第144話、内緒は友の為と口を噤む錬金術師。
精霊兵隊の新人さんから聞いた話が頭から離れず、今日はお昼寝が出来なかった。
そのせいでメイラと家精霊に少し心配されてしまい申し訳ない。
ただ彼らが言うには本来内緒の事らしいから、二人には言ったら駄目だと思って話せていない。
そんな何とも言えない感じで日中を過ごし、夜にライナの店へと向かった。
何時もなら店に来た時点で空腹が襲って来るのに、今日は余り食事に意識が向かない。
やっぱりどうしてもあの話が気になり、食べながらチラチラとライナの顔を窺ってしまう。
「どうしたの、セレス。何か話したい事でも有るの?」
そんな私の様子にライナは当然気が付き、優しい笑顔でそう訪ねて来た。
だけど私の頭にはあの『内密』という言葉が渦巻き、言って良いものかどうか悩む。
ライナには内緒事はしたくない。だけどこれはライナが内緒にしてた事だ。
ならそれは私にも内緒だって事、だよね。私が知ってるのは、駄目、なんじゃないかな。
でもやっぱり『わざと襲われた』って話は気になる。何でそんな危険な事をしたんだろう。
リュナドさんに頼まれたからだろうか。でもあの人がそんな事を頼むだろうか。
私相手なら兎も角、ライナは戦う技術が無いのだから、あの彼がそんな事を頼むとは思えない。
「・・・本当にどうしたの?」
聞きたいけど聞けず、聞いて良いのかも解らず、口を開いては閉じるを繰り返す。
その事を責める訳でもなく、ただ心配そうに私を見つめて訊ねるライナ。
それはいつも通りのライナで、だからこそ解らない。
普段通り過ぎて、本当はそんな危ない事してないんじゃないかって、そう思ってしまう。
何で内緒なんだろう。内緒にしなきゃいけない理由は何なんだろう。
「ごめんなさい。話せない事なら話さなくて良いのよ」
「え?」
「内緒にしておきたい事が、何か有るのよね?」
しておきたい事かと聞かれると、どちらかと言えば内緒にしたい事ではない。
ただ、言わない方が良いのかなって、ライナはその方が良いのかなって、思っている。
「ライナには、内緒に、したくないけど、けど、話しちゃ駄目な事、かなって」
「そう、ならそれで良いのよ。話せない事を無理に話す必要は無いわ」
「・・・良い、の?」
「私だって秘密の一つや二つ有るわよ?」
秘密の一つや二つ。やっぱりあの話は秘密だから話してない、って事なのかな。
「それに今の言葉から察するに、セレスは私の為に黙っている、って事じゃないの?」
ライナの為に。そう、なのかな。そうかもしれない。
もし私が内緒の事を知っているとしたら、ライナが困るのかもとは考えた。
だって内緒ってそういう事でしょ。知られちゃいけないから内緒なんでしょ。
知られたら困るから内緒なら・・・それは黙っていたい。だってライナが困るのは嫌だもん。
「そう、かも・・・」
「なら気にしなくて良いのよ。私も同じ様な事は有るしね。セレスの為を想って内緒にしてる事って、結構沢山あるわよ?」
「そ、そうなの?」
「ええ。でもお礼を言われたくてやってる訳じゃないし、セレスが・・・・友達が無事に生活出来るならそれで良いと思ってるから、言う必要は無いと思ってるわ。そしてそれは、最悪貴方に罵倒される事も覚悟の上でのお節介よ。内緒の行為ってそういう事でしょ」
「わ、私がライナを罵倒なんて、絶対ない!」
思わず立ち上がって声を荒げてしまい、ライナもメイラも驚いた顔で私を見ていた。
言い切ってから自分で自分の大声に驚き、恥ずかしくなって顔を俯けながら座り直す。
そんな私を見たライナはクスクスと笑いながら口を開いた。
「うん、そうね、ありがとう。セレスは何時だって私を信じてくれる。だから私もそれに応えられる人間であろうとは思うわ。自信は無いけどね」
「ライナは、私の親友で、恩人だよ。それは何が有っても変わらない」
「そう、じゃあそのセレスの内緒事も私は聞かないわ。だって普段なら聞けば応えるセレスが話さない事なんだから。話さない方が良いと思ってるって事だろうし。ね?」
笑顔でそう断言するライナを見て、肩の力が抜けるのを感じた。
そうか。友達だから黙ってる事、か。もしかして内緒なのは私の為なのかな。
ただそれでもやっぱり心配な事だけはどうしようもない。だけど信じよう。
「ごめんね、ライナ。ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして」
まだ少し胸の内に心配はあるけど、それでも大分気が楽になった。
私の為の内緒なら、私も聞いた事はこのまま内緒にしておこう。それが良い。
だって親友の言葉は何時だって私にとって正しいんだから。
「・・・今日は、もう帰るね。ごちそうさま」
「ん、解ったわ。またね、セレス、メイラちゃん」
「は、はい、失礼します」
今日は一旦帰ってぐっすり寝てしまおう。お昼寝もしてないしね。
そして明日になったらリュナドさんにあげた物と同じ、危ない時に発動する結界石を作ろう。
今までは街で安全に暮らしてると思ってたから渡してなかったけど、渡した方が良いよね。
・・・内緒でも、これぐらいは、して良い、よね?
