第59話、時間を貰う錬金術師。
「さて、やるよー」
『『『『『キャー』』』』』
昨日ライナに伝えた通り、倉庫を作る為に山精霊達に声をかける。
元気に応える精霊達に指示を飛ばし、私は自分にしか出来ない作業を始める。
今回木材を大量に、惜しみなく使って倉庫を建てるつもりだ。
そして組木で木材のみの倉庫を作ろうと思っている。つまりは釘の類を使うつもりが無い。
その為には木材同士がかみ合う様に、そしてずれないようにきっちり加工する必要が有る。
「~~~♪」
でも私はこういう細かい作業は好きだったりする。
柱の加工だから大きい様な細かい様なって感じだけど。
普段しない鼻歌なぞ歌いながら、大きい柱から先に加工を始める。
設計図は先にちゃんと作ってあるので、後はその通りに加工して繋げるだけだ。
「・・・この子達が居なかったら、流石にやる気が起きなかったかもしれないけど」
正直な所、一人での作業ならこんな事をする気は出ないだろう。
普通の木材一つでも重いし、屋根に通す柱などを持って抱えるのはかなりの重作業だ。
なのに今回加工した柱は全てが太く、私一人で作るつもりなら持ち上げられるかも怪しい。
ただ精霊達は丸太も軽々抱えて行けるので、ちゃんと伝えればその辺りの作業もやってくれる。
流石に木材に凹凸加工は、それも同じ物ではいけないとなると精霊達には無理だったけど。
なのでこの作業だけは私が全てこなし、精霊達は別の作業をして貰っている。
この作り方って道具が少ない時代の技法みたいだけど、頑丈だし割と劣化しにくいんだよね。
凹凸を作り終わったらその部分に防腐の薬剤を・・・あれ、何処に置いたっけ。
「・・・えっと、あれ、薬剤どこに、あ、ありがと」
『キャー』
キョロキョロと探していると精霊が持って来てくれた。木材の陰に置いていた様だ。
礼を言って受け取り、ムラが無いように塗り込んでいく。
木を切り倒しに向かう際に、葉をすり潰して煮詰めると防腐剤になる木を多めに選んでいる。
加工した木材自体も結構腐りにくいので、使い勝手はかなり良い。
その上に薬剤を塗れば、わざと悪くなる様にしない限り数十年は綺麗な状態に保てるだろう。
まあ、多分だけど。だって材料や技法は知ってても、そんなに何十年も見届けられてないし。
「お母さんなら自信満々に作るんだろうなぁ・・・長年やってるわけだし」
あ、今頭の中に『誰がババァだゴルァ!』って聞こえて来た。怖い。
「さ、作業を続けよう、うん」
背筋に寒い物が走ったのを感じながら、どんどん作業を続けていく。
既に柱にした物には精霊達が塗っているので、私が塗るのは今回加工した所だけ。
因みに精霊達は塗るのが楽しかったのか、木材を切る作業より塗りたいと偶に喧嘩している。
土台作りも一部分は私がやって見せたけど、後は精霊達に任せている。
何処までやるのかの目印は作ってあるので、そこをはみ出す事は無いだろう。
難点を挙げるなら時々土玉を作って投げ合って遊んでいる事だろうか。
別に遊ぶのは良いけど、干してるシーツに当てたら家精霊に怒られるよ?
