第148話、ちゃんと問いたい事を聞けた錬金術師。
あの後何とかメイラの機嫌も直り、取り敢えず今日はゆっくりお昼寝をしてライナに店へ。
そこで今日王子に言われた事を話し、弟子として教えようかと思った事を二人に話した。
「成程、メイラちゃんに錬金術を、ねぇ・・・」
「弟子・・・弟子、です、か」
二人は私の言葉を聞くと、それぞれ別方向に視線を向けて考え始める様子を見せた。
ちょっと不安になりつつもお腹が煩いので、先ずは食事を優先させて貰う事にする。
取り敢えずお腹が落ち着く所まで食べた所でお茶を飲み、ふぅと一息吐く。
「んぐんぐ・・・あむ・・・」
『キャー』
「ん、あ、ありがとう」
『キャー♪』
メイラを見るとまだまだ食べている途中で、何故か山精霊が自分の食事を分けている。
最近は最初の頃より食べる様になったかな。良い事だね。メイラ細すぎるから。
ただ山精霊が何を思って分けているのかはさっぱり解らないけど。だって同じ物だし。
「さっきの話だけど、私は悪くないと思うわよ。要はメイラちゃんに生きる術を教えよう、って話でしょ。弟子が欲しいとか、技術を託したいとか、そういう事じゃなくて」
「あ、う、うん・・・私に教えられる事って、これしかないから・・・」
もし他に教えられる事が有るならそれでも良いけど、残念ながら私にはこれしかない。
錬金術以外は何も持っていないし、だけど別にそれを託したい訳じゃない。
当然無理やり教える気なんて無いし、メイラが覚えたいなら教えようっていう程度だ。
「も、勿論メイラが覚えたいならだから、興味が無いなら別に良いんだ。ほかにやりたい事有るなら、それで良いし。ただその場合は、ライナに助けて欲しいなって、思ってるけど・・・」
「ええ、そういう事なら協力するわよ」
ちらりとライナの様子を上目遣いで窺うと、彼女は優しい笑みで頷いてくれた。
ライナならそう言ってくれるとは思っていたけど、思わずホッと息を吐く。
「とはいえそれは、本人の希望が先ず優先よね。ちゃんと聞いたの?」
「あ、うん、それなん、だけど」
ライナが視線を食事中のメイラに向け、私も同じ様に視線を動かす。
するとメイラはとても申し訳なさそうに目を伏せ、食事の手が止まってしまった。
「ご、ごめん、なさい、ちゃんと、話しを聞かずに、泣いてしまった、から、私」
「あ、ち、違うよ、責めてないから、気にしないで」
「ふむ・・・セレスが言葉足らずに話して、何かショックを受けた、って所かしら?」
「あ、あう・・・うん、そう、です・・・」
まるで見ていたかの様な親友の言葉に、ぐさりと胸に何かが突き刺さる。
間違いなく事実なんだけど、もうちょっと容赦をお願いしたい。今度は私が泣きそう。
「そ、そんな事ないです。わ、私が勝手に、その、セレスさんは、何も悪くない、です!」
「・・・ふふっ、そうね。ならどっちも悪くない、って事で良いんじゃないかしら?」
「え、あ、え、えっと・・・そう、なん、ですか、ね?」
「ええ、お互いが相手は悪くないって思ってるなら、それで良いと思うわ。それにセレスの事が悪くないって思うなら、それ以上自分を責めるのもセレスに悪いわよ」
ライナの言葉に首を傾げつつも、小声で「そっか」と言ったので納得した様だ。
私も少し首を傾げていたけど、確かに何時までも私が悪いと言っていても良くないのかな?
