第51話、また魔法使いに会う錬金術師。

「ふあぁ~・・・お外・・・暗い・・・」


寝ぼけ眼をこすりつつ、もそもそとベッドから起き上がる。

窓を開けるともう外は暗く、ライナのお店に向かうには丁度良い頃合いだ。


「さむっ・・・上着上着・・・」


最近夜になると一層冷えて来る。防寒具の類でも作ろうかな。

幸い材料は有る訳だし・・・あ、服じゃなくて寒さを防ぐお守りとかでも良いかも。

その場合はちょっと材料探しに行かないといけないな。


取り敢えず今は外套を羽織り、絨毯を手に取って階下に降りる。

私が降りて来た事に気が付いた家精霊の頭を撫で、行ってきますと声をかけて外に出た。

何時も頭の上に乗る子は慌てた様子で付いて来て、外套をよじ登ってフードの中へ。


どうしてもそこが良いんだね。この外套ポケットも有るのに。

門番さんと常に一緒に居る子はポケットの中がお気に入りらしいし、やっぱり個体差有るな。


「上着着てても寒いかも・・・防寒具は早めに考えておこう」


家の中が暖かいせいか、外に出ると一層寒さを感じる。

暖房になる物が何も無いのに暖かいのは、家精霊のお陰なんだろうか。

特に二階の寝室は優しい何かに包まれている様に暖かい。


「あう・・・空はもっと寒い・・・今日は一段と冷えるなぁ・・・」


最近寒くなって来たとは思っていたけど、今日は今までで一番寒く感じる。

単純に今日寒いだけなのか、これからもっと冷えるのか・・・。

日中は割と暖かいから判断が難しいなぁ。


「君達は寒くないの?」

『キャー』


どうやら寒さは平気らしい。ただ寒暖が解らない訳じゃないとは思う。

だってお日様ぽかぽかで気持ち良いって庭で昼寝してたし。

そして一緒になってお昼寝した事を思い出しながら、ライナのお店の上空に到着。


「あれ、ちょっと早く来ちゃった、かな・・・」


お店から従業員らしき人達が出て行くのが見えたので、いつもよりちょっと早かったかも。

なので念の為上空で暫く待機するも、その後人が出てくる気配は無かった。


「もう良い、かな」


店の陰に降りてから正面に回り、何時も通りお店に入る。

中に入ると何時も通り笑顔でライナが迎えてくれ――――――。


「っ、来たわね錬金術師! 前回は逃げられたけど今回はそうは行かないわよ!」


―――――何故か以前酒場で出会った女の子が居て、私を見るなり大声で叫んで来た。

驚きすぎて背筋がピンと伸び、息が詰まって呼吸が出来ない。

その間に女の子は私の前に来て、前と同じ様な怖い顔で睨んで来る。


「~~~っ、ほんっとうに反応の無い奴ね! ちょっとは文句を言い返したらどうなの!?」


え、何で!? どうしてこの子ここに居るの!?

あ、え、ら、ライナは!? ライナどこぉ!?

何で私怒られてるの!? 助けてライナああぁぁ~~!!


