第98話、新しい素材を手に入れ張り切る錬金術師。

山精霊達が少し揉めている様な、そうでもない様な・・・言葉が解らないので状況が解らない。

よく考えたら了承してくれたのは頭の上の子だけだから、無理な可能性も有るのかも。

あの岩に込められた魔力の感じからして、明らかに一体だけじゃ作れなさそうだったし。


・・・そもそもこの子達、個体なのか群体なのかも曖昧だし、意思統一出来るんだろうか。

やりたい事には足並みそろうだろうけど、そうじゃない場合は揉めそうだ。大丈夫かな?


『『『『『『キャー!』』』』』』


少し不安になりつつ見つめていると、精霊達が一か所に集まって楽しそうに声を上げた。

話が纏まったのかなと首を傾げつつ眺めていると、唐突に混ざり始める精霊達。


「あ、大きくならないと出来ない、のかな?」


以前見た時と同じ様に若干不気味に混ざり合い、そしてどんどん大きく膨れ上がって行く。

そして形が安定した頃には二階建ての家よりも大きくなってしまった。


『ヴァ゛ー』


鳴き声が可愛くない。この前はまだ可愛い声だったのに。

前回も初めて会った時もそうだったけど、混ざる前と混ざった後の質量の差が激しい。

とはいえ今回は庭に居る数だけだったからか、まだ可愛気の有るサイズだけど。

初めて会った時はこんな物じゃないぐらい巨大だったからなぁ。


『ヴァ゛ー』


精霊が両手を器の様にして固定し、その手の中に凄まじい魔力が集まって行く。

ただそれは魔力が凄いだけじゃなく、精霊だからこその力の流れの様な物を感じる。

アスバちゃんも同じぐらいの魔力は放てるだろうけど、力の質が違う気がした。


それに若干驚きつつ、少しだけ警戒しつつ、だけど不思議な光景に見とれてしまう。

人間には決して作れないであろう特殊な力の塊が、ゆっくりと出来上がって行く光景を。

そうして出来上がった物は山に在った岩と違い、私の頭より少し大きいぐらいの石だった。

私の要望を聞いてくれたのか、あの体だとあれが限界なのか、どっちなんだろう。


『ヴァ゛ー』


山精霊はそれを足下にゆっくり置くと、パンッと弾ける様に分かれて元に戻った。

いや、元がどちらなのか疑問はあるけど。本当にどっちが真の姿なんだろうか。

というか、一つになっている時は意識はどうなっているんだろう。どこまでも謎だらけだ。


『『『『『キャー♪』』』』』


・・・山精霊達が出来上がった石の周りで踊り始めたんだけど、これは必要な事なのかな。

魔力を通している様子は無いけど、頼んだ身なのだし大人しく見てた方が良いか。

そう思い踊る精霊達を見つめて待っていると、唐突に家精霊が石をひょいと持ち上げた。


「え、あれっ、と、取って、大丈夫なの?」


家精霊の行動に少し驚いていると、山精霊達が口々に文句の様な鳴き声を上げ始める。

ただしその鳴き声は、家精霊が一喝する様な様子を見せると一瞬で静かになった。

とはいえ不満そうに小さい声で鳴いている子や、べーっと舌を出してる子も居るけど。

だけど家精霊はそれらを意に介さず、手に取った石を私の前にそっと置いた。


「え、と、これ、もう貰って、良いの?」


山精霊と家精霊両方に訊ねると、ニコニコ笑顔でコクコクと頷く家精霊。

その背後で山精霊が不満そうに鳴いているけど、家精霊が睨む様な目を向けると口を閉じた。

明確な力関係が見えた気がする。何となく今までの態度で解ってはいたけども。

まあ良いか。取り敢えず触って良い様なので、石にそっと触れてみる。


「・・・あれ、何だか、心地いい。優しい感触」


前に山の岩の傍に寄った時は、明らかに体に異常をきたす感覚に襲われた。

だけどこの石からは優しい力を感じる。私を守ってくれる様な力を。

全く理屈は解らないけど、この石が私の為の物なんだと感覚で理解出来る。


持ち上げてみると案外軽く、中身が無いのかと少し叩いてみるもそんな感じはしない。

精霊が作った石なのだからそういう事も有るのだろう、と思うしかないのかな、これは。

いや、それよりも先にやる事が有る。うっかりしていた。


「ありがとう」


ちゃんと山精霊に向けて礼を告げると、精霊達は嬉しそうに鳴き声を上げてまた踊り始めた。

今度は家精霊も優しく見守っていて、何だか見てる私も少し楽しくなって来る。

抱きかかえている石の影響も多少有るのかな?