「あ・・・あーあ・・・」
まさしく今シーツにぶつけてしまい、あわあわと慌てだす山精霊。
すると屋内からどうやって感知しているのか、明らかに怒っている家精霊が家から出て来た。
家精霊がぎろりと視線を向けると、散り散りに逃げ始める山精霊達。
ただし土玉をぶつけた張本人だけは反応が遅れ、家精霊に捕まってしまった。
仲間達に助けを求める様子を見せていたけど誰も助ける様子は無い。物陰に隠れている。
家精霊に家の中に連れていかれ、中から『キャー』と悲痛な鳴き声が聞こえるのだった。
「・・・君達、仲間なのにああいう時助けるとか本当にしないよね」
『キャー』
「あ、そう・・・」
だってあいつが悪いもん。僕達関係無いもん。だって。ドライだね。
ここでライナなら「一緒に遊んでたでしょ」って叱りそうな気もするけどなぁ。
「でも作業を放置して遊んでたのは事実だよね?」
その点に関して問い詰めると、山精霊達は目を逸らしてワタワタと作業に戻った。
ちょっと可愛いと思うけど、暫くしたら今言われた事も忘れているだろう。
今の調子なら遅くても魔獣を狩りに行く前に完成すると思うし、別に良いんだけどね
「束石の加工も、山精霊達がしてくれたし・・・食べただけとも言うけど」
束石・・・大きい石を土台に埋め込み、そこに柱を突き刺せる様に穴をあける。
昔はただ平らにした石の上乗せてたりしたらしいけど、そんな事怖くて出来ない。
本当は街で使っている様な化合物を使うと簡単なんだけど、この辺りの石は強度が高い様なのでそちらを使っている。
その際に穴をあける作業をしていたら、精霊達が石をガジガジと齧りだした。
なので柱が入る様にお願いねと、石の加工は全部任せている。
他の作業の合間におやつ感覚で食べているので、あれを作業と言って良いのか悩む所だけど。
「・・・ん?」
『キャー』
「うん、誰か来る、ね・・・」
街道の方から誰かが来る。静か過ぎるから門番さんじゃない。
山精霊達が駆け寄って行かないのでライナでもない。だ、誰だろう。
「・・・邪魔するわよ」
あ、ま、魔法使いの女の子だ。ど、どうしよう、今日はライナも居ないのに。
慌ててフードを被ったけど、その程度じゃ彼女の視線から逃げられない。
あ、あうぅ、今日も睨まれてるよう・・・。
「・・・ふん、その目に勘違いしたわ。あんたのその目は誰も見てない。何も見てない。全てが眼中に無い。雰囲気と眼光に騙されたわ・・・あんたのその目は、敵を見ている訳じゃない。あんたにとっちゃ全てが有象無象なんでしょうね」
み、見てないって、ちゃんと見てるよ? 目の前に女の子が居るのは解ってるよ?
て、敵だって、魔獣が襲って来た時は、ちゃんと見てるよ。うん。
「・・・その作業、時間かかるの?」
え、と、唐突になんだろう。急に話が変わった。さ、作業って、倉庫づくりの事だよね。
のんびり精霊達とやってるから、それなりに時間はかかると思うけど・・・。
そう思って頷いて返すと、女の子は視線を一旦そらしてからまた私に向けた。
ひぅ、だから目が怖いよう。何で睨むのぉ。
「・・・そう、ならアンタが邪魔されない様に、あんたの時間を私が作ってあげる。あんたの代わりを私がやる。そして・・・絶対にアンタの視界に私を入れてやる・・・!」
え、し、視界って、ちゃんと見てるよ。ちゃんと入ってるよ?
この子の言う事全然解んないよぉ。それに私の代わりって、一体何の話なの?
「・・・とりあえず、言う事はそれだけよ。邪魔したわね」
ただ女の子は私の混乱を一切気にせず、踵を返して去って行った。
後には理解不能なままポツンとおかれた私と、不思議そうに見つめている山精霊達。
「・・・え、け、結局、何しに、来たの?」
本気で訳が解らなくて口にしたその疑問は、何処にも答えなんて無かった。
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「・・・これは、あいつに任せるか、どうするか」
新しく持ち込まれた依頼を選別し、更に錬金術師に頼んだ方が良さそうな物を選別する。
その作業を酒を飲みつつ見ていた錬金術師のお目付け役が怪訝な顔を向けて来た。
「錬金術師に頼むつもりか?」
「そうしようか悩んでいる所だが」
「止めてくれよ、別に今なら他にも頼める連中が居るだろ。こんなに人が増えてるんだし」
「まあ、それはそうなんだがな・・・あいつが店に来なければ別の奴に渡すか」
確かに街には人が増えていて、魔獣と戦える人間もそれなりに増えている。
本来魔獣退治は一人で受ける物では無く、準備して集団でかかれば倒せない魔獣は多くない。
とはいえそれでも怪我はするし、下手をすれば仲間の誰かが命を落とす。
その辺りの慎重さが必要なせいで、迅速に終わらして欲しい事も中々終わらない時が有る。
それを責めるのも酷な話だろう。誰だって死にたくはない。死なせたくもない。
死なない様に立ち回るのは道理だ。時間がかかるのも仕方ない。
「ただ奴は人気なんだよな。強いし、何より早い」
