第31話、久々に真剣に戦って疲れた錬金術師。

爆発系の魔法を詰めた魔法石を惜しみなく使い、動けない精霊に向けて撃ち放つ。

火薬が無いけど爆弾を使いたいと思い、その代わりに作った魔法石だ。

氷の時と同じ様に一つの水晶になった後に強烈な光が放たれ、光と轟音が周囲を支配した。


光を直接見ない様に目を庇い、やっぱり火薬の方が良いなと思いながら光が消えるのを待つ。

魔法は指向性を持たせて攻撃出来るのは便利だけど、火薬特有のあの匂いが無い。

何もかもが吹き飛んだ後に残るあの匂いが、何とも言えない後味が合って良いと思う。

やっぱり火薬欲しい。爆弾使いたい。


「・・・やっぱり、防げなかったか」


光が晴れた後、巨大な精霊が消えている事を確認する。

氷に対処出来なかったのと同じ様に、爆発にも対処出来ずに食らったらしい。

今の一撃では死んではいないだろうけど、おそらく損傷であの姿を維持出来ないんだろう。


上空に向けて放ったので、周囲に被害は余り無い。

私の正面に少しクレーターが出来ているけど、これぐらいなら問題無いと思う。

・・・多分、問題、無いよね? 


「・・・も、門番さんに、言わないと駄目、かな?」


と、とりあえず、帰ったらライナに一回相談しよう。うん、それが良い。

うん、大丈夫。だ、大丈夫、きっと。


「あれ?」


ふと足元を見ると、気絶しているらしき精霊の一体が落ちているのを発見する。

周囲を確認すると点々と同じ様に転がっていた。

起きている個体も居るけど、木の陰から私の様子を窺ってびくびくしている。


やっぱり消滅する程のダメージは無かったらしい。この辺りは流石精霊だ。

あんな物を真面に受けてまだ生きていられるなんて、人間じゃ絶対にあり得ない。

ただ予想通り、あの体を維持する事はもう出来ないみたいだ。


「という事は、やっぱり複数の精霊じゃなかったか。複数体ならこんなに簡単に倒せないよね」


多分この精霊達は全体で一つの精霊なんだろう。

だから一定数の精霊が動けないと、さっきの大きな体になる事が出来ない。

結果として起きてる個体はああやって、陰から私の行動を見守る事しか出来ないんだろう。

おそらく一体一体はそんなに力を持ってないんじゃないかな。


気絶している精霊を一体拾い上げ、手のひらに乗せながら観察をする。

見た目は子供をそのまま小さくした様な可愛らしい容姿の精霊だ。

小さい状態の時は大きい時と違い、意外としっかりそこに存在している様に見える。


「小さい時は可愛いのに」


大きい時は明らかに化け物な容姿になるのは何でなんだろう。

つんつんとつついてみると結構柔らかい。思った以上にしっかり物質化してる。

物質透過が出来る割には、意外な程に存在感が強い。


「あ、起きた」


つついたせいか、手のひらの精霊が起き上がって周囲をキョロキョロと見まわし始めた。

ただ必死で私と目を合わせない様にしていて、明らかに私に怯えているのが解る

途中で無駄だと思ったらしく、恐る恐る私を見上げてプルプル震えながら祈りを捧げ始めた。

命乞いだろうか。多分命乞いだろう。


「そんなに怯えなくても、攻撃して来なければしないよ。貴方達を消しても何の利益も無いし」


もし精霊を殺せば環境が激変し、山が大変な事になる可能性も有る。

岩の魔法で山が活性化している事も考えると、この精霊には生きていて貰った方が良い。