「ふんっ、その眼光が答えって訳!? 三下が吠えていると思ってるなら痛い目見るわよ!!」


あう、この子何でこんなに私に怒るの? 答えって言われても、知らないよう。

あ、だめだ、もう泣きそう。この子本当に苦手だ。怖い。


『『『『『キャー』』』』』

「え、な、なによ、邪魔しないでよ!」

『『『『『キャー』』』』』

「きゃ、ちょ、あっ、こっ、こら、何処に登って、あべっ!!」


ただそれに何を思ったのか、精霊達が間に入って女の子に纏わりつき始めた。

女の子の服に飛びつく者、頭に乗る者、足に纏わりつく者と、店に居た精霊達が集まってゆく。

そうして足下に纏わりついた精霊のせいか、女の子はこけて顔面から床に倒れた。


結界を張っているから痛みは無いと思うけど、衝撃を感じはするので変な声が漏れたんだろう。

起き上がると恥ずかしそうに顔を赤くしていて、少し涙目になっている。


「もう何なのよ、邪魔しないでよ! 店内で暴れた訳じゃないし、ここじゃ暴れないわよ!!」

『『『『『キャー』』』』』

「ああもう、あ、こら、だから私に登るなぁ!」


女の子は張り付く精霊を引き剥がすと優しく床に置き、だけど精霊達はまた彼女に纏わりつく。

それを見ている内に少し心が落ち着き、思ったより怖い子じゃないのかなと思い始めていた。

言葉の勢いの割に精霊に優しいし、精霊達も攻撃的な行動はしていない。

でもすぐ大声出すし、今も声大きいし、苦手で怖い事には変わりない。


「・・・えっと、これ、どういう状況?」


そこにライナが奥からやって来て、状況に困惑した様子を見せていた。

でもそれはむしろ私が聞きたい。何でこの女の子がこの時間に店内に居るのか。

ううん、それよりも怖かったから、心を完全に落ち着ける為にライナに抱きつこう。


「ラ゛イ゛ナ゛ァ゛~・・・!」

「え、ちょ、セレス? あー・・・さっきの大声で、でしょうね。セレスは何となく解るけど、アスバちゃんは何であんな状況になってるのかしら」

「ちょ、あんた達もう当初の目的忘れて楽しんでるでしょ! 良いから離れなさいってば!! あーもう、立てないでしょうが! 全員退きなさい!! へぶっ、か、顔に張り付くなぁ!!」

『『『『『キャー』』』』』


私が抱きつくと優しく背中を叩いてくれたけど、ライナは状況に困惑している様子だった。

だけど今の私に説明する余裕は無い。

彼女の体温を感じながらただただしがみつき、心が落ち着くまではずっとそうしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お邪魔するわよ」


