か駄目、だった?」
「だ、だって、私まだ全然何も、出来てないまま、ですし・・・」
「え、うん、そう、だね? でも、お昼寝しちゃ、駄目、なの?」
別に普段からお昼寝してる訳だし、やらなきゃいけない事も無いし、何も問題ないよね?
そう思って再度訊ねると、メイラは少し困った様な顔になってしまった。
あ、あう、ま、また何か変な事言ったかな。な、泣かないで、欲しい、な。
「だ、駄目じゃ、ない、です、けど・・・」
「そ、そっか、良かった」
どうやら問題は無いらしい。という訳で返事を聞いたらそそくさとベッドに寝転がった。
メイラを抱きかかえながら目を瞑り、彼女の頭を優しく撫でる。
「・・・セレスさんは、出来ない事、叱ったり、しないんです、ね」
「んぇ? うんー・・・だって出来ないのは、出来ないから・・・仕方ないもん」
意識が落ちそうになっていた所で話しかけられ、ぼんやりした状態でメイラに応える。
だって出来ない事は出来ないんだし、今すぐやらないといけない事でもない。
なのに出来ない事を叱るなんて、する意味が無い。
「・・・私、多分、これからも間違えます。失敗します、よ?」
「うん、良いよー、それでー・・・メイラがそれでも、やりたい、なら・・・」
意識が落ちかけだったせいで、若干ちゃんと返事出来ているのか怪しい。
でも多分答えられてるよね。もう今半分寝てるけど大丈夫だよね?
「・・・ありがとう、ございます・・・おやすみなさい」
「うみゅー・・・おぁすみー・・・」
何故かお礼を言われたけど、お休みと言われたので素直に意識を落とした。
ぐっすりと心地良く眠り、また日の落ちた頃に起き上がる。
メイラが起きて来るまでのんびりとお茶を飲み、彼女が起きたらいつも通りライナの店へ。
「いらっしゃい。さて、今日はどうだったのかしら? いえ、食事の後にしましょうか」
そしてライナの言う通り食事を振る舞って貰ってから、今日の事を話した。
ただアスバちゃんに説明した時とは違い、ライナの質問は細かい。
どういう事を、どんな風に、どうやって教えたのか、内容を詳しく訊ねられた。
「成程ね・・・昨日貴女が帰る前に思いつかなかったのが痛かったわね」
私の説明を聞いたライナは、片手で頭を抱えて天井を仰ぎながらそんな事を呟いた。
「え、えっと、ライナ、何か、駄目、だった?」
何を言われるのか不安になりながら、上目遣いでライナを見つめる。
そんな私をメイラが心配そうに見つめているけど、多分大丈夫だよ。
きっと叱られるのは私だけだから。うん。全然大丈夫じゃないけど大丈夫。私泣かない。
「そんな顔しなくても、別に怒ったりはしないわよ。むしろ予測すべきだったと思うし。あのねセレス、世の中の人間は貴女程何でも出来ないのよ」
「え、私は、何でもは、出来ない、よ?」
何でも出来るなら私は多分家を追い出されていないし、人と話すの苦手なのは相変わらずだ。
「勿論知ってるわ。でもセレスの出来ないそれは、私にはそこまで難しい事じゃない。同じ様にセレスにとっては簡単でも、他の人にとっては難しい事が有って当然よね?」
「う、うん・・・そ、そう、だね・・・」
「なら出来ない人にいきなり色々言ったって、出来ないのは当然よね。セレスだって今から仮面無しでローブも羽織らず酒場に友人作りに行けって言われて・・・やれる?」
「――――む、むり」
想像して思わず息を呑んだ。そんな怖い事出来ない。人の目が怖過ぎる。
いや、そうか、つまり私はその無理な事を、メイラにやらせたって事なんだ。
私の今日の教え方っていうのは、彼女にとってはそれぐらい無茶だったって事か。
・・・それは、とても、酷い。酷過ぎる。
「・・・解ってくれたみたいね?」
「うん、ごめんね、メイラ・・・」
「そ、そんな、謝らなくても、わ、私が、物覚えが悪くて、不器用な、だけで・・・!」
「メイラちゃん待って。気持ちは解るけど、それは駄目よ。それじゃメイラちゃんの為にならないし、セレスの為にもならない。教えて欲しいなら、ちゃんと事実は伝えましょう?」
やってしまった事実に気が付いてメイラに謝ると、彼女は慌てて否定を口にした。
だけどライナはその否定を更に否定して、真剣な顔で続ける。