別の奴に頼んだ結果、錬金術師の方が良かったと後で言われた事が何度か有る。
とはいえ逆の事も有ったので、錬金術師に全部頼んだ方が良い訳じゃないが。
あの女は基本的に愛想が無いし、誰に対しても攻撃的だからな。その辺りの苦情が来る。
「まあ困ってる連中の所に迅速に向かうのは好まれるだろうけどさ・・・それに付き合わされる俺の事も考えてくれよ・・・」
「そうだな・・・む、残念だったな、急ぎが一つ混ざっている」
だが残念ながら少し急ぎになりそうな依頼を見つけ、お目付け役の兄ちゃんに手渡す。
どうせ錬金術師について行くんだろうし持って行って貰えば良いだろう。
だが依頼書を確認すると、兄ちゃんは片眉を上げて俺に顔を向けた。
「横着するなよ・・・これ本当にあいつに頼む必要ある? この程度なら他の奴でも良いだろ。それに最近あいつ倉庫作ってるから、邪魔したら機嫌損ねるかもしれないぞ。ただでさえこの間の魔法使いの事で機嫌悪いんだし」
それは・・・困るな。どうしたものか。
この依頼は急ぎとは言ったが、言われた通りそこまで急ぎ過ぎる必要は無い。
ただ後になればなる程に報酬を吊り上げる奴が出てくるタイプの依頼だ。
錬金術師は決してそういう行動をとらない。絶対に最初の報酬以上を受け取らない。
他の連中は格安で受けて価値が下がる、なんて言う連中も居るが、あの女はそれだけしか出せないってのを解っている。そこが解ってるから絶対に値を吊り上げないんだ。
だからあんな態度でも人気が出る。苦しい人間の苦しいという想いを理解しているから。
本来出せる額以上の額を求められた時、確かに払えば命だけは助かるかもしれない。
だけどその後の生活を続けられる保証はなくなる。先の命の保証は無くなる。
苦しい相手に対する値の吊り上げっていうのはそういう物だ。
「・・・ん、またあの嬢ちゃんか・・・面倒くせえ」
「ん? げっ」
どうやって依頼をやらせようか悩んでいると、扉が開いた音が耳に入る。
目を向けると魔法使いの娘がこっちに向かってきており、また面倒でも起こるのかとげんなりした表情を出してしまった。
兄ちゃんも魔法使いに良い思いが無いのか嫌そうな顔だ。
「奇遇ね、錬金術師のお目付け役さん。貴方と会うとは思ってなかったわ」
「・・・俺も思ってなか―――――そうだマスター、彼女にやらせれば良いんじゃないか?」
「は? 何の事かしら?」
唐突に兄ちゃんから話を振られ、意味が解らずに首を傾げる魔法使い。
一応この魔法使いが強かったという事は聞いている。
錬金術師と勝負出来そうな大魔法を使った話が本当なら、確かに任せて良いかもしれない。
・・・さて、どうするかな。
「錬金術師に頼むつもりだった依頼が有る。討伐依頼だ。ただ錬金術師は忙しいと、この兄ちゃんが煩くてな・・・やるか?」
「――――――っ、へぇ、成程・・・良いわ、受ける」
「報酬の吊り上げは無しだぞ」
「しないわよ。何なら彼女が受けられる状況かどうか聞いて、その上でやっても構わないわ。報酬の半分を渡しても良いわよ」
ふむ、それは俺も助かる。錬金術師が受ける気が無い確認をしなくて良いしな。
報酬に関しては好きにすれば良いが・・・一応保険はかけさせて貰うか。
ニヤリと口角を上げて兄ちゃんに親指を向け、怪訝な顔をしているのを見ながら口を開く。
「なら、こいつをアンタの仕事の見届け人として付いて行かせろ。実際は監視役だがな。自分が問題有りなのは自覚してるよな?」
「はぁ!? 何言ってんだよマスター!」
くっくっく、慌ててるな阿呆め。俺が関係無い振りさせると思ったのか。
「私は別に良いわよ。信用出来ないって言うなら結果を出せば良いだけだもの」
「俺は良くねえよ!」
「お前が薦めたんだから、薦めた以上は大丈夫だろう? なに、今回一回だけだ」
錬金術師に付き添いたくないが為にそんな事を言った。
それがあの女の耳入れば・・・さて、どう思われるか。あの女の思考は良く解らんからなぁ。
言葉にせずともその考えは伝わったようで、兄ちゃんは苦い顔を返すしかない様子だ。
「うっぐぅ・・・くっそぉ・・・!」
「くっくっく、どうやら了承の様だな」
「・・・ふん」
兄ちゃんの項垂れる姿を楽しんでいると、魔法使いは興味無さそうに背中を向けた。
「じゃあ明日の朝、宿まで迎えに来てちょうだい。錬金術師には今日中に話を付けて来るから」
「・・・解ったよ」
魔法使いが店を去って行くと、兄ちゃんは大きくわざとらしい溜息を俺に聞かせて来た。
そしてジロリと睨んで来るが、迫力無いんだよなぁこの兄ちゃん。
「本当に今回だけだぞ」
「解った解った。ほれ、一杯奢ってやるから機嫌を直せ」
「ったく・・・」
この程度で機嫌を取れるんだから安い奴だな。
さっきの事を錬金術師に言われたら、ってのも理由なんだろうが。
ま、とりあえずは魔法使いのお手並み拝見と行くか。
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