閉店前の掃除を始めている時間帯に、アスバちゃんはお店にやって来た。

酒場で話したセレスに会わせるという約束の為だ。


「あ、いらっしゃい、アスバちゃん。料理はどうする? 食べる?」

「要らないわ。この後動く予定が有るから、お腹が膨れてちゃ動きにくいもの」

「そう? じゃあお茶を出すわね」


既に清掃の終わっているテーブルに案内し、お茶を出して清掃を続ける。

最後のお客さんが出て行くのを見送って、清掃も終わったら従業員も帰らせた。


「暫くしたらセレスが来ると思うから、もう少し待ってね。あ、私はちょっとやる事が有るから奥に居るけど、お茶のお替りとかは呼んでくれればすぐに戻るから」

「気にしないで。この一杯で十分よ」

「そう? じゃあごゆっくり」


以前なら施錠をしていない状態で一人で奥に、なんて事は出来なかった。

だけど今は店に精霊達が居るから、夜中でも余り気にせず行動出来る。

精霊達にはちゃんとご褒美をあげてるから、ある意味護衛を雇っている様な物かしらね。


念の為アスバちゃんが怪我をしない様に、あの子も守ってあげてねと伝えて奥に向かう。

奥に行ったら売上を確かめて帳簿を付け、普通にやっていたら大赤字な帳簿に少し笑いが出る。


「ん? セレスが来た、のかしら」


暫くしてアスバちゃんが「来たわね錬金術師!」と言っているのが耳に入った。

ただあの勢いで話しかけているとなると、セレスは怯えてそうだなぁ。

取り敢えずやる事は一通り終わったので、確認は後回しにして店の方に戻る事にする。


ただ店に戻ると何故かアスバちゃんが床に倒れて精霊達に纏わりつかれていて、セレスは泣いて抱きついて来た。

セレスは解るとして、アスバちゃんは何でこんな事に。

と疑問に思っていたら、精霊が『ケガしない様に守った』と伝えて来た。


どうやら私の言いつけを守って、セレスが攻撃する前に止めに入ったという事らしい。

ただセレスを止めるのは怖いので、アスバちゃんがそれ所じゃなくなる様にしたと。


理解出来たので取り敢えずセレスを宥め、アスバちゃんを助けて一旦二人を席に着かせる。

セレスは落ち着いたものの怯えの見える目でアスバちゃんを見つめており、多分それを睨まれていると思っているアスバちゃんも思い切り睨み返していた。


「え、えーと、アスバちゃんが会いたかった錬金術師って、セレスで良い、のよね?」

「ええ、そうよ。私はこいつに挑む為にこの街に来たんだから」


あー・・・そうなんだ。しまったなぁ、直接依頼でもしたいのかと思ってた。

精霊達相手にしている時は、口は荒っぽいけど穏やかな子だし、大丈夫と思ってたんだけど。

どうしようかな・・・うーん・・・。


「・・・ライナ、何で、この子居るの?」

「えー、えっと、そうね、先ずは事情を説明するわね」


セレスは完全に警戒状態になってて目と声が怖い。

単純に知らない勢いの有る女の子、ってだけの警戒じゃ無くなってしまってるわね。

多分自分に対する害意を感じてるんだろうなぁ。


とはいえセレスの目的の為に連れて来たので、その事情を本人に説明する。

それで連れて来た理由は納得してくれた様子だけど、警戒を解く様子は見て取れない。


ただアスバちゃんの態度を見て気になった事が一つあったので、そこを確かめてみようかな。


「アスバちゃんは、セレスに挑みに来た、のよね?」

「ええ、そうよ」

「でも問答無用でセレスに攻撃はしてない、のよね?」

「それで何の意味が有るのかしら。私は万全の準備をしたこの女を、真正面から完膚なきまでに叩き潰しに来たのよ。不意打ちで勝つなんて簡単な事をしに来た訳じゃないわ。ま、尤もこの女は不意打ちにも常に備えているみたいだけど」


・・・アスバちゃん、セレスが戦闘に備えてるって解るんだ。凄いな、私全然解らないのに。


「だけどそれでも、この女がやる気になって、それで勝負を始めないと意味が無いのよ。負けた言い訳なんて絶対に出来ない様に、正々堂々真正面から叩き潰さないとね!」

「成程・・・」


分別つかない問答無用な事をする気は無い、という事なら話の付け様は有りそうかな。

それにセレスの実力なら、多分怪我せず怪我させずに終わらせれるわよね。


「じゃあ、そうね、今回の仕事の報酬に、改めてそういう場を設ける、って事でどうかしら」

「私はこの女が勝負を受けるなら、それで全く構わないわよ」

「・・・ライナが、そう言うなら」


あら、セレスはもう少し反応薄いと思ったら、意外と素直に受け入れたわね。

もしかしてちょっと怒ってるのかしら。

勢い強くて苦手な子なのは確かだろうし、後でちゃんと手加減する様に言っておかないと。

この子本気で頭にくると、手加減無しでやりかねないしね・・・。


アスバちゃんは魔法使いらしいけど、巨大精霊を倒せるセレスの魔法には耐えられないと思う。

あれは本当に驚いたなぁ。あんな凄い魔法が使えるとは流石に思ってなかった。

あの時の話を聞いて、そりゃあその辺の魔獣なんて相手にならないって納得しちゃったもの。

・・・でもやっぱり、心配は心配だけど。


「じゃ、取り敢えず今日は食事にしましょう。ね?」

「そうね、今すぐやる訳じゃなくなったし、ありがたく頂くわ」

「・・・ん」

『『『『『キャー』』』』』


私としては彼女が「セレスを見ても怯えない子」って時点で仲良くなって欲しいのよね。

ただ荒っぽい考え無しじゃなくて、精霊達への態度を見るに優しい子だと思うし。


多分今はセレスが人見知りの引っ込み思案、って説明しても納得はしなさそうだし、時間を置いてゆっくり説明しましょうか。

説明しても街の人達みたいに、何時まで経っても信じてくれない可能性も有るけど。


後は私の知らない所で喧嘩するのをどうにか防ぐ事も考えないと。

この感じだと、ほおって置いたら大変な事になるかもしれないし。

あー、失敗したなぁ・・・。

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