「出来そうな事を、少しずつ、何かをするにも覚えてから、ゆっくりやりなさい。こればっかりはセレスのペースじゃ駄目なの。メイラちゃんの出来るペースでやらないと。ね?」
最後はにっこりと優しい笑みを見せ、私達の顔を見比べながら説明してくれた。
そっか、もちょっと少しずつ、なのか。メイラの出来るペースで教える。よし、解った。
出来るかどうかは解らないけど、何も案が無い状態よりはよっぽど指標になる。
「メイラ、私頑張るから。だから、解らない時は言ってね」
ぐっと拳に力を込めてお願いし、だけどメイラは少し困った様にライナを見る。
私も思わずライナに目を向けると、彼女も少し困った様な顔で笑みを浮かべた。
「解らない時は素直に解らない。覚えていない事は覚えていない。ちゃんとそう伝えた方が良いわ。相互認識って大事な物よ。ちゃんと覚えて先に進みたいならね」
「わ、解りました。で、でも、出来る限りは、頑張ります。頑張りたい、です」
「ええ、そうね。出来る様に頑張る事は大事よ。だけど無理をしても仕方ないわ。ちゃんと一歩ずつ、覚えられる範囲で覚えて、出来る範囲で練習して、それから先に進みましょうね」
「は、はい・・・解り、ました。気を付けます」
メイラが頷いたのを確認すると、ライナは「良い子良い子」と頭を撫でた。
私も一緒に撫でられている。最近撫でられてなかった気がするのでちょっと嬉しい。
「セレス、今日みたいな教え方だけは、絶対ダメよ?」
「う、うん、気を付ける」
へにゃっとなりかけた所で注意され、慌てて居住まいを正した。
だ、大丈夫。聞いてたよ。ゆっくりだよね。き、気を付けるから・・・!
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「メイラ、元気になって良かったねー」
「「ねー」」
ライナのおかげでメイラの元気が出たみたい。良かったー。
良く泣く子だけど、今日はいつもよりもっと元気が無くて心配だったもん。
主も心配してたし、これで明日はまたおやつが美味しい。今日も美味しかったけど。
「主のせいで泣いてたもんねー」
「主、メイラ泣かしたの?」
「でも主も泣いてたよー」
「なんで!? 主に誰か何かしたの!?」
「主泣かせたの誰ー! 仕返しする―!」
「「「「「するー!」」」」
殆ど食堂に住み着いてる僕達が、二人が泣いた事に怒り出した。
だけど誰かに泣かされた訳じゃないから、仕返しは出来ないと思う。
「主を泣かせたのはメイラで、メイラを泣かせたのは主だから、主に仕返し?」
だって、そうだよね? 多分。主が自分で泣いたから、泣かせたのは主だよね?
「やめる。僕仕返しやめる」
「僕も止める」
「僕何も言ってない」
「気のせい。さっきの話は気のせい」
泣かせたのが誰かを言うと僕達は一斉に仕返しを止めた。
だって主に変な事したら、またバーンされるかも。バーン怖いもんね。
黒いのも簡単に吹っ飛んじゃうバーンは絶対危ない。
あいつは一回消滅した。あの時は存在が吹き飛んでたもん。
あの時の黒いのは、簡単に吹き飛ぶ密度じゃなかったのに。
僕達の時みたいに消耗じゃなくて、一回死んじゃう程の威力は怖い。
「でもメイラ、また泣かないかな」
「メイラまた泣いちゃうー?」
「泣いちゃうかもー」
「メイラが泣くのはやだー」
「僕もやだなぁ。メイラ泣くとざわざわする」
「僕はむにゅむにゅする」
「にゃむにゃむかも?」
メイラに付いた僕達三体は顔を見合わせ、んーッと首を傾げながら相談をした。
主がまた泣いちゃうのも嫌だし、メイラが泣いちゃうもの嫌だ。
んーっと、メイラが泣いたのって、主に言われた事が出来ないから、だよね?
「そうだ、僕も覚えるー」
「覚える?」
「石の時みたいに、覚えるのー」
「お薬覚える?」
「道具覚える?」
「隣で教えてあげるー」
「「それだー♪」」
僕達はメイラの傍に居て、主が言ってた事を聞いていて、言われた事は大体覚えてる。
ならメイラが困った時に、それを教えてあげよう。そうすれば主もメイラも泣かないよね?
「「「教えるぞー♪」」」
三体でおーっと手を上に突き出し、明日のおやつの為に頑張ると決めた。
メイラのおかげで前よりおやついっぱい食べれるもん。明日もおやつ食べるよ!
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