「・・・何となく、これを抱えてたら街にも平気で行けそうな、気がする・・・気がするけど、このままはちょっと困るかも。持ち運びが楽に出来る様にしないと」


今は家精霊の力による心地良さと、石の魔法の影響の両方で気が大きくなってる気がする。

それにこれはこの石そのままの状態の効果だし、どの程度の大きさだと良いのかも調べないと。


「・・・あ、そうか、調べないと、駄目なんだ」


人が沢山居るのが怖いから、怖くない様になる道具を作る為に、怖い所に行かないといけない。

何だか凄く矛盾している気がするけど、それをやらないといざという時に使えないよね。


「いや、大丈夫。私大丈夫。多分」


多分抱きかかえている石の影響を物凄く受けてるからだろうけど、今なら平気な気がする。

この石凄い。普段なら想像するだけで怖いのに、全然怖いと思わない。


「でも実際、これを抱えて動くのは本当に邪魔だし、最低限両手は使える様にしておきたいな。となると砕いて分けて穴でもあけて、首飾りや腕輪が無難かな」


ちょっと楽しくなって来た。初めて使う素材を利用するのは久々でとてもワクワクする。

よーし、やるぞー。リュナドさんに迷惑をかけない為にも!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


錬金術師に書類を渡した翌日、いつもの様に精霊を連れて街を散歩しながら頭を悩ませていた。

内容は『これから俺は錬金術師にどういう態度を見せるべきなのか』というものだ。

そもそも俺と彼女の関係は『仕事上の取引相手』だと、そう割り切っていたつもりだった。


彼女だって今までそう見える態度を続けていたし、立場上の弱みを突かれた覚えも有る。

それでも仕事だからと不満と恐怖を抑えてやって来たし、これからもそう続くと思っていた。

なのにあの気の抜けた様子と笑顔を向けられ・・・正直どう反応したら良いのか困っている。


「明らかに何時もと違ったし、余りに気を抜き過ぎだったよな・・・」


彼女があそこまで気を抜いているのを見たのは初めてだと思う。

まさか酒でも飲んで酔っ払っているのかと思うぐらい、俺に対する警戒が無かった。

そうだ、警戒が一切無かった。今迄なら多少は有ったはずの警戒が全くと言って良い程に。

しかもその時の彼女の発言が、余計に自分の認識に混乱を招いている始末だ。


『お友達だよー・・・大事な、お友達ー・・・』


あれを聞いて、それ以上の質問が出来なくなった。もっと聞きたい事はあったのに。

何かの計算なのか本音なのか全く解らなくて、未だに判断しかねている。

だけどあの気の抜けた笑顔が嘘だとは思いたくない、という気持ちもどこかに在るのは事実だ。


「・・・我ながら単純と言うかお人好しと言うか・・・疑う方が先だろうに」


いや実際、まだ怖いのは怖いままだ。そうそう簡単に積み重なった恐怖は消えない。

大体何考えてるのか解らないのは未だに同じ事だし、何処まで本当かと疑う自分も実際居る。


「ああもう、めんどくせぇ・・・本当にどっちが素の顔なんだあいつは・・・!」


もしあの時の彼女の言葉が本音なら、もっと突っ込んだ関係を築いた方が良いんだろう。

自分の為にも、街の為にも、彼女の為にも、きっとそれは良い事になる。そうは思う


「・・・ああ、そうか。それが理解出来てるのに踏み込めない時点で、俺が怖いのか」


彼女の判断や真意がどうとかいう問題じゃない。単純に俺が怖いんだ。

俺とは余りにその存在が違い過ぎて『友達』と言われても実感が湧かなくて。

仕事相手としてなら兎も角、自分が彼女の『友達』なんて『対等』な相手だと思えなくて。


「良し、保留にしよう。うん。これは悩んでいても仕方ねえわ。すぐに意識変えるのは無理だ」


俺の彼女に対する恐怖や立場の弱さの意識は、昨日今日の問題じゃない。

たとえ彼女が本気で俺を友達だと思っていたとして、その意識に応えるのは今すぐは無理だ。

当面は意識しない様にして、今まで通り良い仕事相手で居よう。暫くはそれが良い。


『キャー・・・』


今精霊が何を言ったのか解らないけど、やれやれっていう感じで鳴かれた気がする。

はいはいへたれですよ。弱いですよ。悪かったですね。

つーかお前らだって錬金術師に注意された時、怯えて逃げまどってたくせに。


・・・まあこいつらは彼女を『主人』としてるから、俺とは違うか。


「ま、出来るだけ意識を変える努力はするよ。どこまで出来るか解んないけどな」


俺だってずっと怯えていたい訳じゃないし、出来れば怯えないで済ませたいのが本音だよ。

・・・でもなぁ、友達なぁ・・・やっぱ実感湧かねえなぁ。


「・・・そしてこのタイミングで会うとか、勘弁して欲しい」


錬金術師らしき姿を見つけ、思わず顔を顰める。いやあいつが悪い訳じゃないんだけど。

っていうかあいつが普通に街中歩いているの珍し―――――。


「・・・え、何、あの、怪しげな、仮面。え、あれ、セレスじゃ、ない、のか?」

『キャー』

「・・・あ、そう、やっぱりセレスなんだ、あれ」


やべえ、どうしよう、さっきの考え全部投げ捨てて逃げたい。近づきたくないんだけど。

あ、こっち見た。あ、こっち来る。止めて来ないで。物凄く関わりたくないです。

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