「・・・あんまり危ない事は、しないでね。心配だから」
「―――――え、ええ。気を付けるわ」
答える際に何故か一瞬目を見開いたライナだったけど、すぐ笑顔になって見送ってくれた。
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「・・・あんまり危ない事は、しないでね、心配だから」
セレスにしては珍しい、含みの有る様な言葉を残して帰って行った。
あんな事を言うという事は、何か勘違いしているか、事情を把握しているかのどちらか。
セレスの事だから勘違いの線も有りえるけど、それにしては少し気になる部分が有る。
何時もなら私に全てを話すあの子が『内緒』が有ると言った。
セレスにはああ言ったものの、あの子の内緒というのはとても引っかかっている。
多分内緒の相手は確実に私で、私に関係する事だったんだろう。
それはあの子の返答から察せられたし、何より別れ際のあの言葉は確実に私に対しての物。
そもそも店に来た時点で顔がずっと険しかったし、珍しく食事中も私をチラチラ見ていた。
怖いからあれ止めてくれないかしら。目が本当に怖いのよね。あれだけは慣れないわ。
普通の女性なら可愛い仕草のはずなのに、何であの子は睨みあげちゃうのかしらね。
・・・まあ、それは措いておくとして。
「総合するに、この間の事がセレスの耳に入った、と考えるのが妥当かしら」
ただ少し不思議なのが、思ったよりもセレスが冷静な事なのよね。
あの子の事だから、私が襲われたら何をするか解らないから内緒にしてたんだけど。
リュナドさんにも『街で騒動が起きた』以上の事はセレスに口にしない方が良いって伝えたし。
そうすればセレスは単純に『リュナドさん大変だなぁ』ぐらいしか思わないはずだもの。
ちょっとリュナドさんと連絡を取って、何と言ったのか詳しく聞いてみよう。
場合によっては前に言われてた、王子との謁見をする事になるわね。
先手を打たないと、最悪爆弾が王子を吹き飛ばして戦争、なんて事になりかねないわ。
「流石に笑えないわね・・・」
先ずセレスの中で『王子と襲った人物は無関係』って事は確実にさせておかないといけない。
勿論無関係ではないけれど、そのぐらいの認識の方が良いわね。
少なくとも仲間と思わせない様にしないと、変な勘違いをした時が怖い。
ただここで一番の問題は、セレスがどこまで事情を把握しているのかって事かしら。
下手に話せばその時点でセレスが爆発しかねない。
何せ私だけじゃなくて、メイラちゃんも狙っていたみたいなんだから。
となればリュナドさんがセレスに会いに行く前に、今回の対策を考えるのが先決。
「取り敢えず、リュナドさんに連絡をお願い。今日は急ぎで。街が吹き飛ばされたくなかったらすぐに来てって伝えて。寝てても起こしてね。でないと貴方達も巻き添えを食いかねないわよ。またセレスに吹き飛ばされたくはないでしょ?」
『『『『『キャー!』』』』』
精霊達は私の言葉に慌て、頼んでない子までわたわたとリュナドさんの元に走って行った。
あの子達にとってセレスは恐怖の対象でも有るみたいだから慌てるわよね。
「さて・・・どうなるかしらね」
あの感じだと、そこまで詳しい内容は把握してない、とは思う。
自分の行動次第で街が吹き飛んだり王子が死ぬ可能性が有るとか、本当に笑えないわ・・・。
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