それにさっきの鉱石の事も有るし、出来ればこの精霊達には頑張って山を守って欲しいかな。


「はい、逃げて良いよ」


取り敢えず精霊を地面に降ろしてあげると、キャーと声の様な物を上げながら逃げて行った。

暫くすると他の精霊達も目が覚めて来たのか、近くにいる精霊は皆私に祈りを捧げている。

ただ中には一目散に逃げだす者や、震えながら拳を構える者も少数いたけど。


どうやらこの精霊達は一つになれるのに、情報や性格はそれぞれバラバラらしい。

何て良く解らない精霊だ。まあ精霊なんて基本良く解らない物だけど。

色々実験してみたいけど、今日は疲れたし帰ろうかな。

これなら流石に追いかけて来ないだろうし。


「言葉が通じてるかどうか解らないけど、私はとりあえず敵対する気は無いよ。またやるなら次は容赦しないし、街に攻撃したら一体残らず殲滅するけど」


ライナの事を考えて一応釘を刺しておくと、精霊達は震え上がりながら散り散りに逃げ出した。

どうやら言葉は通じるらしい。私には彼らが何を言っているか全く解らないけど。

だって何だか高い音を出してるだけで、明らかに言語じゃないんだもの。


怯えているのを見ると少し罪悪感は湧くけど、あの容赦の無い攻撃をした存在だ。

向こうから攻撃した来た事実が有る以上、油断や甘えを見せない方が良い。

正直もう一戦はやりたくないし、上手く上に立ったと思わせて離れよう。


「あっ・・・と、流石に、少し、疲れたかな」


足を踏み出そうとしたら思わずふらついてしまった。

あんなに動き回ったのも、集中して戦ったのも久々だったからかな。

一応十分魔力には余裕はあるけど、思ったより緊張していたせいか疲れがどっと出て来た。


「精霊と戦うんだから、当たり前か」


精霊の倒し方は知っている。だけど精霊の強さも良く知っていた。

今回は大した事無い上に単体だったから、最初の予想より余裕だっただけだ。

もしかしたら、相手次第では今頃死んでいた可能性だって有った。


今回の接触は完全なミスだ。気が付かれていないうちに早く逃げるべきだった。

接触するならせめて、もっと万全の準備をしてから来るべきだっただろう。


「今日使った分の結界石、いっぱい作らないと・・・暫く引き籠ろう」


原因も究明したし、良いよね。お仕事も最近ちゃんとやったし。

これだけ頑張ったんだから、ちょっとぐらい引き籠っても怒られないよね?


「よ、良し、帰ろう」


帰ったら絶対に暫く引き籠るぞと気合を入れ、何かを忘れている様な気がしつつ歩き出す。

本当はすぐに絨毯を使って帰りたいけど、この辺りで使うと多分何時もより疲れると思う。

さっきの戦闘中も、自在に動かす為には強めの魔力が必要だったし。

取り敢えず岩の魔法の効果が薄れる所まで離れてからにしよう。


「この辺りで良いかな・・・」


暫く歩いてしっかりと離れてから結界を解除し、絨毯に乗って空を飛ぶ。

少しだけ岩の影響を受けているけど、これぐらいなら大丈夫そうかな。

移動してる間にもう日も沈みはじめていて、夕日を眺めながら街に向かう。


「・・・あ、あれ、何か、ひと、おお、い?」


門の前に物凄く沢山の人が居る。兵士さんが沢山集まっている。

え、何してるの、こんな時間に。もう日も暮れるよ?

待って、帰りたかったらあそこに下りないといけないの!?