お互いどっちも相手が悪くないって思うなら、もうそれで良いか。
「で、メイラちゃん的には、どうしたいの?」
「わ、私は・・・その・・・セレスさんのお手伝いが出来るなら、覚えたい、です・・・」
「ふむ・・・まあ最初はそれで良いかもしれないけど、やりたい事とかは無いの?」
「その、あんまり・・・も、元々も父について、ただ手伝いを、していただけ、だったので」
「そう、ならそれで良いのかもしれないわね。学びつつ追々やりたい事を見つける感じで」
私が決めなきゃいけないはずだった事とか、聞かなきゃいけなかった事が終わった気がする。
あうう・・・流石にちゃんと聞くつもりだったのに、結局ライナに助けて貰ってしまった。
い、いや、まだだよね。私のやる事はこれからだ。取り敢えず学びたいって言ってる訳だし。
「えっと、じゃあ、教える、って事で・・・何時からやろうか」
「わ、私は明日からでも、行けます」
何だかやる気満々な返事が返って来た。実は錬金術に興味が有ったのかな。
それならその内とかじゃなくて、早めに教えてあげた方が本人も嬉しいか。
「そっか、じゃあ早速、明日から始めよっか」
「は、はい、頑張ります!」
『『『キャー』』』
気合の入ったメイラの返事に山精霊達も一緒になって鳴き声を上げる。
一緒に学ぶつもりなのかな。でも君達一緒にやっても、多分途中で飽きるよね。
単純作業は他の子達と交代じゃないと絶対続かないし。
「うちで雇ってあげる、っていうのも考えたけど・・・今のメイラちゃんには酷だしね」
その様子を見ながらライナは小さく呟き、私もそれには同意見だと頷く。
ライナに協力して貰って何か出来る事をとは思ったけど、この子がお店で働くのは無理だ。
だって男の人の事がまだまだ怖いのだし、従業員にも男性が居る。
ただ今の呟きはメイラの耳に入っていなかった様だ。主に山精霊が煩くて。
「が、頑張ろうね・・・!」
『『『キャー!』』』
一緒にぐっと力を込めているけど、山精霊の頑張るは一切信用出来ないと思う。
まあ、良いか。取り敢えず明日は何教えようかな・・・。
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「セレスが教える側に、ねぇ」
店を出て行く二人を見送り、絨毯で空を飛ぶのを眺めつつ呟く。
少し前のセレスなら、人に教えるなんて絶対に有りえなかったと思う。
街に来たばかりの頃なんて、そもそも自分の生活すら怪しかったのに。
「成長した、のかしら、ね・・・」
どうしてかしら。喜ばしいはずなのに少し寂しく感じるのは。
ちゃんと成長して欲しいと思っておきながら、実際に成長すると寂しいなんて我が儘ね。
何時までも頼って欲しい訳じゃないんだけど・・・何だか、複雑な気分だわ。
「・・・そうだ、そういえばあの子、人に教えられるのかしら」
セレスの性格上、単純に説明はしても、人に技術を教えるって事は絶対にした事が無い。
となると教える際には自分が学んだ時を基準に教える、って事に多分なるわよね。
それ、少し不味くないかしら。あの子の普通は他人の普通と違うのに。
そもそもあの子、今まで作った道具の材料とか、手順とか、全部空で出来るのよね。
メモとか持って無いし、普段やってない事も簡単に思い出すし、異常なまでに記憶力が高い。
もしセレスがその基準で教え始めたら、多分メイラちゃんは混乱しちゃう気がする。
ただまあ流石に本人が無理だと言えば、セレスも考えを改める、と信じたい。
・・・その前に、メイラちゃんが無理しながらでも頑張ろうとする、って可能性も有ったわね。
「無理しない様に、させない様に、言っておいた方が良かったわね・・・」
セレスってどういう記憶力してるのかしらね、本当に。
時々本当に驚くぐらい細かい事まで覚えてるし。
ただその割に、日常の出来事はすぐ忘れる事も多いのは何でなのかしら。
興味の差なのかしらね。手紙の事もアスバちゃんが話題に出すまで忘れていたらしいし。
私の事に関しては、何処にほくろが有るなんて、凄くどうでも良い事まで覚えてるのに。
ま、取り敢えず今度途中経過を聞いてから、上手く軌道修正させましょうか。
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