あうう。門を空から通って・・・しまったらまた怒られるし・・・。


「えう!? な、何か皆こっち見てる!? な、なんで!?」


兵士さん達の目が全部私に向いている。

怖くて絨毯で顔を隠し、少しだけ頭を出して様子を見る。

すると兵士さん達から少し離れた所で、何時もの門番さんが手を振っているのが見えた。


「こ、こっちに来いって、事、かな」


人の目は怖いけど、何時までもこのまま飛んでいても結局注目される。

それなら門番さんの傍の方が怖くないと思い、少し速度を出して門番さんの傍へ降りた。

と、とりあえず、一旦逃げて人の少ない所に行こう。うん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


フードの女に頼るべく、宿に向かって全力で走る。

いや、走りたいのだが、地面が揺れてうまく走れないのが現状だ。


「くそっ、走り難い・・・!」


化け物が動くたびに、何かをする度に地面が揺れる。

本当に何なんだあの化け物―――――。


「は?」


揺れに苛つき化け物をの方を見て、訳の解らない光景に足を止めて呆然と見つめてしまった。

化け物が巨大な氷の様な物に貫かれ、逃げようと暴れている姿を。


「・・・あの化け物は、何かと、闘っている? 一体――――まさか」


女は山の調査をしてくると、そう言っていた。

実際に昨日は山に行っていたし、その姿はしっかりと見ている。

だから、もしかしたら、あれはあの女の仕業なのでは。


「ぐあっ!?」


そう思い至った次の瞬間、閃光に目がくらみ、轟音で耳が聞こえなくなった。

目が見えない。何もかも真っ白だ。耳も耳鳴りが酷い上に物凄く痛い。


「ぐ・・・あ・・・!」


どのぐらいそうしていたのか解らないが、気が付いたら俺は蹲っていた様だった。

視力が何とか回復し始めてもまだ少し目がちかちかする。

耳鳴りも治っていない。むしろ頭が痛い様な気もする。


「くっそ、なんだ、ってんだ・・・!」


見えない眼で何とか山の方を見ると、化け物の姿は見えなくなっていた。

さっきの轟音が原因だろうか。ああくそ、目と耳が痛い。


「いや、それよりも、確認が先だ」


街中はさっきの出来事でパニック状態だが、悪いけどそれは同僚達に任せる。

俺は全力で門に向かって走り、今日の門番をしている者にフードの女の事を尋ねた。

するとまさかの予想通り、化け物の現れた方向に向かって行ったのを見たという。


「これは、もしかするか?」


いや、かなりの可能性であの女が関わっているだろう。

そう思いすれ違う可能性を考え、門前で女を待つ事にする。


暫くして今後の危険対処にと、門の前に大量の兵士が配置されると報告された。

先程の出来事が解明するまで住人の安全の為に、という事らしい。

正直あんな物をどうやって俺達が防ぐのかと言いたいが、言うだけ無駄だろう。


実際にかなりの人数が門前に配置されたが、俺はそれから外された。

文官の旦那の指示だ。どうやら俺と同じ予想を立てているらしい。

つまりあの女が戻ってきたら、事情を詳しく聞いてこい、って命令だ。


「今回は本気で話を聞くのが怖いけどな・・・」


だが今回はそんな事も言っていられないのも解っている。

あんな化け物が現れたんだ。あいつが事情を知っているなら絶対に聞かないといけない。


そう覚悟を決めていると、女は何時も通り普通に空を飛んで戻って来た

ただ何故か一向に降りて来ないので、周りから離れて手を振って降りて来てくれと示す。

どうやら意図を汲んでくれたらしく、すぐに俺の傍までやって来てくれた。


いや、もしかすると最初から俺を探していた?

それなら話が早いが・・・。


「すまないが、今回は余り気を使ってやれない。事が事だ。向こう側から飛んで来たって事は、あの化け物の事に関わっているんだろう。頼む、教えてくれ。何が有ったんだ」


余裕無く女にそう訊ねると、女はちらっと兵士達を見てから俺に向き直る。

そして俺の背後に回ると、ボソッと呟いた。


「・・・中に、入って」

「あ、ああ、解った」


ここでは話せない、という事なんだろう。

現場に来ていた文官の旦那と一瞬目が合い、静かに頷かれた。

行って来いという事だ。いや、絶対に聞き出して来いって事かも。


「ああくそ、本気で嫌な予感しかしねぇ・・・!」


態々場を変えて話すとか、本当に大事じゃねえか・・・!

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